リニューアル記念 華代ちゃんシリーズ
「夢みる 男の子」
作・猫野丸太丸 画・MONDO
こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを解決させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
報酬ですか?いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。
さて、今回のお客様は……。
そこは九州の、とある観光地だった。「とある」と言っても、海岸線に沿って平らな岩板が折り重なっている奇観から、地元に詳しい人ならだいだいどこかは想像つくのだが……。
その景勝の地を縦断する道路、ガードレールのそばに座りこんだ一人の高校生がいる。
「ついてねえ、こんなところで事故るとはよー」
つなぎを着たその青年は路肩から、いま這い登ってきたばかりの下を覗きこんだ。彼の愛車の750ccバイクが逆しまになって、橋の下の波に洗われている。青年自身は無傷だったから喜ぶべきなのだが、自分のドライバーズ・センスに絶対の自信を持っていた彼は、ガードレールに当たり散らしていた。青年はこれからどうするか考えた。
「あのー」
金はバイクといっしょに海に沈んだ……。
「あのー、すいません」
彼を迎えに来てくれそうな仲間もいない……。
「ちょっとお尋ねしたいのですがー」
「ああ、うっせえ!」
そう叫ぶと、いつのまにかバイク青年の横に立っていた一人の高校生が「ひゃいっ」と悲鳴をあげていた。どうやらバイク青年に用があるらしい。
「なんだおまえ。学生服なんて着やがって、修学旅行生か?」
誰何されると、学生服姿のその青年は胸を張った。
「怪しいものではありません。ぼくは東京から来ました! ヒッチハイクをしているんです。」
「……それで?」
「道をお訊きしたいんです!」
バイク青年は、はあ、とため息をついた。事故ったばかりのこの俺の状況は、気にしてくれないわけね。
「ああそうかい。で、どこに行きたいんだ?」
「はいっ。じつは……、種子島へはここからどうやって行けばいいのでしょうか?」
バイク青年は問答無用でその学生服をぶん殴った。
「種子島は鹿児島よりさらに南だ! ここからまだ100kmはあるっつうの!」
「へえ、そうなんですか」
「だいいち、種子島ったら島だろうが! どうやったらヒッチハイクで行けるんだ? 漁船にでも潜りこむか!」
「あはは、そこまでは考えてませんでしたあ」
学生服の脳天気な笑い声に怒る気が失せたバイク青年は彼にタバコを勧めたが、学生服は「とんでもない、肺を傷めます」と断った。
「で、なんでそんなところに用があるんだ」
「そりゃもちろん、種子島ですよ! なにを見に行くか決まってるじゃないですか!」
「鉄砲伝来記念館」
「違いますっ。宇宙センターですよ、宇宙開発事業団(NASDA)の!」
聞けば、映画の「アポロ13」にあこがれていたこの青年、今度はこのところのスペースシャトルの雄姿をお昼のテレビ中継で見ていたら「いてもたってもいられなく」なり、なけなしの貯金を握りしめると一路種子島を目指したということだった。若田さんが飛び立ったのは種子島じゃないケネディ宇宙センターだとバイク青年は突っこみを入れようとしたが、まあ言うだけ無駄だろうと思いなおした。
「まあ、ここでじっとしててもしかたないか。おまえも来いよ。目的地の『方向は』、同じだぜ」
「はい! ありがとうございます!」
バイク青年はタバコを放ると、ヘルメットだけ持って歩き出した。
しばらく行くと海岸のすぐそばに出た。風の強い日だ、青年は潮風に目を細めた。ふと気づけばなんだか一人、磯辺でがさごそやっている奴がいる。
「おい、おまえ。なにやってるんだ!」
「んー? わいを呼んだんか?」
そいつも高校生らしい。カッターシャツの腕まくりにズボンを脱いだ姿、そして「ねじりはちまき」で汐溜まりを漁っていたようで、宇宙好き青年に比べるとなんとも野生的というかオヤジ的だ。バイク青年はそいつに訊ねた。
「おまえこんなところで、なにしてるんだ。」
「これかあ」
トランクス一丁の青年は鼻の頭をこすった。
「わいはいちおう、大阪でグルメ日本一をやっとるんやがな」
こういうことを真顔で言われるとは思っていなかった、しかも関西弁で。絶句するバイク青年をよそに
「へえ、大阪ではグルメに順位があるんですかあ」
宇宙好き青年がそう言っても嫌みにはならないらしい。グルメ青年はわはははと笑った。
「でな、わいの今年のテーマはうなぎなんや。」
「うなぎってかば焼きの?」
「おう。白焼きも燻製もてんぷらも中華スープもあるやろけど、やっぱうなぎはかば焼きに限る! そいでや、」
グルメ青年はそばの岩の上に置いてあった通学カバンから、特大のうなぎ裂き包丁を取り出した。
「九州に住むっちゅう大うなぎを捕まえてな、誰も食ったことのないほどのかば焼きにしたろうと。こう思うとるわけやな!」
「ああ、それで海を探してたんですね!」
「そや。全長5メートルもあったら、そのへんを探せばすぐに見つかるやろ!」
バイク青年は明るく笑いあう二人の高校生を拳骨とヘルメットで1回ずつ殴った。
「なんで殴るんですかー」
「巨大うなぎも鹿児島県だ! 指宿の池田湖ってとこにいるんだよ!」
「なんや、そうやったんかー、おまえ詳しいなー」
「へえ、うなぎって淡水魚だったんですね」
「そうじゃないだろう……。観光案内とまでは言わない、せめて目的地の道路地図くらい見ておけ。どうしてこう方向音痴の馬鹿にばっかり出会うんだ……」
(それはバイク青年がなんだかんだと好奇心旺盛だからだと思うのだが)
宇宙好き青年が明るく言った。
「鹿児島のほうへなら、僕たちも向かう途中なんです。いっしょに行きませんか?」
「そらおおきに。ぜひご一緒させてもらうわ。」
呆れ果てたバイク青年は再び歩き始めた。宇宙好き青年がルンルンしながらあとに続く。グルメ青年は慌てて脱いでいた学生服を着て、追いかけた。
宇宙 「あなたこそ、なにか目的があってここにいらっしゃったんですか?」
バイク「ここに目的なんかねえよ。バイクで事故ったから」
グルメ「なんや、どんくさい奴やなー」
バイク「うるさい、おまえたちにバイクのことは分かんねえよ」
宇宙 「……そんなこと言わないで、聞かせてくださいよー。どうしてそんな乱暴にバイクを運転してたんですか?」
グルメ「へへ、言いたくても暴走族に理由なんかないんやろ」
バイク「馬鹿か、グルメ野郎。暴走族と一緒にするな、俺は……最速を目指したいんだ」
宇宙 「催、促?」
バイク「(ポカッ)誰よりも速い男になりてえんだよ! バイクの腕をあげてレースに出る。将来はダ・カール目指してやる」
宇宙 「痛ったいなあ。でも、なんだかあなたの夢って、僕と似てますね!」
バイク「そうかあ?」
宇宙 「垂直方向と水平方向の差だけでしょ? 僕は月、あなたはダ・カール。僕たち、似たもの同士だね」
グルメ「ぷぷっ。わいの夢がいちばん現実的やけどな」
バイク「夢が小さいだけじゃねえの」
グルメ「世界中の味を身につけることの、どこが小さい! わいは料理の腕をあげて、……つぶれた親父の料理店を盛り返すんじゃ」
宇宙 「たしかに現実的だー」
バイク「でも、やり方が無茶苦茶だ。悪かったな、おまえただの馬鹿じゃない。アホだぜ」
グルメ「そない言われつつも全国を回っとりまっさ。せやけど……こんなんでほんまに夢が実現するんか、最近ちょっと心配にはなるんやけどな。」
バイク「ちょっと、かよ」
しらけるバイク青年に、宇宙好き少年が食ってかかった。
「だめですよ、人の夢を馬鹿にしちゃ! あなたもくじけてはいけません、夢はきっとかなうんです」
「ああモチのろん、くじけるかいな。ところで……」
グルメ青年はあたりを見まわした。
「ここ、どこや?」
熱帯植物がうっそうと茂る森。怪しげな鳥の声も響く。詳しい人ならまたまたそこがどこか想像がついて、「そんな風景じゃないぞ」とかおっしゃりたいでしょうけど、ここは我慢しててね、真城さん。
「ジャングルだあ! どこの国なんでしょう。」
「いや日本だろ。日本語の標識だってあるんだし。」
二人のペースにはまったのか、バイク青年は黙殺せずに標識を読んでやった。
「なになに、アオシマ……」
「そらチンタオやろ! 青島(チンタオ)ちゅうたら、青島ビールに山東料理……」
バイク青年は今日三度目のダブル突っこみを入れた。
「だから普通、島国を歩いていても中国には着かないの!」
「それは痛いわー。まあともかく、道に迷ったことは確かやな。」
宇宙好き青年が青い顔をした。
「なんですか。バイクの人、自信たっぷりに歩いてたくせに方向音痴ですね」
「おまえらに言われたくねえ」
バイク青年はしゃがみこんだ。
「とはいえ日も暮れてきたしよ。そこの休憩所みたいなのの中で野宿でもするか?」
「えー、野宿? 僕、いやだなあ」
「宇宙行こうて言うわりにはだらしないな。待っとれ、そのへんの草から食べられるやつを選ってくるからな」
「雑草なんか食えるか! うさぎじゃあるまいし」
そのときだった。バイク青年は背筋にうすら寒いものを感じた。
「誰だっ!」
青年が振りかえったところには、ひとりの小学生が立っていた。白いブラウスに淡色青のプリーツスカート。白い帽子に、赤いランドセル。
「あ、ごめんね、怒鳴ったりして。きみ、迷子かい?」
少女は寂しそうな顔をしていたが、間を空けてその問いには首を振った。
「そうじゃないんです。でも、ちょっと聞きたいことがありまして」
少女はすう、と夕闇を吸いこんだ。あたりが白んだ気がした。
バイク青年は震えた。なんだかこの子、普通じゃない。ま、まさか、幽霊?
その子の言葉を聞いたら魂を抜かれるのではないかという不安にかられて、青年は身体を硬くした。少女は言った。
「あのう、このへんに阿蘇山ってありませんでしたっけ。どこなんでしょう? さっきから探してるんです」
バイク青年は突っこみを入れようとする手を、むりやりポケットに入れた。
そりゃ小学生の女の子じゃ、知らない土地の地理なんかぜんぜん分からないだろうけど。青年はため息をついた。そんな子を一人で放っておく親も親だな。そんなバイク青年の気も知らず、勘違いが三人そろって街灯の下、楽しくおしゃべりしあっている。
「きみ、阿蘇山へ行きたかったのか。そこは、ここからずっと北へ100km行ったところだよ」
「あちゃー、まちがえちゃいました。お兄ちゃんは? ……へえ、宇宙へ行きたいんですかあー」
「そうなんだ! できれば月まで行きたいんだけどねっ」
「スペースシャトルは月までは行けへんぞぉ。そいでな、わいはうなぎが食いたいんや」
「だれも君には聞いてないよ。」
「いいえ、青少年の悩みって、あたし得意なんです! 聞かせてください。」
「そら嬉しいなー。つまりな、手に入れたうなぎを持って料理コンテストに出場して……」
少女はしばらく黙って聞いていたが、なにか思いついたのか急ににっこりとした。
「じゃあ、お世話になったお礼です! お兄ちゃんたちの悩みを、解決してさしあげまーす」
少女はスカートのポケットをごそごそすると、3枚の名刺を取りだしておのおのに渡した。そこには連絡先住所も電話番号も無く、ただ
「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」
と書かれているだけだった。
「じゃ、最初は月に行きたいお兄ちゃん! そこに立っててくださいね」
「え、いいけど。なにするの」
ひとのいい宇宙好き青年は、華代ちゃんに言われるままに街灯の下に立った。
「じゃ、行きますよ。あなたにぴったりのコスチュームを知ってますから!」
「コスチュームじゃなくて宇宙服がいいんだけどな。わあっ」
華代ちゃんは背筋をぴん、と伸ばして両手をひらひらさせた。夜目に透かして見ると、指先からなにかきらきら光るものが出ている!
「や、これなに、染みこんでくるう!」
青年は左腕を押さえた。詰め襟の袖がぽとっと落ちて、ノースリーブになってしまったのだ。
つぎに青年の右手につかまれた左腕の力こぶがぐりぐりと指先から逃げ出し、たちまち溶けて柔らかな皮下脂肪に変わってしまう。わきの下はきれいに手入れされ、肩のラインもすっかりなでたようになった。
「えっ、えっ」
つぎに華代ちゃんは静電気を送るかのように青年の左腰のところで手のひらを動かした。詰め襟の身頃が左側だけぽとっと落ちたら、下からつやつや光る生地に包まれたしなやかな身体が現れた。そんなものが出てくるとは思っていなかった青年は、くびれたウエストが自分のものだとは信じられない。ましてその上に、大きな胸がくっついているとあっては……。
華代ちゃんがさらに変身を促すと、青年のズボンが左足だけずり落ちた。その下に履いていたはずのトランクスは、いつのまにか薄くて白い生地に変わっている。薄いコスチュームの下に着ても透けないためのものだ。恥ずかしさを感じた青年は慌ててズボンを引っ張りあげたが、上がってきたのは厚ぼったい黒い布ではなく網タイツだった。網タイツは餅のようなふとももとまるいお尻を包みこみ、そして股のところでくっきりとコスチュームとの境界線を作った。
最後に華代ちゃんがジャンプして青年の耳元でパン! と手をたたくと、それを合図にぴょこっと、うさぎの耳が頭から飛び出した。それだけではない、青年の左あごの線、ぱっちりとした目、長い髪……、それは誰が見ても、女の子の顔だった。
「ふう、半分終わり。あと残り半分ですか」
「の、残り半分って?」
ところがここで華代ちゃん自身に異変が起こった。なにやらぶるぶる震えている。
「お、お兄ちゃん、ちょっと待ってて。お花摘みに行ってくるのー!」
どうやら夜風に当たってお腹を冷やしたらしい。小学生の少女はどこかへ行ってしまった。あとに残されたのは、半分男子高校生、半分バニーさんの奇怪な姿……。

左足だけハイヒールを履いていたためにバランスを崩して倒れそうになるもと宇宙好き青年。グルメ青年が慌てて彼女(?)の左手を取って助け起こしたはいいが、その手の柔らかさとマニキュアの赤さにくらっとくる。
どうやらグルメ青年、食べるだけでなく女の子も好きだったらしい。
「ば、バニーさーん!」
グルメ青年はつい、その女の子っぽい手を引っぱってしまった。すると、左側へと傾いた青年の身体がさらに女性化した! 青年の鼻はすっかり低く小さくなり、境界を越えた青年の右胸までもが、ぷくっとふくれてしまう。
「あああ、僕の胸がっ」
「お、おいっ、待て!」
驚いたバイク青年が、身体がじわじわと変身していく宇宙好き青年の右手をつかんで留めた。どうにか右半身の一部は男のままの、宇宙好き青年。そして青年を左右から引っ張りあいっこする形になる、二人。
「おい、中途半端もなんやから、この際すっかりバニーさんになってしまえや!」
「やだよー、バニーさんなんてー。おんなのこになりたくないよー」
「ほら、嫌がってるだろうが! 手遅れにならないうちに右側に身体を持ってきやがれ!」
身体が右行き左行きするたびにめまぐるしく変身を繰り返す青年。とうとう疲れたのか地面にぺったんこ坐りしてしまった。
「僕もうなにがなんだか分かんないよー」
そこへ走ってくる華代ちゃんの声が聞こえた。
「あー、お兄ちゃんがへんなことになってるぅ! ごめんなさーい!」
やっと戻ってきた華代ちゃんに、宇宙へ行くはずだった青年は涙ながらに訴えた。
「華代ちゃん、助けて……」
「うん! すぐにちゃんとするね。 えい!」
華代ちゃんは再び手を動かした。青年の右半身のほうへ。
「えっ、えっ。いやああ!」
青年の頭に右耳が飛び出した。そして右手の爪がきれいに整えられたころには、青年はすっかり全身、バニー少女になっていた。
「これでおっけー。うさぎさんならば月に住むことだってできますよね」
「えーんえーん」
バニーさんが泣きだしたので、せっかくくっついていた付けまつげが落ちてしまう。
「おー、期待通りや。かわえぇー」
にやけて無責任に手をたたくグルメ青年に、華代ちゃんがくるりと振り向いた。
「つぎはお兄ちゃんの番だよ。今度のお兄ちゃんはストレートにうさぎさん希望だったね。そぉれ!」
一瞬、グルメ青年はなにが起こったか理解できなかった。
「ち、違う、わいは『うさぎ』やなくて『うなぎ』やって。ひゃあ!」
後ろ向きに這って逃げようとするグルメ青年の左手に、華代ちゃんが跳びついた。
「ああん!」
華代ちゃんに触られた部分から、青年の詰め襟が溶けはじめた。腕時計は手首だけの飾りの袖になる、胸ポケットは溶けてコールタールが貼りついたみたいなっていたが、突然色が薄くなって風船みたいに膨らんだ。青年が瞬きするまもなくパッドが入って形良く整えらえたおっぱいが出現する。
こんどは華代ちゃんも手加減はしなかった。変化はすぐに右半身にもおよび、股間がぺったりと平らな三角形になると同時に、少女となった小さな顔の唇に、ルージュがすっと引かれる。ふっくらとした頬を両手でさすって、愕然とする青年……。
「ほな、うち、うさぎさんになってしもうたん?」
その声に第1の犠牲者がうつろな目を向けた。すっかりバニーさんになった二人の青年はしばらく互いを見つめあっていた。そしてしっかと抱きあって今度は二人で泣きはじめたのだった。
最後に残ったバイク青年はその場から逃げることも忘れていた。目の前に白い服の少女が来て、やっと我に帰った。
「お兄ちゃんの望みは聞いてなかったですね。なにをどうしたかったの?」
バイク青年は考えた。やばい! ここは当たり触りのないことを答えて、変なものに変身させられないようにしねえと……。
いや、ほんとうにそうか? あの二人が変身したところを見ると、この少女の魔法だか超能力だかは本物だ。もし俺のかなわぬ願いをそのまま聞いてもらえるなら。俺は一発でレーサーにすらなれるかもしれない。
バイク青年は慎重に言葉を選んだ。
「俺、誰よりも速く走れるようになりたいんだ」
それを聞いた華代ちゃんは、合点がいったようににっこりとした。
「そうじゃないかと思ったんですよぉ。つまり、かけっこが得意になりたいんですね!」
「え」
気がつくと、バイク青年に抱きついた少女は「彼の胸」に頬を埋めていた。華代ちゃんが離れて「えへっ」と微笑んだとき、青年には二つのふくらみと、そこから下の身体を包む赤いコスチューム、ほっそりとした両足、そしてハイヒールが見えた。
すっかり日が暮れた亜熱帯の海辺。満月の月明かりの下、うさぎ姿の3人の少女が坐りこんでいた。この3人が将来どういう人物になるのかは、もはやだれにも分からないことであった。
今回の依頼は偶然が3つも重なったんですよ、みぃんなうさぎさんになりたいって言うんですから! 3人目のお兄ちゃんもせっかくうさぎさんになったんだから、かけっこに油断してかめさんに負けないといいんですけど……。
なにか困った事があったらなんなりとお申し付けださい。今回は懐かしい場所でお仕事だったんですけど、次はあなたの街にお邪魔するかもしれませんもの。それではまたね。末永く、よろしくお願いもうしあげまーす!