変わらない平穏で退屈な日々     それが永遠に続くと思っていた


雪がふりそそいだ あの聖なる夜  一人の少女に出会うまでは


 優しく暖かかい Pure Memory


君はたくさんの愛しさを 僕にわけてくれた


そして その時から 流れていたのかもしれない


始まりを告げる前奏曲が・・・




『DARK ANGAL』


プロローグ: 天使の舞い降りた地で





1997年 12月 21日 虹沢町 高台
AM 2:00


季節は冬
冷たい風が空気に伝わり、いつもより清みきった夜空が
街を包み込んで、幻想的な世界が広がっていた。

虹沢公園から猛スピードで走り出した一台の車
ときなは静かにそれを見下ろしていた。
「ふーん、”アルファ”か。 厄介な存在になりそうね」
『時間よ ときな 予定通りに・・・』
「りょーかい」
ときなと呼ばれた少女は 無線機を取るなり不適に笑うと
バッグをつかんで闇のなかへと消えた。

始まる・・・狩りの時間が・・・


虹沢町 AM 2:03

ひときわ激しいブレーキ音が風をきった。
『こちらSDECE(フランス諜報部員)!!現在、公園付近の路上で銃撃を受けている!
至急応援を・・・!』
『ダメだ!振り切れない・・・うわあああああああああ!!!!』

それは空から襲いかかった。

耳を突くような激しい銃声 砕け散るフロントガラス
容赦ない銃弾の雨が車体を貫き、乗車していた彼等を一瞬で肉隗に変えた。
「がはっ・・・!!!」
「うがぁああああ・・・!!!!」
ボンネットから炎が吹き出し横転した車は炎にのみ込まれ
その直後、ドォーーンという爆発音を辺りに響かせた。
今や路上は炎の海と化し、黒煙は公園一帯に広がっていた。
だが、深夜ということもあって辺りに人はおらず
不思議なほどに静けさが永遠と漂っていた。

最も彼女達にとっては好都合なことだが・・・。
センサーの光が煙の向こうで解除される。今、ときなは一つの標的を消した。

「こちらダークエンジェルのときな。妨害を企てたSDECEの2人は始末したよ。」
『さなの居場所は特定できたか?』
「うん、N58地区のキャロムで人質にされてるよ。SDECEの残党どもに・・・」
『何て卑劣な・・・どこまで腐った連中なんだ』
「彼女のことなら私に任せてよ」
『気を付けろよ。 ”アルファ”の到着時間も迫っている。
何故今ごろSDECEに荷担する気になったのか知らんが、絶対に奴を合流させてはいけない。
くれぐれも見失わないようにな』

コードネーム『アルファ』・・・それは世界で最も恐れられた伝説のスパイ・・・

腕時計を眺めるときな。 時刻は2:15分をまわっていた。
「けど最悪捕らえられなかった場合は・・・」
『始末しても構わない。アルファはあまりにも危険すぎるからな。それと さなは・・・』
「わかってる。拓馬の二の前だけにはさせないよ・・・必ず助け出してみせるから」
『頼んだよ、ときな』
ピッ
ときなは見渡す限りの街の灯かりを眺めた、肩までかかった赤い髪を靡かせて
「我ながらよく言ったものね・・・。必ず助け出す・・・か」
数日前のある事件が 彼女の記憶に蘇っていた。
「ときなさん、まもなく”アルファ”が到着します」無線機を外した長髪の青年が話しかけた。
「光一くん、見張りは頼んだよ」
「はい、お気をつけて・・・」
サイレンサーつきの銃を取ると、ときなはある建物に視線を送った
それは一見ごく普通のバー、「キャロム」だ。
(あの場所が ”アルファ”の目的地・・・そして、さなちゃんが・・・)
ピピピ
『ときな、くれぐれも感情で平常心を奪われないようにね』
「わかってるよ 桃子さん」
『それじゃ、始めるよ。全ては10分以内に・・・』
「OKー 私たちダークエンジェルを敵にまわしたことを、存分に後悔させてあげないとね」
『その意気よ』
彼女たちは向かった、暗殺部隊ダークエンジェルの名のもとに
そして、ただ一人の少女を救うために・・・
「さなちゃん、無事でいてね」

2時 35分 ― キャロム ー

ふと両腕に痛みを覚え、少女は意識を取り戻していた。
そこには見知らぬ男達が・・・。
腕にはロープが縛られて身動きがとれない
「お目覚めかい?結城さなちゃん」
「ここは・・・何処?・・・あなた達は一体・・・」
「俺は御堂。いちおいフランス情報部員SDECEのリーダーだ。 
 まあ、そう恐がんなよ。お前の兄貴のようにはしないから」
「拓馬に・・・拓馬に何をしたの・・・?」
弱よわしい彼女の問いに、白石は得意げに話し始めた。
「ああ、あまりにも暴れるもんだから銃の的になってもらった。
 今ごろ天国の階段でも登ってるかもな」
「・・・・・・・!!」
「くく、諦めな♪どうせ逃げられはしない」
(そんな・・・嘘だよね・・・お兄ちゃん・・・)

そのときメンバーの一人が立ちあがり窓の向こうに視線を向けた
相変わらず見慣れた街の景色が広がっている
どうやらアルファが一向に現われないことが気になったらしい
「どうした、千太郎?」
「遅すぎるぜ!予定ではもう到着してもいいはずなのによ!」
「慌てるな。わざわざご大層な取引までしたんだ、奴が来るのは間違いない」
「取引ね〜 本当にダークエンジェルの一掃が出来るのか疑問だがな」
「何のためにこの娘を人質にしたと思ってる?」
「なるほど餌ってわけか・・・連中を罠に誘い込むための」

そのためには最強の暗殺スパイ、アルファの応援が必要であった。
彼等SDECEにとって、最も邪魔な存在ダークエンジェルを排除できるのはアルファだけだ。
始末さえすれば、二度と諜報の妨害を受ける事もない。

「そろそろ来てもいい頃だろう・・・ちょっと外を見てくるぜ」
メンバーの一人、健太がそう言うと玄関に出ていった。
何時の間にか外では綺麗な雪が静かにふりはじめていた。
「ダークエンジェルか・・・。さすがに奴等もこんな所までは・・・」
ドスッ
「な・・・?」
そのとき、健太は胸に鈍い痛みを感じた
胸には突き刺さったナイフ
流れる血を眺め、彼は信じられないような表情で立ち尽くした
(い・・・いったい何が・・・!?)

ザバッ・・・!!!
再び衝撃が襲い 視界が宙に浮いた
彼が最後に見た光景には、首の無い自らの身体
そして、黒いロングコートをまとう美しい女性がいた。素敵な微笑で・・・。
「邪魔よ・・・」
長い髪を靡かせ、桃子は颯爽と歩いていく。
キャロムにいる標的は約10名。
コートの影から取り出される大型の銃。解除される安全装置、向けられる照準・・・
そして彼女の視界に 標的が入っていった。
「おい、健太。いつまで外にいる気だ?はやく戻れ!」

キキィ・・・
扉がゆっくりと開く音。かすかに影が部屋にはいっていくのがわかる
メンバーは何も知らずに、窓の外を監視していた
「誰かいたか?」影は答えなかった・・・
ドゴォーン!!
次の瞬間銃声が響き渡り、隣にいた千太郎がぶっ飛ばされ窓ガラスに激突した。
「ひっ!千太郎・・・!?」

さなの周囲には若い男が3名
「だ、誰だお前・・・!」
「まさか・・・ダークエンジェル・・・!?」
彼等の姿が、ウージサブ゙マシンガンの照準に捕らえると、桃子は引き金をひいた。
「さなは返してもらうよ、下等生物・・・」

それは 一瞬の出来事だった。
猛烈な弾丸の雨が、店内のありとあらゆる物を破壊し彼等を一瞬で血に染めた。
室内に静けさが漂うなか、桃子はゆっくりと銃を降ろした。
「・・・桃子さん!」
「さな、怪我はない?」
「何ともないよ・・・・それより拓馬は・・・お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「まあね、一命は取りとめたから安心して。それよりここは危険よ。
 はやくここを出たほうがいい。爆破時刻も迫ってるから」
「うん、ありがとう!助けてくれて・・・」
両手に縛られていたロープを切ると、さなは外に駆け出し待機していた車に救出された。
「さて、これで私の役目は終わりかな」
鋭い視線で振りかえる桃子・・・。

「おい、一階で銃声が聞こえたぞ!!」
そのとき、階段を駆け下りる音と男の声
「いったい何が起き・・・!」
シュン!!
壇上の腕にナイフが突き刺さる!
倒れる際に銃が暴発、弾丸が壁中や天井に炸裂させた!
「安心して・・・今すぐ楽にしてあげるから」
「キサマは一体・・・!!?」
鮮やかに宙を舞う桃子、まるで天使のように・・・再びナイフを振りかざす!
ザ゙バッ・・・!!
「暇つぶしにもならないわね・・・」

一方、キャロムの2階では
「アルファから連絡は!?・・・何故来ない!」
「はやく撃て!奴を近づけるな!!」
ドン!!ドン!!
激しい銃声が飛び交う。
「さなちゃんを誘拐した罪は重いよ。アンタ達・・・」
ときなはゆっくりとライフルを向けた。
ドン!!
梶原の胸に炸裂させる弾丸!
その後、飛びかかろうとした健介の脳天を吹き飛ばした!
「次は誰?」
ときなの視線がゆっくりと次の獲物を捕らえる。
「このバケモノがぁ・・・!」
ドン!!バズッ!!ダン!!ドン!!「ぐはっ・・・ぐあああああ・・・!!」
身体中を貫かれた陽一が、2階の窓を突き破り落下
駐車場の車に激突しフロントガラスの破片を散乱させた。
「あなた達のような腐った人間に、バケモノ呼ばりされるのは不愉快よ」
そのとき・・・
「そこまでだ、ダークエンジェルの後藤ときなさんよ〜!」
SDECEのリーダー御堂修が、ガトリング砲を構えて威嚇してきた。
「あら、知ってたの?随分と私も有名になちゃったみたいね」
「動くな!貴様らのせいで計画が全部水の泡だ!
その代償はきっちりと払ってもらうぞ!お前等の命でな・・・」
「往生際が悪いよ、あなた。・・・銃を降ろしなさい。命だけは助けてあげるから」
「ケッ、ハッタリはよしな!いくら貴様でも、この距離なら避けられるはずがねえ!」
だが、ときなは余裕の笑みで彼に近づき・・・
「・・・これだからバカは困るのよ」

ガシャー―ン!!!
その瞬間、勢い良く窓が破れ眩しい証明が室内を照らし
同時に激しい轟音と、風が吹き込んできた!
「な・・・何ぃ!?」
あまりにもの出来事に驚愕する御堂

壊れた窓から、姿を表したのは援軍の軍用ヘリ
『ときな、そんな奴とっとと始末してよ』
ヘリの助手席から美しい黒髪を靡かせた少女、たまきが呼びかけた。
「もう少し待ってて、たまきちゃん」
ときなはそう答えると、御堂の腹そして横っ面に拳をいれた。
「ぐはっ・・・!?」
思った以上に御堂は臆病者だったらしい
彼は顔を押さえて立ちあがろうとしている。
「何故だ!何故来ないんだ・・・アルファ!!」
挙げ句の果てに喚き出す始末

ガチャ ピピ!!
機銃掃射の照準が、自らに定められたことも知らずに・・・
『キミ・・・うざいよ・・・』
「な・・・!?よせ・・・何をする気だぁ!!?」
たまきはかまわず引き金をひいた。
ドガガガガガガガガガガガガ!!!!!
響き渡る御堂の断末魔。
この瞬間、全ての標的が消えたのだった。

「やってくれるね、たまきちゃん・・・」

窓の真横に接近させる軍用ヘリ
『ときな はやく脱出を!』
『急いで!爆破まで1分を切ったよ!』
「ええ、今飛び移るから!」
ときなは全速力で駆けぬけ、窓を飛越えた。
そして、ヘリの甲板をつかんだ瞬間!

ピーッ、ズダダダダーーーーーン!!
大音響と共に室内が吹き飛び、爆炎が窓から溢れ出した!
散乱する破片 猛烈な爆風が周囲に襲いかかるが
既にヘリは安全な距離まで脱出していた。
『こちらダークエンジェル。SDECE残存部隊の殲滅を確認したわ。任務完了よ』
桃子は燃え盛るキャロムを眺めて静に言った。
「やったね!たまきちゃん〜!」ときなは喜んでたまきに抱き着いた。
「さなも無事に救出。当たり前の事だけど嬉しい事に変わりはないよね」
こうしてSDECEのアジト「キャロム」は消滅した。

そのとき本部から無線が入る。
『こちら工藤。皆よくやってくれたな!』
「でも、結局アルファは現われなかったみたいね」
『気にしなくていい、桃子さん。奴は最初から裏切るつもりだったらしい。おそらくこの事を予想してな』
「すると何処かに協力者が・・・?」
『その可能性は考えられる。でなければこんなにうまく逃げ切れるわけがない』
「世界最強のスパイ、アルファか・・・。これからの戦いが楽しみね」

PM 2:45分

帰り際ラジオ放送を聴いていたときなに、ある曲が飛びこんできた。
「あ、これって・・・」
「GacktのAnother worldね」虹沢町上空の夜景を眺めながら、たまきは言った。
「この歌大好きなんだ!最高に清々しくってさー」
「私も・・・24日のX’masLiveが楽しみね」
「チケットありがとね・・・たまきちゃん」

爽快感溢れる激しいサウンド
それは まるで夢の彼方まで浚われてしまうそうな感覚だった

(クス・・・私もこんなふうに愛されてみたいな・・・)
ときなは流れるメロディに身を任せて 瞳を閉じた

――― 破き捨てられたMagazine  汚れなき魂 ―――

――― 映画のようなOneScene 貴方なら安心 ―――

――― 「よそ見しないで・・・」あなたと2人で ―――

――― 今この世界へさよならを告げて ゆけるなら何処までも遠くへ ―――


 ――― 誰よりも遠くへ ―――


 ―――― 夢なら冷めないで―――

―――この空の向こうへ―――

 ―――「you can see the another world」―――


 ――― 街並みはmossgreen 傷ついた魂―――

―――砕け散るtaxi あなたは美しい―――

  ――― 言葉を交わして「泣かないでDarling・・・」―――

  ――― 愛しい傷みに優しく抱かれて 逝けるなら何処までも遠くへ―――

――― 優しい顔をして―――


―――あなたは泣かないで―――


―――笑った顔を見せて―――

―――「you can see the another world」―――



――― たとえどんなに傷ついても  貴方が側にいたから―――


              ―――誰よりも遠くへ―――  ―――夢なら醒めないで―――


         ―――この空の向こう側へ―――   ―――「私を抱きしめて・・・」―――


      ―――優しい顔をして―――  ―――あなたは泣かないで――― 
                       

―――さよならは言わないで―――
                  

   ―――「you can see the another world」―――

―――「you can see the another world」―――





アルファの裏切り・・・ それが全ての始まりだった   
           

2年後、何もかも現時とかけ離れた世界を・・・まさか僕が知る事になるなんて・・・


  けれど、彼女といた想い出は  夢のように素敵だった・・・

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