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『DARK ANGAL』


第6話:「Broken」


二階へ上がると、ときなは迷わず滝沢さんの部屋の前へ行き、ドアをノックする。
「はい?」
これといって警戒心は感じられない声が響いてドアが開いた。
未だにサングラスははずしていない。
ときなは笑顔で言った。
「ちょっと話があるんですけど、いいですか?」
滝沢さんは、僕とときなをゆっくりと見比べるとやがて肩をすくめて言った。
「ええ、構いませんが」
正体がバレたことは既に察しているようだった。
僕らは部屋に入り込む。
滝沢さんは手にしていた本を閉じるとときなに振り返った。
「それで何の御用でしょうか?」
予想以上に落ち着いた口調で彼はたずねる。
「はっきり言わせてもらうけど、あなたの正体はもうわかってます」
すると滝沢さんは少しも動揺せずに言った。
「なるほど。すっかり御見通しのようで・・・そう、私がアルファ。
各国のスパイにとっては、かなりの危険人物なんだろうがね」
さすがプロといったところか常に平静さを保っている。
「話がわかって何よりです」
「で、私に何をしろと?」
「もちろん取り引きよ」
「取り引き?なるほど、あなた方は日本側の人間だったんですね」
滝沢さんはニヤリと笑うと、タバコをくわえた。
「それで条件は? 金ですか?」
「誰だってお金は必要でしょ?」
「ふふっ、お嬢さん良いこと言いますね。それであなた方はいくらで取り引きをしようっていうんです?」
「御望みならいくらでも」
「いくらでも?」
すると滝沢さんは少し考えた様子を見せた。
これで交渉は成立、と思い始めていたそのとき…

ドガシャーーン!!
突然部屋の窓ガラスが割られて、女が襲いかかった!
背後からもろに蹴りをくらった滝沢さんはベットの向こう側に倒れた。
「アルファから離れなさい」
振り返ると大型のサブマシンガンを滝沢さんに向けているのは、篠原さおりさんだった。
彼女は腰に巻きついていたロープをナイフで切り離した。
屋根から待ち伏せをしていたのか!?
「こっちはOKよ」
さおりさんがそう言うと
ドガッ…!
ドアが蹴破られ、銃を持った二人の少女が僕らを見つめていた。
藍子さんと、あゆみさんだ。
「御見事、さおり」
「やっと見つけたのね。アルファを・・・」
そうか・・・まだ彼女達が残っていたんだ!
「あなた達!勝手な真似はさせないわよ」ときなは威嚇してそう叫ぶと
あゆみさんは不適に笑いながらこちらに近づいてきた。
「ときなさん、どうしてここに?」
「取り引きをしてたのよ。あなた達こそ何故、滝沢さんを殺そうとするの?」
「危険だからよ。彼は私たちCIAの極秘情報をよりにもよってあのSEDECの連中に売り渡したんだから!」
しかし、こんな状況に置かれながらもアルファ…いや、滝沢さんは冷静だった。
「売り渡したことは謝るが、今更私を殺したところで何の利益にもならないぞ?」
「何ですって?この状況でよくそんな事が言えるわね!」
さおりさんが銃口を向けた。
「君たちこそ袋のネズミだってことに気づいてないのか?」
ドガッ…!!
その瞬間、さおりさんの銃が勢いよく飛ばされ
いつの間にか滝沢さんは、彼女の首にナイフを突き付けていた。
「さおり…!?」藍子さんは思わず手を伸ばそうとする。
「動かないでくれ。この娘を傷付けたくない」滝沢さんは余裕の笑みで彼女たちを見返した。
「アルファ…よくも!キャア!!?」
逆上した藍子さんが銃を構えようとしたとき、突然背後から腕を捉まれた。
「おやおや。 随分と物騒なものを持ってるね、お嬢さん?」そして銃が取り上げられる。
見上げると、廊下からこちらに拳銃を構えてる結城さんがいた。
「女の子と戦う趣味はないんだ。おっと滝沢さん、あんたも妙な真似をするなよ?」
「わかってるさ・・・」
滝沢さんはナイフを下ろすと、さおりさんから手を放した。
代わりにときなはサブマシンガンを素早く取ると、全員を狙えるよう、部屋の隅へ下がって壁に背をつけた。
「抵抗しても無駄よ。くれぐれも彼を殺そうなんて考えないで」
さすがに彼女たちもこれ以上抵抗しても無駄だと悟ったらしい。
さおりさんは半ば諦めた様子で言った。
「わかったよ。それで私たちをどうする気?」
「殺戮は好みじゃない。お互い何の利益にもならないだろ?だからこの際俺達と手を組まないか?」
結城さんがとんでもない事を言い出したのでときなも驚いた。
「何言ってるんですか、結城さん!?」
「だってさ。こんな綺麗なお嬢さん方と戦うのはあまりに酷ってものだろ?
俺は出来るだけ穏便に済ませたいんだ。これ以上無意味な戦いをする必要はない・・・そうだろ?」
その案には僕もときなもすぐに納得した。
次に結城さんは、さおりさん達に向かって言う。
「安心しろ。SDECEの野々村は死んだ。それにいくら奴等の仲間が駆けつけたところで、
相手にもなりゃしないよ。既に壊滅状態に陥ってるからな。」
「それは本当ですか?」さおりさんが訪ねた。
「もちろん。それにアルファ…いや、滝沢さんは取り引きを条件に、我々の味方につくことを決めわけさ。
だから君たちも、こっち(日本側)に来たほうが特だと思うよ。報酬の金額もバカにはならないからさ」
さおりさんは肩をすくめた。
「組織を裏切るのはちょっと気が引けるけど、悪い話じゃないか…。
わかった、協力するよ。二人ともいいよね?」
「うん。SDECEに追われるよりはマシだしね」
「ご協力感謝します」

良かった・・・これでもう闘わなくて済む。僕は心の底から安心しきっていた。
「それでは滝沢さん。こちらへ」
ぼくとときなは滝沢さんを連れて廊下を歩き出した。
彼女たちは結城さんと2階で待機してもらうことになっている。
つまり、もうこのペンションに敵はいないということだ。
「これからどうするの?」
「とりあえず、たまきちゃん達に連絡しとかないとね。」
「たまきさん?ああ、この近くにも仲間がいるんだね」
「まあね。アルファを捕まえたことを伝えればすぐに迎えが来るよ」
「それは頼もしいな」
階段を降りると、裏手を回って奥へ行く。
そこには瑞穂さんや工藤さん達スタッフの部屋がある。
「それにしてもオーナーは何処に行ったんだろう」
「わからない。でも、杏子さんはいるはずだから何とかなるでしょう。」
ときなが工藤さんの部屋らしいドアをノックした。・・・だが返事は何もない。
ノブを回すと、あっけなく扉は開いた。
「変ね…杏子さんもいないの?」
ぼく達は首をひねりながら注意深く足を踏み入れた。が、辺りを見回しても誰の気配も感じられなかった。
「おかしいな・・・。いつもここに居るはずなんだけど」
「バスルームは?まだ見てなかったんじゃないのか?」
滝沢さんに指摘されるまで、僕はバスルームをまだ調べてなかったことに気づかなかった。
「そう言えば・・・」
ぼくはすぐにノブを回した。

 ドサッ・・・

「うわあっ!!?」
途端、ドアにもたれかかっていた黒い影が倒れて来た。
僕は慌ててその影をよける。
「きょ、杏子さん…!?」
影だと思っていたのは、工藤さんの愛人、杏子さんだった。
仰向けに倒れていて、虚ろな瞳でぼくを見上げている。
致命傷となったと思われる、首には小型の細いナイフが突き刺さっていた。
「だ、誰がこんな事を…!」ときなは動揺を隠せずに声をあげていた。
「まだ暖かい。この様子だと殺されてから、およそ"10分"ってところか。」
滝沢さんが杏子さんの死体に手をあてながら言った。
「な、何ですって…!?滝沢さん…それは確かですか!?」
「ああ」
たった10分前・・・?
それってぼく達が滝沢さんの部屋に行った頃じゃないか…!
「そんな!じゃあ、誰に彼女を殺せたっていうのよ!?」
ときなは驚いて聞き返した。それもそのはず…
あの時、部屋で待ち伏せをしていたCIAの彼女たちには杏子さんを殺すことなんて出来なかったはずだ。
なによりも動機がない。
では一体誰が・・・?
しかし、滝沢さんの次の一言で衝撃がはしった。
「これではっきりしたな…。君たちの内部に裏切り者がいる」
「裏切り者・・・まさか!?」
信じられない・・・信じたくない・・・
けれどそれ以外考えられなかった。

「おい、何が起きたんだ!?」
振り返るとドアの前に木村さんが立っていた。
「木村さん、大変なんです!杏子さんが…死んでるんです!」
「な、何だと…!?」それを聞いて慌ててかけつける木村さん。
僕にはずっと気になっていたことがあった。
「工藤さんは一体どこに行ったんだろう?」
ふと口にした言葉に、ときなと木村さんは一瞬目を合わせた。
「まさかオーナーが?」ときなの瞳に迷いが見えた。
「気をつけたほうがいいぞ。その可能性は充分高い。もっとも…"既に殺されたのなら"話は別だが・・・」
滝沢さんが深刻な眼差しでドアの向こうを眺めた
「そ、そんな事って…」
確かにオーナーには犯行は可能かもしれないが根拠は何一つない。
だけど一番怪しいことは確かだった。

ときなは無線を取り出す。
ピー!
『こちら、たまき。どうかしたの?』
「たまきちゃん、大変なことが起きたよ。杏子さんが殺されて・・・オーナーが何処にもいないの」
『それは変ね。それでアルファは?』
「ここにいるよ。幸い取り引きは成立させたから・・・今すぐ迎えに来て!」
『了解。すぐに向かうから何かあったまた連絡してくださいね』
ピッ・・・
「今迎えのヘリが来るから、雄也は裏口を見張ってて。私は2階の結城さんにこの事を伝えに行くから…」
「わかった。気をつけてね」
扉をあけて駆けぬけていくときな。

「さあ、こちらへ」
一方、木村さんは滝沢さんを連れて廊下に出たので、僕もすぐに後を追った。
裏口は誰も使っていない空部屋にある。ぼくは扉を開けて、室内を見回した。
だが誰もいない・・・
ドサッ・・・
中へ足を踏み入れたそのとき、後ろから人が倒れるような物音が聞こえた。
振り返ると、滝沢さんが入って来ていない。
「滝沢さん?どうかしたんですか?」
木村さんは呼びかけたが返事がない。

まさか、オーナーがこの近くに?
いや、室内は全て捜したが誰もいなかった。
オーナーをペンションにいれない限り、危険はないはず・・・
それとも犯人は別にいるのか?

「滝沢さん!?」
木村さんの足が自然と廊下のほうへ近づいていく。

本当に彼を行かせていいのだろうか?

そのとき滝沢さんの言葉を思い出して、ぼくは胸騒ぎを覚えた。
『オーナーが既に殺されていたのなら話は別だが・・・』

・・・裏切り者は他にいる・・・!!

「ダメだ・・・木村さん!出ちゃいけない・・・!!」


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