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『DARK ANGAL』


第8話:「吹き荒れる雪のなかで…」



「さて、始めるか…」
結城さんは笑みを浮かべて、サブマシンガンを手に取った。
ときなが双眼鏡で外を確認する。
「来るよ。9名…いや15名ってとこか」
ぼくは銃を取ると、ときなと行動をともにした。
彼女といるのが一番安全だ。
迫り来る銃を持ったSDECEの特殊部隊。
スノーモビルのエンジン音が近づいた時、談話室に銃弾が飛び込んできた。
一方で裏口の扉が蹴破られ、銃を持った男達が廊下を駆け抜けてくる。
「ふっ、バカどもが…」
ドガガガガガガガガガガガ!!
談話室に突入してきた3名の男達に銃弾が浴びせられる。
結城さんはふと笑みを浮かべると、次の標的に向けてトリガーを引いた。
「わかったか?テメェらクズどもが何人来ようと俺達ダークエンジェルには叶わないのさ!!」
余裕の笑みで談話室を駆け抜ける結城さん。
一方、ときなは正面玄関から突入してきた連中に発砲する。
「これじゃ、きりがない…!」
「危ない、後ろ!」
ときなの背後から男が銃を振りかざしてきた。
が、彼女は難なく避け、床にあったストックで男の心臓を一突き!
「使い方によっては協力な武器にもなるってわけよ!」
さらに扉を破って襲いかかろうとした敵を蹴りとばして外に投げ飛ばす。
ガシャーン!
男が雪原に転がったとき、そこに仲間のスノーモビルが向かってくる。
「な…なに!?」
「うわあああ!!避けろぉ!!」
どがっ!!
激突の際にハンドルをとられたスノーモビルが、ペンションの正面玄関に突っ込んだ。
雪煙とガラスの破片が舞い上がる。
「さすがだな、ときな!」
あまりの出来事にSDECEのメンバーも動揺を隠せない。
ときなは後退しながら、廊下の方口へ進んでいく。
「敵はあと何人いる!?」
「わからない!けど、思った以上いるよ!」

一方二階にいる、あゆみ、さおり、藍子は外にいる兵士達と銃撃戦を繰り返していた。
銃弾が部屋に飛び込んでくるが、さおりは確実に目標を仕留めていく。
「時間つぶしには、もってこいの相手ね」
「ふふっ、本当にね…。」
藍子は手投弾のピンを引き抜くと、
「プレゼントよ、受け取りなさい!」下で旋回するスノーモビルに投げ込んだ。
「うわあああ…!?」ドゴォーーーーン!!
スノーモビルは一瞬で吹き飛ばされ、破片を撒き散らす。
間髪いれずに、さおりは男達に銃弾の雨を降らせた。
「アハハハハ、SDECEの分際で生意気なのよ!」
「さおり、こっちに来るよ!」
2階の廊下を駆け抜ける足音が近づいたそのとき、ドアが蹴破られ銃を持った男が襲いかかってきた。
「見つけたぞ!ぐあっ…!?」
あゆみの振りかざしたナイフが男の脳天を貫く。
「ザコが小賢しいわね〜!そんなに死にたいの?」
「き…貴様〜!」
廊下からもう一人の男が襲いかかる。
「あゆみ、退いて!」
その瞬間、ライフルを構えた藍子が飛び出し、即座に引き金を引く。
ドン!!
「だがあっ…!?」
弾丸が胸を貫通して、男は廊下から階段に転げ落ちた。
「これで5人…」
藍子は銃弾を詰め替え、辺りを見回す。
2階に敵はもう潜んでいない。
だが、地上からの銃弾がしつこく部屋に飛び込んでくるのに、
さおりも必死だった。
「あのスノーモビルが目障りね」
「残弾は?」
あゆみは訪ねた。
「拳銃8発とライフル5発しか残ってないよ」
「それは厄介ね」

一方、ぼくらは裏口に出ると、外を見渡す。
すると、さっきまで旋回していた輸送ヘリが高度を落とし始めていた。
攻撃する気だ!
「雄也、下がって!」
ときなにぐいっと手を引っ張られてから間もなく、
装備された機銃が火を噴いて、ペンションの壁を貫いていった。
向こうはヘリだ…
拳銃程度で勝てるとでもいうのか?
「また来る!」
輸送ヘリはさらに高度を落とて、目の前に迫ってくる。
ここで機銃を撃たれたら、間違いなくドアを貫通して、容易にぶち当たるだろう。
操縦席ではパイロットが薄ら笑い浮かべながら、機銃操作のボタンに手をかけようとしていた。
『くっくっく、ダークエンジェルもこれで終わりだな』

「ときな、何か解決策は…!?」
「大丈夫、もう済んだみたいだよ」
「え…?」
彼女は、ふと笑みを浮かべて言った。
「やっと間に合ったのね…たまきちゃん」

ドン…!!
一発の銃声が空に響く…。
『がっ…!?』
キャノピーが割れた瞬間、パイロットの脳天が弾け機内を赤く染めた。
背後から聞こえるローター音に振り返ると、数十メートル先の上空で、一機の黒いヘリが停滞していた。
間違いない!
さっき無線でやりとりしてた仲間のヘリが来たんだ…!
それにしても誰が狙撃を…
「まさか、たまきさんが!?」
「ふふっ 彼女は射撃の名手なのよ。」
あの距離から狙えるなんて…最高じゃないか!

パイロットを失ったSDECEの輸送ヘリは、電線を切断させスパーク。
その直後、雪原にバウンドしてローターの破片を辺りに撒き散らす。
「ぐああっ…!!」
「何してる!逃げろぉ…!!」
それは近くにいた兵士達に襲いかかった。
ぼくらは丘を飛び越え、雪を転げ落ちた。
燃え上がったヘリの機体が木に激突した瞬間、大爆発を起した。
ドグォーーーーン!!

「やった…やっつけたぞ…!」
ぼくは嬉しさのあまり叫んでいた。
「たまきぃーーー!!」
ときなは空に手を振るった。
ヘリの扉が開くと、長く美しい黒髪を靡かせた少女が姿を現した。
手にはライフルが握られている。
「ダークエンジェルだ…撃て…撃墜しろ!」
幾つもの銃弾がヘリに放たれるが、強力な装甲が全てを弾く。
兵士達に焦りが見え始めた。

「愚かな人達…でも、これでお終いよ」
たまきさんはふと素敵な笑みを浮かべて雪原を見下ろすと、その機体から足をけった。
「と、飛び降りた!?」
一瞬の出来事だった。
少女が雪原に足をついて間もなく、兵士達に銃弾が炸裂した。
ドン!!ドン!!
「ぐはっ…!!」「ぎゃあ…!!」
「止めなさい・・・抵抗しても無駄よ」
誰もたまきさんに敵うものなど居るはずがなかった。
襲いかかる銃弾でさえも全くあたらずに、たまきはライフルつかむと
宙を舞い標的を仕留めていく。その姿はまさに天使だった。
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
「そんな…バカな…」
雪原では既に8人の兵士が倒れていた。
「だから言ったのに…」
たまきはライフルを肩によりかけると、エンジン音の響く方に振り返る。
2台のスノーモビルが猛スピードでこちらに向かってきた。
するとたまきは、腰に携えていた剣を引き抜く。
「田中!仕留めるチャンスだ!逃がすなよ!」
「くっくっく、わかってるよ!」
ライダーの田中大作と、高倉宏美が彼女に向けてサブマシンガンを放つ!
だが銃弾は空気だけをかすめて、そこにたまきさんの姿はなかった。
「バカな!何処に消えた…!?」
唖然として辺りを見渡す田中に何かが掠めた瞬間
首が吹っ飛び、スノーモビルもろともに爆発した。
「た、田中ぁ!?」
焦る高倉。思わずブレーキを踏み込んで銃を乱射する。
「こっちよ…」
「な…!?」
空を見上げたとき、彼の瞳に映しだされたのは
美しく長い黒髪を靡かせて、剣を振りかざす少女の姿だった。
「うわあああああ!!」
ズバッ…!!
横転する高倉のスノーモビルを背後に、たまきさんはその剣をゆっくりとおろす。

『こちら、たまき。外の残存部隊は殲滅しました』
残る敵の輸送トラックは撤退していった。

「さすが、たまきちゃん!相変わらずの腕前ね!」
ときなは笑顔で手を振るう。
「すごい…。これがダークエンジェルの強さか…」
ぼくはただ驚くばかりだった。
『あとはペンションにいるザコだけだね。応援に向かいますか?』
「その心配はないよ」
ガガガガガガガガ!!
だが間髪入れずに銃弾が廊下に飛び込んできた。
「まったく、うるさい連中ね・・・」
ざっと見たところ一階にいる敵は5名ってところだ。
「ときな、本当に大丈夫なのかい?」
「雄也はここにいて。私はもう一暴れしてくるから!」
するとときなは不適な笑みを浮かべて、両手にサブマシンガをつかむと、
いきなり銃弾の飛び交う廊下に駆け出していった。
「あっ!ときな…!?」
「銃撃戦ってのはね〜!こうするのよ!」
ドガガガガガガガガガガガガガ!!
ときなが撃ちまくる銃弾が、
部屋にいた敵兵、廊下にいた敵兵に、容赦なく浴びせられる。
今ので3人倒した。
談話室に出ると、そこで2人の兵士が待ち伏せをしていたが、
彼女はあっさりと銃弾を躱して、床に滑り込む。
「この野郎〜!!」
「撃て!撃ちまくれぇーーー!!」
ガガガガガガガガガガガ!!
彼等の銃弾が、テーブルやソファーに炸裂する。
ときなは隙をついて飛び出すと、両手の銃を彼等に向けた。
「なに…!?」
「うわあああ!!よ、よせぇーーー!!」
銃弾は問答無用で2人に炸裂、
その衝撃で彼等の体は玄関から外までぶっ飛ばされた。
「他愛も無いわね」
時刻はAM10:56を回っていた。
「そっちも片付いたようだな」
二階にいた結城さんと、元CIAの彼女達も談話室に駆けつけてくる。
「正直驚きました。あれだけの部隊を全滅させるなんてね」
さおりさんは感心したように笑みを浮かべる。
「いえ、これが俺達の仕事ですから…」

結城さんがそう言いかけたとき、何処からかエンジン音が響いてきた。
「誰がスノーモビルを…!?」
SDECEなわけがない。
ピーピー!
突然鳴り響いた無線に、ときなが取る。
その相手とは・・・
『ハーイ、SDECEを始末してくれたこと、お礼を言わなきゃね』
「み、瑞穂さん!今、何処にいるの!?」
『アルファは渡さないわよ。もっとも…あなた達に教えたところで、
私を止められるとは思えないけどね』
グォーーーン!
そのとき、裏から回ってきたスノーモビルが吹雪の中を走り去るのが見えた。
誰かまではわからなかったが、乗っているのが二人なのは確かだ。
「ま、待って…!」
ドン!!ドン!!
数発の銃声が鳴り響いていく。
おそらくたまきさんが彼女のスノーモビルに向けて発砲してるんだろう。
だが、ほとんど視界が見えないこの吹雪では・・・!
瑞穂さんは全く動じない挑戦的な口調で話を続けた。
『それより、はやくそこから逃げたほうがいいんじゃない?』
「どういうこと!?」
『ふふふっ、20秒よ・・・』そして回線は切れた。

「まさか・・・!」
ときなはいきなり乾燥室の扉を蹴破る。
そこには赤い点滅を繰り返す装置が仕掛けられていた。
「じょ、冗談じゃないよ!」
それが何なのか理解するのに時間はかからなかった。
タイマーのカウントは13秒を切っていた。
「みんな逃げて…!!爆発するよ!はやく…!」
「な…!?」
そのプラスティック爆弾がどれほどの威力かは分からないが、
おそらく、ペンションの何処に逃げても命はないことは確かだ!
「光一、高度をあげろ!爆風に飲まれるぞ!!」
結城さんは無線で味方のヘリに呼びかける。
『了解、これより離脱する!』

――00:09――

扉を打ち破って、ぼくらは談話室をかけぬけた。
途中壊れたテーブルに躓いて転びそうになったが、それでも全速力で出口に向かった。

――00:05――

『こちらたまき、ヘリは安全区域に離脱しました!
急いでください!』
既に結城さんも、さおりさん達も安全地帯まで脱出した今、
残るはぼくとときなだけ。
「はやく…!」
振り返る余裕などない
やっとのとこで正面玄関を抜けて、外に駆け出す。
まだ、安全な距離ではない
僕らは雪原に勢いよくダイブした。

――00:03――

吹き付ける雪のなか、それでも雪原を駆け抜けていく。

――00:02――

カウントは…ゼロに向けて…進んでいった…。

―――00:00―― …カチッ!

その瞬間、建物の窓や扉から爆炎が吹き出し、
大音響とともにペンション全体が爆発で吹き飛ばされた!
衝撃波が辺りに襲いかかり、止めてあった車が誘爆する。
「うわああああっ!!?」
僕らは飛び散る炎から逃げきることができた。
だが、その直後に冷たい風が吹きつける。

「たまきさん!結城さん・・・!何処ですかーーー!?」
完全にはぐれてしまった…
辺りに広がるのはただ一面の白い闇。
自分達が何処にいるのかさえもわからない。
その間、瑞穂さんのスノーモビルはどんどん距離を離していく。
このままでは完全にアルファを奪われてしまう。
どうすればいい?
「他の皆なら安心していいよ。プロなんだから」
「で、でも…!」
そんなときときなは言った。
「それより、雄也…」
「え…」
「力になってくれる?」
この争いに巻込まれてたときから、心の何処かでそう決めていた。
「もちろん付き合うよ・・・。君のためならね」
正義が踏みにじられようと、ぼくの知ったことではない。
ただときなだけは…
かけがいのない、大切な人だから…
「馬鹿ね…。あたしなんかのために死んでなんかほしくないよ。
カウントダウンライブ…一緒に行こうって約束したでしょ?」
微笑みながらときなは言った。
「そうだね…」
そして彼女はある方向に走り出して叫ぶ。
「さっ、追いかけるわよ!雄也はそこで待ってて!」
ときなの姿は吹雪の中に消えていった。
白い闇の中をすかして見ようとしたが、どちらへ向かったものかも分からない。
無闇に動かないほうがいいかもしれない。
そう心に決めたとき、さっきのとよく似たエンジン音が聞こえてきた。
もう一台のスノーモビルを、ときなが持ってきたのだ。
「さあ、後ろに乗って!」
座席につかまるように腰を下ろしたら、途端にスタートする。
思っていた以上の加速だった。
「飛ばすわよ!」

目の前にあるのは白い闇。

終わりのない雪原をひたすら駆け抜けていく。


そして、瑞穂さんとの激しい追跡劇が幕を開けた…。



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