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『DARK ANGAL』


第5話:「Into the Silence」


AM 9:32

「ときな、やっぱりさっきの銃声だったんじゃ!?」素人の僕にもわかっていた。
「とにかく出ましょう」
廊下に出ると、そこで瑞穂さんに出合った。
「あ、こんなところにいたの。オーナーが見当たらないんだけど、何処に行ったか知らない?」
「え・・・!?瑞穂さん、一緒じゃなかったんですか?」
「そうなの、全く連絡がつかなくて・・・」
嫌な予感がした。
何かとんでもないことが起きたのでは・・・?
「私も一緒に探すけど、雄也はどうする?」
「僕も行くよ。一緒にいたほうが安全だしね」

―― 談話室 ――

階段をかけおりると、開きっぱなしの玄関の扉が視界に入った。
扉の前で、結城さんは青ざめた表情で外を眺めていたが、僕らに気づいて振り返る。
「君達か・・・大変なことが起きたぞ・・・」
「結城さん、どうしたんですか?」
「あれを見ろ・・・」
結城さんの指し示した方向を眺めると、雪原の向こうに倒れてる人影のようなものがかすかに見えた。
「まさか・・・!?」
僕は思わずその向こうの影に駆け出していた。
冷たい風も今では気にもとまらない。
「そんな!何故コイツが・・・!?」
ペンションの壁にもたれかかる状態で野々村は息絶えていた
顔から大量の血液が流れでている。おそらく即死だったのだろう。
一撃で脳天を撃ち抜かれていた。
「やはりさっきの銃声は・・・」
「ああ、おそらくこのペンションにいる誰かの仕業だろうな。
それより死体を片付けるぞ。君も手伝ってくれ」
結城さんは野々村の死体を引きずると、小屋まで移動させた。
仲間のスパイに気づかれるから、ということだろう。
「こんなとこで死人を出すとは・・・。応援を呼ばれたらどうするんだ」
やや苛ついた様子でタバコを加える木村さん。
確かに、このペンションにいるSDECEは野々村だけだ。
連絡が途絶えた以上、仲間は当然この事態に気づいて駆けつけてくるだろう。

AM10:05
「とりあえずオーナーを探すことが優先だ。俺達は外を・・・君らはペンション内を頼むぞ」
「わかった。行こう、雄也」
建物の周囲を、結城さん、木村さん・・・。
そして中を、瑞穂さん、ときな、そして僕が探すことになるわけだ。
ペンションに帰還すると、僕達はまず食堂を探すことにした。
「ときな、気をつけてよ」
瑞穂さんは拳銃を構えると、辺りを見渡した。
明かりはついてない。やけに静かな空間だった。
だが予想に反して犯人が待ち伏せをしている、ということはなかった。
「誰もいないわ・・・じゃ、 瑞穂さんは裏口を探してちょうだい」
「ええ、何かあったら連絡してね」

そのとき僕はある扉が気になった。
「ねえ、地下室は・・・」
「え?」
扉は開いた状態だが、階段の先はただ暗闇だけが続いていた。
「オーナー そこにいるの?」
暗闇の向こうに呼びかけたが、一向に返事は返ってこない。
だが階段を降りようとしたそのとき、背中に硬い鉄の物体が突きつけられた。

「そのままゆっくり歩け。妙な真似をすれば綺麗な彼女を血で染める事になるぞ?」
まるで血の通ってないような冷徹な声が階段に響いた。喜久夫が小型の拳銃(デリンジャー)を突きつけていたのだ。
言われるがままに階段を下りると、僕等はフロアの端まで歩かされた。
「そこで止まれ」
喜久夫さんが指示をする。
「こんな真似してただで済むと思ってるの?」ときなは挑発的に問い掛ける。
「フッ、あくまで強気の姿勢か?ま、それもいいだろう」
引き金の安全装置を外す喜久夫さん。
「どっちがアルファだ?」
「何のこと?」ときなはとぼけてみせる。
「いや、君らはアルファじゃない。 "ダークエンジェル" 国のためにスパイを監視する連中だろ?」
気づかれたか・・・!?
やはり彼もアルファを追う側の人間だった。
喜久夫さんはニヤリと笑った。
「図星のようだな。するとアルファは・・・」

ガシャ−ン!!
その瞬間、喜久夫はワイン棚まで突き飛ばされていた。
もちろん彼の手に銃はない。ときなが一瞬のうちに奪い取ったのだ。
さすがプロといったところか・・・。
「形成逆転ね 喜久夫さん」
「き、キサマ・・・ぐあっ!」
気がつくと彼女は、喜久夫の首もとに手刀を振り下ろしていた。彼はワインをぶちまけて床に崩れ落ちた。
「雄也、今のうちに瑞穂さん呼んできて!彼を見張っとかないとね」
僕らは階段を駆け上がり談話室に出る。
「ところでアルファって・・・!」
「危ない!!」
だが背後からの不意打ちに気づくのが遅すぎた!
テーブルに激突するときな。その際グラスの破片が散乱した!
「ときな・・・!?」
床に滑っていくデリンジャー。僕は迷わず拾おうと試みたがそれも失敗に終わった。
「銃を捨てなさい」女性の声だった。
見上げると、長い髪を靡かせて涼やかに笑う七々美さんがいた。ショットガンの銃口をこちらに向けている。
「さすが七々美 ますます惚れ直したよ」
地下室の階段から喜久夫がふらつきながら歩いてくる。
「こんな小娘にやられるなんて・・・油断ばかりしてるからよ」
「すまんすまん、今度は気をつけるよ」
ときなはゆっくりと後ずさりをしながら言った。
「あなた達・・・何処に雇われてるの?」
「KGB、とでも言えばわかるでしょう」
「なるほど。ロシアの諜報部員か。狙いはアルファね?」
「ええ。裏切り者のアルファを始末すれば莫大の報酬を約束されてるの」
「でも、アルファは譲らないよ」
「ふーん、この状況でよくそんな事が言えるわね?これから死ぬっていうあなたに・・・」
「それは無理よ」ときなは全く動じなかった。
「何ですって?」
「外にもいるのよ?私たちの仲間がね」
一瞬外に気をとられた七々美さんを、ときなは見逃さなかった。
すぐさまショットガンを蹴り飛ばしてつかみかかる!
「キャッ!?喜久夫・・・はやくコイツを・・・何とかして!!」
「この野郎!」
我に返った喜久夫が、デリンジャーを素早く抜く。
だが銃口をときなに向けたときには、僕の体がぶちあたっていた。
僕たちは勢いよく床の上に転がった。彼の腕から飛んだ拳銃が鈍い音を立てて落ちる。
上になったのは僕のほうだった!
喜久夫の身体を押さえつけて黙らせようとした。
だが、彼の右手が振りかざされた瞬間、顔面に衝撃が走った。
殴られたのだ!
起き上がった喜久夫がゆっくりとナイフを構えて迫る!
「避けられるかな?」
振りかざされるナイフを避けるのが背一杯だった。
僕は床にあったストックで対抗した!

そうだ・・・! 
ときなは・・・ときなはどうした・・・!?

「彼女ならお休み中よ」
振り返るとときなと格闘していたはずの七々美さんが、余裕の笑みでショットガンを構えていた。
「七々美さん・・・!?」しまった・・・!!撃たれる!

そのとき食堂の扉が勢いよく開いて、誰かが叫んだ!
「雄也くん、そこを退けぇ!」
ドン・・・!!
次の瞬間耳をつんだく轟音が鳴り響き、七々美さんが崩れ落ちた。
振り返ると扉の前で銃を構えてる結城さんがいた。
「ゆ、結城さん・・・?」
あなたが・・・  あなたが撃ったんですか・・・?
ショック状態に陥った僕は、何も考えることができなかった。
目の前で人が撃たれる光景を目の当たりにしたために・・・。
「何してる!?後ろだ!」
その間、喜久夫はとんでもない行動に移っていた。
ショットガンを掴み取ると、猛獣のように銃を乱射したのだ!
「くくく、キサマ等は終わりだ!」
テーブルやドアに炸裂する弾丸。
「皆、さがってろ!こいつは俺が始末する!」
結城さんとの激しい銃撃戦に戸惑いつつ、僕はソファーの影に飛び込んだ!

「やめなさい!キャアア・・・!!」
喜久夫を制止しようとしたときなが、逆に突き飛ばされ床に倒れた。
そしてシ銃口が彼女に向けられる!
「フッ、迂闊だったな。まずは貴様から・・・」
「やめろぉーーーーーー!!!」

床にデリンジャーが落ちている。    僕はそれをつかんでいた

迷ってる暇はない

僕はトリガーの安全装置を外して  喜久夫に狙いを定める

そして、引き金を引いた!

ドン!!
「ぐああ・・・!!チクショウ、よくも!」
弾丸は肩に炸裂した!だが驚いた事に喜久夫は銃を離そうとしない。
死の物狂いで七々美さんの仇を討とうとしているんだ・・・!
「ククク、今度は・・・俺の番だよなぁ?」
ダメか・・・!

喜久夫が再びショットガンを構えた・・・が、それもわずかな時間だった。


「逝きなさい・・・彼女のところへ・・・」

ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!ドン!!
「ぐあっ・・・!!がはっああああ・・・・・・!!!」
何発もの銃弾が喜久夫さんの身体に炸裂し、血吹雪が舞った・・・。
彼は虚ろな瞳をしたまま崩れ落ちてドアに激突した。


ときなは肩膝をついた姿勢で、まだ彼に拳銃を向けていた。
僕が立ち上がると、彼女は安堵のため息を吐いて駆け寄ってきた。
「大丈夫?怪我してない?」
「ああ、ありがと☆ときな・・・」
結城さんの無線ですぐに、瑞穂さん、木村さんも駆けつけてきた。
「やはりKGBか。よくやってくれたな、雄也くん」
「いえ、そんな。僕は対して役にたってませんよ」
「でも素人にして銃を撃てたってことは、才能あるよ」
「ありがとうございます。後は・・・」
「アルファを捕まえにいくだけね」ときなは言った。
残す人間はただ一人。
「やっぱり滝沢が・・・彼がアルファだったんだね?」
ときなはコクンと肯くと、結城さん達に「あなた達はここで待ってて」と言い残して、階段を上がり始めた。
僕もすぐに後を追う。

ついにアルファと御対面というわけだ。



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おまけ
喜久夫「おいおい、俺たちの出番ってこれで終わり?」
七々美「仕方ないですよ。映画なんですから☆」
喜久夫「残念、もっと活躍すると思ったんだがなー。とりあえず、これからも宜しくってことで♪」
七々美「次回はさらにど派手な展開になります!」
喜久夫「皆さんお楽しみに♪次回はついにアルファの登場です!」



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