おかしなふたり 連載981〜1000

第981回(2006年08月01日(火))
 情けないことであるが、とてもではないけど全てに辻褄の合う説明が到底出来そうにない。
 歩(あゆみ)は自室に入ると窓を全開にして目一杯扇風機を回し、ベッドに倒れ込んだ。
 過保護な現代っ子っぽく部屋にはそれぞれエアコンがあるのだが、よほど過ごしにくくない限り使用を控える様にすることが家族の不文律になっている。
 …これは恭子ちゃんにもバレるしかないのかなあ…と思った。
 そしてふと考えると起き上がってからからと窓を閉めてエアコンを「除湿」にして回し始める。
 たまにはいいだろ。


第982回(2006年08月02日(水))
 その時、机の上に放り出してあった携帯電話が鳴った。
 慌てて取り付く歩(あゆみ)。
 かなり驚いた。
 着信はなんと「八重洲恵」となっていたのだ!


第983回(2006年08月03日(木))
 そう。あの芸能マネージャーの女性である。
 城嶋兄妹以外でこの二人の「変身能力体質」を知る唯一の他人である。
 ややこしい時に掛かってきたもんだ。今は非常にややこしいことになっている。
 だが、ここは出るしかない。
 歩(あゆみ)はこれまで携帯電話を無視した所為(せい)で中々出るきっかけを失ってしまった苦い思い出がある。とりあえずでも何でも一応出るしかない。


第984回(2006年08月04日(金))
「…もしもし?」
『あ、歩(あゆみ)ちゃんどーも。元気?』
「はあ…お陰さまで」
『あによ?元気無いじゃない。大丈夫?』
 歩(あゆみ)はこの体育会系のノリがイマイチ好きじゃなかった。いや、非常に爽やかでいいとは思うんだけど「俺の酒が飲めねえのか!」式の親切の押し売りみたいな雰囲気と、その自覚の無さというかがさつなところが苦手なのである。
 突き詰めれば妹のノリに必ずしも付いていけないのもこの辺に原因がある。


第985回(2006年08月05日(土))
 たまに考えることがあるんだけど、妹と性格が反対だったり妹と同じ様な体育会系の性格だったらどうなっただろうか?ということだ。
 嬉々として女装をこなしてはしゃいで暴れ回るタイプだったりしたらそりゃもう極楽だったかも知れない。
 …それこそ一歩間違えば犯罪者の仲間入りである。まあ、そっちで無くて良かったってことにしとこう。


第986回(2006年08月06日(日))
「あの…何です?」
『あによ無愛想ねえ。別に取って食やしないわよ』
「すいません。今ちょっとややこしくなってまして…」
『ま、あんたがた兄妹は日々大変だとは思うけどね。あたしが聡(さとり)ちゃんだったらと思うともお…』
 背筋が凍りそうな話だ。
『あ、弟でもいいけど』
 そんな姉は余計に嫌だ。


第987回(2006年08月07日(月))
 その時だった。
「…!?っ」
 胸に違和感を感じる。
 まさか…そんな筈(はず)は…!?
 胸の周囲を中心にぐぐぐっ!と身体が縮まっていく。
『…どしたの?もしかして?』
「…はあ」


第988回(2006年08月08日(火))
 この能力が具体的にどこをどの様にするのかというのは今もって分かっていない。
 全身を一瞬にして性転換&女装させることが出来ることもあるかと思えば、部分部分を一箇所ずつ順繰りに変えていくことも出来る。
 「部分女装(異性装)」させることは出来ないが、「部分性転換」ならば出来ることも分かっている。
 おぞましい話だが、全身は男のままで乳房だけ女…ということも不可能ではない。
 ま、そこは「紳士協定」で基本的にお互いの合意無しにはお互いに変身はさせないことにしているのだが。


第989回(2006年08月09日(水))
 歩(あゆみ)は、右手が携帯電話で自分の左手を目の前に翳(かざ)して見る。
 元から無駄毛がボウボウだったり、空手家みたいに無骨に骨ばった手だったりはしない。
 しないんだけど、深窓の令嬢みたいな硝子(がらす)細工の様な指では間違いなく無い。改めてみると、典型的な「男の子の手」ではあるのだ。
 ところがそれが目の前で見る見る変形していく。
「あ…あ…」


第990回(2006年08月10日(木))
 もう性転換は何度も経験しているが(凄い表現だが事実だ)、やっぱり目の前で自分の身体が異なる物に変形していくのは背筋が冷たくなってざわざわしてくるものがある。
 細いことは細いけども、間違いなく「男の子の手」だったものが透き通るように白い、この時期にしては日焼け一つ無い白魚の様な「女性の手」になっていく。
「…あいつ…」
 これは明確な紳士協定違反だ。事前に何の話し合いも無く相手を性転換させるのは禁止である。


第991回(2006年08月11日(金))
 とか何とか言っている内に髪の毛がざわざわと伸び始める。
『あ、今変ってるんでしょ?』
「…みたいです」
『まだ声は男の子なのね。あ〜見たい!写メ送ってよ!』
 細かいところまで感覚が行き渡ってないんだけど、もう肩幅も十分狭くなってなで肩になっているみたいだった。心なしか服がゆるゆるになっている気がする。
 …客観的に見ればサイズの合わない服を着てる美少女(…自分のことだけど一応ね)となればかなり「そそる」ものなんだろうが…。


第992回(2006年08月12日(土))
 聡(さとり)は自分がショートカットのくせにロングヘアが好きなのかこちらが女にされる時には必ず腰までもある様な長い髪にされる。
 冬は暖かいのかも知れないが、うだるような暑さの今の時期には正直鬱陶しい。
 恐る恐る胸の部分を触ってみる。
 うっすらと汗ばんだ、間違いなくツンと上を向いた形の良い乳房がそこに形成されているのがわかる。そこには間違いなく男の感覚で言えば不自然に盛り上がった状態の表面にも接触感覚がある。


第993回(2006年08月13日(日))
『どしたの?大丈夫?』
「え…ああ。大丈夫です」
『あら、声も女の子になったわね』
 確かに自分でも声が甲高くなっているのが分かる。
「みたいですね」
 まさか電話でこんな会話を交わす日々が来ることになるとは、純朴な小学生あたりの頃には想像もしなかった。


第994回(2006年08月14日(月))
『“みたいですね”ってのは?さっちゃんはそこにいないの?』
 このややこしい情勢をどうやって説明したものか。
 ふと触ってみると、お腹部分も男の頃に比べると驚くほど細い。この辺りは「妹の好みの美少女」というところなのだろう。
「いやその…」
 とか何とか言っている内にむくむくっ!とお尻が大きくなるのが分かる。
「…っぁっ!」
『やん!そそるわあ。その声』
 何だこの人は。


第995回(2006年08月15日(火))
 ずずっと両脚を膝から放射状に開いてみる。
 所謂(いわゆる)「女の子座り」という奴である。これが自然に出来るってことは…そう、もう下半身の骨格まで女性化しているということである。男でもやってやれなくは無いらしいのだが、経験はあるけどとても苦しい。


第996回(2006年08月16日(水))
 …ちょっと嫌なんだけど、下腹部に硝子(がらす)細工みたいに繊細な指を当ててみる。
 もう無いな…。はっきりと分かった。
 少し頭を動かすと、艶やかな緑なす黒髪が黒光りする光沢を振りまきながら揺れる。
 つまり、この時点で肉体的には100%女性になってしまっているということだ。

イラスト:おおゆきさん

第997回(2006年08月17日(木))
「…何が何だか…」
 「わからない」と続けようとした時にまた、服の内側で変化がある。
 アンダーバストの辺りを締め付ける様な感覚がある。
 …これは何度も経験してるから分かる。シャツの一部が変化しているのか、空中から出現しているのか分からないが、ブラジャーが生まれたばかりの胸に張り付いているのだ。


第998回(2006年08月18日(金))
 一瞬にしてアンダーバストを取り巻くと同時に形のいい乳房を内側のやわらかい生地が綺麗に包み込む。
「…っ!」
 …認めたくないが、この感触は少々気持ちいい。
 ま、冷静に考えれば人類の半分が体験することなのだから、そうそう不快であっては困るんだろうな。…と納得しておくことにする。


第999回(2006年08月19日(土))
 とか何とか言っている内に胸から下の胴回りに何やら異物の感覚が取り巻いていく。
 っていうかあいつの凝り性は絶対何かに使えると思う。ノーベル性転換賞とか。ねーか。
 間違いなくこれは女性ものの肌着である。こちとら散々着せられてはいるくせにあまり女性ものの衣類に詳しくないのだが、こういう肌着って女性は必ず着ているものなんだろうか?
 コマーシャルでお腹部分から肌を露出させているセーラー服の女子中学生を見た気がするけど…。あったりなかったりなんだろう。多分。
 ここから先は一気呵成だった。


第1000回(2006年08月20日(日))
 自分の部屋には大きな鏡が無いので良く分からないのだが、胸に真っ赤な大きなリボンがあり、全体がブルーっぽくてラインが入っている可愛らしい服だった。
「あ…」
 一瞬足元が凄く涼しくなったので、「もしかして下半身がすっぽんぽんになったのでは!?」と思ったが、ふとももの真ん中までのミニスカートだった。
 「女の子座り」をしていたので、ベッドの上に綺麗な円形にスカートが広がる。そして、スカートの中の下着が直接布団に接触する。
「…っ!」
『どう!?どう!?どうなったの!?』