朝日新聞4月1日社説

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国旗・国歌 卒業式を生徒に返そう

 東京都教育委員会は、今年もまた、都立学校の教職員52人を懲戒処分にした。卒業式で国歌を斉唱するとき起立しなかったというだけで、校長からの職務命令違反に問われたのだ。

 都教委は昨年も同じ理由で懲戒処分を行った。入学式も加えると処分を受けた職員は233人にのぼる。

 文部科学省の調査によると、国旗や国歌をめぐって03年度に懲戒処分をしたのは、全国で3都県と1市だけだ。処分された人の9割以上が東京都に集中していた。これはやはり異常なことではないだろうか。

 ただ歌うのではなく、一人残らず国旗に向かって起立させ、斉唱させなければならない。それが都教委の考えだろう。

 そのために、2年前、12項目におよぶ通達を出した。国旗は舞台の壇上正面に掲げる。教職員は指定された席で起立し、国歌を斉唱する。児童生徒も必ず正面を向いて座る。

 校長には、この通達に基づいて教職員一人ひとりに職務命令を出すよう求めた。式場での座席表まで作らせて、都の職員を学校に派遣し、監視した。

 このような雰囲気のなかで営まれた卒業式を、生徒たちはどんなふうに感じただろうか。

 昨年は、生徒が起立しなかったことを理由に管理職が「厳重注意」された学校もある。今年の卒業式では、生徒への締め付けがいっそう強まった。

 校長が教師に出す職務命令に、「適正に生徒を指導する」ことが加わった。多くの生徒が起立しなければ、それを理由に教師が懲戒処分されかねない。

 今年、ある都立高校の卒業式で、卒業証書を受け取った卒業生がフロアに向かって言った。「東京都教育委員会のみなさんにひとつお願いがあります。これ以上、先生たちをいじめないでほしい」

 別の卒業生が続いた。「生徒が座っていないかをチェックして、先生を処分する。教師を人質にとった思想統制と、私は考えています」

 卒業式は、生徒にとって、人生の節目になる大切な催しだ。先生や友人たちと思い出を語り、励ましを受ける場だ。親たちにとっては、子どもの成長を確かめ、学校に感謝する場でもある。

 他の府県では、生徒が向かい合って座り、送辞や歌を工夫して、自分たちで企画に参加する学校も少なくない。

 処分をちらつかせて形だけ整えても、せっかくの式典が息苦しく、ささくれだったものになってしまう。それを生徒も保護者も悲しんでいるにちがいない。

 私たちは、卒業式に国旗を掲げ、国歌を歌うことに反対しているのではない。都教委が処分までして強制するのは行き過ぎだと考える。

 こんなやり方で、やわらかな心を持つ若者たちが日本の国旗や国歌を心から好きになれるだろうか。

 生徒が感動し、なつかしく思い出す、そんな卒業式を彼らに返したい。