田沢湖 辰子姫の伝説
辰子姫の伝説
むかし、神代村神成沢(田沢湖町岡崎字神成沢)に三之丞という家がありました。
木を切り炭を焼く夫婦に子どもはなく、心寂しさに朝も夕も「子どもをお授けください」と願う毎日でした。
しばらくした辰の年の春、夢にまでみた女の子が生まれ、夫婦は辰子と名づけました。
大きくなるにつれ、辰子は姿のよい、雪のような白い肌と黒い瞳の娘となりその美しさは
「あの娘は天上の女神が人間の姿になって生まれてきたのではないか」と村中の評判となりました。
しかし、辰子はそんな評判を気にもとめず、いきいきと野山を駆けめぐり、友達と遊んでいました。
数年後、秋も深いある日のことです。
木の実をつんで山を歩きまわった辰子は、泉のそばに座って水を飲み、ほっと一息つきました。
その時、水鏡に映った美しい自分の姿に大きく心が揺れました。
「いつまでも若く、美しくありたい」と思った辰子は、永遠の美しさを得るため
院内岳の大蔵観音に百夜の願をかけることを決ししました。
それからというもの、雨の日も風の日も毎晩欠かさず
辰子は家人が寝静まるのを待っては大蔵観音へと通いました。
こうして迎えた百日目の満願の夜、いつものように大蔵観音の前で
一心に祈り続ける辰子の前に観音が現れました。
「辰子よ、かわいそうな辰子よ、それほどまで永遠の美しさを願うなら
この北の峰を越えるがよい。そこに湧く泉の水を飲めば願いが叶うであろう」
辰子は、このお告げを心にきざみ、わき目もふらずに北へと進みました。
辺りが深いブナの森になったとき、光り輝く泉を見つけました。
その泉には美しい岩魚が住んでいて、それを捕らえて食べた途端絶えがたい喉の乾きが辰子を襲ったのです。
ところが、飲めば飲むほど喉が渇きます。
ついに腹ばいになり、水面に口をつけて、ごく、ごくと飲み続けたのです。
するとどうでしょう。急に辺りは暗くなり、天地が裂けるような雷が轟き、滝のような雨が降りだしたのです。
みる間に山は崩れ、溢れ出た水は谷をうずめ、満々と水を湛えた湖となりました。
そう日本一深い『田沢湖』の誕生です。
そして、辰子の姿は、目は炎のように、歯は杭のように
厚く鋼のようなうろこに覆われた龍の姿に変わっていました。
もはや、美しい村娘の姿ではありません。
辰子の母は、いつまでも帰らない娘を探し、辰子の名を叫びながら歩き回り
いつしか、今まで見たことのない湖の辺まできました。
「辰子ォー、辰子ォー、姿を見せておくれぇー。」と呼び叫ぶその声が
湖の奥底に潜む巨大な龍と化した辰子に届いたのか、水しぶきを上げて水面に姿を現しました。
「お母さん、お許しください。私は永遠の美しさを観音様に願って、不老不死・神通自在の龍となり
この湖の主となりました。お母さんには、親孝行するまもなく、人の道にそむいた罪は大きいのですが、もうお別れです。
親不孝のつぐないに、この湖を魚でいっぱいにし、その魚を贈ることをお約束します。」
こう言い残すと、湖深くその姿を消しました。
辰子の母は泣きながら、手にしていたタイマツを湖に投げ捨てました。
すると、そのタイマツの燃え残りの木が、みるまに魚に変わり、スイスイと泳ぎ去りました。
これが幻の魚『国鱒』です。
こうして、辰子は静かな山の湖『田沢湖』の主となりました。
〜八郎太郎との時空をこえたラブロマンス〜
辰子は、湖を渡りあるくカモたちから、八郎潟に住む人間から
大蛇と化した八郎太郎という勇ましいくてやさしい人の話を聞き
ぜひ会ってみたいと思い、カモたちにその気持ちを伝えてもらいました。
その気持ちを知った八郎太郎は大変喜び、木枯らしの吹く頃、田沢湖に向かいました。
長い冬の間、二人はとても楽しい日々を過ごしました。
やがて、雪が解けはじめ、春が近づくと
八郎太郎は自分の住み家「八郎潟」に帰らねばならないことを辰子に話します。
辰子は、ずっと田沢湖にいてほしいと願いますが、「また冬になったら、必ず会いに来ます」
との約束を交わし、八郎太郎は、別れを惜しみつつ帰ることになりました。
以来、八郎太郎は毎年冬になると田沢湖へやってきて、辰子のもとで過ごしました。
このため、田沢湖は冬の間も凍ることはありません。
こーゆーこと・・・らしいよ?