BACK
雪の降る夜に出会った
現実とかけ離れた世界で戦う少女
まるで夢のようで・・・
僕は、ただ闇雲に空間を駆け抜けて 何かを求めていた。
宛てもなく 何処までも
やがて 夢が終わりを迎えるとき・・・
僕はそこに居るのだろうか?
『DARK ANGAL』
第9話:「End of destiny」
しばらく飛ばしてるうちに、崖沿いの険しい山道にはいった。
その先で瑞穂さんのスノーモビルが視界にはいる。
「追いついたよ!」
だが、スピードをあげて接近させようとしたとき…
横から輸送トラックが突っ込んできた。
「なに!?」
「危ない!伏せて!」
キキィーーー!
ときなは必死でハンドルを切る。反動で振り落とされそうになった。
「まさか、あのトラックは…!?」
間違いない。
さっきペンションを襲撃したSDECEの生き残りだ。
「おめでたい奴等。撤退してなかったのね」
傾いたスノーモビルを立て直すことができたとき、
助手席の窓から銃弾が襲いかかってきた。
ドン!ドン!ドン!
「ときな、後方にさがったほうがいい!的にされちまう!」
「わかってる!」
雪煙で一瞬目がくらむ。
トラックは加速し、そのまま瑞穂さんのスノーモビルに襲いかかっていった。
おそらくアルファともに殺すつもりだろう。
「まずいわね!あの重量のトラックにぶつけられたら・・・!」
そのとき、瑞穂さんがサブマシンガンを手に取って振り返った。
「…!?」
ガガガガガガガガガ!!
トラックの運転席に銃弾が浴びせられ、フロントガラスが砕けて鮮血が飛び散る。
瑞穂さんはニヤリと笑うと、さらにエンジンや燃料タンクに銃弾を浴びせた。
前方の視界が一瞬晴れて崖が現れる。
「つかまって!」
ときなはハンドルを切った。
キキィーーー!!
バランスを失った輸送トラックが崖を飛び越え、
断崖に激突を繰り返して落下していく。
「あ…うわああああああ!!」
トラックにいた誰かの叫び声が響いた。
ドゴォーーーーン!!
トラックは爆発、炎を撒き散らして崖下へ墜落した。
「ふふっ、ムシケラが…。」
瑞穂さんは首をかしげて冷笑した。
邪魔物が消えたことに関しては、かえって好都合だ。
彼女に感謝しなければいけないな。
「さすが瑞穂さん。相変わらず手加減なしね!」
しかし、スノーモビルとの距離は大分差をつけられてしまった。
「まずいな・・・」
これ以上の追跡は不可能と思いはじめたとき、
何を考えたのか、ときなは突然ハンドルを切って急斜面の林に出た。
「か、ときな!何処に行くんだい!?」
「近道よ!しっかりつかまってて!」
猛スピードで不安定な雪の坂道を下っていく。
途中、木の枝にぶつかりそうになる。
ぼくは振り落とされないようにしっかりと座席をつかんだ。
「これでは、まるでロデオだ…」
林を抜けると、滑らかだが細い斜面を駆け抜けた。
一歩間違えれば崖に真っ逆さまだ
しかし、ときなはおかまいなしに飛ばしていく。
前方の坂を上っていくと、巨大な山岳が姿を現し始めた。
「飛ばすわよー!」
その坂を越える際に、ときなはアクセルを思いきり踏み込んだ。
グォーン!
気がつくと、ぼくらは宙を浮いていた。
広がる山岳の景色
永遠に無重力状態が続くような気がした。
丘を飛び越えると、再び雪原の道に着地する。
「うわああああああ!!」
衝撃で雪煙が舞った。
目を開けると、前方に一台のスノーモビルが見えた。
瑞穂さんは一瞬驚いて振り返る。
「もう、こっちのものね」
ときなはスピードを上げ、いきなり瑞穂さんのスノーモビルに体当たりをはじめた。
思わぬ行動に、瑞穂さんの表情がマジになる。
滝沢さんは後部座席で気を失ってるようだった。
追いついては離される、その繰り返しが続く。
ドン!!ドン!!
瑞穂さんが銃を撃ってきた。
だが、体当たりが咬を制して彼女は銃を落としてしまう。
「しまった…!」
しかし、まだ厄介なサブマシンガンが残っている。
安心はできないな。
ときなは一旦スピードを落として距離を取ると、僕に言った。
「雄也!あなたは飛び移って後ろにいるアルファを取り返すのよ」
「と、飛び移る!?」
いくら雪原とはいえ、このスピードで落ちたらどうなると思ってるんだ?
・・・だが、やらなければならないことはわかっていた。
「いいわね!?大丈夫!体がスノーモビルにさえ当らなけりゃ、あとは雪が受け止めてくれるわ!」
そう言って、彼女はスピードをあげた。
右へ行けば右、左へ行けば左へ寄せてくる。
「ちょっと揺れるよ!しっかりつかまってて!」
「な、何をする気なんだ…!?」
ときなは体を大きく左側に傾けて、右側のそりを浮かせる。
ドガッ…!!
除雪した雪の壁に勢いよく接触する。
一瞬横転するのかと思い目を閉じたが、スノーモビルは雪の壁をしっかりととらえていた。
気がつくと瑞穂さんのすぐ横まで追いついていた。
猛スピードで雪を撒き散らしていく。
そのとき瑞穂さんが横目でニヤリと笑った。
ぶつけるつもりだ!
この不安定な状態でぶつけられたら、こちらはひとたまりもない。
やがてスノーモビルに飛び移れる距離まで達したとき、
瑞穂さんがハンドルを切った。
「今よ!」
ときなが叫ぶのと同時に、ぼくはスノーモビルから足を蹴って飛び出した。
滝沢さんの体に激突すると、ぼく達は雪の上に投げ出されていた。
「わあああっ!!」
雪はとても受け止めてくれるようなものではなかった。
まるで凍りのように硬く、衝撃で息が止まる。
ガシャーン!
その直後、何処からか激しい衝撃音が響き渡った。
ときなは…ときなは大丈夫なのか?
・・・吹雪はもう止んでいた。
見上げると、道の向こうにあるリフトが燃え上がっていた。
あの場所にどちらかのスノーモビルが激突したんだろう。
ときなのか、瑞穂さんのかは分からなかったが・・・
僕は立ち上がることさえ出来なかった。滝沢さんは気を失ったまま動かない。
「起きてください…滝沢さん!」
そのとき、背後から誰かが襲いかかってきた!
「よくも・・・邪魔してくれたわね」
瑞穂さんがサブマシンガンを振りかざしてきたのだ。
「何…!?」
僕はとっさに避けると、すぐにジャケットから拳銃を取り出す。
弾丸は残り3発
簡単なことだ。撃たれる前に撃てばいい。あの時みたいに…
しかし僕には到底できそうもなかった。
「やめろ!これ以上犠牲者をだしたくない!」
その考えが甘いことは充分にわかっていた。
気がついたときには、瑞穂さんの膝蹴りをもろに食らってしまう。
「ぐあっ…!」
「こっちは本気なのよ?悪いけど、甘ちゃんと遊んでる暇はないの。」
瑞穂さんは不適に笑うと、立ち上がろうとした僕に銃口を向けた。
「くす…。奇麗事では通用しないのよ…この世界はね」
それは彼女たちにとって、当たり前の事だろう。
「それくらい、わかってますよ。けれど、本当にこれでいいんですか!?」
「どういう意味?」
「確かに報酬の金は魅力的ですよね。
けど、アルファを奪った後には、追手の殺し屋が来るんですよ?何処までもね」
「だから…どうしたっていうの?」
当然ながら、瑞穂さんにそんな脅しが通用しないことくらい、わかっていた。
それは、今までの戦いを見てれば一目両全だ。
彼女はいわばプロ。
あのSDECEを手玉にとったのだから、何も恐れることはないのだろう。
「諦めなさいよ。どの道あなたは・・・」
そう言って、彼女は引き金に手をかけた。
カチッ… 「…!?」
しかし弾は一向に出ない。
瑞穂さんは必死で引き金を引くが、カチッ、カチッと空回りを繰り返すだけだった。
弾切れか…!?
俺はすぐに銃を拾いにかかろうとした。
「こいつ…!」
瑞穂さんは舌打ちをすると、僕にめがけてマシンガンを投げつけてきた。
ガシッ、と両手で銃を叩き落としたとき、一瞬激痛が走る。
気づいたとき、彼女はすぐ近くにまで迫っていた。
ドガッ…!!
僕たちは激突し、雪の上を転がり込んだ。
上になったのは……瑞穂さんだった。
見上げると瑞穂さんの腕の先から細くて長いナイフが現れる。
おそらくこれで杏子さんを殺したんだろう。
「遊びは終わりよ・・・!」
ナイフは間一髪で雪に突き刺さる。
チャンスだ!
隙を突いて瑞穂さんの腕をつかむと、そのまま斜面に押し出す。
僕たちは勢いよく雪原の斜面に投げ出され、急斜面を滑り落ちていった。
「な…!?」
「うわああああああ!!」
止まろうとしても、止まれなかった。
その先は崖になっていて、遥か彼方には雪に覆われた街が見える。
そう、このまま滑り落ちていったら間違いなく命はない。
前方に転落防止用のゴムでつくられたフェンスが見えた。
「間に合うか・・・!」
フェンスに勢いよく激突する。
一歩間違えば崖から転落するところだった。
それより・・・
銃は・・・銃は何処に・・・!?
すぐに落とした拳銃を捜したが一向に見つからなかった。
「探し物は…これかな?」
「…………!?」
迂闊だった。
既にその銃は、瑞穂さんの手に渡っていた。
「ふふっ、はやく撃てばいいのに・・・あなたも甘ちゃんね」
「瑞穂さん…」
どうして・・・
こんな争いなんて何の意味がないのに…
何故気づかないんですか?
「ふふっ、だけど…そうゆうのって、嫌いじゃないよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな静寂のなか、FMのラジオ放送が自然に流れてくる。
ゲレンデのスピーカーからだ。
『奇跡って…信じてます?』
『その物語りは…そういった奇跡に溢れる冬のラブストーリー…』
電波障害のためか、様々なチャンネルの放送が繰り返し流れていった。
『今、全国で話題になってる沢村雅也さんの新曲「約束の坂道で」が、
明日の0時を向かえたミレ二アムにTOKYODOMEで初披露されます。
チケットはわずか1時間でソウルアウト!』
『それでは、ゲストの佐祐理さんにお伺いします。
舞さんと知り合ったきっかけというのは…』
『あははーっ 牛丼おごったんです♪』
一瞬だが、妙だと思った。
今日スキー場は休みなはずなのだから、誰かがリフトの電源を入れない限り、
放送が聞こえてくるはずがない。
一体誰がスイッチを?
『ときなさんは、ミレ二アムはどうお過ごしの予定ですか?』
『まずは初詣ですね。今年は結構願い事があるので☆』
『そうですか〜。それと、今夜のカウントダウンライブでは雅也さんが・・・』
『約束・・・ですか。あなたの願い・・・叶うといいですね。』
『ええ、ずっと待ってたんですよ。彼を・・・』
『1999年1月。数年ぶりに訪れた街で起きたその奇跡は・・・
その先の未来でも語り継げられるでしょう…』
奇跡… 奇跡か…
「残念だけど…あなに奇跡は…起こらないわ…」
そう囁いた瑞穂さんは、長い髪を風に靡かせて・・・今、引き金に手をかける。
どうやらここまでか・・・
そう、全てを諦めかけようとしたとき・・・
「起きるから、奇跡っていうんだよ…雄也」
「え・・・!?」瑞穂さんは思わずその声に振り返る。
そして、ゲレンデのリフトから銃口を向けたときなの姿が視界に入ったとき、
ぼくは迷わず雪原に飛び伏せた!
ダーン!!
突然、瑞穂さんの胸のあたりが弾けて鮮血が飛び散った。
彼女は信じられないといった表情でしばらくときなを見つめていたが、
やがて雪原に落ちていった。
ときなはリフトから飛び降りると、やっと安堵の表情を浮かべて、
こちらへ歩いてきた。
「雄也、怪我はない?」
「僕は何とかね。君こそ大丈夫だった?」
「当たり前じゃない。 約束・・・忘れてないよね?必ず二人で生き延びるって…」
そして彼女は微笑んでくれた。
「ありがとう・・・。君に助けられてばかりだね」
僕も微笑み返した。
そのとき、西の方角の空からローター音がして、ヘリが近づいてきた。
高度を落とすと、ぎりぎりまで来て着陸した。
誰が降りてくるのかと息をつめて待っていると、
助手席から工藤さんが降りてきた。
「工藤さん…無事だったんですか!」
彼はしばらく僕とときな、そして気を失っている滝沢さんを見比べてうなずいた。
「済んだようだな」
「一体何処に行ってたんです!?
木村さんも…杏子さんもあんな目にあったっていうのに!」
ときなは込み上げた怒りを隠せずに叫んだ。
すると工藤さんは心外だと言わんばかりに
「そいつは残念だったな」
「ざ、残念だったって…一体どういう意味ですか!?」
「こういう事さ…」
ドン…!!
え…?
一瞬、何が起きたのかも分からなかった。
その暴発音に貫かれたような感覚…
鈍い傷みを感じて、脇腹に触れると熱いものが流れ出ていることに気づく。
「…どうして…血が……?」
僕は雪の上に倒れていた。
「ゆ、ユウヤ…!」
何が…何が起きたんだ?
体を動かそうとしたが、何故かそれが出来なかった。
痛みのせい?
「動くな…ときな。死にたいのか?」
工藤の手には拳銃が握られていた。
「工藤さん…あなた!?」
そのとき、背後から聞きなれた声が響いた。
「俺達の計画にまんまと引っかかりやがったな」
傷口を抑えて振り返ると、
そこに笑みを浮かべて拳銃を取り出す滝沢の姿があった。
「アルファ…!? く、工藤さん!これは一体何の真似よ!?」
驚きのあまりときなは絶句した。
「くっくっく…」
それに対して薄ら笑いを浮かべる工藤。
そして彼は、全てを告白するように話し始めた。
「全ては…君らダークエンジェルを全滅させる計画だったんだよ」
……こいつら……!!?
「ぜ、全滅って…!それじゃあんたは…!?」
代わりに滝沢が答えた。
「アルファは俺一人ではない。 彼(工藤)の協力によって始めてそれが成立するんだよ」
「協力者…じゃあ、二年前のキャロムで…アルファを逃がしのは!?」
「そう。君たちのリーダーでもある、"工藤さん"だよ」
皮肉を込めて滝沢…いやアルファは言い放った。
その横で工藤は声を出さずに笑っている。
「ときな。私はこの善人ぶったダークエンジェルのリーダーを演じるのはいい加減飽きてね。
悪いが情報は全て横流しさせてもらったよ。」
「騙してたんですね…私たちを…」
「今ごろ気づいたようだな…。 第一、俺達のような世界最強のスパイ、アルファが・・・
君ら3流暗殺者(ダークエンジェル)ごときの味方につくと思ってたのかい?」
かろうじて立ち上がることはできる。
しかし、今は…
怒りを覚えながらも、常に機会を狙っていた。
「ダークエンジェルの活躍ぶりは数年前から知ってたさ。 はっきり言って我々にとっては目障りだったよ。
とは言え、たった2人で組織を壊滅させるのには、さすがに無理があるだろう?
ときな。君も含めて手強い暗殺者がいたからな。」
「…………………」彼女は何も言わなかった。
「そこで我々は考えた。一時的に君らダークエンジェルの味方につき 全滅させる計画を実行しようってな」
工藤は自慢げにさらに続けた。
「そして活動を共にしてから数年が経ったとき、ある情報が飛び込んできた。
内部に裏切り者がいる。情報をもらしてる人間がいるってな。
我々はこの絶好のチャンスを逃さなかった。裏切り者に好き勝手行動させ、
内部の人間を殺させるんだ。戦果は期待通りだったよ。他国のスパイどもを一毛打尽にしたうえに、
木村、杏子を始末。そして裏切り者まで始末してくれたからな。」
工藤も滝沢も笑っていた。
「そろそろ出発するぞ。アルファ」
「ふふっ、あとはこいつらの始末だけか」
そう言って滝沢はさっと機内に乗り込む。
今すぐにでも飛び出せる状況か…。
「最低だよ…あんた達!」
ときなはがくっと両腕を雪についた。
それを見た工藤はさらに
「大分疲れてるみたいだが、安心したまえ。 君たちもすぐに・・・」
ドガッ!
気がついたときには、俺は工藤の顔面を殴り飛ばしていた。
殴ろうと考える前に先に拳が飛び出していたのだ。
痛みなど感じるはずがない
気にしてる暇などあるはずがない
工藤は尻餅をつくように倒れた。
「き、キサマら!こんな真似をしてただで済むと思ってるのか!?」
「・・・ただじゃ済まないのは、”あなた”ですよ」
ドン!!
「ぐああっ!?」
その瞬間、一発の銃弾が工藤の肩を貫いた。
振り返ると、そこにときなが拳銃を向けて立っていた。
「工藤・・・覚悟しなさい」
「き、貴様・・・よくも!この俺を…撃ちやがったなぁ!?」
「だから、何だっていうのよ?」
「く…来るな!何を・・・何をする気だ!?」
彼女は冷めた眼差しで、工藤に近づいていく。
既に僕の知っているときなではなかった。
いや、これが本来の…ダークエンジェルか
「何してる、アルファ!はやくこいつらを・・・始末するんだ!」
必死に助けを求めている工藤。
だが冷酷なエンジェルは既に引き金に手をかけていた。
「よ、よせ!やめろぉ!!うわあああああ!!」
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
幾つもの銃弾が工藤に浴びせられ、鮮血が撒き散らされる。
怒りか? 憎しみか? それすらわからない。
ただ、はっきりとしているのは、”コイツだけは絶対に生きて返さない"ということだ。
同情など、微塵も感じるはずがない。
「今度はお前が狩られるのよ。工藤さん」
ドン!!
「ぐがっ!!」
最後の銃弾が、工藤の脳天を吹き飛ばした。そして雪原に倒れる音。
当然の報いだろう。
コイツのおかげで何人もの人間が死んだんだ。
しかし、甘かった…
工藤に気をとられて、油断してしまったのだ。
だから、滝沢が何をしようとしているのか、僕も気づかなかった。
「調子に乗り過ぎだよ?お嬢さん」
がっ!「キャ・・・!?」
ときなは腕をつかまれて、機内に引きずり込まれる。
しまった…!
本当に始末しなくてはならない人間が、もう一人…。
「礼を言うよ。 これで仲間割れを偽装する手間が省けたぜ!」
今、滝沢を乗せたヘリが飛びたとうとしている。
傷をかばいながらも僕は駆け出していた。
「やめろ!彼女を離せ!」
だが、無情にもヘリは彼女を乗せて上昇していく。
何も出来ない自分が腹立たしかった。
どうすればいい?
手元には残り3発の拳銃があった。
俺に出来ることは…
考える余裕もなく、ヘリが旋回した瞬間に装備されてたガトリング砲が火を吹いた。
弾丸は想像以上の威力だったが、
雪煙に逃げ込んだために、一時的に逃れることはできた。
しかし、それも時間の問題だ。
降下するヘリ。
すかさず僕は木の影から小屋に駆け出した。
そのとき、背後からヒューンとい、花火のような音が響く。
「ミサイルか…!?」
ドゴォーーン!!
小屋は一瞬で吹き飛ぶ。
しかし、大丈夫だ・・・。 まだ諦めたわけではない。
俺は拳銃を取り出してコクピットに発砲を試みようとした。
「駄目だ…!」
ときなが機内にいてはパイロットは撃てない。
はやく姿を見せろ…アルファ!
一方、機内ではときなとアルファ(滝沢)との激しい激突が繰り広げられた。
飛んでいるヘリの機内はバランスも悪く、逃げられる範囲も限られている。
そんななか滝沢は、予想以上のスピードで拳を振りかざしていた。
「あうっ!」
一方的な状況だった。滝沢の表情が歓喜に満ちてくる。
「おいおい、倒れるのはまだ速いんじゃないのか? これからだってのにさ」
「調子にのるなぁ!」
ドガッ…!!
完全にキレたときなが、回し蹴りを振りかざす。
快心の一撃が滝沢の顔面をヒットし、サングラスが砕け散る。
「ぐああっ!!キサマ…よくも!」
「それはこっちのセリフよ」
すかさずときなは拳を振りかざす。
ドゴォ!!バキィ!!ドガッ!!
猛烈なラッシュに押され、座席に激突する滝沢。
「少しはやるようだが、お前のは軽すぎんだよ!」
さすがにアイツもプロってとこか、
最後の一撃を交わして、ときなを突き飛ばしていた。
「キャアアアアア!!」
彼女がヘリから投げ出される光景が、視界に飛び込んだ。
「と、ときな――!!」
間一髪、飛ばされる寸前に彼女はヘリの車輪に手をつかんでいた。
助かったと、安心している暇はない
飛び降りるには、高度が高すぎるじゃないか!
落ちたら間違いなく命はない。 せめてあと2m高度を下げなければ…。
滝沢はせせら笑っていた。
必死で車輪をつかむときなに近づいていく。
「ちっ、しぶとい女だ。いい加減諦めたらどうだ!?」
その手に足を乗せた。
ガッ…
「この…ゲス野郎…」
「何だと?聞こえないな?」
ときなの表情が苦痛へと変わっていくのがわかる。
そのとき・・・
ヘリの行動が2mまで下がった際に、滝沢の姿が視界に映った。
「アルファ!」
この瞬間を狙っていた。
俺は残り3発の銃で、滝沢にめがけて引き金を引いた。
ドン!!ドン!!ドン!!
2発は機内に外れたようだが…
「ぐああっ…!?」
最後の1発は、滝沢の左足に見事命中していた。
彼はうめき声をあげて機内に倒れ込んだ。
チャンスは今しかない!
「ときな、今のうちに脱出を・・・!」
僕の呼びかけが聞こえたかは定かじゃない。
けれど、彼女は笑みを浮かべていた。
そしてある物を取り出す。
手榴弾!?
おそらく、SDECEとの戦闘の際に盗んだものだろう。
ときなは機体につかまりながら、手榴弾の安全ピンを抜いた。
「まさか・・・」
ヘリの高度は既に2mをきっていた。
滝沢がよろめきながら銃を持って近づいてきた。
まずい・・・やられる!
「ヒャッヒャッヒャ!!
とんだ邪魔がはいりやったが、もうこれまでだな〜!」
既に冷静さを失っている。
「死ねぇ!!」
「あなたがね…」
ヒュン…ゴトッ!
その瞬間、ときなはそれを機内に投げ込んだ。
「…!?」振り返る滝沢。
「じゃあね、アルファ」
そして彼女は機体から手を離した。高度1mに達した時だった。
ドサッ…!
何とか雪原に着地したようだった。
「ときな!大丈夫か!?」
すかさず彼女はこちらに向かって叫ぶ。
「伏せて!」
一方、滝沢は何かが転がるような物音に振り返る。
その瞬間、彼は硬直した。
「う、嘘だろ!まさか・・・!?」
そこに目を疑うものが転がり込んでいたからだ。
「おい、どうしたんだ!?」
何事かと振り返るパイロットの久瀬。
そこに手投弾が転がり込んだことも気づかずに…
「く、久瀬…!はやくそいつを投げ捨てろ!爆発するぞ!」
「何だと…!?」
必死で手を伸ばす滝沢。
だが、無情にも手榴弾は逆方向に転がっていった。
「はやく投げろ!そいつを投げ捨てるんだぁ!!」
「わかってる!・・・お、おい、邪魔だ!はやくそこを退いてくれぇ!!」
ドォーン!
その瞬間、手榴弾をつかんだ久瀬の体が吹き飛び。
操縦席で炸裂した炎が、勢いよく襲いかかった。
「ぎゃああああ…!!」
滝沢の悲鳴が一瞬でかき消された。
ズダダダダダーーーーーーーン!!ドゴォーン!!
爆風が空中で炸裂する!
大音響とともにヘリは内部から吹き飛び、谷底に空中分解していった。
「は…はははは…アーハハハハハハハハッ! ざまあみろ!!連中、見事にぶっ飛びやがった!
アーハッハッハッ!!」
「アルファ、あんた達の負けよ!ふふふ・・・アハハハハハ」
僕たちは笑いあった。
破片はこちらまで飛び散ってきたが、それも今では祝杯の花火のように思えた。
「…にしても、すごい威力だな。本当にただの手榴弾だったのかい?」
「ええ、新型のタイプだったけどね☆」
「ふふっ、そうか…。そうだよな。」
ますます君の虜になっちゃいそうだ・・・。
何時の間にか、撃たれたことさえ忘れていた。
崖の向こうに映るのは、目を奪われるほどの広大な景色
美しく幻想的なこの世界で、僕らは争っていた。
けれど、もう二度と起きないだろう
血を流すスパイ戦は…
白い闇を照らすヘッドライトに気づくと、聞きなれたエンジン音が近づいてきた。
たまきさん達だ・・・。
「無事だったんだね・・・」
安堵とともに、猛烈な眠気が訪れていった…。
「雄也?大丈夫!?」
「ああ。少し…休ませてくれないか。さすがに疲れたよ…」
いつからだっけ?
不思議と痛みは感じなくなっていた。
ただの軽傷か・・・
つくずく僕はラッキーだよ。
これからも君の笑顔を見れるんだからさ・・・
「しかし思った以上に手強かったな」
「そうね。私も…こんなに敵がいたなんて思ってもみなかった。」
「けど、もう安心さ・・・これでアルファの脅威は無くなったんだからね」
「ありがとう、雄也・・・よく頑張ったね。」
「ハハハ、ちょっとだけね」
本当にスリル満点の旅だったよ。
もう、二度とお目にはかかりたくないけど・・・君と一緒なら・・・
「ついに2000年か・・・」
カウントダウンまであと、どれくらいだろうか?
ラジオから流れるヒットソング。
それは昨日の夜に流れたあの「12月のLovesong」だった・・・
美しいメロディを奏でる音色。穏やかな歌声が響いて
今にも空に吸い込まれそうな感覚を覚えた。
…夢を見ていたのかもしれない…
何処かで求めていた…不思議な夢を…
「ときな…」
「何?」
「今度は…もっと静かな旅をしたいな…。」
争いのない…穏やかな世界で…
「そうだね・・・」
ずっと ずっと知っていた・・・遥か昔から
君の声を…その温もりを・・・
雪が降っていた・・・
舞うような螺旋の雪が、雲から抜けた残光に照らされて
何処か幻想的な光景だった
ここが何処なのかもわからない
コートの雪を払うこともなく、ただ空を眺めている。
果てしない大空から舞い下りてきた天使たち
やがて時を迎えるカウントダウン
永遠に続く奇跡のなかで・・・
今も降り続ける雪のなかで・・・
僕は目覚めたんだ・・・
NEXT 最終話
ショートストーリーのコーナーに戻る