「情報A」 教科書の感想(メモ)その1

感想

 

全ページカラー印刷。本文130数ページ。

巻末に用語説明があり、比較的わかりやすい。略語の正式名称やカタカナで表現する用語の綴りなどが載っており、本文のページも記載されている。親切である。

 


この教科書は、口絵が非常によく整理されており、わかりやすい。絵や写真は適格な物が選ばれているという印象。それらのレイアウトが見やすい上に、解説もあり、ぜひ利用するべきだ。授業で説明をしたくなる内容をうまくまとめた口絵である。

教科書全体の構成は、学習指導要領を忠実に再現した形になっており、構成だけでなく章や節のタイトルも、ほぼ同じ言葉が使われている。展開がスムーズで読みやすい。

 


第1章は、「情報を活用するための工夫と情報機器」として、問題解決と情報伝達を扱う。

どちらの単元も、「実習としても使えそうな具体例」→「実習例(課題)」 →「実習結果の分析と評価」→「解説(まとめ)」というスタイルで、教科書のとおりに実習をしていけば自然に情報を扱う(活用する)ための基礎力や工夫のしかた、パソコンの操作が身につく。専門用語もほとんど顔を出さずに目的を達成しており、すばらしいと思った。

パソコン等の情報機器の操作という側面から見ると、問題解決では、ワープロ・表計算の比較的基本的な機能を使える課題。情報伝達では、プレゼンテーションソフトで実習できる課題であった。本文の流れが非常にスムーズな教科書なので、ソフトウェアを使った実習をするなら、授業の流れを途切れさせないように、事前にソフトの使い方を実習するなどの工夫が必要かもしれない。

 


第2章は、「情報の収集・発信と情報機器の活用」として、情報の検索と収集、情報の発信と情報の表し方、情報発信の注意点を扱う。

情報検索と収集では、あとで電子百科事典・メール・電子掲示板にも軽く触れているが、インターネットのWWWでの検索を丁寧に学習させる。理解しにくい技術的な側面を上手に省き、挿絵や写真・資料も本文をうまく補助しており、目を通していくだけで無理なく理解できそうな印象だ。検索については、AND検索、OR検索、NOT検索をしっかり説明してあり、検索エンジンの違いだけでなく、さまざまな検索サービスを説明している。情報検索を(学習するだけでなく)身につけさせるためには、非常に好ましい構成である。さまざまな場面で使いこなさなければならないWWW上の検索を丁寧に学習させ、その後、他の多くの方法は紹介にとどめて各自の発展的な学習に期待するという形は、新課程の方針にも合致していると思う。

情報収集のあとに、さらに工夫するためのヒント(発想法など)やフィールドワークなど、教師側が言及したい点の説明も抜け目ない。情報収集の際に知っておきたい問題点も、よく知られた一般的な内容になっており、分かりやすい。これらの注意点が、第1章における課題実習後の解説と同じ役目を果たしており、効果がある。

この教科書は、情報発信の教材として、Webページの作成を選んだ。ここは教科書の編集方針がよく表れる単元である。目的を持ったWebページを短時間の学習で作成することはなかなか難しく、しかもサイトとしてのページ構成を考え、できあがったページをリンクさせていくことは大変な作業になる。ページに入る写真などのファイルの存在、フォルダという概念の理解、さらに全角・半角など、乗り越えなければならない問題が山積している。しかし、どの教科書でもいずれかの単元でWebページの作成を取り上げている。結局は、使いやすいかどうかが問題になる。

この実習は、グループで行うことになるだろうが、どの程度まで教師がしあげておくかがポイントである。教師が十分に準備してから取り掛かる必要があろう。教科書の構成は、「1.内容の検討」→「2.サイトの検討」→「3.ページレイアウトの検討」→「4.ページの作成」と進む。そして、ページの作成に多くの紙面を割いている。確かにその必要があろう。2.3.を教師が行い、それぞれのグループがページ編集した後、できあがったサイトを評価するという形の実習が思い浮かぶ。この教科書は、技術的な説明や用語が非常に少ないのが特徴であるが、Webページの仕組みについても難しい専門用語をできるだけ省くという姿勢で貫かれている。個人的に大賛成である。情報Aが他教科を含めた情報操作等の基礎として1年次に開講される可能性が高いことを考えると、技術的な知識よりも、情報を扱うことができ、問題点を体験的に身につけている方がいい。そういう意味で、この教科書は気に入っている。

できあがったWebページを発信する前に、情報社会の一員として問題を考えさせる構成になっている。様々な点から、うまく問題をとらえてある。説明だけでなく、本文中に考えさせたり、調べさせる設問があり、それも効果的だ。

章の最後の課題は、情報を手に入れて、自らの主張を発表できるように工夫されている上、評価も忘れない。じっくり時間をとることができれば、講習会課題テキストでいうところの全体課題実習として、うまく機能するだろう。

 


第3章は「情報の統合的処理とコンピュータの活用」。要はマルチメディアと共同制作だ。

最初の節で、パソコンソフトで何ができるかを真正面から考えさせ、処理に応じたソフトウェアを使うことを学習させる。ストレートでわかりやすい編集でマルチメディアを体験させている。

パソコンの操作として、音の録音、静止画の取り込み、取り込んだ画像の処理、3次元のグラフィック処理を体験させ、その後、言葉と画像と音からなるマルチメディア文書を作成させる。

私は、この単元は、理屈よりも楽しくパソコンを使うという授業であるべきだと思う。また、楽しめる題材を与えやすい分野でもある。その観点から見て、教科書の内容は、教師が生徒に見せる部分(バイナリーエディタによるファイルの加工)と生徒が自ら操作する部分(録音・写真撮影・圧縮・描画等)を明確に分ければ、使いやすく編集されていると思う。やや専門的な用語の説明はきちっと書かれているし、専門用語にルビも付けてある。

 

次に情報の統合的な処理の節では、共同制作や作品提出の手段として、ネットワークや共有フォルダを扱う。この解説も必要最小限である。

マルチメディア絵本、プレゼンテーション、Webページ、DTP(新聞)の4種類を課題として準備している。全部は無理であろうから、学校の設備により選択することになろう。プレゼンテーション(第1章でも少し使う)かDTPを選ぶことで、よく使うソフトをほぼ体験できたことになる。

 

次の節では、問題解決のための表やグラフの利用やシミュレーション、データベースまでも紹介している。表計算は非常に有用なソフトだが、この教科書では第1章で表計算ソフトを使った実習をしなかった場合、ここで表計算ソフトを使わなければ素通りすることになる。私はその配慮としても、第1章より少し発展的な問題解決としても、プレゼンテーションに統計的資料を含ませると効果があるという点でも、ここで表やグラフを扱うことを肯定的にとらえた。データベースについても必要かつ十分な内容であろう。

 


第4章では「情報機器の発達と生活の変化」を扱う。内容から、当然のこととして実習が減り、知識の伝達が中心となる。しかし、設問はきちっとちりばめられている。

この教科書は、身近なところをしっかりと押さえ、専門用語を控える等の配慮が行き届いているという印象が強い。第1節でコンビニがなぜ便利かと問いかけ、情報システムを説明し、その仕組みとしてディジタル化の原理とディジタル化されたデータの特徴の説明に導く。そして更にディジタルデータの通信の利点や工夫、インターネットの仕組みを解説していく。

話が変わり、コンピュータやその部品の発達の歴史についても、深すぎない程度に触れてある。

第2節では現代社会を支える情報技術に触れる。社会・地域の中での情報システムをわかりやすく例示している。

第3節で情報社会の留意点や情報判断能力に触れている。この教科書は、それぞれの章で、情報社会への参加の態度や情報技術の活用における問題点等を示していた。それらを思い起こしながら読める内容にまとめてある。

 


実習中心の授業をしやすい教科書といえる。内容の進行に無理がなく扱いやすそう。専門的な解説に深入りしていない。本文の字も大きくて見やすい。情報を扱う教科書が、文字の羅列になっていたり、専門用語の説明を文字でしか書かないようではだめと思っている私には、情報を適度に絞ったこの教科書は気に入った。パソコンやソフトウェアの操作に重点を置くのではなく、情報化社会について考えさせる方がいいと思っている私には、ごく身近な社会の中の情報に目を向けたこの教科書は気に入った。実習や設問をより具体化する副教材が充実したら、わかりやすい授業をしやすいだろう。

気になる点は、中学校で生徒がどの程度の知識を修得しているかということである。この教科書の内容と、重なる部分がかなり出てくるようなら、更に専門的な内容を含ませる必要が生じるかもしれない。

 

 

 

参考文献

 

某、情報A教科書

文部省告示 高等学校学習指導要領(平成11年3月) 大蔵省印刷局発行

平成13年度新教科「情報」現職教員等講習会テキスト(1) 文部科学省

 

 


以上 2002.8.3作成 8.7一部修正 (1行目に戻る)

 

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