めぐり、ひとひら。チャート
右端の欄内に攻略するキャラ名が記載してある時だけ、右側の「キャラ別選択肢」を選んでください。
その他、特に指定がない場合は、全て左側の「共通選択肢」を選んでください。
ルートによっては出てこない選択肢がありますが、無視してそのまま下に進んでもらえばOKです。
全部左側の「共通選択肢」を選んでいけばノーマルエンドですが、そんな面倒なことをしなくても、
どのキャラでも最後の「キャラ別選択肢」だけわざと間違えば、簡単に辿り着けます。
大まかですが、チャートでは「キャラ別選択肢」に↓のような色分けがしてあります。
麻生こま | 燕子花こりす | 結乃由姫命 | 春野千草 | 咒吠君鏡架 |
たまにこんなかたち↓で複数のキャラクターが対応した「キャラ別選択肢」があるので、注意してください。
「えっ……由ちゃんて、鬼さんなの?」 「阿呆かっ。こんなに愛くるしい鬼が何処 におるっ!?」 |
こ ま |
由 |
共通選択肢 | キャラ別選択肢 | |
第一章 | ||
「ならば良い。主従の関係は、はっきりと させねばいかんからの」 そう言って、由は納得したかのように、 うんうんと頷いた。 |
「ならば、ひざまずくが良い。頭が高い ぞ、愚民」 由は踏ん反り返りながら、ふん、と高飛 車にそう言った。 |
由 |
――だから。 こまがここに居てくれるなら、僕もまた ここに居る。 |
――どうしてだろう? どうしてお兄ちゃん、そんなに心配そう なお顔をしてるの? |
こ ま |
……そうだ。 綺麗好きなこまは、掃除が好きだっ たっけ……。 |
――なんだろう。 いつもと違う、って……こま、わかって るのに。 |
こ ま |
「あ、そうじゃ」 「えっ」 こまの後ろをふわふわと飛んでいた由が、 振り向いて僕に尋ねた。 |
にこにこと手を振って、こまは石段の 下に姿を消した。 |
こ ま |
「……一人で屋敷の掃除でもしてお るのかのぅ。とんでもないことになっておら なければ良いが」 |
「もしや……こまの事を心配して、わら わ達の後を追いかけてきてたのではないか や?」 |
こ ま |
「ほほう……なかなかではないか」 そう言っていた由の表情には、喜びと同 時に少し陰りが見えたように思えた。 |
「ごめんね、お兄ちゃん……本当に。迷 惑ばっかりかけて」 何度も何度も繰り返していた言葉を、こ まはもう一度繰り返した。 |
こ ま |
「……おかえり、こま」 ごく自然に、その言葉が口をついて出た。 |
――その時、鈴の音が響いた。 | こ り す |
「“鬼”とは、この国においては角を 生やした怪物を指すが、大陸では……そう じゃの、この国で言う“幽霊”に当たる存 在じゃ」 |
「えっ……由ちゃんて、鬼さんなの?」 「阿呆かっ。こんなに愛くるしい鬼が何処 におるっ!?」 |
こ ま |
由 | ||
「わぁ……由ちゃん、物知りなんだね」 こまは素直に感心しているようだった。 |
「……いったい、何のお話しをなさっ ていますの?」 その時、どことなく憤った口調で、こり すが声を発した。 |
こ り す |
「どうしてですの? お兄様」 「……それは、だから……」 こりすはじっと僕を見つめていた。 |
「……こまさんですのね?」 「っ……」 ずばりと核心を言い当てられて、僕は内 心の動揺を隠せなかった。 |
こ り す |
「……いや、何でもないんだ」 | 「なんで……あんな事を?」 | こ り す |
「あっ、お兄ちゃん。ここにいたんだね」 その時、こまが嬉しそうに走ってきた。 |
「とはいえ、これから先、ずっとこれで は流石に……。仕方ありませんわね。わた くしが何とか致しましょう」 |
こ り す |
「あ、あれっ? でも、お兄ちゃん聞い てない? 由ちゃんが教えに行ってくれるっ て言うから、こま……」 |
「……お兄様もご一緒されます?」 「えっ!?」 唐突に、こりすがとんでもない事を言い 出した。 |
こ り す |
咄嗟だった。 僕は後退り、そして慌てて横合いに身を 投げた。 |
「こま……!」 ――無我夢中だった。 僕は咄嗟に、こまを突き飛ばしていた。 |
こ ま |
「やっ……」 ――あの日。 恐らくは、僕の時間が止まってしまった 日。 |
あれ……前にも、こんな事があったよ うな気がする。 ……いつだったっけ? |
こ ま |
「……こりす」 僕は呆気に取られたまま、傍にいたこり すに問いかけた。 |
「おっ……お兄様!」 呆気に取られたままの僕の耳に、こりす の心配そうな声が届いた。 |
こ り す |
「……なんでまた?」 とは僕も訊かなかったし、こりすも言う 必要がなかったのだろう。 |
「……なんでまた?」 急な申し出に僕は問いかけた。 |
こ り す |
「ふふっ……こまさんは面白いですわね」 そんなこまの様子を、微笑ましそうにこ りすが見やった。 |
「……でも、なんだか二人とも良い 感じだね。」 「えっ?」 |
こ り す |
「ねえ、由。一つ気になるんだけど」 「なんじゃ?」 「どうして由がやらないんだい? 女神な んじゃ?」 |
「がんばろうね? お兄ちゃん」 | こ ま |
「でも……由。あれはいったい何だった んだい?」 前を行く由に問いかけた。 |
――前を行く由の背中を見つめな がら、こまは思い出していた。 |
こ ま |
僕は、立っているのに何故か重い腰を 上げる感覚で、二人の方へと向かった。 |
「座りましょう? お兄様」 そのまま動こうとしない僕を見て、こり すが言った。 |
こ り す |
「そっ……その、君は……」 「うふふ〜、千草でいいですよ」 |
「こっちは……燕子花こりす」 未だ動かないこりすを指して、僕はこり すを紹介した。 |
こ り す |
「こま、こんなところで待っておっても 仕方なかろう。もう屋敷に入るのじゃ」 由は暇を持て余している様子だった。 |
「……ただいまですわ、お二人とも」 その時、こりすが僕らの隠れている場所 を隠すように、二人へと歩み寄って行った。 |
こ り す |
「今、千草さんはどちらに?」 こりすは僕の気持ちを知ってか知らずか、 気持ちを切り替えるように微笑んだ。 |
「……何だと?」 「えっ?」 「何だと思ったんだい?」 |
こ り す |
「……ど、どこかお出かけ?」 「う、うん……。ちょっと……ね」 |
「……ごめん。こま」 「え?」 唐突にそんなことを言った僕に驚いて、こ まは不思議そうな表情を見せた。 |
こ ま |
「ま、そう落ち込むなよ。いつかは見つ かるかもしれねーじゃん? そう焦んなく てもさ」 翁は慰めるようにそう言った。 |
――僕は少し考え、 「それでも、“屋敷”を構えてたくら いの人物だったら限定出来るかも知れない。 |
千 草 |
(……こま……) 青く済んだキャンバスに、彼女の顔が浮 かぶ。 |
「……こまさん達も、今頃はこの山 の何処かにいらっしゃるんでしょうね」 そんな事を漠然と考えていたら、こりす も気になったのだろうか―― |
こ り す |
「……あのですね、さっきから気に なってたんですけど」 言いながら、千草さんは食い入るように じっと僕を見つめている。 |
「だっ……だめっ!」 「こっ、こまっ!?」 その時、由の前にこまが立ちはだかった。 |
こ ま |
「ふふっ……」 「むっ。なんじゃお主っ!?」 僕を追いかけようとする由の前に、こり すが立ちはだかった。 |
こ り す |
|
「お、お兄ちゃん……」 そこへ、少し遅れてこまがやってきた。 |
「こりす……」 石段の向こうから、こりすが姿を現した。 |
こ り す |
第二章 | ||
ぽんぽん、と僕は彼の肩を叩いて、そ のまま無言で退出した。 |
「ご主人様〜? この方、どうして泣い てるんですか〜?」 そんな倒錯の場面を見て、千草さんは不 思議そうに首を捻った。 |
千 草 |
「その大麻を振ってみるだけでも、効果 はあるんじゃないのかな? 清めの道具な んだから、それ。」 ふと思いつき、僕は提案した。 |
――素朴な疑問なんだけど。 「……由って、神様なんだよね?」 |
由 |
「やってみよう? 由ちゃん。こま、頑 張るから」 すると、今度はこまが由を勇気づけるよ うに、笑顔を見せた。 |
「こんな玄関先でとやかく言っていても 仕方ないでしょう? 身体も冷えてきまし たし……とにかく、やってみたらどうなん ですの?」 |
こ り す |
「今更、本殿に物を置くのが不謹慎だ…… 何て言わないよね?」 「ん? お、おお……愚民ではないかや。 驚かすでない」 |
邪魔をするのも悪いと思い、僕はしば らく立ち尽くしていた。 由は一向に、僕に気付く様子もない。 |
由 |
「ほほーう。良い匂いじゃのー」 そこへ匂いに誘われたかのように、本殿 に残っていた由がぱたぱたとやって来た。 |
「しかし……どうやったらこんなお味 が出せるのかしら……素材自体の味は十二 分に活かされているのに、必ず一味隠され ていて……見事な調和が……」 |
こ り す |
「もう解決した問題なら、そんなに気に しなくても大丈夫なんじゃないかな?」 「……けど……」 |
「……わかってるよ。彼氏と上手く いってないとか……そういう話だったんだ よね?」 「え? な、なんで……」 |
こ ま |
誰が言いだしたのか。 ちょっとだけ苦笑してしまうけど、今で はこの神社を訪れてくる人たちに、こまは 『こまさま』と呼ばれている。 |
突然の事だったけれど、こりすも事態 を理解してくれているのだろう、文句一つ 言わずによく手伝ってくれていた。 |
こ り す |
僕はとりあえず、右側の引き出しから 服を取り出した。 僅かに差し込む月明かりの下で見てみる と、それは…………。 |
僕は左側の引き出しから、最初につか んだ服を引っ張り出した。 襖の辺りで確認すると、それは…………。 |
|
「……それにしても、随分と遅いで すわね。あの方」 僕がみんなに説明している間、彼女は あの部屋で着替えをしているはずだった。 |
「……別に、嘘でも本当でも宜しい じゃありませんの」 その時、こりすがさらりと言い出した。 |
こ り す |
「あ……た、多分、他人の空似じゃない かな。人違いだよ」 上手いフォローも思いつかず、僕はそう 言った。 |
「……いったい、どういう生活を送っ てこられたのかしらね。あの方」 こりすなりの気の利かせ方だったのだろ うか。 |
こ り す |
「確かに古いとは思ってたけど……そん なに昔からって考えると、この屋敷、逆に 綺麗な形で残り過ぎてるんじゃ……」 |
「さて。わらわも次の御祓いに備えて、 少し休むとしようかの。むふふ。むふふ。 むふふふふ……」 |
由 |
「よう」 「……やぁ……」 僕は肩で息をしたまま、玄関の扉を開いた。 |
「おっと……」 と―― 角から足音もなく出てきた鏡架さんと、 ぶつかりそうになった。 |
鏡 架 |
「いや、違う違う。僕らは……その、勝 手にここに住み着いてるんで……」 「ああ。だから?」 翁はきょとんとした顔をする。」 |
「えっ。ここでお祭り?」 きょとんとした、予想通りと言えば予想 通りの反応が返ってきたのは、台所へと向 かうこまを見つけた時。 |
こ ま |
「…………」 「あっ、鏡架さん」 そこへ鏡架さんがやって来た。 |
「紫縁祭……」 ――僕の背後から届いた、歌うように涼 やかな声。 |
こ り す |
由 | ||
「時間を間違えてるのかもしれないね。 僕、ちょっと呼びに行ってくるよ」 千草さんの様子が見ていられなくて、僕 はそう言って立ち上がった。 |
「こっ……こま、もう一回呼びに行って くるねっ?」 いたたまれなくなったのだろうか、こま は立ち上がった。 |
こ ま |
「……でも、まいったな……とにか く、謝ってくるよ」 |
「じゃあ、こま……鏡架さんに謝ってく るね」 |
こ ま |
(……あれ?) ――ふと気付くと、扉の隙間からこちら を覗いている鏡架さんの姿があった。 |
「…………」 こりすはじっと僕を見ていた。 僕が何を考えているのか、お見通しだと 言わんばかりに。 |
こ り す |
その日は、そんな風にして夜が更けていった。 | ……温泉にでも浸かって、頭をすっ きりとさせるとしよう。 自分の部屋に戻った僕は、入浴の準備を して温泉に向かった。 |
千 草 |
僕はこまの部屋へと向かった。 もうじき御祓いの予約が入っている時間に なるから、今は自分の部屋で用意をしてい る筈だ。 |
「しかし、本当……こりすは周りをよく 見てるね」 多分、僕が鈍感っていうのもあるだろうけど。 |
こ り す |
「……ごめんね、お兄ちゃん」 「え?」 |
「あら。紫縁祭って血祭りの事でしたの?」 その時、急に扉のところに姿を見せたこ りすが、しれっと言った。 |
こ り す |
色々と、考える事が沢山あって―― 僕はそのまま、部屋を出て行った。 |
「……なんつーか、もしかしたら……」 翁の呟きが耳に入り、僕は振り向いた。 |
こ ま |
千草さんみたいに、壁抜けが出来れば いいんだけど。 「お呼びですか〜?」 「わっ」 |
「こま……いいかい?」 僕は声をかけながら、扉を開いた。 |
こ ま |
「む? なんじゃ愚民、いたのか。まさ かお主までも、巫女舞いに挑戦、などと言 い出す訳ではあるまいな?」 |
「……でもやっぱり、お兄ちゃんに はかなわないなあ……」 「え?」 |
こ ま |
――疲れていたのだろうか。 その日は、夕食を摂った後に自分の部屋 に戻って、いつの間にか眠ってしまってい た。 |
僕は温泉に浸かりながら、辺りをきょ ろきょろとうかがっていた。 その姿がない事に気づき、胸を撫で下ろ す。 |
千 草 |
「……や、やー!」 ――突然、こまは大声を上げたかと思う と、千草さんのお盆に向かって両手を向け た。 |
「――式神ですわ」 落ち着き払ってこりすが呟いた。 |
こ り す |
「なんじゃあやつは。愛想のない……」 「きょ、鏡架さん、きっと照れ屋さんなん だよ。悪気があってやってる訳じゃないよ」 |
僕は少し気になって、鏡架さんの後を 追った。 |
鏡 架 |
「でも、幾らなんでも。本人達を無視し て、そんな勝手な事をするなんて」 考えつつ、僕はそんな言葉を述べた。 |
「じゃあもしかして、翁の診療所に担ぎ 込まれた黒ずくめの男たちって……」 |
こ り す |
「前から思ってたんだけどさ。親父さん、 どうもこりすが僕との婚約を望んでるって、 勘違いしてるんじゃないかな?」 |
「どうかな。もし本当に、そんな強引に 僕と結婚なんかさせたら、こりすに嫌われ るって……あの親父さんなら、考えるんじゃ ないかな?」 |
こ り す |
僕はそのまま、しばらく千草さんの様 子を見ていた。 彼女は張り切って掃除している。 |
「あら、お兄様。ご休憩ですの?」 一呼吸入れようと居間へやってきた僕を、 こりすがにこやかに出迎えてくれた。 |
こ り す |
「いや、その服は……」 「……あ、あのね。最近、あんまり着れな かったから……」 そう言って、彼女はうつむいた。 |
「何だか……元気がないよ? どうかし たのかい?」 「えっ? そ、そんな事ないよ。 こま、い つも通りだよ」 |
こ ま |
「じゃあ、案内してくれてありがとう、こま。 ちょっと行ってくるよ」 そう言って、僕は町へと向かった。 |
「あっ、こまさまだー」 橋を越えて公園に差しかかった時、こま の周りに集まってくる子供たちがいた。 |
こ ま |
「あれ? でもお兄ちゃん、千草さんの 画を描いてなかった……? まだ、確か途 中で……」 |
――僕が描くものは、きっと、こ の町に来た時から決まっていたから。 少しだけ遠回りをして、その事に気付く 事が出来た。 |
こ ま |
「……わかってるんだ。こまに逢わ せてくれたのは、由なのに。悪気があって やったんじゃないって。ただ、少しカッと なっちゃって……」 |
「……なんで」 ――心配なのは、彼女の方だったのに。 彼女が違う誰かの心配をする。 |
こ ま |
「御神体、か……」 胸の奥から雫れ出てくるような思いで、 僕はその言葉を口にした。 |
「お……おほんっ。その、あー、 なんじゃ」 由は急に咳払いをして、少し緊張した面 持ちを見せた。 |
由 |
「あ、いや。誰が置いていったのかもわ からないものを御神体にするなんて、随分 と思い切った事をするんだな、って思って」 |
「いや。だから、あの御神体は由に似て ないのかと思って」 「む?」 |
由 |
何か思いつめたような表情をして、こ りすは水面を見つめていた。 |
「あの時、お兄様をお守りする事ができ なかった……」 滝の瀑声に掻き消されたけれど、こりす が何かを呟いた。 |
こ り す |
「むう……」 由はきょろきょろと辺りを見回していた。 「――どなたかお捜しですの?」 |
僕はこまの姿を探しながら、境内を歩 いていた。 |
こ ま |
でも――何でだろう。 あの時、一瞬だけ、鍛冶場の前で眩暈を 覚えた時。 脳裏を掠めた影があったんだ。 |
「そう言えば、どこかお主に似てたの」 と、由は思い出したように笑った。 |
由 |
――帰ってこなかった、千草さん のご主人様って―― |
千 草 |
|
「……19回目」 「え?」 |
「巫女舞って、確か……天鈿女命の歌舞 が起源でしたわね」 「天鈿女命?」 |
こ り す |
由 | ||
「で……こまちゃんの調子、どう?」 翁は遠慮がちに尋ねた。 |
「ああ。そういやさっき、出店の辺りで こりすちゃん見かけたぜ」 翁は思い出したように言った。 |
こ り す |
夜になるにつれて、酔いが回って来た 者達もいるのだろう。 開かれた境内は、昼間とはまた違う喧噪 に包まれていた。 |
「何も、こんな日にまで……」 こりすの不快そうな声が、風にさらわれ ていく。 |
こ り す |
――今日ばかりは部屋の主も戻っ ては来ないであろう、ゆかり神社の本殿。 祭りに集まった多くの人々の中央、開くは ずのない扉の中に人影があった。 |
由 | |
(……やっぱり、自信がなくなっ てきた) 「あ……あの、お兄様?」 |
例えば三歳児が描いた画を、母親が見 たら……。 それはきっと、“良い画”になるだろう。 |
|
僕は一度玄関の中に戻り、傘立てから 傘を取り出すと、、すぐに鏡架さんの後を追っ た。 |
「あっ……」 僕の後を追ってきたらしきこまは、同じ ように鏡架さんが傘を差してない事に気付 いたようだ。 |
こ ま |
「いっ、いや! いいよ。僕が行くか らっ!」 僕は慌てて立ち上がり、素早く襖を開い た。 |
「いいって、そんな……」 「……でも……」 「こんな時くらい、僕がやるから。すぐに 戻ってくるから、ちょっとだけ待ってて」 |
こ ま |
「……昔は、よく……お兄ちゃんが 冷ましてくれたね」 「え?」 |
「ね、お兄ちゃん……約束、覚えてる?」 「約束?」 |
こ ま |
それから大きく深呼吸して、僕は居間 へと向かった。 |
(……あれ?) しかし、こまはしばらく進むと急に立ち 止まった。 |
こ ま |
僕は隣の由に問いかけた。 | そう言った矢先、こまが戻ってきた。 | こ ま |
「どうせ、部屋に籠って悪巧みをしてい るに決まっておる。ほっとけほっとけ」と、 口の中いっぱいにこりすの分を詰め込んで 言っているのは、由。 |
「……じゃあ、みんなは先に 食べてなよ。僕、ちょっとこりすを呼びに行って くるからさ」 僕はそう言って、居間を後にした。 |
こ り す |
僕は、こまへと駆け寄った。 飛び出していったこりすの事が、気にな らなかった訳じゃないけど……。 |
僕はこりすを追った。 こまの事が、気にならなかった訳じゃな いけど―― |
こ り す |
「こまさんは怒ってくださらないから。何 でも受け入れて……微笑んでしまうから。」 |
「……辛いのは、あんな事を言った わたくしを怒っているのが、こまさんでは なく……」 |
こ り す |
第三章 | ||
「…………」 僕は、何かを言おうと思って……けれど、 何も思いつかずに口をつぐんだ。 |
「……こまさんを見ておられなくて ……宜しいんですの?」 気遣うような言い方で、こりすが訊いた。 |
こ ま |
こ り す |
||
言わなくちゃいけない事もあるだろう に。 僕はただ、口をつぐんだままで。 |
「……いや。僕の方こそごめん。気 遣ってくれてるって、わかってるのに」 |
こ り す |
「やめるんだ!」 僕は思わず、大声を出していた。 |
――その眼差しに、僕が何を言え ただろう。 |
こ り す |
(……あれ) ふと目に止まったのは、床に乱雑に投げ 捨てられていた一冊のスケッチブック。 |
「ほりゃ!」 「わっ!」 ――目の前に、突然、黒い塊がぶつかっ た。 |
由 |
「……その。結婚式の……ことなんで すけれど……」 言い出しにくそうに、こりすが呟いた。 |
「……行こう」 僕はもう一度、こりすの手を引っ張った。 |
こ り す |
「いや……やっぱり僕は。うん。後でで いいから」 |
「……い、いいですわよ……お兄様。 一緒に……入りましょう……?」 「え。こりす……」 |
こ り す |
「……あのさ、由。主って……」 「…………」 「……由……」 |
「……由、ごめん」 「えっ?」 僕の言葉に、由は殊の外驚いた顔を見せ た。 |
由 |
「でも、由……どうして嘘なんか?」 「……そ、それは……」 由は僕から視線を逸らした。 |
「――まったくですわ」 「こりす……」 そこへ、温泉から上がったらしきこりす が、部屋に入ってきた。 |
こ り す |
「……御祓い」 こりすはそう言って、大麻を振った。 |
「……そうかな。僕は……可愛いと 思うんだけど……」 僕は、思った事を率直に言った。 |
こ り す |
(……目を覚まして、こまさん) こりすは何度もそう呟いていた。 |
「あれ? 由……」 屋敷に戻ると、さきほど僕と交替した筈 の由が、縁側に浮かんで外の様子を見つめ ていた。 |
由 |
「……あれ……? こりすさん……は ……?」 段々と意識がはっきりとしてきたようだ。 こまはゆっくりと、辺りを見回した。 |
「こっ、こまが目覚めたじゃとっ!?」 その時――慌てて部屋に飛び込んで来た のは、由だった。 |
由 |
「……お兄様?」 こりすは心配そうに、僕の顔を覗き込ん でいた。 |
「ならば、尚の事赦せん。こまの信頼を 踏み躙りおって……次に相まみえた時こそ、 決着をつけてやろうぞ」 |
由 |
「それって、付喪神とか……そういう事 ですの?」 眉をひそめて、こりすが尋ねた。 |
「じゃあ、こまは……僕が鏡架さんを連 れてきたせいで……?」 「お兄様……」 |
こ ま |
由 | ||
「…………」 思うところはあったけど。 こまは、そういう人だから。 |
「何故……庇いますの?」 ややあって、こりすが問いかけた。 |
こ り す |
「…………」 再び、お腹の音が鳴り響いた。 |
「おっ、お兄様。お兄様も何とかおっしゃっ てください。わたくしじゃありませんのに、 みなさんっ……!」 |
こ り す |
「千草さん……その、ありがとう」 何と言っていいかわからなかったが、僕 は取り敢えずお礼を言った。 |
「……はいはい。まあいいですわ。 じゃあ、おチビちゃん。アナタがよそって 差し上げなさいな。そして、すぐにこまさ んの許へお戻りなさい」 |
こ り す |
由 | ||
「だ、ダメっ」 ――唐突だった。 こまはこりすを庇うかのように、彼女と 男達との間に入った。 |
「……ふふっ。あはははっ」 こりすは可笑しくて仕方ない、とばかり に微笑んだ。 |
こ り す |
「よし。守りは任せるのじゃ」 「……守り?」 |
「……こりす? どうかしたのかい?」 「え? ……何がですの?」 |
こ り す |
「……何じゃ。懐かしい感じじゃの」 ぽつりと、由がそう言った。 |
「…………」 「ん? なんじゃ、こま。愚民にまだ用が あったのかや? 呼んでくるかの?」 |
こ ま |
「このお屋敷、どなたがお使いになられ ていたと思われます?」 |
「……っ……と、お兄様の眼の…… 事なんですけれど」 |
こ り す |
「あっ……こま、行くね」 こまは急に、気を利かせたように襖へと 向かった。 |
「こりす。昨日、僕に何を訊こうとして たんだい?」 「お、お兄様…」 |
こ り す |
「……お兄ちゃんは……それでいい の?」 こまが遠慮がちに、僕に尋ねた。 |
「でも、それで宜しいのかもしれません わね? わっ、忘れましょう? こんなお 話。ごめんなさい、お兄様」 こりすは、はぐらかすようにそう言った。 |
こ り す |
優しく、僕の手を握り締めるこまを感 じた。 |
そこには、遠慮がちに僕の手に指先を 重ねる、こりすの姿があった。 |
こ り す |
「他に呼び方はないかな?」 僕はそう尋ねた。 |
「ん……でも、やっぱり僕らにとって、 由は由だよ」 「愚民……」 |
由 |
こまの服装は巫女装束に戻っていた。 病み上がりという事で大事を取って、やっ ぱりこまの御祓いはしばらくお休みにさせ てもらっていたけれど……。 |
「……こま」 「なぁに?」 笑顔で僕を見上げるこまに、一瞬、口籠 もった。 |
こ ま |
「……離れるって言っても、少しの 間だけだもんね?」 僕は無理矢理、笑顔を作ってみせた。 |
「じゃあ、こまも一緒に……」 そして、それが僕の一言だった。 自然と、本音が口を滑って出ていた。 |
こ ま |
「知ってますよ〜。とっても可愛らしい 女神様です〜」 すると彼女は、笑顔でそう答えた。 |
「さー。メシじゃメシじゃー」 「あっ……ゆ、由」 次に食卓に顔を見せたのは、由だった。 |
由 |
「じゃあ、まだお料理があるので運んで きますね〜。ちょっとだけ待っててくださ 〜い」 |
「……あら。遂にアナタまで参戦で すの?」 「なっ、なんじゃお主っ! いつからおっ たっ!」 |
こ り す |
由 | ||
「それとも、僕の個展の話が出たから? 急にそんな話になっちゃったから……?」 |
「……お兄ちゃん、今日までありが とう」 |
こ ま |
居間へやってきた僕を出迎えてくれた のは……こまだった。 「あっ……! お、お兄ちゃん……!」 |
「……お兄様」 そこに襖が開いて、こりすが姿を見せた。 |
こ り す |
「あれ……由は、どうしたんだい?」 何とか平静を保とうと、僕は尋ねた。 |
「その服……」 「あっ……気付いてくれたんだ」 こまが頬を染めて、はにかんだ。 |
こ ま |
やっぱりそうだ――鏡架さんの視線の 先にいるのは、こまだった。 |
その前に、庇うように由が立ち塞がっ た。 |
由 |
「僕にきた、個展の話……君は正直、ど う思った?」 「…………」 「正直にでいいんだ。頼むよ」 |
「全一はどうして、こりすに仕えているの?」 | こ り す |
「あら……」 こりすは、傍に置いてあったスケッチブッ クに目をやった。 |
「……ちょっと、頭を冷やしてくる よ」 そう言って、僕は立ち上がった。 |
千 草 |
「……行ってらっしゃい。お兄様」 その笑顔に涙が浮かんでいるって、わかっ ていた。 |
「……はい」 「必ず……戻ってくるから」 |
こ り す |
「……明日。必ず、見送るから」 「うん、ありがとう」 「……戻るよ。おやすみ、こま」 |
「もう少し、話をしてても……いいかな?」 「…………」 「……駄目かい?」 |
こ ま |
「こま……」 僕はうつむいたこまに、手を伸ばそうと した。 |
「それは違うよ!」 知らぬ間に、僕は叫んでいた。 |
こ ま |
「……わかったよ」 僕はようやく腰を上げた。 |
「……こまは……こまは、辛くない のかい?」 |
こ ま |
「……大丈夫だよ。ちゃんと、起き れるから」 |
「じゃあ……起こしてもらおうかな」 | こ り す |
第四章 | ||
「……はは。もしかしたら、ずっと 目が覚めなかったりして」 |
「おお、どうじゃ?」 由もまた、本殿に様子を見にやって来た。 |
由 |
「あの……どうもはじめまして。結乃由 姫命様」 こまに向かって改めて自己紹介している ようで、妙な気分ではあった。 |
「……お兄様」 こりすが小声で僕に囁いた。 |
こ り す |
「こまだった頃の事、覚えて……」 紫姫は皆まで言わずとも、といった様子 でゆっくりとうなずいた。 |
「じゃあ……こりすの事も?」 | こ り す |
「何か、思い当たる事でもあるのかい?」 | ――唐突に、僕は一つ思いついた。 「な……なんじゃ。にやにやしおって、気 持ち悪いのう」 |
由 |
「……あの娘と一緒にいてくれた事、 感謝しとる」 「由の……事ですか?」 僕の問いに彼女はうなずいた。 |
「ご主人様〜」 ――と、背中に柔らかい感触が。 |
千 草 |
「こまの顔で……そんな事を、しない…… で」 |
「こり……す……」 | こ り す |
「ああ……ありがとう」 僕はこりすにお礼を言って、汗の染み込 んだ服を着替えた。 |
――でも、舌はまだ痺れていた。 「あっ……う」 「え? お兄様、動けませんの?」 |
こ り す |
痛いほどに、彼女の気持ちが伝わって きたから。 だから僕は、そのまま部屋を出ていった。 |
……とても、柔らかい感触だった。 ……どうしてだろう。 どうして……由を抱き締めてるんだろう。 |
由 |
「……ありがとう」 僕の口に上ったのは、ただ、その言葉だ けだった。 |
「千草さんも一緒に行かないかい? 東 京へ……」 |
千 草 |
「くっ……!」 その真摯な瞳が、彼女の意思を伝えてい た。 僕は駆け出した。 |
彼女の言葉が、終わるか終わらないか の辺りで―― 僕は、彼女の腕を掴んでいた。 |
鏡 架 |
「……だから、行って」 そう言って鏡架さんは、とん……と、僕 の胸を押した。 |
「……やるさ。それで君が助かるん なら……僕はやる」 |
鏡 架 |
「自分の事、嫌いにならないで……お兄 ちゃん」 耳の奥に、そっと囁かれるように優しい 声が流れ込んでくる。 |
「おにぃ……さま……」 庭にへたり込んだこりすが、わななく唇 で僕を呼んだ。 |
こ り す |
終章 | ||
ノーマルエンド | キャラクター別エンド |