究極の再生システム開発
何か物足りない。音に力がない。臨場感に欠けるー登場後二十年近いCDに今も不満をもつ音楽ファンは少なくない。その大きな原因は再生信号のかすかな時間的ひずみにあるという仮説に基づいて、日本の研究者が、普通のCDから生演奏に近い音を引き出す究極の「高品位音楽再生システム」を開発、音の専門家たちの関心を集めている。
■犯人
音は小さいが、みずみずしい。曲はバッハの変秦曲。ピアノのハンマーのフェルトが弦に触れる青まで聞こえる。「どうですか」。このシステムを開発した宮原誠・北陸先端科学技術大学院大教授がほほ笑む。
石川県辰口町の宮原さん宅。特に音響効果を気にした造りではなさそう。オーディオも手作り風で格別大きくはない。
東京芸術大演奏芸術センター助手の瀧井敬子さんも「目をつぶると、演奏者がすぐそばにいるみたい」。
交響詩「ツアラトゥストラはかく語りき」。パイブオルガンの低音で本当に体が震えた。「しつかりした低音はアナログレコードでは出せません」と助手の石川智治さん。CDに記録されていた音を装置が忠実に引き出した結果という。
■伸縮
音は時間とともに大きさが連続変化するアナログ信号。CDはそれを一定間隔で区切ってデジタル信号で記録し、再生時はそれをアナログ信号に戻す。
時間を区切る間隔は約五万分の一秒。この間隔を短くして音を滑らかにする試みもあったが、なぜか音質は大きくは変わらない。
宮原さんたちが詳細に調べると、アナログに戻したCDの信号は十億分の数秒の隔で伸び縮みしていた。これが音質劣化の原因だというのが宮原さんの説。「CDの音を悪くする犯人を世界中の研究者が見誤っていた。人間の耳は信じられないほど微妙なひずみを聞き分けている」と言う。
■量産
このひずみ発生には多くの要因が絡んでいた。信号処理装置自体の問題や電源から入り込む雑音・・・。
日本学術振興会のプロジェクトの一環として作った再生システムには、ひずみを抑えるアイデアを考えられる限り盛り込んだ。「量産は難しい」が百万円以下で実用化を目指す。ひずみは録音時にも出るので録音機も開発中だ。
自らコントラバスを弾き、オーディオにも詳しい伊賀健一東京工業大名誉教授は「宮原さんの仕事は大発見」と評価して言った。「この素晴らしい再生音が多くの人が生の音楽に触れるきっかけになってほしい」 (2002/04/11 室蘭民報記事)