おかしなふたり 連載501〜510

第501回(2004年02月04日(金))
 よく初めてスカートを履かされた男が「足がすーすーする」等と言うが、そんな生易しい感覚ではない。要は「何も着ていない」のと同じなのである。パンツ以外は。
 これで普段と同じく落ち着いているとしたらそれはそれで問題だろう。
 いや、男がね。男が。
 でも、これほど異様に感じた感覚であっても結局は“慣れ”なんだよね、ということだ。

 とにかくさっさとやるしかない。

 歩(あゆみ)は手際よくリボンを外し、ブラウスのボタンを外していく。
 そうそう、この時にボタンの向きが男と反対なんだよね。もう騙されないぞ、と思う。何に騙されないのか分からないが。


第502回(2004年02月05日(土))
 遂にパンティとブラジャーを残して生まれたままの姿になる歩(あゆみ)。
 いや、生まれた時には男だったんだ・・・確かに。

 これまた散々着せられてきた女性物の衣類である。主に聡(さとり)がこちらの着せ替え人形振りを楽しむためにやっているのだろうから下着なんぞ関係ないと思うのだが、それでも律儀に着せられ続けてきた。
 「下着」と言うからには当然普通の衣類の「下」に着る。
 そして着替えどころか「脱ぐ」必要も「着る」必要も無いからには、自らの「下着姿」を見る事は無かったのである。

 ・・・かなりどぎまぎした。
 これまで着せられた女物の中で最も露出度が高かったのは、最初の頃の体操服とブルマ姿だろう。ブルマったって殆ど色の違うパンツ程度しか下半身を隠していない。
 日常的に(?)着せられている制服のミニスカートもかなり露出度が高い方だが、一番“演出”が効いていたのが大胆なスリットの入ったチャイナドレスだろう。


第503回(2004年02月06日(日))
 レオタードとか水着をまだ着せられた経験が無い以上、この状態がこれまでで最も露出度が高いことになる。
 しかも、一応「その状態が正装」であるそれらの状態とは違い、もう「中身」の状態なのだ。上手く言えないのだが、「女の子のプライベートタイム」を覗き見したような気分だった。
 ・・・なんというか軽い罪悪感がある。
 こんなに無防備に見ちゃっていいのかと。

 しかしまあ、これが実の妹の身体と入れ替わっている、というのならばともかく・・・変わり果ててはいるものの・・・自分の身体である。自分自身の身体である。


第504回(2004年02月07日(月))
 それにしても・・・。
 さも“当たり前の様に”ブラジャーとパンティを身に付けたその身体に何とも言えない感慨を抱く。
 いかんいかん、今この瞬間にもパンツ一丁になった聡(さとり)が部屋で待っているはずだ。
 下着姿の少女となっている歩(あゆみ)はその柔肌に似合わぬ無骨な男物の制服に手を伸ばした。


第505回(2004年02月08日(火))
 ベルトがかちゃかちゃと鳴る。
 明らかにサイズが合っていない。
 男の頃に比べればウェストが細くなっているということもあるが、何と行っても止める位置が違う。
 とんとん、とノックをする。ここは廊下、聡(さとり)の部屋の前である。
「さとりー、終わったぞー」
「はいはーい」
 がちゃ、とドアが開く。
 その時、ぶかぶかの男物の制服を着た華奢な美少女はドアに向かって背中を向けていた。
「じゃ、これ・・・」
 適当に畳んだ女子高生の制服を背中の方に向かって差し出す。
「ありがとー・・・ってなんでそっち向いてるの?」
 視線どころか身体の向きすら合わせない兄・・・今は姉をいぶかしむ妹・・・今は弟。
「うるさいなあ、いいから早くしろよ」
 文字で見ると乱暴だがそれほどとげとげしくは無い。むしろ鈴の様な声が可愛らしい。


第506回(2004年02月09日(水))
 この妹に弱みは見せたくない・・・んだよ。うん。
 正直男の身体は下着姿どころか隅から隅まで見慣れているんだけど、実の妹が変貌した姿・・・となるとちょっとどころではない複雑さである。
 ぶっちゃけ見たくない。
 何と言うか、男だろうと女だろうと妹の裸なんぞこっ恥ずかしくて正視できないではないか。
「はい、それじゃあね」
 ぐい、と引っ張られる制服。すぐに手を離して無事に相手の元に渡る。
「じゃあ、このドア閉めてすぐに女に戻すから」
「はいはーい」
 相変わらずノリが軽い。
 これで打ち合わせ通りである。
 お互いの身体がこの時点で元に戻る。
 女の身体で男物の制服を着た歩(あゆみ)は身体も男になり、男の身体で女物の制服を目の前にした聡(さとり)は女の身体に戻り、めでたくそれを身に付けて完成、と言う訳だ。


第507回(2004年02月10日(木))
 そういえばブラジャーが出現する瞬間はやたらに覚えているけど、消えうせる瞬間って余り覚えてないよなあ、とか思う歩(あゆみ)だった。
 何故ならこの自宅の廊下での体験が始めて「ブラジャーが消える瞬間」を自覚できた瞬間だったからだ。
 この能力を「戻す」時のパターンは、まずは着ていた女物が男物に戻り、そして身体も男に戻る。或いは殆ど同時である。
 都合がいいことに身体だけ先に戻るというパターンは無い。これは有難い。
 もし「身体だけ女にする」「身体も服も女にする」以外に「服だけ女物にする」という能力があった日には・・・今現在歩(あゆみ)が陥っている針のムシロどころではない惨状がそこには待っているだろう。
 聡(さとり)は基本は自分が楽しみたいのであって、兄を困らせるのが目的ではない。
 ・・・最近はそうとも思えなくなっているが、基本はそういうことだろう。
 だが、悪意があれば突然衆人環視の中「女装」状態にされるということも「あり」になってしまう。やれ女子高生の制服だの体操服にブルマだのチャイナドレスにウェディングドレスまで・・・。まだ経験は無いけどもっと際どいことだって可能だろう。
 それこそさっきみたいにパンティとブラジャーだけで放り出すとか・・・。

 ・・・考えるだけで寒気がする。
 それならば身体まで女の状態になったほうがずっといい。「男の女装」よりも「女の女装」のほうがずっと穏当だ。
 ・・・まあ、「中の人」の人権はどちらも無視だけど。


第508回(2004年02月11日(金))
 唐突にドアが開いた。
「でーきたー!よ」
 ニコニコ顔の聡(さとり)が、先ほどまで自分が着ていた可愛らしい女子の制服に身を包んで飛び出してくる。
「ありがとおにーちゃん!」
 ・・・我が妹ながら可愛い。
「やー、夢みたい!着てみたかったのこれ!」
 と、目の前でくるくる回ってくれる。夏でもひんやり涼しい日の当たらない廊下で。
「そんなものかな」
 うちの制服とそれほど違うとも思えないんだけど・・・というのを喉元で飲み込む。この辺りは女の子のこだわりなのだろう。
 というか、歩(あゆみ)は「いい年した女の子でも、スカートでくるくる回って広げる」というのを面白がってやるものなんだな、などと妙な所に関心したりしている。そーゆーのをやるのは幼稚園児くらいまでかと思っていたのだが。

 何はともあれ今の兄妹は特に何の変哲も無いごく普通の兄妹の外観をしていた。
 兄である歩(あゆみ)はいつもの制服姿、妹である聡(さとり)はちょっぴりデザインは違うが女子高生の制服姿。
 ・・・全く何の問題も無い。
 唯一違うのは、それぞれが身に付けている衣服が「能力」によって作り出されたものである、ということだった。


第509回(2004年02月12日(土))
 なんやかやで部屋を出ようとした時から30分が過ぎていた。
「じゃ、そういうことで行って来るから」
「うん、じゃーねー」
 いつもの笑顔で手を振っている聡(さとり)。
 大騒ぎだったが、結局落ち着く所まで落ち着いた。
 靴を履きながら歩(あゆみ)は考えた。
 そういえばこの「能力」の最高記録ってどれくらいなんだろう?と思った。

 これまでの最高記録といえば・・・思いつかない。どれもすぐに終わってきたからだ。
 これまで一番の問題だったウェディングドレスにしても恐らく2時間は無いと思う。チャイナドレスも多分30分も無いくらいだし、制服類にいたってはものの数分で次々着替えさせれらて来た。
 多分あれだな。起きたときにうちの女子の制服を着せられてたことがあった。あれが最長記録だろう。
 聡(さとり)は夜型だから多分寝る前に変身させてから寝たはずだ。朝起きてこちらが目覚める前にやったとは思えない。あのずぼらな妹にそこまで出来るとは・・・ことこのことに関しては相当に“熱心”ではあるけども・・・思えない。
 そうなると・・・深夜から朝までの数時間というところだ。多分これが最長だろう。


第510回(2004年02月13日(日))
 そうなると放っておいてもそれ位は持つ訳だ。
 ・・・どうやら時間制限そのものはあるのではないかと思われるが、それがどれ位なのかは分からない。それこそお互いに性転換したまんま何ヶ月も過ごすことが出来たりするのだろうか?
 仮にそれは出来たとしても、この能力がややこしいのは服の問題が引っ付いてくるのである。実はこちらのタイムリミットは調べたことが無かった。

 ・・・?

 何だろう?何かとても引っかかる。というか嫌な予感がする。
 これまでは取れていたバランスが何か、どこかでずれてしまっている気がする。何が問題なのだろう?
 考えていてもすぐには分からない。
 ま、何とかなるだろう。
 軽くそう考えて玄関を出た。