「情報A」 教科書の感想(メモ)その4

感想

 

 

全頁カラー。本文約120ページ。用語集なし。巻末に関連資料(法律など)あり。

 

この教科書は、文部省告示高等学校学習指導要領(平成11年3月)p142と比べると、情報の発信と共有に適した情報の表し方に関する技術的な部分の説明が省かれている。導入のために第1章を加えてある。また、各節は、独自に立てられており、指導要領の内容を噛み砕いて変更した感じが伺える。

 


第1章はさまざまな情報をたくさんの写真やイラストで紹介している。3つの視点から情報を見せている。本文よりも挿絵が圧倒的に多い。「私が読んだ情報Aの教科書その2」が設けていた第1章とは違うアプローチで興味深い。タイトルのそばに、わかりやすい表現で学習の狙いが書かれていたり、外来語や略字に本来の言葉を色刷りのルビで示すなど、細かい工夫が伝わってくる。これらの工夫は効果的だと思う。

演習問題は章末にまとめて載せられているが、第1章はページ数が少ないこともあり、本文中になくても気にならなかった。

 

 


第2章は情報を使いこなそうというテーマである。情報収集の工夫、情報伝達の工夫、情報機器の役割を扱う。

 

まず第1節は問題解決の概要。小説を読むかのごとくページをめくることができる、読みやすい教科書。難しい用語が少なく、話は具体的で分かりやすい。「私が読んだ情報Aの教科書その1」に似ている。生活に関する疑問から、身近な例を取り上げて問題を解決していくスタイルで、コンピュータを意識させない。話がうまく流れているので、時間をかけたくない項目は、教科書を読んでいくだけでも生徒に通じてしまいそうだ。

小説のように進行する本文は読みやすいが要点の一覧性にかける。それを挿絵がうまく補佐している。すなわち、本文をまとめ、要点や例を抜き出す形で挿絵が使われており、2つの表現で学習しているようなイメージである。わかりやすい。

欄外の「やってみよう」「考えてみよう」などが生徒の活動となるが、あまりに字が小さすぎる点は気になる。授業中の生徒の活動を重視していないのだろうかと思えてしまった。

コンピュータ操作を前面に出さない点では、「私が読んだ情報Aの教科書その2」とは正反対であり、「情報Aの教科書その3」に似ているが、より徹底しているといえる。

 

第2節は情報の収集。問題解決について必要な情報を検討し、検討した情報を集め、整理するという作業を扱っている。非常に身近で具体的である。コラムもうまく本文を補足している。「インターネット人口は1億人」という記述に対して、10億の手違いもあり得るのだから鵜呑みにせずに、いくつかの情報を比較するようにしようと話が進む。情報を扱う姿勢と解決策を、ありえそうな(自分でもミスをしそうな)例でうまく説明しているではないか。「情報Aの教科書その2」の第2章で疑問に思った本文のやや不親切な印象の記述が、ここでは非常にわかりやすい例で表現されている。

 

第3節は情報の伝達。一般論として情報を伝達する前に考えておくべき点をわかりやすく押さえてある。とにかく説明がうまい。他の会社の教科書を使っていたとしても、この教科書を読んでから授業の展開を考えるとためになりそうだ。身近な例を使った説明なので、一般論と実習(実践)が離れ離れの編集になっていても、実習時に困ることは少ないだろう。

 

第4節で始めて情報機器が登場する。情報を活用する手段として、情報機器の利用がうまく説明してある。イラストが多い中、情報機器の図ではそれぞれの機器の写真を入れているところは私の思いと通じる。

しかし、うまい説明ばかりではない。ディジタル化とは、情報をディジタル方式に従って記録することと説明されているが、索引を探してもディジタル方式の定義がどこに書かれているのかを探し出すことができなかった。それが原因で、ディジタル方式で記録された情報は劣化しないと続く説明に説得力がない。更に別のページにはディジタル形式という表現もあるのだが、私には、「方式」と「形式」がどう違うのか、説明を見つけることができなかった。生徒もこのようなところでつまずくのではないだろうか。この教科書は、いったんわかり辛い用語や表現を見つけると、その問題解決に労力を必要とする。できるだけ簡単に問題解決できるようにしておくほうが学習には都合がよいので、改善を望みたいところだ。ちなみに、「ディジタル化」の定義も「ディジタル情報」の定義も、脚注として非常に小さな字で書かれていた。しかも、本文の外に書かれている内容は大事な言葉であっても太字にならない。実は探し出すのに少し時間が必要であった。改善を希望する点である。

教科書は、情報の処理手段としての情報機器の説明後、汎用機器としてのコンピュータの説明に移り、ディジタル化、ネットワーク、検索エンジンによる情報の収集、収集したデータの整理のためにソフトウェアの紹介(ワープロ・表計算・データベース)と進む。更に、情報を伝えるために電子メール、Webページ、プレゼンテーションが紹介され、以上で、学ぶべき項目をすべて見渡すことができたことになる。非常に見通しがよい。後の章でそるとウェアの紹介や、学習している内容とソフトウェアの関連付けに気を使わなくてもよいという点でもよいと思う。

 

章末問題の余ったスペース(余ったからではないかもしれないが)に「情報Aの教科書その2」と同様に、和文タイプライターや日本語ワープロのコラムがあった。私の年齢なら、著者の気持ちはわかるのだが「その2」で書いたように和文タイプライターの写真も必要であるし、日本語ワープロの写真は大きくて特徴をとらえたものが欲しい。もはや高校生が実感として感じるものではないので、私自身はあまり載せる意義を感じない。

 


第3章は情報検索と収集した情報の評価。第2章の理論に対して、ここからが実践(実習)と考えていいだろうが、教科書はあまり実習を意識した編集になっていない感じがする。身の回りの情報源を示すところからはじめており、コンピュータは数ある選択肢の中の1つでしかないという姿勢。極めて一般的な発想そのままであり、ホッとする。コンピュータを用いた実習例は少ないが、章末問題は充実していて、知識を確認しやすい。問題も妥当だと思う。

 

第1節は身近な情報源を紹介し、それぞれの情報源の特徴(長所・短所等)をわかりやすくまとめてある。第2章までと同じ調子で進行しており、読むだけで理解しやすい。

 

第2節は情報源としてのインターネットの活用について。最初に情報源として使う場合の、インターネットの特徴と注意しなければならない点が述べられている。次に、Webページで情報を調べる方法として、ネットサーフィン、カテゴリ検索(ディレクトリサービス)、キーワード検索(検索エンジン)の3種類を紹介している。

 

第3節はキーワード検索の実習となるべきものである。回りくどく書いたのは、まったく実習らしさがなく、解説のみが続くからである。「調べてみなさい」という言葉は、振り仮名のような細かい字で書かれた、欄外の「やってみよう」という部分と、章末問題以外にはいっさい出てこない。情報Aは授業の2分の1以上実習する科目だったはずなので、明らかに実習するべき内容については、実習をもう少し表に出してもいいのではないか。

AND検索、OR検索、NOT検索の解説が、やはり妥当な例を多用して非常にわかりやすく記述されている。

情報の信憑性、情報伝達等の技術的な信頼性に関する説明では、「情報そのものの信頼性(信憑性の意味合いで)や妥当性(問題解決できたかどうか)」という表現となっており、生徒にはわかりやすいと思う。技術的な側面からのデータの信頼性については省かれているが、私はそのことについて不満はない。また、調べた情報を利用する場合のルールやモラルについては、特に必要なことのみを比較的簡単にまとめている。第5章で詳しい説明があるので、情報を探すという章としては、これで十分だと思う。

 

第4節はテーマに基づいて調べる実習である。本文が、実習と平行して読みやすい形になってきたが、調べた内容の発表はポスターかパンフレットにまとめて発表しようとなっていた。他社のように情報の収集から、収集した情報の発信、発信に適した情報の表し方、発信に伴う問題点の認識といった展開になるのではなく、この教科書では、章末問題も含めて情報の収集のみを扱っていたので、仕方ないことかもしれない。また、この教科書の展開から考えてもこのような発表が最適なのかもしれない…

しかし、いざ教室の中における生徒の様子を思い浮かべると、高校生がポスターやパンフレットの作成にのってくるだろうかと疑問を持ってしまう。DTPやワープロなどのソフトウェアを活用し、小学校や中学校でやってきた作業とは一味違うことを味わう機会を与える方がよいと思う。

不特定多数のものが見るWebページと、目の前の対象に対して説明をするプレゼンテーションの違いを、すでに第2章でわかりやすく説明したあとなのだから、この段階では、他社と同様にWebページやプレゼンテーションでの発表にしてもいいかもしれない。これらを入れなかったのは、次の章をにらんでのことだと思うが。

たぶん、実習は副教材で提供するという計画があるのだろうが、実習に関しては物足りない気がした。

 


第4章は情報の統合と表現。

ディジタルデータ(画像・映像・音声)に絞り、情報の統合とWebページ作成を通して表現を学習し、情報を発信する場合の権利や行うべき配慮を検討する。

 

第1節は、マルチメディアの説明のあとに、画像データの取り込みと一般的な画像フォーマットの説明、音声データと音声フォーマットの説明、映像データの取り込みと、映像フォーマットの説明があり、その後電子百科事典を例にしてハイパーテキストを説明し、マルチメディアの特徴をうまく示している。

しかし、教科書の説明はわかりやすいが、実習を助ける配慮はまったくないので、この教科書をたよりにした実習を行うのは難しい(使いにくい)と思われる。

 

第2節は、Webページの作成に取り組む。Webページの説明のあと、作成するソフトとしてHTMLエディタとワープロが利用できるとしている。授業ではどちらでも選んで下さい、としているようだ。製作の手順等は詳しく、解説する内容も私は違和感がない。しかし、具体的なテーマを絞らない一般論が続くので、実習としての現実感が乏しい。あとにWebページを作る課題もないことから、この教科書の流れに沿って、自らテーマを決めてマルチメディア作品を作っていくということになるのだろうが、初めてのWebページ作成を、作成テクニックと内容の充実という両面を考えながら行わなければならないのは、生徒にとっては酷である。また、Webページに画像や音声、映像を載せるには、前節の説明では不足気味である。授業では、教科書の例と同じものを作りながら技術を身につけさせ、そのあと課題を与えるという展開を想定して授業計画を立てることになるのではないだろうか。

完成したページのチェックについて、1ページの解説がある。これはぜひ必要なものだが、この教科書の特徴として、授業での生徒の活動をフォローする記述や演習が準備されていない。この教科書を読みながら「私が読んだ情報A教科書その3」の細やかな配慮のありがたみが思い出されてしまう。

実習後に、インタラクティブな要素としてスタイルシート、スクリプト、フォーム、CGIなどについての簡単な説明があった。現在では、このような技術を使っているWebページが非常に多いので、せっかく実習して自らWebページを作った生徒にとっては、自分が作ったものが普段見慣れているようなWebページとして出来上がらなかったことに不満を持ち、原因を知りたがっているかもしれない。したがって、高度なWebページとして上記の技術を紹介したことは非常によいと思う。

この節の最後に、本文とは違う扱いで、プレゼンテーションを説明する2ページがある。プレゼンテーションは情報Aでは取り上げるべき題材だと私は思っている。この2ページは、本文に入りきらなかったが省くべきではないということで特設されたのではないかと想像するのだが、教科書のこのような扱い方では、非常に授業が難しい。そもそも第3章で情報の収集を扱ったあとに、収集した情報を整理し発信するという学習が行われていないことが問題であり、このような形でプレゼンテーションを載せることになった原因もそこにあるのではないだろうか。

<私が違和感をもっただけであって、このような編集がよいか悪いかを判断しているのではありません。>

 

第3節は、他の教科書と同様、作成後のさまざまな問題点の検討に入る。現実の生活における情報の伝わり方を話題に入れながらインターネットの特性をうまく示しつつ、著作権、個人情報やプライバシーの保護について、わかりやすく丁寧に説明されている。このような実習を伴わない説明は非常によく伝わってくる教科書である。

更に、情報格差の問題や、情報を発信する側としてのさまざまな視点からの配慮についてなど、他の教科書に比べてもかなり詳しく記述されている。表現がわかりやすいので、深入りしているという感じもしない。唯一問題点として感じたことは、非常に大事な点がうまく説明されているのだが、教科書の実習例が部活動を紹介するWebページを作っただけのものであり、実習したにもかかわらず、やはり問題点の指摘に現実味や重みが足りなくなってしまうようであること。実習に重点が足りないために、解説が生きてこないような印象であった。

章末問題も、知識の復習のみであり、実習課題は見当たらなかった。

 

この章全体について、挿絵や本文を補助する「チェック事項」という箇条書きが、基本を抑え、的をついておりとてもよい。プレゼンテーションの例でも、「5分間注意をひきつけるため」とひと言でポイントを言い当てた表現が使われる。使ってみたくなる工夫が多く、平易な表現で要点をよくまとめてあるので、教える立場の者が勉強になるという印象だった。

 


第5章は、生活と情報技術について。説明を中心とした内容なのだが、他の教科書に比べてページ数が多く、詳しい。情報社会の問題点や未来について、丁寧に書いてある。

 

第1節は情報機器の発達としくみについてだが、歴史的な内容にはあまり触れていない。一貫して、日常生活で使われている情報機器を扱い、改めて見直している。

インターネットの歴史を説明するところで、はじめてプロトコルという用語が出てきたが、技術的な視点の説明はまったくなく、この教科書にはIPアドレス、文字コード、ビット等のことばも、結局は出現しなかったと思う。個人的には気にならないが。

 

第2節は、生活の中の情報を扱う。第1節でも生活の中に溶け込んでいる情報機器を扱っていたが、今度は「社会」の中に溶け込んでいる規模の大きな情報技術やシステムを扱う。第1節でも後半は情報機器というよりも技術にかかわる話題だったので、節を分けるほどのこともないと私は思ってしまった。

オンラインシステムの例として、銀行のATM、鉄道窓口の発券業務、交通管制システム、宅配便などの流通分野をあげている。わかりやすい。1998年の大阪のネットワーク事故をシステムに依存しすぎた場合の問題の例としているが、例えばコラムで、もう少し具体的な記述がないと何のことかわかりにくい。コンビニの例は、更に詳しく載っている。高校生にとっては馴染みもあり、非常に好ましい配慮ではないだろうか。

 

第3節は情報社会の問題点である。第3章3節、第4章3節と重複する点もあるような気もするが、後半は初めて「悪用」という観点で問題点が説明され、対応について解説が続く。わかりやすいと思う。

 

第4節はこれからの情報社会の中で個人がどう生きていくかについて。情報機器や情報通信ネットワーク、すなわち技術の進展についての説明からはじまり、次に情報やネットワークのビジネスにおける使われ方、最後に、私たちには情報を収集し表現していく「知恵が必要」としてまとめられていた。最後までわかりやすかった。

 


巻末資料に、電子メールの見本と、パソコンカタログの見方がそれぞれ1ページずつ載っていた。前者は、本文の実習であまり使われていなかったので、プレゼンテーションの場合と同じく申し訳ということか、なんて勝手に思ってしまった。授業で取り組もうと思っても、この1ページだけでは扱いきれないだろう。後者については、パソコンソフトをまったく意識しない編集の教科書がこのようなものを載せたのか…一人でニタッとしてしまった。どう捉えたら(感じたら)いいのかわからなくて、興味深い。

 

この教科書は生徒に使わせるだけではなく、一度教師が読んでおくと、どのように説明したら生徒がよくわかるかを考える材料になりそうな教科書である。

難しい用語を省き、外来語にはスペルを記述し、CPU、POS等の略語には正式なスペルだけではなく、日本語でも補足の説明がしてあった。このような配慮がかなり徹底的にされていることは非常にありがたい。章末に用語説明がなくても、大きなデメリットとはならないといえる。

また、この教科書では「情報の発信に適した情報の表し方」という学習内容は見つけることができなかった。専門的な技術については(私は)気にならないので、このような節がないことはそれほど問題とは思わないが、何らかの形でプレゼンテーションや電子メールを活用する技術やそれらを利用することに伴う問題について、もう少し詳しく扱って欲しかった。高校生が身につけることは望ましいと思う。

この教科書は、生徒の活動をもっと重視して編集されておれば、これ以上のものはないなどと感じながら読んだ箇所がたびたびあった。ためになる。

 

 

 

参考文献

 

某、情報A教科書

文部省告示 高等学校学習指導要領(平成11年3月) 大蔵省印刷局発行

 

 


以上 2002.8.29作成  (1行目に戻る)

 

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