1998年8月9日、午後4時前。私はいつものように時計代わりにテレビを付けていた。
ワイドショーが終わって入る、ほんの数分のスポットニュース。
アナウンサーは、日本調教馬が初めて海外のGIレースを制したことを伝えた。
ああ、そういえばタイキシャトルがフランスに行ってたっけな。
そう思った私の耳に飛び込んできたのは、彼女の名だった。
「武豊騎手鞍上のシーキングザパール」

鳥肌が立った。本当に、鳥肌が立った。

そうだ、そうだった。彼女もフランスに行っていたんだ。それを失念していたなんて。
短いニュースは、間違いなくシーキングザパールの仏GI制覇を伝えた。
日本調教馬として初めて。ホクトベガが叶えることの出来なかった悲願。
パールが、海外でGIを勝った。

パールを本格的に追いかけだしたのは、シンザン記念からだ。
前走は負けてたけど、それでも私の本命。そして1番人気。
彼女は3馬身ちぎって、その期待に応えてくれた。

厩舎が変わってメンコを外すと顔も可愛くて、それからもっとファンになった。
NZT4歳Sで見せた17頭抜きの豪脚。そして4歳マイル王襲名。

でも順風満帆なんかじゃなかった。
奇病・喉頭蓋エントラップメントを発症し、半年の休養。GIレースでの道悪続き。
そんな中、誰もをあっと言わせた海外GI制覇。
当時、日本にはなかった直線の競馬。1300m。
でもきっと、この距離がパールにとってはベスト。
結果は、ただの「勝ち」じゃなく、17年ぶりの「コースレコード」。
本当に、競馬で鳥肌が立ったんだ。

スプリンターズSでも高松宮記念でも安田記念でも惜しい競馬をした。
「今度のスプリンターズSは、中山まで見に行こう」
そう思っていた。思っていたんだよ。

1999年6月13日の安田記念から24日後の7月7日、七夕。
シーキングザパールは生まれ故郷・アメリカへ売却された。
言葉を失った。
クラシックホースではない。日本のGIを複数勝った訳でもない。
でも日本調教馬として初めて海外GIを勝った馬。名牝。
引退式どころか、ファンに何の挨拶もなく、彼女は7月28日、故郷へと帰っていった。帰された。

せめてもの救いは、彼女がアメリカで無事に競走生活を終え、繁殖入りしたこと。
そして無事に出産し、その仔が日本で走っていること。

2005年6月10日、ケンタッキー州レーンズエンドファームで永眠しました。
どうか、どうか安らかに・・・。

牝　　鹿毛　　1994年4月16日生　　米・Lazy Lane Stables Inc.生産
馬主＝植中倫子 → 植中昌子 → Jayeff "B" Stables
調教師＝佐々木晶三 → 森秀行 → Alan E.Goldberg
父＝Seeking the Gold　　母＝Page Proof　（母の父Seattle Slew）
通算成績＝21戦8勝　2着2回　　総収得賞金＝4億7414万4000円（国内のみ）
日本調教馬初の海外GIホース