ソフトウェアの基礎

目的

普通教科「情報」:問題解決やコミュニケーションなどにおいて、適切な場面でコンピュータを利用できるようになることを図る。(実習においては、応用ソフトウェアを目的に応じて使い分けたり組み合わせて活用)

専門教科「情報」:基本ソフトウェアと応用ソフトウェアの役割と特徴について総合的に理解させる。

内容

応用ソフトウェア

用途に合った応用ソフトウェアを選択して利用すると便利。しかしソフトウェアの制約に拘束されて、仕事の目標から妥協したり表現方法が定型化してしまうことがないように心がける必要がある。

パッケージソフトウェア(様々な用途に共通する基本的な仕事のため)

文書処理・表計算・データベース・プレゼンテーション・描画・画像編集・電子メール・ブラウザ。

パッケージソフトウェア(特定分野のため)

統計処理・数式処理・音楽・教務管理・財務会計・CAI・CAD・ゲーム。

カスタマイズソフトウェア・利用者プログラム(特定分野・固有の仕事ののため)

パッケージソフトウェアで対処できないときは、ソフトウェアハウスに外注するか、組織内で開発することになる。

応用ソフトウェアの分類例

↓作成者・用途→ 一般・共通 特定分野 特別な仕事
市販 パッケージ パッケージ  
特注   カスタマイズ カスタマイズ
自家製   利用者プログラム 利用者プログラム

指導上の留意点

普通教科「情報」では、問題解決やコミュニケーションのためにコンピュータを活用する際、応用ソフトウェアを利用する。

  1. ソフトウェアの機能の充実はめまぐるしいので細かい操作を詳しく教えるのではなく、あまり変化しない本質的な機能にとどめて実習させるべき。それとともに、将来は他の方法があるかもしれないことを強調する。
  2. 応用ソフトウェアが問題解決やコミュニケーションの手段として適切でない場合には、他の方法を検討する必要性を示唆する。現在の応用ソフトウェアの機能に制約されて、生徒の創造性が損なわれてはいけない。
  3. 不必要な応用ソフトウェアは仕事が終わり次第終了させておいた方がよいことを理解させる。
  4. フリーソフトウェアやシェアウェアにも優れた機能をもつものがある。しかし、インストールする際には、ウィルスを警戒すること。

基本ソフトウェア

応用ソフトウェアの実行を支えるもの⇒オペレーティングシステム (ユーザインターフェイスを含む)

応用ソフトウェアの開発を支えるもの⇒言語プロセッサ、プログラム開発支援ツール

オペレーティングシステム(OS)の役割

HAL(hardware abstraction layer):最も下位でハードウェアの違いを吸収。

カーネル:HALの上位で、スケジューリングや割り込みを行うOSの核となる機能。

プロセス管理モジュールやメモリ管理モジュールがカーネルの上に載っている。

プロセス管理

CPUは一度に一つの処理しかできないので、命令に従い、逐次的に処理を行っている。CPUに無駄な待ち時間が生じないように、複数のプロセス(タスク)をCPUに割り当てることを「プロセス管理」という。これにより、応用ソフトウェア利用者には、複数の仕事をあたかも同時に行えるように見える(CPUの仮想化)。

メモリ管理

主記憶装置へのアクセスは高速だが、記憶領域(メモリ)の容量は比較的小さいので、当座に必要な部分だけを主記憶装置に入れて、残りは、アクセスは低速だが記憶容量の大きい外部記憶装置に置いておき、必要に応じて出し入れをする(仮想記憶方式)のが「メモリ管理モジュール」である。

また、複数プロセス実行時に、各プロセスが互いの記憶領域を干渉しないように保護することもメモリ管理モジュールの機能である。

入出力管理

コンピュータと周辺機器との間のデータの形式を変換するソフトウェアを「デバイスドライバ」という。OSに組み込まれ、OSの「入出力管理モジュール」が必要な周辺機器のデバイスドライバを起動させて、その装置の細かい動きを指定して動かす。ハードウェアの違いを吸収(装置の抽象化)している。

ファイル管理

入出力管理モジュールの上に載り、ファイルの記憶場所を統一的に管理するのが「ファイル管理モジュール」。ファイルの場所は階層構造で記憶される(外部記憶装置の仮想化)。

ユーザインタフェース

処理結果を見やすく、指示をコンピュータに伝えやすくする機能をもつ。マルチウインドウシステム・GUI(Graical User Interface)を採用するものが多い。

プログラミング言語

機械語:CPUが直接解釈、実行。人間には扱いにくい。

アセンブリ言語:機械語と1:1に対応するもっとも原始的なプログラミング言語。命令が細かすぎ、大きなソフトウェアを作るのは困難だが、コンピュータの基本的動作への理解が深めることができ、技術者の教育に重要な意味をもつ。

高水準言語:簡潔なプログラミングのために作られた。次のものがある。

言語プロセッサ

プログラムをコンピュータが実行できる形式(実行ファイル)に翻訳するソフトウェアで、次の方式がある。

プログラム開発支援ツール

言語プロセッサとともに応用ソフトウェアの開発に利用されるソフトウェアのことで、次のものがある。

指導上の留意点

専門教科「情報」では、次の点が重要である。

  1. 基本ソフトウェアが応用ソフトウェアの実行環境を支えていることを実感させ、ソフトウェアの構成とその構築に興味をもたせる。
  2. 各応用ソフトウェアに共通するような、OSの機能に由来する事柄を認識させ、応用ソフトウェアを正しく有効に利用できるようにする。
  3. 情報処理処理システムは、ハードウェアと基本ソフトウェア、応用ソフトウェアが一体となってできていることを十分理解させる。

「ソフトウェアの基礎」と深く関連する単元の例

情報A (3)情報の統合的な処理とコンピュータの活用
     ア コンピュータによる情報の統合
       (周辺機器やソフトウェアなどの活用方法を扱うが、技術的内容に深入りしない。)

情報B (3)問題のモデル化とコンピュータを活用した解決
     ア モデル化とシミュレーション
     イ 情報の蓄積・管理とデータベースの活用
      (ソフトウェアやプログラミング言語を用い、実習を中心に扱う。)

情報C (2)情報通信ネットワークとコミュニケーション
     ウ コミュニケーションにおける情報通信ネットワークの活用
      (電子メールや電子会議などについて、効果的な活用方法を実習を通して。)

情報C (3)情報の収集・発信と個人の責任
     イ 情報通信ネットワークを活用した情報の収集・発信
      (データの分析・グラフ表示、レポート作成、プレゼンテーション、Webページ作成等。)

情報産業と社会 (2)情報化を支える科学技術
     イ ソフトウェアの基礎
      (基本ソフトウェア及びアプリケーションソフトウェアの役割と特徴を総合的に。)

感想等

実習例について

この単元では、テキストの実習例が簡潔であり、あまり具体化されていない。普通教科「情報」に関連する実践例に目を通して思いついたことを少しばかり書くことにする。

p249[実習例1]コンピュータとワープロ専用機の比較実習

今後高校に入学してくる生徒は、ワープロ専用機になじんでいるであろうか。ワープロ専用機をある程度使ったことがないと、身近な問題とはなりにくいのではないだろうか。基本ソフトウェアの存在について触れることはできなくなるが、次のような実習案を考えてみた。

  1. 350字以上400字以内(適切な文字数についてはじっくり考えるべき)で作文を2種類作る。1つは原稿用紙に手書きで、もう1つはワープロ(1行の文字数、当幅フォントの指定などは最初に一斉に行い、文字数を確認しやすくしておく)で。
  2. 数学の小テストと国語の小テスト1問を作成する。教材として、教科書フロッピー又は教科書をOCRソフトで読み取ったもの(読み取りミスにより、一部の語句を訂正しなければならない状態のままで)を準備。ワープロでも手書きでもよいとする。生徒の力に応じて、レイアウトもさせてよい。
  3. 発表「作文はどちらのほうがよかったか。テスト作成は作品も見せながら、なぜその方法を選んだか。メリット・デメリットは?」等
  4. 討議「どんな処理がワープロに向くか。手書きに向くか。それぞれのメリット・デメリット、ソフトウェアを活用するときに心がけるとよい点等。」

ソフトウェアの活用について、生徒同士が自分の実践力に応じた様々な意見を持つことができ、実践力を身につけようとする前向きな姿勢も持たせることができると思う。

p249[実践例2]複数ソフト起動による速度比較 [実践例3]ソフトウェアが万能でない体験

これらは、非常に単純な例で、ほとんど準備もなく短時間で実習できそうである。すでに多くの生徒が体験していることだと思われる。様々な例が考えられるが1例だけ。

Windows9x系の場合、Webページの閲覧が必要な授業を行うついでに、ページを開くとき「ウィンドウの新規作成」により、どんどんウィンドウを開かせることにより、最終的にはOSが不安定になる場面を見せることができる。

このような場面を作って、[実践例1]で省略した基本ソフトウェアと応用ソフトウェアの関係や、深入りしない程度にプロセス管理の方法について触れる。

p250[実践例]フリーソフトウェアの利用

フリーソフトウェアの利用体験は、コンピュータ教室に与える悪影響を危惧してしまい、現実問題としては取り組みにくいといわざるを得ない。テキストは思いつきの域を出ない気がした。

といいながらも“教室の環境がゆるせば”ということで案を考えてみた。

生徒が短時間でダウンロードし、かつ積極的にインストールを覚えやすいものとしては、例えば「占いソフト」があげられる。様々な占いがあって面白い上、短時間で飽きてしまうので、何度でもインストールに取り組みやすく、インストール方法が身につく可能性がある。またファイル容量も非常に小さいものが多く、ネットワークへの負担も他の分野のソフトウェアのダウンロードに比べると軽いことが予想される。次のような授業展開になる。

  1. フリーソフトウェアのあるWebページを検索。大勢がダウンロードを始めるとWebページを見ることもできなくなってしまうので、ダウンロードはしない。
  2. あらかじめダウンロードして共有フォルダに置いてある多くの占いソフト(事前にウイルスチェックや動作等確認!)を、生徒が自由に選んで「ダウンロード、インストール、使用、アンインストール」を繰り返す。
  3. プレゼンテーションを作成し、発表する。画面キャプチャーの方法もあらかじめ教えておくとよいかもしれない。課題は次のとおり。
    「何本のソフトウェアを体験したか。面白かったソフトウェアは、どのような工夫がしてあったか。」
    「自分が行ったインストール・アンインストールの方法をすべてまとめよ。」
    「コンピュータやソフトウェアが不安定になった者は、その原因について考察せよ。」

このような授業にしても、次の問題点には十分に注意しておく必要がある。

  1. 授業後はどのような体制で占いで使ったファイルやフォルダを削除するのかを、検討しておかなければならない。事前に、生徒がフリーソフトを解凍するフォルダは必ず指定しておくこと。
  2. ソフトウェアによっては、レジストリに情報を書き込んだりアンインストール後にファイルが残る場合がある。また、最初に準備したフォルダの削除だけでは生徒のソフトウェアの消し忘れに対処できない。
  3. どんなバグが潜んでいるかわからないソフトウェアをたくさんインストールしたことにより、コンピュータに悪影響が出る可能性がある。
  4. ソフトウェアの著作権などについても十分に触れておかなければならない。

情報活用に関する生徒の能力の開きに対応すること

高校入学段階では、情報活用に関する生徒の実践力には大きな差が生じている可能性がある。事前評価により、中学校段階までにおける知識、情報機器の活用経験、ソフトウェアの使用経験などをつかんでおくことが重要であろう。

事前評価の結果、生徒の実態によっては、実習課題の選択の幅を広げたり、グループによる実習を増やしてお互いに知識を共有し、吸収できるような環境を作り上げるよう、指導者側が工夫をする必要があろう。

「ソフトウェアの基礎」を教えるための環境整備について

テキストの「ソフトウェアの基礎」全般に目を通して気になったことは、各学校において授業を行うためのソフトウェアが十分に取り揃えてあるかどうかという点である。具体的には、データベース、描画・画像編集、数式処理、音楽などのソフトウェアは授業で活用できそうだが、教科「情報」の中身がはっきりとわからない状態で整備されたコンピュータ教室に、そのようなソフトウェアや関連する情報機器がそろえられているか疑問である。

ウィルス対策ソフトウェアを毎年更新するのも難しく、40本のソフトウェアのバージョンアップは不可能な学校が結構多いのではないだろうか。「ソフトウェアの基礎」を支えるソフトウェアの整備は大きな課題であり、しかも教科「情報」が始まる時期がはっきりしている以上、ソフトウェア整備計画は急務といえよう。

ソフトウェアの基本的な機能だけで十分であり、むしろ機能が少ないほうが

  1. 目的の操作を探し出しやすい
  2. ソフトウェアの動作が軽快であったり、複数のソフトウェアを起動して処理を行いやすい

等の恩恵を受ける可能性があって指導には都合がよい。したがって、フリーソフトウェアを探し出し、十分にテストしてから導入するという方法も現実的である(上記の分野のソフトウェアについてインターネットを検索し、かなり多くのものが存在することは確認できた)。

ソフトウェアだけではなく、よい教材を見つけること、身につきやすい実習をこなすことなど、教科「情報」には、指導者の工夫次第という面が非常に大きいといえる。また、今後、文部科学省や様々な教育研究機関からインターネットを通して配信されるであろう教育用ソフトウェアや学習教材、情報を効果的に活用していくことも、指導者にとって大切なことであろう。

学習(実習)環境の整備について

教科「情報」は、授業の半分以上あるいは1/3以上を実習に...と明言されている科目を含む実習を主体とした教科である。どこの高等学校にも理科や家庭科の実習室があり、教科書の内容を実習させるために必要な備品があらかじめそろえられている。教科「情報」に関しても同じことで、あらかじめ必要な物品が揃えられたところからはじまるはずである、はじまるだろう、そうであればいいが。教育委員会等を中心に、

従って、現場においても何を必要とするのかを十分検討し、教育委員会等に伝え、より適切な学習環境を構築できるよう努力していく必要があると思われる。

学校現場で解決しなければならない問題について

通常、生徒に使わせるコンピュータは一定のポリシーでセキュリティを強化している。授業でシステムが動かなければ、その時間は無駄になるし、頻繁に故障すれば、本来の職務に専念する時間を減らすことになってしまうのだから当然のことである。同じ理由で、フリーソフトウェアなどの導入を制限している場合もあろう。

しかしながら、テキストにはフリーソフトウェアをダウンロードして使わせるなどの記述があり、またコンピュータのしくみを理解させるためには、ソフトウェアをコントロールする画面も触らせた方がよい場合も生じるだろう。

このようなことから、セキュリティポリシーの見直しや柔軟な管理方法を検討する必要もあろう。様々な場を利用して、教育に携わる者が情報交換していくべきであろう。

指導者としてのリテラシーについて

教科「情報」講習会を受講した現職教員の多くは、コンピュータに関しては単なる利用者であり、素人である。また、コンピュータやソフトウェアの操作を教えることが目的ではないとされている。しかし、情報リテラシーは備えていなければならないし、校内では「情報」に関する専門家という立場におかれることは間違いないだろう。そこで「情報リテラシー」という言葉と「コンピュータリテラシー」という言葉を対比して考えた場合、どのような関係があるだろうか。

テキストでは、コンピュータ操作に偏らないとかコンピュータを使わない方法ということが一貫して述べられており、深入りしないという表現もよく使われている。しかし、ソフトウェアの活用という観点から、教材や授業のための準備を考えた場合、コンピュータリテラシーのしめる部分はかなり大きいという印象をもった。コンピュータやソフトウェアの操作そのものを生徒に教えなくても、指導者は様々な種類のソフトウェアの活用方法や基本操作を熟知していなければならない。また、ソフトウェアを、実習で使えるように設定し、環境を整えておかなければならない。課題の提示方法、作品の提出方法等、決めておかなければならない細々としたことがらは非常に多い。結局は自らのコンピュータリテラシーに問いかける部分が大きく、「コンピュータに関して単なる利用者であり、素人である」という状態から少しでも前進しておかなければならないように思われる。

情報リテラシーを様々なアプリケーションソフトウェアの集合に例えるなら、そのアプリケーションの基礎部分に基本ソフトウェアがあるように、コンピュータリテラシーは基本ソフトウェアの一機能としての役割りをもち、教科「情報」指導者の情報リテラシーを支える働きをするのかも知れない。コンピュータリテラシーが乏しいとOSの機能が制限されることになり、アプリケーションの動作に影響が出るという気がする。

参考文献

平成13年度新教科「情報」現職教員等講習会テキスト(1) 文部科学省

高等学校学習指導要領解説 情報編 文部省

 


以上 作成2001.9.20 (1行目に戻る)

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