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『DARK ANGAL』
第1話 「 夢よりも素敵な・・・ 」
1999年 12月 30日
白馬村 スキー場 PM:2:15
ゲレンデは 何処までも 優しいメロディに包まれていた
淡く彩られた恋人達の笑い声 舞い上がる粉雪
そんな真っ白な世界を 僕は滑り降りてきた
あの日 出会った少女と共に
「雄也!はやくおいでよ」
「待ってよ、ときな〜!」
ようやくコースを終え、ターンすると
しなやかな髪を靡かせた、ときなが話しかけてきた。
「雄也ったら、意外と上達はやいのね」
穏やかな日差しに照らされた彼女の姿が、視界にはいりこんでくる
優しく微笑むときながとても眩しかった
「ありがとう けれど君の腕前には叶わないな」僕はときなを見つめた
「ふふっ、まだまだ活けるよね?」
ゴーグルを外したときなが、挑戦的な笑みを浮かべている
冗談まじりに僕は
「もちろん、君と一緒なら何処だって滑れるさ」
「ふふっ、それじゃとっておきのコースを紹介するよ」
ときなはいつもとは違うリフトに向かった
でも、このルートは・・・
僕は不安を覚えた。
「ときな、そのコースだけは遠慮したいんだけど・・・」
「あれ?さっき”何処でも滑れる”って雄也言わなかった?」
「はい」
まずった・・・
こりゃ、ハードな特訓になりそうだな〜
上級コースは始めてじゃない
むしろ滑らなければ気が済まないほうだ。
この18年 さまざまなスキー場を訪れては いい気になってたけど
考えを改めなければいけないなと思った。
何故なら、このコースは普通じゃない・・・ むしろ断崖と言ったほうが正確だろう
普通の人間が滑れるような斜面にはとても思えなかった。
しかし、ここはときなのために滑るしかない
作動ベルが鳴り響き、僕らはリフトに乗り込んだ
楽しみで待ちきれない様子のときな。
さっきからスピーカーを伝って、イエモンの「Brilliant World」
L’Arc−enーCielの「flower」Gacktの「君のためにできること」など、
今年ヒットしたシングルが続々と流れいる。
「やっぱりスキー場だと、聴きなれた歌も雰囲気が違ってくるよねー」
ときなの言う通りだ
山岳に覆われたゲレンデは、音の流れを幻想的に響かせてくれる。
それは、スキー場に行った人なら誰でも経験することだろう
発着地点にたどり着くと 僕は鮮やかな景色に眼を奪われた
雪に覆われた広大な山々が永遠と続き はるか彼方に白く染まった街並みが見渡される。
こんな奇麗な景色は見たことがない
「しかし、ちょっと高すぎないかな?」
「大丈夫 雄也なら出来るよ」
そんな戸惑っている僕に、ときなは優しく微笑んでくれた
「うん、あまり期待しないほうがいいと思うけど頑張ってみるよ!」
ゴーサインと同時に僕は飛び出した、限りなく続く雪原の彼方に
一瞬で重力に飲み込まれ、僕は必死でボーゲンを繰り返す
何とかなるな・・・と、思ったのもつかの間
風景が一変した
な、なんて急なコースだ・・・!
加速する雪原は思った異常に足場が悪く、スピードの調整が難しい
コースの途中、当たり前のように何本もの木が生えていて、激突したらただじゃすまない。
もっともそれを避けて楽しむのが普通なんだけどね
サイドの林を抜けると、ようやく何もない斜面に出た。
しかし・・・
「減速が出来ない・・・!?」
「ボーゲンを忘れないで!!しっかりストックを握って!」
わかってる!
しかし、うまくバランスをとることが出来ない
「うわっ・・・!?」
「危ない!そっちは崖よ・・・ スピード落として!」
何をしているんだ僕は!?
ときなが見ているってのに・・・!
今までの経験を生かせば 何処でも楽しんでいけたはずだ
恐怖など感じるはずがない この程度のことでは!
「行け!」
左側のコースに体制を立て直せたのは、まさに紙一重だった。
やった・・・やったぞ!・・・成功だ!
これなら どんなコースでも!
僕はそっと笑みを浮かべた
前方のフェンスを避けると、ときなが隣まで滑ってきて
「すごいよ、雄也! あなたけっこう出来るじゃない 」
「ああ、君にお礼を言っておかないとな」
我ながら嬉しかったりする ときなが喜んでくれたんだ・・・
やがて曲がり角をすぎ、見渡しの良い急斜面にはいると
そこから下は雪雲がかかっていて、地上を確認することが出来なかった
「先に行ってるよ!」
ときなが叫ぶと、たちまち真っ白な世界へ飛び込んでいった。
急斜面を一気に滑り降りて雪雲を通過すると
さっきの穏やかさは消え、猛烈な地吹雪で視界が塞がれた
彼女の姿はもう見えない。
スピードを落としはじめると、緩やかな斜面になり前方に数人のスキー客が見えた。
「もう終点か・・・意外と早かったな」
ときなは待ちかねたかのように手を振っていた
「大したもんだよ君は。こんなコースを当たり前のようにこなすんだからね」
僕は正直な気持ちを言った
「なーに言ってんの、これくらい楽勝よ♪」
「そうだね 僕も君みたいに・・・」
「え?」
「いや、何でもないよ それより・・・」
PM 3:38
スキー客を乗せたロープウェイが上空を通り過ぎる
食堂を後にした僕らが、帰り際にゲレンデを歩いていたとき
L’Arc−EnーCielの『風にきえないで』を耳にした
今年ヒットしたシングルのなかでも、一番好きな曲だ。
―――雪がふりそそいだ空に―――
―――冬の鼓動が聞こえている―――
――――もう 怖がらなくてでいいよ――― 僕はノックしつづけている――――
――AH 何もかもすべて 置いておいで 深い眠りの向こう側へ 今のうちに――
Ah looking’for you
――――何処までも続く世界から 連れ出せたなら――――
kissin’your mind
――――淡く揺られ空の果てまで たどり着きそう――――
―――街中に溢れそうな この思い焦がれて――――
―――息も出来ないほど 君にこわれている―――
―――もういいよ もういいよ I’ m always knocking on yourdo ―――
―――もういいよ もういいよ I’ m always knocking on・・・ ―――
「うーん、いつ聞いても良い歌だな〜」
鮮やかに赤く染められた空が、ときなの瞳に映り込んで幻想的な雰囲気を漂わせている
僕はそんなときなにずっと魅せられていたのかもしれない
君と出会ったあの日から・・・ずっと
「そろそろ帰ろうか 風も強くなってきたし・・・」
何時の間にか夕焼けは消え、薄暗い雲が空を覆っていた
「そうね〜 あ、ちょっと待ってて・・・」
ときなは何処かに手を振ると、駐車場から一台のシルバーワゴンが動き出し
僕等がいる道路の目の前に止まった。
「お2人さん スキーはどうだった?」
運転席にいた若い青年が、楽しそうに声をかける。
「さあ乗って 雄也」
「宜しくお願いします」
一番後ろの座席に荷物をほうり込むと、僕らは乗り込んだ
「この人は私の幼なじみで、結城拓馬さん。このシーズンになると、
いつもこうして遊びに来てるんだ。」
「どうも始めまして」
ぼくはぺコンと頭を下げた。
「宜しく。 君が雄也くんだね? 白馬村は始めてなんだって?」
結城さんは車を発進させながら、ルームミラー越しに笑いかける
どうやら、ときなは僕のことをある程度彼に話してたようだ。
「ええ、そうなんです」
「あのコースを慣れるのは大変だよ。けど君の表情からすると、絶好調って感じかな?」
「はい!確かに初心者にとっては危険かもしれないけど、一回滑ればもう病み付きですよ あのコースは」
「それは良かった 才能あると思うよ君は。俺なんか恐くて滑れなかったんだからさ〜」
「アハハハハ そんなことないですよ〜 まだまだです」
僕は声をあげて笑った。
「着いたよ お2人さん」車を停車させ、結城さんが言った。
「すごい!ここが・・・」
「さ、はやく降りよう」
ときなの叔父さんが経営するペンション『スノウダンス』は
ログキャビン風の外観と白を基準にした内装のオシャレなペンションだ。
料理メニューも多国籍で多彩で、その上、満足のいくものばかり。
雑誌にも紹介され、非常に人気があるらしい
時刻は5:35分
日はとっぷりと暮れ 辺りには静に雪がふりそそいでいた
「雄也の言う通り、はやめに来といて良かったね」
「でしょ♪」
ピンポーン
「はーい!」
玄関先で、アルバイトの小早川瑞穂さんが優しく出迎えてくれた
朱色のロングヘアーが似合う美人タイプで、僕より一つ年上の大学生だ。
「お帰り お2人さん 」
「久しぶりね〜 瑞穂ちゃん」
「ど、どうもお世話になります」
「こちらこそ宜しくね 雄也くん」僕は思わずドギマギした。
奇麗なひとだな・・・
「そう、彼女が好みなのね?」
ドン!!
ときなにおもいっきり足を踏まれてしまった
「ち、違うってときな!そんなつもりで見てたわけじゃ・・・」
「どうかなー?」
「フフッ 仲が良いわね」
瑞穂さんはクスクスと笑っていた。
「ペンション『ホワイトエリア』にようこそ」
そのとき、食堂を出たオーナーの工藤さんがフロントまで歩いてきた
「叔父さん 元気でしたか?」
「お、ときなちゃんじゃないか!見間違えたよー
しばらく会わないうちに、こんな奇麗な女性に変身しちゃうなんて!」
「そう言う叔父さんは、相変わらず変わってないけどね」
「ははは、冗談キツイな〜」
工藤さんはかるく笑っていた。
「瑞穂ちゃん。木村くんを呼んできてくれ」
「はい」
瑞穂さんがフロントの電話を何処かにかけると
もう一人のアルバイト、木村良介さんが廊下から駆け出してきた。
年齢も若く 長髪を後ろに結ったスタイルがトレードマークだ。
ルックスも瑞穂さんと良い勝負かもしれない。
「瑞穂さん、お呼びで?」
「手伝って」
「瑞穂ちゃん 私も手伝いましょうか?」ときなはそう言ったが
「そんな、ときなちゃんはお客さんなんだから」
「そうだよ〜 手伝わせたりしたら叔父さんと叔母さんに怒られちゃうよ(苦笑」と、良介さん。
「いいんですってば 少しでも良いとこを見せて宿泊代を浮かせたいしね」
それが狙いだったんですね、ときなちゃん(苦笑
「さあさあ、どうぞ中へ じきに夕飯にしますから」
「そりゃありがたい あやうく飢え死にしそうだったんですよ」
結城さんの軽いジョークが聞こえてくる。
意外と陽気な人なんだな〜(笑
夕食まで1時間ほど
スキーの疲労で大分体がこたえていたようだ。
「さっそく部屋に行って休もうよ♪雄也」
「そうだね」
僕とときなの部屋は残念なことに、というか当然というべきか別々にとってある。
一旦部屋に戻って着替えると玄関脇の談話室で落ち合った。
そこで僕らは色んな人たちに出会った。
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