ボイストレーニング



はじめに


学校の美術部にいたとき、「音楽は基礎が必要だけど、絵は誰にでも書ける」と、誰かが言った。「アンリー・ルッソーみたいにね」。役人だったルッソーの、あの素人っぽさと緻密さは、たしかに不思議な魅力がある。

アマゾンの石膏のデッサンをしているとき、「デッサンは大事だよ」と、ある先輩が言った。ピカソの絵がメチャメチャなようで、しかも不自然さを感じさせないのは、卓越したデッサンが隠されているからでしょう。ロートレックのクロッキーは素晴らしいですよね。

では、音楽のほうはどうなのでしょうか?試しに美術科の友人に「基礎なんてどうでもいいから、ともかく感情をこめて歌ってみて」とお願いしてみました。彼女は懸命に歌ったのですが、まるでダメ。聞いちゃいられませんでした。

やはり歌には、最低限の基礎というものがあるようです。

歌の最低限の基礎


言ってみれば、ごく簡単なことです。それは、次の4項目をマスターすればいいのです。

(1)お腹から口まで、曲がらない鉄の管が入っているような気持ち、または頭をロープで吊り上げられている気持ちになること。
(2)上半身に力をいれないこと(そうしないと、声が前に出ない)。
(3)できるだけ歯を見せるような口のかまえにすること(テレビの歌謡曲番組(ポップスの歌手は避ける・・を参照)
(4)お腹に力を入れる・・とよく言うけれど、実際にはお腹の皮が張っている状態にすること。

注:(4)はとくに難しいので、手をお腹の上に軽く置いて、忘れないようにする)

しかし、言うは易く行うは難し。頭に叩きこんで練習しても、意外にどれかを忘れてしまうものなのです。テレビでも、「歯をみせる」という点を忘れてしまって、「しまった!」とばかり口の構えを直す新人歌手がいました。この4項目を一つでも忘れると、ひどい結果になります。毎日練習しても、何か月も何年もかかるかもしれません。

これで、自分の表現したい感情が意識され、リズムやメロディーを外さなければ、十分に、いや十分以上に味のある歌になります。森繁久弥さんは思うままにメロディーさえ変えてしまい、しかも方言丸出しでしたが、「森繁節」とまで言われるようになりました。ふつうに喋っているのとあまり変わらない歌手は、みなみらんぼうさんも高田渡さんも、そして多くのフォーク歌手も・・枚挙にいとまがありません。かの有名な古賀政男先生でさえそうでした。ともあれ、どれだけ嘘をつかないか、どれだけ自分に正直に気持ちを表現することができるかどうかが、基本中の基本なのです。

姿勢


基本的には、歌うときの格好は、「深くお辞儀をして頭を前に向ける」ということです。 これで、お腹に力が入りやすくなりますし、お腹から口までが曲がらない管でつながっている ような格好になります。ただ、これでは見栄えが良くないので、そのまま上半身を直立 させます。発声が「なにかおかしい」と思ったときには、この格好を思い出してください。

高音の出しかた


高音が出ないといって、酸欠の金魚のように、口を上に向けて’お口パクパク’をしてはいけません。そんなことをすると、お腹に力がはいらなくなって、不安定な声になってしまいます。そうではなくて、むしろ口を下に向けるような心持ちで、’声を頭から抜く’のです。女性の場合は自然にファルセット(裏声)になるはずです。

男性のファルセットは、声帯をドーナッツに例えれば、そのドーナッツの中央の穴を小さくすることになり、声が細くなって感情が伝わりにくくなります。「もののけ姫」の米良 美一さんは、元の声がとても低いので、裏声にして1オクターブあげても、技術でカバーできるのでしょう。でも、やはり声が細くて感情が伝わってこないので、始めはびっくりするけれど、数回聞くと悪いけど私は気持ち悪くなってしまいます。

女性のファルセットは、いわば’ドーナッツ’の穴を引っ張るように発声します。音程は少ししか上がりませんが、自然で声量が小さくなることもないので、全部ファルセットで歌うひとも多いです。

レゾナンス


レゾナンスとは、声を口腔の中で、いわば2つの同じ音叉の1つを叩くと、もう一方の音叉が鳴るようにする、一種の増幅です。歌謡曲や演歌のルーツはクラッシックにあるので、昔はマイクなしで歌った時代もあったようです。つまり、人間=楽器という発想なのです。「禁じられた遊び」などで有名なナルシソ・イエペスは、12弦ギターというのを弾いていたことがあります。もちろん、指は5本しかないので、残りの6弦は弾かないのですが、レゾナンスの効果が増すので、大会場でもマイクなしで原音が聞こえる、というわけです。

よく、「ビブラートはどうつけるのか」という質問を見聞きしますが、これはレゾナンスをマスターすれば、体感的に簡単にできることなのです。では、どうやってレゾナンスをマスターするかというと、これは歌唱の難問中の難問でそう簡単にできるものではありません。とりあえず、紙を口から少し離して持ち、紙が一番強く振動するところが、レゾナンスの効いているところです。

子供の頃から歌が好きで、いつも歌っていれば、自然に身につきます。美空ひばりは旅回りで歌う、ちびっこ歌手でしたし、最近では井の頭公園の歌姫、あさみちゆきさんなども、自然に身についたのだと思います。

でも、映画「りんご園の少女」の中で美空ひばりさんの歌った「津軽のふるさと」は、まさに天才というにふさわしいものでしたが、それからの彼女は、キーも低くなり(笑う、うれしがるなどの陽性感情が出ないと声は低くなります。怒るのは陰性感情で、いわば押し殺された感情です)、歌もその頃の面影はなくなって、身振り手振りでごまかすようになってゆきました。高音もA(ラの音)しか出なくなり、病気回復後の「不死鳥コンサート」で披露した特別の新曲「乱れ髪」(B♭)をテレビで見て、目をむきだしたその緊張ぶりに、私は怖くなりました。なまじ「女王」などと言われたために、生真面目な彼女は、ある種の’嘘’をついたのではないでしょうか?

レゾナンスをマスターするには、始めから練習すると10年かかると言われています。現在のいわゆるアイドル歌手の歌が、情けなくなるほど下手なのは、歌よりもルックスを重視したためでしょう。最悪なのは、「表現したいものがない」ということです。これでは味も素っ気もありません。ポップスにもレゾナンスをマスターしたひとは数えるほどです。ポップスのルーツはジャズで、音響機械類も含めて音楽なのですから、そんなものは必要ない・・ということなのでしょうか?

超有名な長山洋子さんも、ポップスから演歌に転向した頃には、レゾナンスは使えず、口を開閉してビブラートに近づけていたほどです。でも、最近ようやくレゾナンスをマスターしたようです。

プロにしてこのありさまですから、そう簡単に身につくものではないのです。

ただ、レゾナンスをマスターして、他人の物まねができ、ビブラートが簡単にかかるようになっても、あまり多用しないほうがいいでしょう。ビブラートにしたほうが、’うまそうに聞こえる’とはいえますが、それは安いCDの代用歌手がよく使う手です。あくまでも、「どれだけ嘘をつかないか、どれだけ自分に正直になることができるか」が大切なのです。歌は「3分間の演技」といわれますが、演技と嘘とは違います。

テレフォンレディー(ツーショットダイヤルのサクラ)をやっていたときには、私も多少悪用しましたが、歌をうたうときは小細工はしません。


売れないイベント歌手 「ゆめのさなこ」 で・し・た

夢を見た日もないではないが
それを言ったら笑われる〜♪

10/5/31

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