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『DARK ANGAL』
第7話:「裏切り者の正体」
木村さんが廊下に出たとき、ぼくは思わず呼び止めた。
「危ない!戻ってぇ!!」
「なーに大丈夫だって、どうせ敵は誰もいな…」
ドガガガガガガガガガガガガッ!!
「………!?」
その瞬間、ミシンのような機械音が響いて彼が奇妙な踊りをするのが見えた。
赤い液体が辺りに散乱する。
音がやむと、木村さんは廊下に崩れた。
「き・・・木村さん!」
木村さんに駆け寄ろうとしたその時、
再び機械音が響いて近くの木片が舞い上がった。
ぼくは体勢を崩し、尻餅をついた。
が、その寸前ぼくは見た。
瑞穂さんがウージサブマシンガンを腰だめで構えている姿を。
「瑞穂さんが・・・!」
彼女の横では、滝沢さんが壁にぐったりと倒れこんでいた。
はっきりと確認はできなかったが、特に目立った出血がないことから、
死んではいないようだが…。
「そんな…何故、あなたが…?」
彼女は何も言わずに冷徹な瞳でぼくを見下ろしていた。
やがて弾を詰め替えると、銃口を向けた。
冗談じゃない…
ぼくは廊下を走り出した。
逃げなければ撃ち殺されてしまう!
木村さんみたいに…
ドガガガガガガガガガッ!!
放たれた銃弾が床や壁に炸裂し木片が飛び散る。
ドアに駆け込み、すぐさま食堂に入る。
そうだ…拳銃は!?
そのときポケットにしまってた拳銃の存在に気づいた。
「こいつで反撃を…な!?」
ガガガガガガガガガ!!
銃弾が足元に炸裂して、そのままテーブルに激突してしまった。
「く…来るなぁ…!!」
僕は闇雲に撃ち返していた。
ドン!ドン!ドン!
飛び散るガラスの破片
瑞穂さんは不適に笑うと、美しく長い髪を靡かせサブマシンガンを連射する。
幸いにも物陰はいたる所にあった。
銃声が止んだときを狙って僕は引き金を引いた。
もちろん、まったく手応えはない。そして、ある事に気づいた…
この銃は弾を9発しか装備されてない。
つまり今、残弾は3発しかないということだ。勝てる見込みはほとんどない。
いや、それ以前に僕に人が撃てるのか?
「何処を狙ってるの?」
背後から足音が聞こえてくる。振り返ると瑞穂さんはすぐ側まで来ていた。
「………………」さっきと変わらない冷めたい瞳
まるで別人のようだ…
今度こそ…今度こそ撃たれるのか?
「何故です・・・?あなたのような人が…裏切るなんて…」
彼女は何も答えなかった。
そしてクスっと笑みを浮かべて、トリガーに手をかける。
「邪魔する奴は…誰だろうと死んでもらうよ」
ガシャーン!
そのとき、背後から物音が聞こえて、瑞穂さんは一瞬目をそらした。
「………!!」
目の前に誰かが飛び出し、彼女の銃を一瞬で蹴り飛ばしていた。
「あなただったのね…裏切り者は!」
「ときな!?」
瑞穂さんは驚きながらも反撃に移ろうとしたが、
既にときなの右手がぶち当たっていた。瑞穂さんの身体がテーブルに激突する。
「大丈夫、雄也!?」
「ああ、何とか…!」はやくここから逃げなければ…
そのとき起き上がった瑞穂さんが、ガンベルトから予備の拳銃を引き抜いた。
「死んで」
ダァン!バズッ…!ダァン!ダァン!ダァーン!
その瞬間、ときなの身体が舞い上がり
銃弾は全て壁や天井に外れた。
「あんた・・・調子に乗り過ぎよ!」
ときなの回し蹴りが炸裂すると思いきや、逆に瑞穂さんは難なくその足をつかんだ。
瑞穂さんは声を出さずに笑って、ときなを床に叩き付けた。
「あうっ…!」
もちろん、ここで僕に何かが出来ると思ったわけじゃない。
しかしここで反撃しなければ一方的にやられてしまう…
銃を撃てるとは思えないのでぼくは直接、瑞穂さんに飛び掛かった。
ぼく達は勢いよく激突した。拳銃が床に落ちる
だが次の瞬間、瑞穂さんの右手が首に炸裂して痛さのあまりぼくは叫んだ。
瑞穂さんはニヤリと笑うと
僕をカウンターに叩き付けると、思い切り蹴り飛ばした。
ドガシャーン!!
「ぐああああっ…!!」
な、なんて力だ…!
ぼくは立ち上がることさえも出来なかった。
「ふふっ…素人の分際でこの私に挑もうっての?」
冷徹な彼女の声が食堂に響く。
「教えてください…どうして、裏切ったんですか…!?」
すると瑞穂さんはゆっくりと銃を手にとりながら
「金を貰ってるのよ。」
なるほど、ダブルスパイってわけか…
いずれにしてもアルファを敵側に売るつもりなのは間違いないか。
「あなたは、一体何処に雇われたんです?」
「そうね。近くて遠い国…って所かな。」
韓国あたりか・・・?
「杏子さんを殺したのは何故?」
「彼女は私を疑い始めたのよ。野々村のバカはSDECEに所属してるから、
全滅させるには好い機会だと思ったの。仲間の精鋭部隊が駆けつけるからね」
「精鋭部隊?」
「もうすぐ来るわ。まあ、全員返り討ちにしてやるけどさ」
「けどあなた一人じゃ無茶ですよ?」
「あら? あなたに心配されるなんて心外ね」
瑞穂さんが弾を詰め替えた。
「さあ、告白タイムはこれでおしまい。悪いけど消えてもらうよ」
「あんたがね…!」
どがっ…!!
間髪入れずにときなは、勢いよく彼女につかみかかっていた。
「な、何を…!?」
ガシャーーーーン!!
窓ガラスをぶち壊して、雪原に飛ばされる瑞穂さん。
ときなはすかさず銃を構えて窓から身を乗り出したが、そこに彼女の姿はなかった…
「ちっ!逃がしたか…」
逃げた…?
本当にそうなのだろうか?
瑞穂さんは目的をまだ達成していない
障害となるものは徹底的に排除する彼女が、そう簡単に諦めるとは思えないが…
そのとき僕はあることに気づいた。
「ときな!アルファが…滝沢さんがまだ廊下に…!」
「しまった…!」
ぼくらはすぐに廊下に駆け出したが、そこに滝沢さんの姿はなかった。
おそらく既に、瑞穂さんが裏口から連れ出していったんだろう。
「そう遠くには逃げられないはずよ」
ときなは自信ありげに囁いた。
確かにこの雪のなか徒歩で逃げるのは自殺行為だ。
普通に考えて車を使うのが妥当だが、視界はゼロ
運が悪ければ転落しかねない。逃げ出すのには困難なずだ。
彼女はきっと この近くのどこかに…
ときなはこの事を無線で、たまきさんに伝えた。
裏切り者が誰か…
そして、アルファを奪取されたことを…
AM10:35 ― 談話室 ―
談話室に戻ると、結城さんが降りてきた。
「瑞穂さんがダブルスパイだったなんて…それで、滝沢さんも消えたのか?」
「はい、でもまだ遠くには…」
ピピ!
そのとき無線の電子音が響いて、結城さんが取る。
「はい、こちら拓馬」
連絡はたまきさんからだった。その内容は何処かで予想できていたことだった。
『SDECEの精鋭部隊がそちらに向かってます。警戒してください』
「そうですか…。まあ、こうなるとは思ってましたけど・・・。」
野々村の死体を隠したところで、連絡が途絶えた以上、
当然仲間は事態に気づいて駆けつけてくることは誰にでも想像がつく。
ただ、予定より数分来るのが速まっただけだ…。
『アタシもすぐ到着するから、それまで無事でいてね』
「あはは、連中に"2年前"の借りを返してあげますよ…。たっぷりとね」
『無理は禁物よ。じゃあ・・・Goodluck!(幸運を』
ピッ・・・
「結城さん…2年前って?」
ぼくはとっさに訪ねた。
「一度連中に妹のさなを誘拐されてな。助けに行く途中銃撃を食らっちまったんだ」
「それで妹さんは?」
「代わりにときなたちが助けてくれたよ。情けない話だがね」
結城さんはサブマシンガンの銃弾を詰め替える。
「ところで、さおりさん達は?」
「こんな時のために、監視モニターを見張ってもらってるよ。あらかじめ二階にカメラを設置していたからな。」
そのとき、僕は不意に思った。
「瑞穂さんは… この状況じゃますます逃げ出すことが出来ないんじゃないのかな?」
「そうね。アルファを連れて行くのには最低でも車かスノーモビルが必要になる。
だけどエンジン音であっさりSDECEの連中に見つかってしまうから、きっと脱出のチャンスを狙ってるのね。」
僕は瑞穂さんの言葉を思い出した。
『SDECEを全滅させる』
まさか単独で挑むつもりなのか?
ピピッ
そのとき、さおりさんから緊急で無線がはいった。
『西の方角にトラック2台と5台のスノーモビル!SDECEの攻撃部隊よ…!
それと輸送ヘリも・・・こっちに来るわ!』
直後、ペンション近くにある小屋が突然爆発し、
談話室の窓ガラスが音を立てて砕け散った。
確か野々村の死体のあった小屋だ!
上空にSDECEの輸送ヘリが駆け抜けていく。
「来やがったか…」
結城さんは無線をつかんで、後ずさりをした。
『連中、ミサイルまで武装してるよ!』
「慌てないでさおりさん。いくら連中が大層な兵器を持ち出しても所詮はクズ揃いの軍隊。
相手にもならないよ」
『でも、このままじゃ…』
「侵入してくる連中は俺に任せてくれ。君たちは回りにうろついてるザコどもを頼む。」
『了解、遠慮なく暴れさせてもらうから』
そして回線は切れた。
ぼくはやむことを忘れた雪の奇跡を眺めて思った・・・。
瑞穂さん…あなたは今…
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