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『DARK ANGAL』


第2話 「 恋人達の優しさに・・・ 」


PM 6:35

「ねえねえ、アユミ 最高のパウダースノーだったよね〜」
「うん、でもさすがに疲れたなぁ」
「あんまり無理しないでよ。あ・・・オーナー、熱いコーヒーお願い」
談話室に降りると
さっきは見かけなかった3人の若い女の子達がカウンターで工藤さんに話しかけていた
僕らよりも二つほど年下だろうか
彼女たちは嬉しそうに笑いあっていた。
「お疲れ、お嬢さん方。で、そんなにいい雪だったのかい?」
「もちろん、特に今年は雪が多いからね オーナーは滑ってみた?」
明るめの髪をしたポニーテールの少女が得意げに問いかけた。
「いや、それがまだ・・・何かと忙しくてねー」工藤さんは少し恨めしそうに談話室を見回した。
あと二日で正月。そう、新世紀の始まりだ。
「それは残念ね・・・せっかくオーナーと一緒に滑りたかったのに」
茶色がかった髪の少女が哀れみの表情を浮かべて言った。
大きな瞳をしていて、何処となく幼さが残る感じの子だ。
「ええ!?ま、マジで言ってるの!? お兄さん嬉しいよ〜」
工藤さんは勢いよくカウンターから身を乗り出して叫んだ。
ちょ、ちよっと工藤さん!?・・・ 10歳ほど若返ってませんか?
「やだなぁ オーナー。冗談ですよ 冗談♪」
「ふーう そりゃ、そうだよなあ〜 」
さぞ残念そうな工藤さん。
「けれど、やっぱり冬はスノボーに限るよね」
色白で華奢な体に奇麗な黒髪を肩まで伸ばした少女が優しく微笑む。
少し引っ込み思案なタイプだが、穏やかで心優しい印象を受けた。
「サオリも初めてにしては上出来だったよ どう、私と一緒にプロ目指してみない?」
「そんな・・・まだまだアイコさんには叶いません」

僕らはそんな彼女たちの会話を何気に聞いていた。
「何だか楽しそうね 私たちも行ってみようか?」
「ああ、そうだね」
とりあえず、僕らも彼女たちの会話に参加させてもらい
自然に自己紹介をしあった。
パウダースノーがどうとかって話してた長いポーニーテールの子が、永瀬藍子さん。
工藤さんをボードに誘ったボブの子が、仁科あゆみさん。
そして、さっきまで黙っていた物静かな子が、篠原さおりさん。
全員18才の女子高生だそうだ。
「そうなんですか〜 あなた達は2日前から・・・」
「ええ、藍子さんに誘われて来たんです。
でも、まさかこんな山奥にペンションがあったなんて驚きましたよ」
さおりさんが、笑いながら答えた。

そんな時、壁にある鳩時計が7時を告げた
「食事の用意ができましたので、食堂のほうへどうぞ」
食堂からアルバイトの瑞穂さんが出てきた。
「雄也、私たちも行こうよ」
「うん。そうだね」
ときなはさっと立ち上がって食堂の方へ歩き出した。
僕も慌てて後を追う

食堂のテーブルには既にナイフやフォークがセットされていた。
さっき話した女の子3人組の他に、20代前半の若いカップル。
髪をツンツン立てた不良っぽい感じの青年。
そして食事中にも関わらず、黒いサングラスに帽子を被った20台後半の男も、
もう先に坐っていた。

「わあ、おいしそう」
「七々美、来て良かったね」
若いカップルの女性は、七々美さんと呼ばれていた。
僕らより2つほど年上だろう
癖のない長い黒髪は腰まであり、清潔感溢れる奇麗な女性だった。
一方、喜久夫さんと呼ばれた男性も彼女に劣らず二枚目
西洋風な顔立ちで、長めの前髪を掻き揚げ ワイングラスを手に取る。
「今夜は最高の夜になりそうだね・・・君の瞳に乾杯するよ・・・」
「ウフフ 喜久夫ったら いい加減わざとらしい真似やめなさいよ」
「いいじゃない?俺はこの日のために 君を誘ったんだからさ・・・」
「ありがとう・・・」
なーんて キザなセリフを連発している。
けっこう面白い人だな〜 何となく昔の僕に似てるし(笑)

夕食を澄ませた僕らは、食後のコーヒーを飲んでいた
「しかし外、すごい荒れ方だよな〜」
僕は窓の外を見渡した
「予報じゃ、近年にない大雪になるかもしれないって言ってたよ」
「なんかロマンティックだよね こんな風景って・・・」
「確かに奇麗だけど・・・大雪で閉じ込められたら大変だよ?」
「心配ないさ 君と一緒ならね」
そんな思いを巡らせていた時、ホールの方からざわめきが伝わってきた。
ぼくたちは食道を出る。
フロントでさおりさん達が、工藤さんに向かって何かを喚いていた。
「ちょっと、落ち着いてください。さおりさん、 一体何があったんです?」
「それが・・・今部屋に向かったら、床にこんな物が・・・」
さおりさんの手には、赤いマジックで殴り書かれていた 一枚の紙切れがあった。
僕はそれを読む。

『こんや アルファ が もどってくる』

「え・・・!?」
「アルファ?・・・一体何のことだろ?」
そう言って振り返ると、ときなは真っ青な顔でその紙切れを擬視している。
「どうしたんだい、ときな?」
「え・・・?ううん、何でもないの・・・気にしないで」
何でもないはずがない・・・彼女の顔を見れば一目瞭然だ。
「どういう意味なんでしょうかね?」
工藤さんが誰にともなくつぶやく。
「分からないけど・・・何か気持ち悪いよね さおり」
藍子さんが、同意を求めるように言うと、他の2人もうんうんと肯く。
「誰かのいたずら・・・だと思いますけどね」
気にしないようにオーナーは笑いとばしていた。

「オーナー、いたずらとは限りませんよ」
二階の階段を降りて来た結城拓馬さんが、その紙を何気に取り替えす。
彼は不適な笑みでその紙を見つめた。
「拓馬くん・・・何故そんな事が言えるんだね?」
「部屋を間違えたかもしれませんよ」
「間違えた?」
「ええ、誰か別の人に対するメッセージなのかもしれない」
「別の人って・・・一体誰に?」
藍子さんが不安そうに聞く。
「隣の部屋か、あるいは向かいか分からないけど、少なくとも俺宛てじゃないね・・・
まあ、何にしても、気にしなくていい事だと思いますよ」
結城さんが安心させるように、女の子達の方を向いて微笑んだ。

「ねえ、あたし部屋に行ってくるから、雄也はここにいてよ」
「あ、ああ・・・でも、ときな・・・」
僕が答えるのも聞かず、彼女は階段を上って二階へ消えた。
誰もときなの異常な様子に気づいてなかったらしい

しかし、一体誰が・・・何の目的で?
僕はとりあえず、彼女達にあることを聞いた。
「ねえねえ、藍子さん 君たちの部屋の近くって 誰が泊まってるの?」
「え・・・近く? さあ、分かんないな。別に気にも留めてなかったし・・・」
「そうですか・・・」
まあいいか・・・・どうせ、僕らには関係ないことだ。
きっと、ときなは何か用事があったんだろう
僕は無理にそう考えていた。

けれど・・・彼女の見せたあの表情が、どうしても忘れられなかった。

「紅茶がはいりましたよ」
そのとき工藤さんの愛人である 山下杏子さんが皆の前にカップを置いて
ブランディの香りのする紅茶をついでくれた。
二十代後半の大人の女性で、工藤オーナーとは10才ほど離れてるように思えた。

食堂からさきほどの若いカップル 喜久夫さんと七々美さんがやってきた。
「こんばんは〜」
「いい香だね 何て紅茶なの?」
「あ、お2人さん お待ちしてましたー こちらはミシシッピー・・・」
ということで、ムードは一気に盛り上がった。
二階からあのパンク風の青年 野々村大地さんや、
サングラスをかけた滝沢峻さんも降りて来て、ずいぶんと賑やかになる。

「TVつけてもいい?」
あゆみさんが、リモコンを取る。
丁度その頃、年末に放送される「ミュージック○テーションスペシャル」が始まっていたからだ。
登場したアーティストは全部で25組ほど。
いつもの様にアイドル系から実力派アーティストまで幅広く出演している。
それをチェックする彼女たち
「TRF・・・懐かしいな〜」
「それを言ったら TMネットワークもでしょう」
「やっぱ歌は、実力派に限るよね」
「ルナシーも出るみたいよ」

僕らも魅入られるように、ただモニターを眺めていた。
「えーと、次に歌うのは・・・」
新曲を初披露したアーティストは何組かあった。
アイドルグループの歌を終えると
CMで、ラルクの新曲「NEO UNIVERSE」が流れていた
美しいサビメロが印象的で、新世紀の始まりを思わせる素敵な歌詞
虹色の光が永遠に流れていく映像がとても奇麗だった
「CDの発売が待ち遠しいな〜!」
女の子達にも大人気だ

「ねえねえ、ときなはアーティスト、誰が好きなの?」
「誰って、決まってるじゃない!彼よ・・・」
そう言って番組表のある名前に指を刺した
『Gackt・・・』
そうか・・・思い出した。以前からときなは、Gacktをよく聞いてたっけ
「今日新曲を披露するそうよ」
「何て曲なの?」
「”12月の Lovesong”よ」
「そうか〜 楽しみだね♪」
数分後、僕らはついに
新曲”12月の Love song”を聞くことになる

「と、ときな・・・これって・・・すごいよ!」
「何て綺麗なの・・・」
それは、一度聞いたものを虜にするのに充分な美しい旋律だった。
冬の恋人達を包み込むような優しい歌詞
バイオンリンの音色と透明感溢れる歌声に引き込まれていった。
何より、サビメロの歌詞は忘れられなかった
ストレートで 優しくて・・・
心が洗われていく
そんな感覚をいつまでも覚えていた。

その後、彼女から耳を疑うようなビックニュースを聞かされた
「ときな・・・そ、それ本当なの!?」

1999年 12月31日の夜
横浜スタジアムで
Gacktのカウントダウンライブが始まる

「あなたの分のチケットも ちゃーんと買っておいてあげたから・・・」

「ときな、ありがとう!・・・これ、夢じゃないんだよね?」

「もちろんよ、時間大丈夫?」

「ああ、僕と一緒に行こう・・・」


まるで幻のような出来事だった


そうさ 僕らの時代もまだ始まったばかりなのかもしれない


ミレ二アムまで、あと二日


ついに来たんだな・・・


年を明けたら 何をしようかな?


いつまでも君と一緒に 過ごせたらいいのに・・・

談話室は思い思いの雑談で賑やかになる。
「オーナー、ホットウィスキーお願いします 2人分ね」
「サンドラって可愛いですよね〜 俺、大ファンなんですよ」
「私はキアヌが好きだな」
「やっぱ洋楽は、マリーネにしようか?」
という具合に・・・

ぼくは、ときなと一緒にいられるだけで、とても愉快な時間を過ごすことが出来た。
オーナーはもちろん、木村さんや瑞穂さん、そして結城さんも、皆親切で楽しい人達ばかりだった。
ふと気がついた時には、もう夜の10時。
体も疲れてるし、明日にでも備えなければならない。
僕とときなが立ち上がると、ささやかな集まりはお開きとなった。
「おやすみなさい」
「それじゃ、また明日」
「ゆっくり休んでくださいね」
そして、皆それぞれの部屋へ向かう。

ときなは上の空みたいな様子で、さっさと自分の部屋へ戻ろうとしていた。

ただ一つ 心配なことがあった。

あの時 彼女・・・
何かが気にかかって仕方がないように見えた。

あの手紙が気になっているのだろうか?
早くしないとドアが閉まる

悩んだ末に 僕は声をかけようとた

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