データ通信の概要

目的

情報化社会から、情報通信ネットワークによるデータ通信を基盤とする高度情報通信社会へと移ってきた。社会に求められるものは次の事柄である。

従って、「データ通信の概要」で扱う内容は次の事柄である。

「データ通信の概要」の目的は、普通教科「情報」においては「情報技術を利用する側」の視点から、専門教科「情報」においては「情報技術を開発・設計・開発する側」の視点から、

を指導することにある。

普通教科で指導するときには、高度な技術的内容へ深入りせずに指導内容を厳選し、基礎的・基本的な内容の習得を図ることが重要となる。生徒にとって身近なことを具体的な事例として多く挙げたり、体験的・作業的な活動と結びつけた指導を行うことが大切である。

専門教科で指導するときには、「データ通信の概要」で学ぶ技術を活用するために設置されている「ネットワークの基礎」も視野に入れて指導することが重要である。

内容

情報通信ネットワークの概要

データ通信の利用と情報機器の発達

データ通信の必要性と有効性

「言葉」による意思の伝達

  ↓

「信号」による遠隔地への情報伝達

  ↓

通信手段の多様化

情報機器の発達による情報通信ネットワークの進展

コンピュータが登場した時期はオフラインによるバッチ処理が行われていた(1950年代)。

 ↓

大型コンピュータと複数端末機を通信回線で接続し大型コンピュータで集中処理(1960年代)。

 ↓ (集中処理から分散処理へ)

パソコンを通信回線で結合したネットワークへ(1980年代)。

 ↓ (パソコン通信、インターネットの普及。データ通信の一般化。)

コンピュータはコミュニケーションの道具としても重要な役割を担う。

 ↓ (情報化社会から高度情報通信社会への移行)

新しい情報通信技術に基づいたサービスが安価で提供される。

例:ISDN・電子商取引(EC)・移動体通信・モバイルコンピューティング・衛星通信

指導上の留意点

データ通信の有効性と必要性を意識させるためには、

情報機器に関しては発展過程だけではなく、

情報通信ネットワークの仕組み

内容は、接続形態(ネットワークトポロジー)・回線接続方式・伝送媒体 についてである。

ネットワークの接続形態と回線接続方式と伝送媒体

ネットワークの接続形態
ネットワークの回線接続方式
伝送媒体

指導上の留意点

情報通信ネットワークの基本構成

   
|←
データ伝送システム
→|
   
|←
   
データ通信システム
   
→|
ホスト
コンピュータ
通信制御
装置(CCU)
データ回線終端
装置(DCE)
←通信回線→
データ回線終端
装置(DCE)
通信制御
装置(CCU)
ホスト
コンピュータ

用語の意味は次のとおり。

例:インターネット接続の基本構成

アナログ回線の場合、

を用いる。

ディジタル回線の場合、

を用いる。

指導上の留意点

インターネット

インターネットの概要

歴史

アメリカでは、1969年国防総省高等研究計画局の支援でARPANETが開発され、1983年に軍事用の部分が切り離されて学術・研究用となり、1986年に開発・運用開始された全米科学基金のNSFNETと相互接続されてインターネットの形ができあがった。

日本では、1984年に学術・研究用のJUNETが構築され、それ以後も文部省のSINET等が構築されてインターネットの形が整っていった。

1990年代に学術・研究用から商用ネットワークに関心が集まってインターネットが爆発的に普及した。1994年にはNSFNETの運営が民間企業に移管された。

サービス

インターネットのサービスではWWW・電子メール・FTPがよく使われる。

インターネットにつながったコンピュータの識別(IPアドレス)

インターネットでコンピュータを一意に特定するために、コンピュータ間は全世界で重複しないIPアドレス(4組の数値列)が使われるが、実用性のため人間にとってわかりやすいドメインネームアドレスをIPアドレスと1対1に対応させ、DNSサーバーで名前解決を行う。

インターネットに参加する人間の識別(電子メールアドレス)

電子メールを利用するユーザの識別には電子メールアドレスを用いる。電子メールは、電子メールアドレスに指定されたドメイン名のコンピュータで管理される。

プロトコル(通信規約)

データ通信を正確に行うためには、必要なデータ形式や伝送手順などの約束「プロトコル」が必要である。様々なプロトコルが利用されて、インターネットの各種サービスが提供されている。

HTTP:WWWクライアントがサーバと通信を行うために。

SMTP:メールサーバ間でメール転送、クライアントがサーバにメール送信するために。

POP3:メールをメールサーバから受信する端末に転送するために。

指導上の留意点

  1. 歴史的な内容は、インターネットの価値を考える1つの材料として扱い、深入りしない。
  2. WWWと電子メールを扱い、実習を通して指導する。
  3. WWWと電子メールがデータ通信であることを考えさせるためにIPアドレスを扱うが、深入りしない。
  4. Webページのソースを表示させ、HTMLを意識させる。

情報の収集と発信

情報の収集

Webページを巡回する方法と、検索エンジン(サーチエンジン)を利用する方法がある。

検索エンジンを使う場合、特徴に応じた使い方をするとい。また複数の検索サイトを利用することで目的が達成できる場合もある。

ディレクトリ型:検索対象がはっきりしていて調べる範囲を自分で絞り込んでいける場合。
  例:Yahoo!JAPAN http://www.yahoo.co.jp/

ロボット型:よくわからない意味の用語を調べる場合。
  例:エキサイト http://www.excite.co.jp/

情報の発信

情報を発信する場合に最もよく使われるのはWebページである。

  1. HTMLのタグ:レイアウトやリンク情報を表現できる。
  2. WWWスクリプト:計算、文字列操作、比較などの処理によりインタラクティブなページにできる。
  3. CGI:外部プログラムによる、より複雑な処理結果を表示させることができる。

指導上の留意点

  1. 情報の収集では、情報を検索してアクセスする手順を考えさせる。
  2. 「ディレクトリ型」「ロボット型」の検索結果の違いに触れるため、様々な検索サイトを利用する。
  3. Webページ作成ソフト等を利用し、Webページ作成の実習をすることが考えられる。
  4. 情報発信がどのように進展するかを考えさせることも必要。

感想等

テキストの具体的事例について

テキストp260からの具体的事例は、データ通信の必要性や社会的影響を教えるには最適の課題であると感じた。インターネットでは次のURLで確認できた。

世田谷ケーブル火災
−情報化社会における新たな都市型災害としての大規模情報災害の事例−

http://xing.mri.co.jp/research/research/bousai/setagayacable.html

高度ネットワーク社会の脆弱性
−大阪NTT回線事故(1998.10.28)の社会的影響に関する調査研究−

http://cc.matsuyama-u.ac.jp/~nakamura/ohsaka.html

後者はテキストの引用元でもある。

これらのディジタル化された資料は、生徒にレポートとして与えるなどの使い方もできるだろう。

ホームバンキング、ATM、POS、座席予約等についても、いちいちURLは記載しないが検索は容易であり、情報検索の実習としても、データ通信の必要性や有効性を理解させるための実習としても扱いやすい。

情報の収集に関する具体的な実習例

次に1つだけ、ごく簡単な実習例を挙げる。授業の展開と生徒の動きを考えるために、生徒の立場になって検索も行ってみた。

課題「大阪市から佐賀市に行きたい。出発は、14時以降。明日10時から14時まで佐賀市で仕事がある。そのあとできるだけ早く帰りたい。往復で方法は違ってもよい。往きはできるだけ安く、帰りはできるだけ早く。いい方法を見つけて欲しい。時間と料金だけではなく、できれば予約方法等の情報も欲しい。」

検索例 Google http://www.google.co.jp/

検索例 BIGLOBEトップページ http://www.biglobe.ne.jp/

生徒も、これらの検索例と同じような操作を行うだろう。会社名から検索を始め、私が苦労したJRを最初に見つけるかも知れないし、ディレクトリ系検索エンジンでリンクをたどるかもしれない。検索エンジンを次々と替えるかもしれない。

今回試してみて、それぞれのWebサイトが、非常に多くの情報を提供し、こちらから入力したデータを見事に処理していることがわかった。まさにデータ通信の必要性・有効性、情報の収集について理解し、どのように発展していくかを考えるよい材料である。

この実習での注意点として、生徒に対して、検索時に途中過程を詳しく書かせるようなことをしない方がよいと感じた。検索に集中させるべきである。成功したあとに、もう一度成功にいたるまでの思考の流れと失敗の原因をたどりながら発表用の報告をまとめるのがよいだろう。

さらに、ある程度高速な回線か、少人数で行うほうがよいかもしれない。Webページの表示を待つ時間が多い環境であれば、課題における検索するべき項目を減らすべきである。

接続実習について

テキストp278に、「パソコンとモデム、パソコンとDSU・TA等の物理的な接続を実習を通して指導する。」という記述がある。これはほとんどの学校で不可能であろう。私は、モデムやDSU・TA等が実習できる場所に設置してあるという状態を想像できない。「データ通信の概要」ではいたるところで「ネットワークの基礎」の内容を考慮し、扱う範囲を限定していたが、接続実習をするとなれば、ネットワーク関係の機器にならざるを得ないであろう。深入りせずにどう扱うかが難しいと思われる。

IPアドレスの扱いについて

テキストによれば、IPアドレスを扱う目的は、WWWと電子メールがデータ通信であることを考えさせることにあるようだ。本当にIPアドレスを扱えば生徒はWWWと電子メールがデータ通信であると考えるだろうか。逆にIPアドレスを省いたらデータ通信であるとは考えない生徒が多いのであろうか。私は疑問を感じる。教科「情報」の授業の中(事前評価等)で、WWWや電子メールに対する生徒のイメージを探り、取り扱い方を検討する必要があると思う。

なお、IPアドレスとドメインネームアドレスの関係や、人間にとってドメインネームアドレスが必要である点を理解させる実習としては、次の例はどうか。

実習例
  1. あらかじめWWWサーバのIPアドレスが分かっているWebサイトをいくつか準備しておく。できれば異なるWWWサーバのWebサイトをいくつか。
  2. ブラウザのアドレス入力欄にhttp://www.provider.or.jp/~nanigasi/index.htmlと入力させてWebページを閲覧させる。
  3. 同じくhttp://123.223.123.256/~nanigasi/index.htmlと入力させて閲覧させ、同じ内容であることを確認させる。
  4. 上記のことを別のWebサイトを使って繰り返す。
  5. 用紙を配布し、覚えているURLを記入させる。
  6. 質問「IPアドレスとドメインネームアドレスとどちらが覚えやすいか。自分の作ったWebページを友達に紹介する場合、どちらのアドレスを伝えるか。」
  7. 質問「コンピュータは、どちらが扱いやすいのだろうか?」

有効性や必要性を教えるとき

有効性や必要性を考えさせるときには、「なかったら、どれほど不便か」という考え方が有効ではないだろうか。

「電話がなかったら?」、「携帯電話を取り上げられたら?」、「天気予報がなかったら?」...と予想させる。

この設問で動機付けができたら、情報通信ネットワークの仕組み等の基本的な内容に絞った講義に移り、その知識を生かして、テキストp260〜p261のような「〜がなかったから、こんなに不便であった」という事例を扱う。生徒が、思いも寄らないところへの問題の波及に驚いたあと事例に関係する部分を深める講義を行うという展開が考えられる。情報通信ネットワークのどのような仕組みが影響したか、さらにどのような方法で改善できるかと深めていけば、専門教科「情報」にもつながるだろう。

深入りしない分野について

普通教科「情報」では、「〜の目的によって教える(扱う)が、深入りしないように配慮する。」という部分が非常に多い。そのような内容はたいてい「難しいから深入りしないのだが、理解させる必要があるから省くわけにはいかない」ということであり、取り扱いが非常に難しいといえる。「情報通信ネットワークの概要」の多くの項目は、意識しないと見えないものでありながら、我々の日常生活に深く関与している。便利な高度情報化社会の基盤であり、これから先さらに発展が望まれ、関わりが強まる技術である。

「情報」を教わる生徒の中の誰かが、将来はこれらの技術の発展を支えなければならないわけだから、深入りしない分野こそ、より慎重に、苦手意識を持たさないように指導しなければならないともいえよう。

参考文献

平成13年度新教科「情報」現職教員等講習会テキスト(1) 文部科学省

高等学校学習指導要領解説 情報編 文部省

 


以上2001.10.13作成 (1行目に戻る)

 

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