第5回 文芸と書の世界展(2)

書人・酒井青楓   文人・長井てつ子 (小説)   
澄んだ心と創造物のような容姿と、野に住む野獣の荒さをあわせ持つこの少年が、手の届く所にいる。
心が激しく騒ぐ。どこまでも連れていきたい衝動が、わたしの中に巣喰う。
          「少年」より
   書人・菊谷寒鴎   文人・岡崎荘三郎 (短歌)
己が意思常に通して憚らぬ猫の性知るあやかりたしと
   書人・伊藤京沙   文人・岡崎荘三郎 (短歌)
山峡の流れの道辺行く程にたぎち落ちくる滝のひびきよ
   書人・伊藤京沙   文人・水谷妙子 (随筆)
居間におさまったバラは、出すぎずそれでいて、鮮やかな色はいつも輝いている。
          「ロシア壺のバラ」より
   書人・金川緑眼   文人・厨川道子 (随筆)
皐月の空は雲もなく晴れて、土手の桜は盛り上がるように満ち満ちて咲き、下を流れる川の面にひらひらと花弁が舞う。
          「桜」より

   書人・上村和牛   文人・厨川道子 (随筆)
日高路の五月の風は冷たく、生まれた家があった記憶の土地は、タンポポの黄色に埋まっていたが、虚しさはなかった。
          「日高路」より
   書人・岸 幸牛   文人・五十嵐万依 (川柳)
瞳の奥の海やさしくて溺れそう
   書人・上村和牛   文人・五十嵐万依 (川柳)
転んでもわたしの影に棲むほとけ
   書人・金川緑眼   文人・岡崎敬子 (短歌)
海遠く鴎の鳴くは淋しかり鰊曇りの続く日頃を
   書人・黒須祥華   文人・村井良夫 (随筆)
運命という名の糸にあやつられて、九十一年