ピッチベンドによる純正律


1. MIDI機器とピッチベンド

 ちょっと高級なMIDI機器には純正律に調律する機能がついているが、機種依存コマンドなのでその機種に対してしか有効でない。ここではGM音源全般で有効なピッチベンドを用いて、純正律を実現することを考える。

 たいていのMIDI機器では、ピッチベンド幅の既定値は上下全音(2半音)ずつだろう。そうでない場合は、RPN (Registered Parameter Number) で全音ずつに設定しておく。

     Control #101 (RPN M), 0
     Control #100 (RPN L), 0
     Control #6 (Data Entry), 2

 MIDIの仕様上、ピッチベンド値として入力できる値は0から214 - 1 = 16383までだが、たいていのソフトでは内部処理により-8192から8191までの値を入力するようになっている。ここでは8191が全音に対応すると考える。

 平均律の周波数をFt、純正律の周波数をFpとおく。log(Fp/Ft) を平均律の全音 (log 2) / 6 で割った 6 log(Fp/Ft) / log 2 が補正比率であり、その8191倍である 49146 log(Fp/Ft) / log 2 がピッチベンド値に入力すべきデータである。


2. 平均律と純正律

 平均律では、log 212等分して周波数の対数を求め、その真数から実際の周波数が得られる。従って主音(ド)の周波数を1とすると、その半音 n 個上の周波数 Ft(n)は、次の式で求まる。

    Ft(n) = exp[(n/12) log 2]

 純正律では、主音に対する各音の周波数比が次のような単純な分数になる。

構成音 周波数比
T 1
U 9/8
V 5/4
W 4/3
X 3/2
Y 5/3
Z 15/8

 これは長音階の場合だから、比較すべき平均律はn={0,2,4,5,7,9,11}である。計算結果は、次のようになる。

構成音 平均律
Ft
純正律
Fp
ピッチベンド値
49146 log(Fp/Ft) / log 2
T 1.0000 1.0000 0
U 1.1225 1.1250 160
V 1.2599 1.2500 -561
W 1.3348 1.3333 -80
X 1.4983 1.5000 80
Y 1.6818 1.6667 -641
Z 1.8877 1.8750 -480



 pure1.midは次のような曲(というほどでもないが)で、1回目は平均律、2回目は純正律になっている。平均律の濁った音を聴き慣れた耳には、純正律はクリアでうなりがないだけに、薄っぺらい感じがする。


pure1.mid


3. コードごとの調律

 純正律に調律しても、全てのコードが純正になるわけではない。たとえば純正律の第U音(レ)は主音(ド)の9/8、第Y音(ラ)は5/3だから、両者の比は(5/3)/(9/8)=40/27=1.4815で、完全5度の3/2=1.5より小さい。つまり純正律に調律しても、Um7やU7は全然純正でないことになる。

 ここではダイアトニック・コードとセカンダリー・ドミナント7thコード(副属7)について、根音と各構成音の比が純正になるように調整する。目標とするのは、以下のような調律である。短3度は根音の6/5、長3度は5/4、完全5度は3/2、減5度は7/5、短7度は9/5、長7度は15/8に統一する。

コード 第3音 第5音 第7音
TM7 V; 5/4 X; 3/2 Z; 15/8
Um7 W; 6/5 Y; 3/2 T; 9/5
Vm7 X; 6/5 Z; 3/2 U; 9/5
WM7 Y; 5/4 T; 3/2 V; 15/8
X7 Z; 5/4 U; 3/2 W; 9/5
Ym7 T; 6/5 V; 3/2 X; 9/5
Zm7(-5) U; 6/5 W; 7/5 Y; 9/5
T7 V; 5/4 X; 3/2 Z♭; 9/5
U7 W#; 5/4 Y; 3/2 T; 15/8
V7 X#; 5/4 Z; 3/2 U; 9/5
W7 Y; 5/4 T; 3/2 V♭; 9/5
Y7 T#; 5/4 V; 3/2 X; 9/5
Z7 U#; 5/4 W#; 3/2 Y; 9/5


 これを主音(ド)に対する比に変換するには、上の比にそのコードの根音と主音の比を掛ければよい。以下が計算結果である。同じ第W音(ファ)でも、WM7の根音としては4/3=1.33、Um7やX7の構成音としては27/20=1.35、Zm7(-5)の構成音としては21/16=1.31に調律されることになる。第Y音(ラ)も、本来は5/3=1.67だが、Um7やZm7(-5)のときは27/16=1.69に上がる。主音(ド)でさえ、Um7やU7では81/80=1.1025と微妙に音程を上げることになる。

コード 第3音 第5音 第7音
TM7 V; 5/4 X; 3/2 Z; 15/8
Um7 W; 27/20 Y; 27/16 T; 81/80
Vm7 X; 3/2 Z; 15/8 U; 9/8
WM7 Y; 5/3 T; 1 V; 5/4
X7 Z; 15/8 U; 9/8 W; 27/20
Ym7 T; 1 V; 5/4 X; 3/2
Zm7(-5) U; 9/8 W; 21/16 Y; 27/16
T7 V; 5/4 X; 3/2 Z♭; 9/5
U7 W#; 45/32 Y; 27/16 T; 81/80
V7 X#; 25/16 Z; 15/8 U; 9/8
W7 Y; 5/3 T; 1 V♭; 6/5
Y7 T#; 25/24 V; 5/4 X; 3/2
Z7 U#; 75/64 W#; 45/32 Y; 27/16


 入力すべきピッチベンド値は、次のようになる。

コード 第3音 第5音 第7音
TM7 V; -561 X; 80 Z; -480
Um7 W; 801 Y; 240 T; 881
Vm7 X; 80 Z; -480 U; 160
WM7 Y; -641 T; 1 V; -561
X7 Z; -480 U; 160 W; 801
Ym7 T; 1 V; -561 X; 80
Zm7(-5) U; 160 W; -1197 Y; 240
T7 V; -561 X; 80 Z♭; 721
U7 W#; -400 Y; 240 T; 881
V7 X#; -1121 Z; -480 U; 160
W7 Y; -641 T; 1 V♭; 641
Y7 T#; -1201 V; -561 X; 80
Z7 U#; -1041 W#; -1197 Y; 240


 pure2.midは次のようなイ短調の曲(というほどでもないが)である。やはり1回目は平均律、2回目は純正律になっている。


pure2.mid


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