眠れない人のために



はじめに

「眠れない」といって、医者に行く。医者は多少の問診をして眠剤を処方する。患者はその眠剤を。効けば満足し、効かなければその医者はヤブ医者ということになる。

これでは、あまりにも医者がかわいそう。医者は占い師ではないのです。医療はあくまで患者が主人、医者は患者の知識などを補う家来にすぎません。中には薬の名前も言わずに高圧的に薬を出す’お山の大将’もいます。自分を患者よりも偉いと思い込んでいる、こんなアホな医者が多くなるというのも、主人である患者が病気の知識をほとんどもたず。’神頼み’のように、医者を持ち上げるからです。

「病気は自分で治すもの」、「信じて飲まない薬は効かない」と、私は子供のころから言われてきました。先生、先生と持ち上げながら、心の底では半信半疑で、医者に全面的に頼っている。これではいけません。患者も、睡眠について、最低限度の知識を持つべきでしょう。

REM期

REM(Rapid Eye Movements)期というのは、眠剤の製造に大きな影響を及ぼす睡眠期です。1953年、シカゴ大学生理学部で、睡眠の専門家として世界的に有名なナサニエル・クライトマン教授が赤ん坊の実験をしていたとき、ユージェヌ・アセリンスキーという学生が、赤ん坊が眠っている間にごくわずかな期間、その閉じられた眼蓋の下で眼球がピクピクと動くのに注目しました。

こうして、シカゴ大学の研究者たちは、EEG(脳波記録器)とEOG(眼球運動探知器)を用いて、睡眠の全期間中に見られる脳波の波形を、第1期から第4期までに分けました。第1期は脳波が覚醒時の脳波にいちばん似ているから浅い睡眠、第4期は脳波が昏睡時の脳波に近いため、いちばん深い睡眠と考えられます。

いままで睡眠は、第1期から第4期へとだんだん深さを増してゆき、やがてまた除々に浅くなって第1期に戻り、睡眠期の終わりにきて覚醒するものだと考えられていました。ところがシカゴ大学のアセリンスキーとクライトマンが夜通し記録をとってみと、7〜8時間の正常な睡眠の課程には、4回ないし5回、深い眠りから第1期にもどる「浮き上がり」期があるということがわかったのです。

しかしこれは、睡眠周期を観念的に図式化したもので、「実際には、睡眠のパターンは個人によってさまざまであり、また同じ人でも日によって異なる」のです。しかし、睡眠に周期的性質があるということはたしかな事実で、その理由は、体内に生物的なリズムがあるからだとされています。

こうしてたくさんの追試と研究がなされ、REM期に覚醒させれば、夢についての報告が引き出せるというクライトマンの主張が正しかったことが立証されてきました。

REM期睡眠はまた、「逆説的睡眠」ともいわれます。第一にそれは筋肉の緊張や運動という観点からは十分に弛緩した状態とみられるけれども、また、いろいろな他の観点からはおどろくほど活動的な状態であるからです。第二に、REM期睡眠時には覚醒時に近い浅い睡眠状態の脳波を示すにもかかわらず、第1期においても、早い眼球運動のみられないNREM期(non REM期)睡眠のうちで、もっとも睡眠が深い第4期同様、ちょっと音をたてたりさわったりしたくらいでは起きないのです。

成人はふつう、少なくとも一晩に3回以上の夢をみます。夢を見ないという人は、見ないのではなく、忘れてしまっているのです。

では、このREM期には、どんな機能があるのでしょう? ただの屑のようなもので、なくても人の健康を損なわないものならば、製薬の段階で、REM期などに注意しなくてもよいわけだし、人に不可欠のものならば、REM期を考慮に含めなくてはなりません。

どちらなのかを証明するなら、「夢剥奪」の実験でそれを見極める必要があります。1960年、この新しい夢の先覚者ウィリアム・デ−マントは最初の「夢剥奪」の実験をおこないました。彼は、数夜にわたって被験者をREM期にはいるたびごとに起こし、REM期の90パーセントを剥奪しました。すると、次のような二つの注目すべき問題がおこったのです。

その第一は、そのようにするとREM期にはいる回数がきまって増加してゆくことで、5日目になると、20〜30回の覚醒が必要になる被験者もでてきました。そして、10日目ともなると、被験者は起こされても、すぐにまたREM期に逆もどりしてしまって、もはや実験を続けることが不可能になってしまいました。

第二に注目されたことは、実験が終わって「もとどおりになった」夜、つまり、途中で起こされることなしに眠れるようになった夜でも、REM期が著しく増加して、全睡眠の40パーセントにおよぶこともあるというのが事実でした。(もっとも、これに関しては個人差がはげしい)。被験者は、あたかも実験で奪われたREM期を取り戻そうとしているようでした。そこでデ−マントは、もっと長期にわたってREM期を剥奪すれば、「ひどい人格の崩壊」を招くにちがいないと考えたのです。

そこでデ−マントは、薬剤を使ってREM期剥奪の実験を50日以上にもわたって続けてみたのですが、3人の被験者は、ごくわずかな精神異常を示したのみでした。REM期剥奪の実験はその後も別の研究者によっておこなわれたのですが、そのいずれも、REM期剥奪後にひどく人格が崩壊するような結果にはなりませんでした。

REM期剥奪の人体実験をさらに長期にわたって行うことは倫理的にも問題があるので、デ−マントは猫で実験することにしました(REM期はすべての哺乳類にあることが観察されています)。猫を水面すれすれに置いた台にくくりつけたのです。その猫がREM期にはいったところで、首の筋肉が弛緩し首が水につかり、猫はびっくりして目をさます仕掛けをつくったのです。

しばらくたつと、猫は学習によって、水に触れただけで目を覚ますようになりました。水槽を用いたこの方法でほぼ完全にREM期を剥奪することはできたものの、7日目になると活動力の低下がめだち、実験を続けることはもうできなくなってしまいました。

精神薄弱者にREM期がほとんどみられないという事実から、脳組織が秩序よく働いて思考とか学習といった高度な活動をおこなっていく上で、REM期がなにか決定的な役割を果たしていることがかんがえられます。コロラド大学のJ・ストイヴァ博士らは、物が逆さに見える眼鏡をつくって被験者にかけさせたところ、その状態に適応しようとしてREM期がはなはだしく増加することを確かめたました。つまり、REM期が学習と記憶において重要な役を演じていることがわかったわけです。

でも、仮にREM期睡眠が記憶と行動を組み合わせる複雑な科学合成を脳がおこなうために必要であったとしても、REM期剥奪によって行動障害が、少なくても長期にわたって起こるということはまずありえず、覚醒時に記憶痕跡を強化するといった働きを脳は続けていくことでしょう。脳は機能増加の原理にそって働いているので、かなりの部分がダメになっても、そこそこの機能は維持できるでしょう。

それから50年、まだREM期やNREM期の機能がどのようなものかは、完全な理論化がなされていません。平たくいえば、よくわからないのです。

つまり、「これが決め手だ」というような眠剤は、つくれないということになります。また、個人との相性も、「実際には、睡眠のパターンは個人によってさまざまであり、また同じ人でも日によって異なる」のです。

結局、万人に効く安全な眠剤というものは、現在のところ、つくりようがないのです。

薬にばかり頼らない

夜遅くかえってきて、ともかく薬を飲めばねられるのだ、などと考えて、薬を飲んであたふたと寝床に入ってはいけません。

たとえば、私の家は、ボロ家ではありますが、居間の照明を、昼と夜で切り替えられるようになっています。写真は夜モードです。寝る前にはこうして好みの音楽でも聞いて(もちろん状態が良くないときには、音をきくのもおっくうですが)リラックスしていると、疲れているときは自然に眠くなります。

寝る前にコーヒーを飲むと、カフェインのために眠れなくなる、というのは理屈ですが、それが習慣になっている人なら飲んでもいっこうにかまいません。

また、被験者を昼か夜かわからない部屋にいれて生活させると、自然に眠くなる時間が、さも1日が25時間あるように、ほぼ1時間づつ前にずれてきます。ひょっとすると太古の昔には、地球が現在の軌道よりも大きく太陽から離れて回っていたのかもしれません。

ひまのある不眠症のひとなら、夜でも起きていればいいのです。私が勤めていた病院の医局で、あるドクターがこんなことを言いました。「1日目は寝られない、2日目もダメ・・でも3日目になれば必ず寝られる」と。

重症の精神病患者が(たいていはパトカーで)搬送されてきたときに患者をみると、慣れてくれば2日寝ていないか3日寝ていないかがわかります。2日寝られなかった患者はまだ思考能力が残っているように感じられますが、3日寝ていないで「私は寝ないで済むようになった」などとつぶやいている患者は、もう言うことがメチャメチャになっています。

いざとなったら薬

もちろん、眠剤にはいろいろなものがあります。はたしてどれを飲んだらいいのでしょうか? 「この薬は浅い睡眠期であるREM期をなくして、深く眠れる」なんという宣伝をネットで見たことがありますが、こういうのは危険です。

薬学の論文を読むと、薬は飲む気がしなくなります。たいていはラット(ねずみ)を、薬を投与する群(実験群)と、薬を投与しない群(統制群/コントロール群)に分けて実験し、それから人間に投与して薬の効果を確かめるのです。でも、人間での臨床試験に参加する人はごく少数ですし、ラットに効いたからといって、人間にも同じように効くという保証は、どこにもありません。投薬の結果、患者に異常が発生した場合には、報告するようになっています。つまり、病院でもらう新薬というものは、少なからず’人体実験’を目指しているところがあるのです。功名心のある医者は新薬を乱発し、自分は不眠でも新薬は飲まないというセコい人かもしれません。

以下は私が処方して、自分で飲んでいる眠剤です。

ハルシオン(0.25mg)2錠
ロヒプノール(2mg)1錠
ドラール(15mg)1錠

つまり、短期型、中期型、長期型の組み合わせです。これを、「薬にばかり頼らない」に書いたように、照明を夜モードにして、好きな音楽を聴きがらリラックスして飲むわけです。ハルシオンは、約20分くらいで効いてくるので、タバコ2本とコーヒーを飲んで、寝ることにしています。

これは眠剤にかぎらず、薬全般について言えることですが、コーヒーなどを飲んでいても、薬は必ず、ただの水で飲んでください。一緒にお酒を飲むのは、やめたほうがいいです。薬の吸収を不自然に強めますし、お酒で寝る習慣をつけると、結局はお酒では眠れないときがやってきます。

薬の効果を強めるなら、’舌下投与’がいいでしょう。舌の裏側には多くの毛細血管があるので、体に直接吸収されます。

結論

実際には、睡眠のパターンは個人によってさまざまであり、また同じ人でも日によって異なる。したがって、万人に効く安全な眠剤というものは存在しない。

2009/10/1

参照文献:DREAM POWER By Ann FARADAY
Copyright (C)1972 by Ann Farady


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