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『DARK ANGAL』
第3話:「スノウダンス」
「ときな、待って!」
「何?」ときなは静かに振りかえった。
「さ、さっきの・・・手紙のことなんだけどさ」
「手紙・・・?どうしてそんな事聞くの?」
「いや、もしかして、君宛てだったんじゃないかと気になってね」
「そんなわけないじゃない・・・考えすぎよ 雄也は」
「そ、そう・・・ならいいんだけど」
「ごめん、今ちょっと気分が悪いの・・・また明日ね」
ドアの閉まる音が鳴り響く
ま、いいか・・・
確かに僕の考えすぎかもしれない。
僕は部屋に戻ると、熱いシャワーを浴びてすぐさまベットにはいる
明日はときなとカウントダウンライブに行くんだ
きっと素敵な思い出に・・・
やがて、そのまま深い眠りに落ちていった。
1999年 12月31日 PM 0:25分
それからどれくらい寝ていたのだろうか・・・。
「え・・・誰?」
不意に僕は目をさました。
夢うつつな中、誰かがノックしている。
まさか、ときな・・・?
それまでの眠気も消し飛び、僕はドアへ駆け込みさっと開く
ガチャ
廊下の明かりを背に、スマートで美しいシルエットが浮かび上がった。
「ねえ、飲みましょう」
彼女は部屋の明かりのスイッチをいれた。
ときなではなかった。
「さ、さおりさん・・・?どうして・・・あなたが?」
僕はどうしようもなく混乱していた。
「ここ坐ってもいい?」
彼女は答えもまたずに、僕がさっきまで寝ていたベットに腰掛けた。
さおりさんが手にしていたのはワインの瓶だった。
もう片方の手には用意周到にもワイングラスが二つ。
僕はグラスを受け取ると、なみなみと赤ワインをそそいだ。
「素敵な出会いに・・・」
それは僕らのことを言っているのだろうか?
さおりさんは、そっと微笑みながら僕に言った。
「ねえ、あなた ときなって人のこと好きなの?」
「うん、そうだよ・・・」
「でも彼女のこと、何も知らないんじゃないの?」
意味ありげな言葉だった。
「え・・・それって、どういう意味です?」僕はぐいっとワインを飲み干した
「そのうち 分かるわよ・・・」
何だろう・・・?視界が暗くなっていく・・・
さおりさんは、そんな僕にクスッと微笑み返していた。まるで天使のように・・・
「おやすみなさい・・・」
ドサッ・・・
遠ざかる意識のなか
ドアが開く音と、彼女たちの声が聞こえてくる
「そいつがアルファ?」
「わからないけど、可能性は高いよ」
「それにしては意外と呆気なかったね・・・。で、コイツどうする?」
「予定通りに始末するよ。どっち道、生かしておいても計画の邪魔にしかならないし」
「じゃあ、さっさと終わらせましょう・・・。奇麗さっぱりに・・・」
やがて、僕は闇の世界へ落ちていった・・・
耳を切るような風の音が一段と響いていた。
僕の意識はもうろうとしていた。
「・・・・・Yuya・・・・・・」
誰かが・・・僕を呼んでいる・・・
さおりさん・・・?
「・・・ユウヤ・・・雄也・・・!」
ときな・・・ときなだ・・・
・・・ 彼女が僕を呼んでいるんだ・・・
バシィ!!
「お願いだから、はやく起きて!」
・・・え・・・!?
その声にただならぬものを感じ、僕はありったけの意志で目をこじ開け
辺りを見渡すと、僕はとんでもない状況にさらされていたことに気づいた。
「な・・・ここは・・・何処だ!?」
見渡す限りの夜の断崖・・・吹き付ける吹雪・・・
僕はさっきまで、確かに部屋のなかにいた・・・
なのに何で、車のなかに・・・?
「やっと気がついたね」
どうやら助手席で倒れていたらしい 四輪駆動のレンジローバーだった。
窓を割ったのか、彼女は壊れた窓から僕の手を強引につかんだ。
「と、ときな・・・いったいどうなって・・・」
「はやく車から降りて! 爆発するよ!」
「え・・・?」
ハンドルの手前にはデジタルで表示された見慣れぬ時計があった。
15・・・14・・・13
最初は、時計が故障していて逆転しているのかと思ったが
すぐにその考えが間違いであったことに気づく。
「ま・・・まさか!?」
その数字は確実に0へと近づきつつあった!僕は急いでドアに手をまわす。
ガチャ!ガチャ!
「そ、そんなバカな!?」
その瞬間、僕は愕然とした。
何度もドアノブに手をかけたが、一向にドアは開かなかった。
まさか、鍵が・・・鍵がかかってるっていうのか!?
「雄也、さがってて!」
ひときわ甲高いときなの声に振り返ると
彼女はモデルガンのような鉄の物体を取り出していて
それをドアに向けた。
ドン!ドン!バン・・・!!
何かが弾ける音が響いた瞬間
ドアノブに穴が空き、勢いよくドアが開く
「ときな・・・い、今のは!?」
モデルガンでは・・・モデルガンではなかった!
紛れも無い本物の拳銃だった・・・!
「さあ、はやく降りて!」
「あ・・・ああ!」
車から飛び降りたとき、カウントは
8・・・7・・・6・・・を回っていた
間に合うのか・・・!?
「急いで、あの坂までダッシュするのよ!!」
「ああ!」
秒読みのなか、僕たちは夢中で駆け出していた。
だけど、時間が・・・!!
走り出してからどれくらい離れただろうか・・・
いや、逃げ出すほど充分な時間は無かったのかもしれない
「うわあああああああアアアアア!!!」
恐怖のあまり僕は叫んでいた・・・
ズダダダダダーーーーーーーン!!!!
大音響と共に四輪駆動が爆発し、襲いかかる衝撃波に僕は斜面に飛ばされた
「ぐああっ・・・!!」
「しかってり、つかまってて!」
飛び散る炎 舞い上がる車の破片
今、僕は信じられない光景を目の当たりにしていた。
「まさか・・こんな事って・・・」
さらに、炎に包まれた四輪駆動の残骸が、爆炎で舞い上げられ
斜面を伝ってこちらに落下してきたのだ。
僕は雪原を転げ落ちながらも、やっとのとこでフェンスまで逃げ込めた。
間一髪、残骸は真横を通り過ぎて正面の木に激突、バラバラに分解した。
僕はその光景をただ唖然と眺めていた。
冷酷な真冬の風が 僕の心を青ざめさせた。
「雄也・・・大丈夫?」
「ああ、君がいなければ今ごろ・・・」
「気にしないで わざわざ盗聴を仕掛けた手間も省けたしね」
「え・・・盗聴?」
妙なことを言う・・・
「ううん、気にしないで・・・さ、行きましょう」
「それより、これはどうゆう事なんだ?さっきの爆弾は・・・!」
「さおりさん達の仕業よ」
え・・・?ちょ・・・ちょっと、待ってくれ・・・
僕は心の底から震えが止まらなかった。
彼女たちは・・・ごく普通の女の子のはずじゃなかったのか?
それ以前に、何処でそんな物騒なものを手に入れたんだ?
僕を狙う理由はいったい・・・
シュン!
・・・!?
そのとき僕は、頬に鈍い傷みを感じて、何が起きたのかわからずに手を触れると血が流れでていた。
「あら・・・あなた、悪運だけは強いのね」
「え・・・?」
何処かで聞き覚えのある声に振り返ると
雪が降りしきる丘の上で、冷たい眼差しで僕を見下ろしている一人の少女がいた。
明るめのロングヘアーの少女 そう、数時間前に談話室で出会った
髪をおろしていて、雰囲気も口調も違うけど
あの、永瀬藍子さんに間違いなかった・・・
「・・・藍子さん・・・どうしてここに・・・?」
一瞬疑問に思っていたが、その答えは恐怖となって思い知ることになる
藍子さんは冷たい笑みを浮かべると、その瞬間、空に舞い上がった
「雄也・・・逃げて!!」
シュン!! ドガッ!!
その瞬間、自分に何が起きたのかわからなかった。
腹部に衝撃をうけた僕は、思いっきり木に激突した。
うめき苦しみながら、ぼやける視界に必死で目をこらす
目の前に藍子さんはいた・・・
「悪いけど、死んでもらうよ」
今のは、彼女が・・・彼女に殴られたのか?
チャ・・・
気がつけば、藍子さんの右手にはサイレンサーつきの銃が握られている
銃口のしたのレンズから発せられた赤いセンサー
それが僕の瞳に照らされる。
完全に放心状態となった僕は、ただその赤い光を眺めていた。
「さよなら・・・梶原雄也くん」
僕は・・・死ぬのか・・・
「何やってるの!はやく抵抗しなさいよ!」
ときなの怒鳴り声に僕は我にかえった。
どがっ!!
「・・・!?」
影がとびだし、藍子さんの体が一瞬ふらつき、銃を落とす。
ときなが猛烈な勢いで彼女にタックルしたのだった。
「と、ときな・・・君は・・・!」
「はやく逃げて!!」
彼女は僕の手をとると、雪原に覆われた坂に駆け出した。
雪原の暗闇のなか、たくさんの木々が行く手を阻む。
前方に明かりが見えた。リフトか!
ドン!!ドン!!ドン!!
そのとき、僕らの真横を何かがかすめた!
振り返らなくてもわかっていた。
彼女が・・・永瀬藍子さんが僕らに向けて弾丸を放っていることを!
冗談じゃない・・・!
これじゃ、まるでアクション映画だ・・・!
僕が何をしたっていうんだ?
一体、何でこんな目にあわなければならないんだ!?
目の前が明るくなり、数件のスキー小屋が見えると
ときなが再び叫んだ。
「あの小屋まで全速力でいくわよ 遅れないで!」
「ああ、わかってる!」
だが、僕は気づいてなかった
冷たい雪のなか、僕らは徐々に追い詰められていたことに
リフトの下を通りすぎ、小屋に近付く。
いや、追い詰められていたのは・・・
もしかしたら、僕だけだったのかもしれない
ガチャ
先に扉に手をかけたのは僕だった
これが、罠だということも知らずに・・・
「あ・・・いけない!雄也、そっちは・・・!」
え・・・!?
ときなの呼びかけが聞こえた時にはもう遅かった。
扉をあけた瞬間、足をとられた僕は勢いよく室内に転んだ。
というより、転ばされたのだ。
だ、誰だ・・・?
「梶原雄也・・・やっと捕まえた」
背後から女性の声が響く。
ガチャ・・・
ドアを閉められ、内側から鍵をかける
見上げると、そこでも見覚えのある二人の少女が僕を見つめていた
一人は赤い髪をしたボブの 仁科あゆみさん
そして、もう一人は、さっき僕の部屋に来た・・・
「さ、さおりさん・・・!?」
「嬉しいわね・・・また貴方に会えるなんて・・・」
彼女は一瞬微笑むと、
突然僕に何かを振りかざした!
「うわっ!?」
ドガッ!!
とっさに僕は、身を呈するとその物体は壁にぶちあたり、
破片を撒き散らした。
・・・な、何だって・・・!?
壁を見上げるとそこには、大きめの鉈が突き刺さっていた!
こんなのくらったら、ひとたまりもない!
「ちょ・・・ちょっと、何するんですか!?」
僕は閉じ込められたのか・・・
「驚かせてごめんね・・・でも、彼女がいけないんだよ?
あのまま吹き飛んじゃえば楽に死ねたのに・・・ お節介なひとね」
この瞬間 真の恐怖が襲いかかったのだ
彼女は壁に突き刺さった鉈を引き抜くと、再び振りかざしてきた!
ガッ!!
鉈はロッカーにぶち当たり、扉を破壊。
「その身軽さ・・・ ますます惚れ直しそう」
信じられなかった・・・
あの、優しいさおりさんが・・・こんな恐ろしいことをするなんて!
「せ、説明してくださいよ・・・何故僕を狙うんですか・・・!」
「呆けたって無駄よ・・・アルファ」
「さおり〜 あんまり怖がらせちゃいけないよ?」
「ウフフ 私としたことがちょっと遊びすぎました・・・」
さおりさんは鉈を投げ捨てると、
無線のようなものをとりだし、穏やかな口調で話しはじめた。
「藍子、二人を捕まえたよ」
『ご苦労だったね。
私もすぐ向かうから あなた達はそこで楽しんでて』
「了解・・・」
ピッ・・・
「悪く思わないでよ これも任務なんだから」
あゆみさんがつまらなそうにため息をつくと、
ジャケットから数本のサバイバルナイフを取り出した。
「さーて 藍子が来るまで、的になってもらおうかな〜?」
可愛い顔をして恐ろしいことを言う・・・
もう・・・ダメだ・・・
全てを諦めていた、そのとき
「調子に乗りすぎよ あんた達・・・」
ドガシャーン!!
扉が勢いよく破られ、あゆみさんは気を取られた
「だ、誰・・・!?」
飛び散ったドアの残骸を踏み潰して、彼女は来た・・・
「ときな・・・」
ときなは冷めた瞳で彼女たちを睨む。
「あなた達だったんだね ”あの手紙”を書いたのは・・・」
「あら、今ごろ気づいたの?フフッ ああたの反応は分かりやすくて・・・
アルファを見つけるのには、絶好のカモだったよ?」
そう言いながら、さおりさんは鉈を拾う。
「ふーん、カモか・・・言ってくれるじゃない」
その瞬間、ときなの体が宙に舞い さおりさんを蹴りとばした!
ドガッ・・・!!
「キャ・・・!」鉈が勢いよく床を滑る
「す、すごい・・・」
「いつまで、つっ立ってんの!はやく彼女を何とかしなさいよ!」
「あ、ああ!」
ときなに叫ばれたことを合図に、僕はあゆみさんを取り押さえようとした。
「よせ!何故こんな真似を!?」
間一髪、彼女がナイフを振りかざそうとした瞬間に
彼女を取り押さえることが出来た。・・・つもりだった。
「舐められたものね」
「おわっ・・!!?」
だが、あゆみさんの腕をつかんだ瞬間、
世界が回転し、僕は勢いよく床に叩き付けられていた。
「こんな真似・・・か。アハハ、あなた、面白いこと言うね〜 」
逆に投げられた!?バカな・・・!!
つ、強い・・・強すぎる・・・!!
「いい?投げっていうのは、こうするのよ!」
あゆみさんは僕の体を引きずると、今度は思いっきり窓の方向に!
「おわーーーーー!!!??」
ドガシャーン!!
ガラスを突き破った僕は小屋の外に飛ばされる。
これ、本当に女の子の力か・・・?
「雄也・・・キャ・・・!!」
ときなが悲鳴をあげた。
不意をつかれて、さおりさんに突き飛ばされたらしい。
雪原のなか、僕は起き上がる事すら出来なかった。
しかし、いくらなんでも無様だ・・・情けない・・・
そのとき、彼女達の声が近づいてきた。
「この人本当にアルファ? 弱すぎるよ」
「まあ、いいじゃない そろそろ終わりにさせないとね」
シュン!
「な・・・!?」
気がつくと、さおりさんは背後から僕の首に何かを巻きつけていた。
慌てて僕はそれに手を触れると、皮膚が切れた・・・
よく見ると、それは細い細い透明なワイヤーだった。
このまま・・・首を切られるのか?
だが、ワイヤーをつかめば指を切断させてしまう
どうすれば・・・どうすればいい・・・!?
ビビ!!バチバチィ!
「キャア・・・!!」
そのとき、響き渡る電撃音
首もとのワイヤーがゆるんだかと思うと さおりさんはその場に崩れ落ちた
い、今のは・・・?
そこには、スタンガンを手にしたときなの姿があった。
「き、君がそれを・・・」
「大丈夫、彼女気を失ってるだけよ」
「あんた、味な真似をしてくえるじゃないの・・・!」
余裕の笑みで振舞うときなに対して、あゆみさんがナイフで切りかかる!
だが、ときなに腕をつかまれ逆に突き飛ばされた。
「無駄よ。怪我したくなかったら諦めることね」
「くっ・・・あんた、やるじゃない・・・」
あゆみさんは不適に笑うと無線機を取り出した。
応援を呼ぶつもりらしい・・・!
「今のうちに、はやく!」
「ああ!」
僕は急いで立ちあがった。
もたもたしてると応援を呼ばれる 逃げるのは今しかない・・・
ドン!ドン!ドン!
別の方向から再び銃弾が駆け抜け、照明やリフトを弾く。
藍子さん、あるいは応援に来た別の誰かだろう。
「ちっ!アイツ等・・・いい加減にしつこいわね!」
小屋から30メートルほど駆け出していたそのとき
林の向こうからの眩しい光に 僕は思わず目を伏せた。
「ときな、あれは・・・?」
リフト付近から照らされた光が近づくにつれ、それがヘリコプターであることがわかった。
彼女は「あなたはここで待ってて」と言い残し
10メートルほど先のリフトまで駆け出していった。
彼女が空に向けて手を振ると、ヘリは高度を下げ その機体を付近の平地に着地させた。
扉が開くと人影は降りて、駆けつけたときなに何かを話していた。
「工藤さん・・・?」
彼は初めて見る厳しい顔をして振り返る。
「大丈夫か、雄也くん!」
「ええ、何とか・・・」
「そうか・・・まずここを移動しよう。さ、はやく乗るんだ!」
ヘリを操縦していたのは結城さんだった。
僕らが乗り込んだ直後、彼は操縦幹をつかみ一気に機体を上昇させる。
「つかまってろよ!このままペンションに戻る」
リフトのケーブルを避けて旋回するヘリ。
さすがにもう追手は来ない。
「ところで、ときな・・・ そろそろ説明してくれないか・・・?」
わずか数分間の間に起きた 悪夢のような出来事。
分からないことばかりだった。
一体、ここで何が起きているのか・・・
彼女たちが何者なのか・・・
何故、僕が狙われたのか・・・
そして、ときな・・・君は一体・・・?
「わかった・・・教えるから。工藤さん、いいよね?」
「ああ、それに関しては俺が説明するから、君は連中の監視を続けてくれ」
この後 僕は
とんでもない事実を知ることになる・・・
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