因果と相関



たとえば、「喫煙者は早死にである」という統計が発表されたとする。これを読んだ人はおそらく、「喫煙」が原因で、「早死に」がその結果であると解釈することだろう。具体的には、「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因に一つとなり、心筋梗塞、脳卒中や肺気腫の可能性を高めます……」という、あの表示である。蛇足だが、「あなたにとって」などという言葉は必要がなく、日本語力のないことを思わせる。喫煙者を解剖してみると、たしかに肺は黒変している。肺の黒変が肺がんの「原因」なのか、またどの成分が「早死に」の原因なのか私は知らない。

本題に戻ろう。素人に限らず、学者顔でそんな統計を出す者がきまって気にもしない最悪の捉え方は、「喫煙」と「早死に」が、因果であるか相関であるかという、もっとも重要な点である。因果であれば、喫煙者は必ず早死にする。走ってくる電車に飛び込めば(これが原因)、まず死を免れない(これが結果)というのと同じことである。 では、「喫煙」と「早死に」の関係が、「因果」でなく「相関」であるとしたらどうだろう?これは、平たくいえば両者の間に何かの関係がある、ということにすぎず、「原因」は、別にあるということになる。 

一般に、画家はタバコを吸う。だが、ピカソやシャガールや、自画像でいつもパイプをくわえているギョーム・アポリネール(ミラボー橋の下をセーヌは流れる そして私たちの恋も……)が、早死にしたという話は寡聞にして聞かない。なぜか? このような人たちは、どのようにしたら画面の構成が良くなるか、詩として人の心に響くかということに芸術生命をかけている。しかしこのような頭の使いかたは、フロイトも言っているように、ある種のスポーツに近い、健康的なものなのである。だから、タバコを吸っていても、長生きする芸術家は多い。

一番健康に良くないのは、会社の中間管理職のように、「あちら立てればこちらが立たず」……どうにも解決の道がないようなことをダメ押しで解決しようとすること。いわゆる「ストレス」がかかることなのである。

では、「喫煙」と「早死に」との関係は、はたして「因果」なのか「相関」なのか? おそらくこの関係は「因果」ではなく、「相関」であり、真の原因は「ストレス」にあると私は思う。それで大方の説明は必要かつ十分だからだ。タバコを吸えば血圧が上がる。心筋梗塞、脳卒中、肺気腫の可能性は高まる。「ストレス」を解決しようとすれば、タバコをガンガン吸って酒を飲む。「これじゃ体にいいわけないよ」という植木等の歌のほうが、「因果」と「相関」を理解しない研究者や学者よりはるかに真実を言い当ててはいないか?

また、ストレスが少ないと、タバコもあまり美味しくないようだ。

(東京大学/立教大学大学院 実験心理学者、誠心書房『心理学辞典』の共同執筆者、島津一夫先生との談話より)


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