不条理劇場 2
「電灯の寿命」
作・真城 悠
「不条理劇場」トップに戻るCASE 1
とある劇団にて。
水着姿の劇団員Aが走ってくる。
「早く着替えろよ!」
「は、はい!」
更衣室に飛び込む。
大急ぎでドアの鍵を閉め、電気のスイッチを叩く。
真っ暗な部屋に、ポツ、ポツと蛍光灯の光が明滅する。が、何時までたっても安定しない。
と、外から劇団員Bの声が聞こえてくる。
「あ、そこの電灯、そろそろイカレてるんで注意しろよ〜!」
「そ、そんなあ!」
舌打ちをする劇団員A。一度消して、再びスイッチを入れ直すがはやり同じである。
仕方なく殆ど視界の利かない状況で必死に自分の荷物を探り当てる。
数十秒後。
ジャージ姿で飛び出してくる劇団員A。
「?…おい!ジャージが後ろ前だぞ!」
「あ!しまった!」
CASE2
劇団員C、やはり更衣室に飛び込んでくる。
「?何だ?蛍光灯が…ちっ!」
そういいつつも仕方なくハンガーの束を掻き分ける劇団員C。
数分後。
戦隊ものヒーローの衣装に身を包んだ劇団員Cが飛び出してくる。
「お、おい!それピンクの衣装だぞ!」
「ああっ!し、しまった!」
CASE 3
とある牛丼屋の更衣室。
店員Aが駆け込んで来る。
「やべー!遅れちまった」
しかし電灯は殆ど消えかかり。
「何だよこれ?…仕方ねえなあ…」
数分後。
飛び出してくる店員A。
「おい!エプロンが裏表だぞ!」
「あっ!しまった!」
CASE 4
とあるファミリーレストランの更衣室。
血相変えて飛び込んでくる店員B。
「やばやば!」
しかし、はっきりと付ききらない電灯。
「何だこれ?畜生…」
数分後。
出てくる店員B。その姿はバストを強調したミニスカートの女子制服に身を包んでいた。逞しい体つきにまるで似合っておらず、太ももから露出したその脚にはすね毛がぼうぼうに生えている。
「お、お前、その格好…」
「あっ!しまった!女子更衣室と男子更衣室間違えた!」
「着替えてる途中に気付け!」
殴られる店員B。
CASE 5
「お疲れー」
「お疲れさまでしたー」
閉店間際の電気屋。
「じゃ、先に着替えるね」
「はいどうぞ」
先輩に機会を譲る女子店員A。
「じゃあ」
と遠慮の無い店員C。
バタン、と閉じられるドア。
「ん?…電球がいかれてるな…変えにゃ…」
ちかちかと明滅する手元。かろうじて手元が確認出来る程度。
「見にくいなぁ…」
数分後。
「あ、それ…あたしの…」
「ん?」
カジュアルな格好の店員C。だがその姿は膝上のチェックのプリーツスカートの女子高生のブレザー姿。
「しまった!気付かなかった!」
「んな訳ねーだろ!」
パンチ!。
CASE 6
とある定食屋の裏側。
「おい!もう開店時間だぞー!」
「うーい」
反応を確認するとすぐに小さな厨房に駆け戻る店主。
「全く…やる気があるのか無いのか…」
寝癖のついた髪を掻き掻き、パンツに手を突っ込んでぼりぼりやりながら階段を降りてくるドラ息子。
「早く着替えろ!」
「うーい」
「あ、あの部屋の蛍光灯!そろそろ寿命だから気を付けろよ!」
「んー」
気の無い返事にやれやれ、という表情で首を振るオヤジ。
数分後。
「来たぜー」
「5番テーブル!カツ丼だ!…お、お前…何だその格好は!?」
「ん?…え、えええ!?」
どら息子は大胆なスリットもまぶしいチャイナドレスに身を包んでいた。
「いっけね。暗いから間違えちまった」
「間違えるも何もそんなもの定食屋に置いてある訳がねえだろうが!大体メイクまでばっちり決まってるじゃねえか!」
「…っていうか冷静に考えればそうだよなー」
宙を舞う鍋。
CASE 7
とあるスポーツクラブのコーチ更衣室。
「先生、お先にどうぞ」
美人女性インストラクターが薦めてくれる。
「あ、そうですか。それじゃお先に」
このスポーツクラブにはコーチ更衣室は男女兼用なのだ。
「あ、先生」
「はい?」
「蛍光灯が寿命みたいなんで気を付けて下さいね」
「あ、はいはい」
更衣室の中は確かに明滅する蛍光灯がうっとおしい。明るい時間の方が短いだろう。
「見にくいなあ…」
数分後。
「お待たせしましたー」
「はい…っ!!」
思わず絶句する女性インストラクター。
「せ、先生…?」
「ん?どうかしたんですか?」
そのコーチの脚は白タイツに包まれ、その先はピンク色のトゥシューズに収まっている。髪はアップに纏められて髪飾りで留められ、その顔には濃厚な舞台メイクが施されている。そして大胆に肩は露出し、胸から下は白銀色の光沢を放つ衣装に包まれている。その腰からは真横にスカートが生えている。
「え!?…ええええっ!!」
「バ、レ…リーナ……」
「しまった!暗いから間違えたんだ!」
ずっこける女性インストラクター。
CASE 8
とある運動部の更衣室。
「おい!急げ!先輩達来るぞ!」
「あ、は、はいっ!」
一番下っ端の後輩が汗臭い更衣室に掛け込む。
「あ!電気切れかかりだから気を付けろよ!」
既に後輩の姿は無い。
数分後。
「お待たせしましたー…っつとと、」
思わず転びそうになる後輩。
「遅いぞ!…!!???」
余りの事に言葉を失う二年生。
「おい!どうしたんだ…って、え?」
他の部員も事態を認識し、下腹部を押さえてうずくまってしまう。
「え…何かヘンですか…ん?え、えええっ!!」
後輩の踵はピンヒールで押し上げられ、黒々とした光沢を放つハイヒールに収まっている。その脚はなまめかしい脚線美…では無いが、網タイツに包まれている。超ハイレグのバニースーツにストレートロングの髪。悩ましい濃厚なメイクはマニキュアまでに及んでいる。お尻のちょっと上についている真っ白なポンポン。
「あ、すいません。暗かったんで間違えちゃいました」
「んなもん部室にあるかー!」
後輩に蹴りが入る。
CASE 9
息抜きの作品を書くのに疲れた作者は思いっきりのびをする。
「う〜ん…」
くきっくきっと肩を鳴らす。
「ふう」
休憩でもしよう、と風呂場に向かう。
風呂に入る際、脱衣所の蛍光灯が切れかかっているのに気が付く。
「…やれやれ、うちもか…」
構わず風呂に入る。
数分後。
がらり、と戸を開けて出てくる作者。同時に衣擦れの音も引きずる。
「ん?な、何だこりゃ!?」
作者は気が付いてみると純白のウェディングドレスに身を包んでいた。耳たぶのイヤリングのぶら下がる感覚。頭頂から広がるウェディングヴェールがドレスから露出した背中をくすぐる。自分の手は白い光沢を放つ手袋に包まれ、その手にはウェディングヴーケが握られている。
「何てこった…パジャマと間違えちまった」
「いい加減にしろ!」
読者が突っ込んだ。