次元管理人フォスター・シリーズ
「エターナル・ドラッグ」
作・真城 悠
フォスターシリーズ・トップに戻る私は次元管理人フォスターだ。
時空に暗躍する犯罪者を追って、今日も過去に未来に飛び回っている。
タイム・パラドックスを引き起こす犯罪者は許せない!
私はタイム・パトロールとして少々の「修正」を権限で認められている。その時代、位置に相応しくない出来事にはその権限を行使する場合もあり得る。
私のモットーは「細かいことは気にするな」だ!
さて、今回の仕事は…
「出来た…遂に出来たぞ…」
その博士は感激に打ち震えていた。
「これで…これで人類は永遠の命を得られるんじゃ…」
実験用のマウスが籠の中を元気に走り回っている。
「あとはこの液体を…」
癖なのか、独り言を言いながら作業を続ける博士。
アルコールランプに火を掛ける。
「これで十分ほどすれば完成じゃ。これで最初のサンプルが出来る…あとは培養すればいい…やった…やったぞ…」
嬉しさの余り走り出そうとするも、それをぐっとこらえる。
「おっといかん…ここで調子に乗っては何もかもぶち壊しじゃ…時間も注意せねばな。暖め過ぎたりすればこれまでの二十年の研究が水の泡じゃて…」
と、そこに声が掛かる。
「あーすまん。誰かいるか」
振りかえる博士。
そのこには全身銀色のコスチュームに身を包んだいかがわしさが歩いているような男がいた。手には銃らしきものが握られている。
「実はちょっと困ったことになってな。協力してほしい」
「…な、何だね君は」
「ありがとう。協力してくれるのか。いやー助かる」
「い、いや…わしは何も…」
「ついうっかりミスでな…まさかあんな事になるとは思わなくてな…なーに簡単だ。イトウさん…だったかなの身代わりをしてくれればいいんだ」
「何の話じゃ?身代わり?」
「どうして俺がここに来たかって?理由なんか特に無いさ。まあ、目立つ家だったからな。じゃあ、そういうことで頼むぜ」
そう言って手に持った光線銃をビビビと発射するその男。
「な、何をするんじゃあ!」
よける間もなく光線を食らってしまう博士。が、命に別状は無い。
と、博士の全身がむずむずし始める。しゃん、と伸びる背筋。
「…?な、」
続いてむくむくと胸が大きくなってくる。
「ああ!」
お尻までが大きくなり、女性らしい体型に向かって身体全体が移行していく。美しい黒髪が伸び、その顔も美人のそれになる。
「こ…これは…どうしたことじゃ…?」
動揺している博士を尻目にその男はさっさと話を進める。
「すまん。時間が無いんだ。てきぱき行くぞ」
また光線を照射する男。
と、その白衣がぐんぐんとその体積を増し、床に付き、その腰にまとわりついてその細さを強調する。その表面はすべすべになり、白い光沢を放つスカートになる。
「…あ、あああ…」
白衣の老科学者はすでに原型を留めていなかった。そこには純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい花嫁がいるばかりだった。
「ふーん。協力してくれるのは助かるがそう困った顔をされても困るな」
また光線を浴びせる。
と、その表情にほのかなはにかみの浮かぶ、ういういしい花嫁が完成する。
「よし。ありがとう。仕草や言葉使いも修正してやったからな。心配するな」
「そんな…ひど」
「(さえぎるように)いやいや感謝には及ばない。こっちが感謝したいくらいだ。あー、何でもこれから「お父さんお母さん今まで育ててくれて有難うございます」とかの挨拶をする予定らしいから宜しく頼むぞ」
「え…そん」
「(さえぎるように)心配するな。俺も鬼じゃない。あんたの男としての知識や記憶はそのまま残しといてやるから大丈夫だ。うーん、これから結婚式に向かう花嫁を怪我させちまったのは確かに俺のミスだからな…その埋め合わせをせにゃならんのだ。…まあ、多分死んではいないだろう。多分。いや、死んだかもしれんな」
「え…ええ?」
「まあ、少なくともすぐに結婚式は無理だ。だから頼むぜ」
と、その花嫁はしきりに背後の火の付いたアルコールランプを気にしている。
「ん?これか?おう。まかせておけ」
そう言って火を消すと、フラスコの中身を流しに捨てる。
「ばっちり処理しておいたぞ。もう思い残すことはないな」
「あ、あああ…」
何故か泣きそうな顔をしている花嫁。
「それじゃあそういうことで頼む」
結婚式は無事にうまく行った。ふう、思わず歴史を変えるミスを犯すところだったぜ。危ない危ない。例え一介のカップルでも俺のせいで結婚が妨害された、なんてことになったらタイムパトロール失格だからな。リカバリーが効いてよかったぜ。
あ、そうそう。あの近くには有名な博士がいたそうだが、俺が歴史を修正した日に行方不明になったそうだ。世の中には不思議なこともあるもんだ。しかも、不老不死の薬の科学的な調合まであと一息だったそうだ。残念だ。
歴史を守るため、私は今日も戦い続けるのだ!