古寺修復用の巨木 未来への贈り物
奈良の法隆寺など日本の木造文化を稚持するため、伝統的建造物の修復用材になる森林を作る「古事の森」と名づけた事業が、今年四月から始まることになった。作家の立松和平さんが提唱したもので、林野庁と市民ボランティアが共同で、森林を造成・整備し、寺社修理に必要な木々を育てる。三百年以上も先を見すえたプロジェクトとなる。
1934年から始まった奈良・法隆寺の「昭和の大修理」や、1981年の薬師寺西塔など、伽藍再建には、樹齢数百年のヒノキが使われてきた。これらの再建を手がけた宮大工西岡常一さん(95年没)らは「千年持つ木造建築には樹齢千年の木材が必要」と訴えてきたが、日本では樹齢500年前後のヒノキが切り尽くされ、薬師寺伽藍再建には台湾のヒノキ材が使われた。
このため三百ー四百年後に再び大修理の時期が巡ってくる法隆寺など、木造文化財修復に使う木材を、いまから植林して育成しようという気宇壮大な計画が、「古事の森」事業だ。
発起人となった立松さんは、足尾銅山のあった栃木県足尾町の山に、ミズナラやブナなどの苗木を植える活動に参加。また、法隆寺で毎年正月に行われる「修正会(しゅしょうえ)」などの修行に実際に参加して、木造文化の伝統を守るための植林事業を発案したという。昨年十月、この計画を林野庁に提案したところ、同庁も賛同、すぐに具体化が始まった。
立松さんらと林野庁の話し合いで、@NPO(非営利組織)やボランティアに国有林を提供するA市民側が無償で植林を行い、造成や間引きなどは国と市民側が協議して進めるーなどが決まっている。
「古事の森」第一号は、京都府・北山の鞍馬山国有林。四月二十一日、伐採後の斜面0.5fに、ボランティア百−二百人でヒノキを植える予定。林野庁では、ボランティアの動きが広がれば全国で植林を展開したいという。
併せて京都市の京都国際会議場でシンポジウムを開き、法隆寺の大野玄妙管長や立松さんらが、文化財保護と木材育成の大切さを訴え、市民の協力を求める。
立松さんは「京都の事業を手始めに、木造文化を根底から支える森を、全国に作っていきたい」と話している。
林野庁国有林野総合利用推進室の富永茂室長は「地域の過疎化や林業者の高齢化によって、各地の森林の維持が困難になっている。市民の協力でこうした森林維持ができれば、森林維持の新たな手法になる」と話している。(2002/03/03 読売新聞 記事)