ここでは、彼が作曲をするきっかけとなったファンタジー小説である、 「指輪物語」について書くことにしましょう。
おいおい、「指輪物語」について書くんだろう? そうなんだけど、ここから話さなくては意味が分からないのだ。
「ホビットの冒険」及び「指輪物語」の作者、J. R. R. トールキン(John Ronald Reuel Tolkien: 1892-1973)はオックスフォード大学の教授で、中世の英語などを専門に研究している人なんだ。 で、このトールキン教授、自分の息子が夜 眠れないときに自分の作った冒険話を寝物語として聞かせていた。 その話をまとめて本として出版したものが「ホビットの冒険」だったという訳。 実はこの本、ジャンルは児童文学なんだけれども、冒険ものはあってもファンタジー小説となると数が少ないらしく、子供ばかりではなく、大人も結構読んでいたらしい。 そこで出版社から、大人が読むためのファンタジー小説として続編を書いてほしいという依頼があった。そして「指輪物語」が世に出ることになる。
と言っても「ホビットの冒険」が世に出てから18年もたって、ようやく出版された。 これは物語が長いからだけではなかったんだ。
トールキンの作品を魅力的なものにしている要素の一つに「言語」がある。 他の小説でも、単語単位ではよく想像上の言葉を見かけるけれど、トールキンの言語のように、ほぼ完全な文法や語形変化規則をも定義したものは、まず無いと言っていいらしい。 さらにトールキンは文字までも創造してしまった。
「指輪物語」のタイトルが書いてあるページには、今まで見たことのない文字が2種類書いてある。 このページ上部にある文字はキアス(Cirth)といい、以下のように書いている。
さて、同じくタイトルページの下部には別な文字、テングワール(Tengwar)が書いてあり、以下のようになっている。
下が英訳だよ。
of Westmarch by John Ronald Reuel Tolkien. Herein is set forth |
the history of the War of the Ring and The Return of the King as seen by the Hobbits. |
さて、日本語訳をもう一度見てもらおう。 トールキンによる西境の赤表紙本からの翻訳 と書いてあるよね。 つまり、ホビットたちが書き続けていった赤い表紙の本をトールキンが翻訳した、という形になっているんだ、この本は(もちろん、本当はトールキンの創作なのだ)。
旅の仲間たちを紹介しよう。その一行は全部で9人いる。
例によって別画面に出すから、そちらを見ながら下の文を読んでいって。
物語中で「小さい人(Halfling)」と呼ばれる彼らホビット族は、その名の通り背が小さくて、成人男子になっても3フィート(約1m)に達する者はほとんどいないとのこと。 彼らはとてもすばしっこく、また足の裏に毛が生えており、ほとんど足音を立てることはない。 そして、見たとおり、靴をはく習慣もない。 性格は極めて穏やかで、ごちそうを日に三食以上食べたり(当然、その他に間食あり)、飲んだり、笑ったり、75日以上も噂話をしたりと、とにかく口がよく動く連中なんだ。
ドワーフも、ホビットと同じく小人に分類されるけれど、ホビットよりは多少大きく、体つきも頑健で力も強く、また、必ず髭をたくわえている(噂によれば女性にも髭があるとか)。 彼らの手先はかなり器用で、加工物には石を好み、特に金には目がない。 彼らの加工技術は半端ではなく、建造物から宝飾類にいたるまで「ドワーフの手によるもの」といえば、この世界で最高級品を表すという。 奥の左から二番目がギムリ。
そして、一人おいてボロミア。 彼はゴンドールの執政デネソール候の長男で、ゴンドールから「ある予言」を持って、人間とエルフの混血であるエルロンドの館へ行き、そこで彼は指輪の一行に加わることになる。 でも、「旅の仲間」でただ一人死ぬことになるんだな。
最後に控えしは、白くて長い髭が特徴のガンダルフ。 主に火と煙を操る灰色の魔法使いで、よく「灰色のガンダルフ(Grey Gandalf)」と称されている。 長くて白いあご髭に灰色のマント、青い三角帽子がトレードマークのこの老人は、知恵があって、誇り高く、頑固で、粋なんだけど、なぜか怒りっぽい爺さんなの。 彼はこの世界のたくさんの種族たちと交流があり、エルフたちは彼のことをミスランディア(「灰色の漂泊者」の意味)と敬意をもって呼んでいる。
ところで、この絵ではよくわからないと思うけれど、人間以外の種族は、ほとんど耳がとがっているのだ。 レナード・ニモイが演じていた「スター・トレック」のミスター・スポック(若い人は知らんか)の耳と同じなのだよ。
長大な物語のあらすじを簡単に書くね。 この物語、本質的には光と闇の戦いについての話なんだ。 各楽章ごとの説明のときに、関連する話を詳しく書くことにしよう。
中つ国の地図(128KB) |
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まだ世界の大陸が今のような形になっていなかったころ、現在のヨーロッパあたり(と思われるような場所)に位置していた「中つ国」の西境に、ホビットたちの住んでいる国、"ホビット庄"があった。 ホビットのフロドはそこで平和に暮らしていたのだけれど、ある日、魔法使いのガンダルフから、フロドの所有する金色の美しい指輪が、実は冥王サウロンが造り、彼の力の源である『一つの指輪』であることを知らされた。 この指輪は、フロドの養父であるビルボが、ガンダルフや13人のドワーフ達とともに冒険(「ホビットの冒険」に記述)をした際に偶然手に入れ、それをフロドが相続したものだった。
何百年も昔の戦いで滅ぼされたかに見えた冥王サウロン(「シルマリルの物語」に記述)は、今や復活しつつある。 サウロンは彼の指輪を探していた。 そして彼の手先である黒の乗り手(ナズグル:指輪の幽鬼)がホビットたちを狙っている。 この『(唯)一つの指輪』がサウロンの手に戻ることになれば、それは中つ国の終焉(しゅうえん)を意味することになる。 彼を倒す方法はただ一つ、指輪を滅ぼすこと。 そしてそれができるのはサウロン自身の国、モルドールにある「滅びの山」の火だけなんだ。 フロドは、指輪を滅ぼすためホビットの仲間たちとともにあてのない旅に出た。
旅の途中で出会った野伏のアラゴルンとともに、やっとの思いで半エルフのエルロンドの住む裂け谷にたどり着いた4人のホビット達は、そこでガンダルフと再会した。 そして新たにエルフ、ドワーフ、人間が仲間に加わり、彼らは再びはてしない冒険の旅に出た。 彼らはいにしえの恐怖の場所である不気味なモリアの坑道を通り抜け、エルフたちの美しい黄金色の森ロスロリエンを通る。 旅の一行は離ればなれになり、フロドとサム、そして狂ったように指輪に執着するゴラム(ゴクリ)の3人だけが冥王サウロンの国、モルドールへと入っていく・・・・・
20年ほど前、「ホビットの冒険」というコンピューター・ゲームをやったことがある。 この当時はCDはおろかフロッピーもない時代で、カセットテープからピー・ガーと音を立てながらデータを少しずつ読み込んでゲームを進めていた。 ところが、ゲームの3分の1ほど行ったところで先に進めなくなってしまった。 いや、東西南北どこへでも行けるのだが、どこへ行ってもその方向に行きっぱなしで、その先には何も出てこないのだ(戻ることもできやしない)。 で、結局、テープを2巻残して、このゲームを終わることになる。
前記と同じころ、図書館から借りた「指輪物語」を読んでいた。
ところがこの本、いくら読んでもホビットの家系やら家の造りやら宴会やらの話ばかりで、いつまでたっても冒険する気配がない。
で、結局、ゲームと同じく、3分の1でリタイヤすることになる。
ところが、改めて「指輪物語」全巻を買って読んでみて気がついた。
その昔に3分の1だけ読んだと思っていた物語は、実は3部作の3分の1のそのまた半分(上巻)の、さらに3分の1であったことが判明したのだ。
「指輪物語」は、次の3部作からなっている。 ちなみに右は文庫版での巻数を示します。
第一部: 旅の仲間 | 上1、上2、下1、下2 |
第二部: 二つの塔 | 上1、上2、下 |
第三部: 王の帰還 | 上、下 |
最後の3分の1を示そう。 実は、この1000ページを越える大作、「指輪物語」も全体の3分の1でしかないのだ。 中つ国の歴史は次の3つの物語によって語られている。
シルマリルの物語 | 神の時代から(中つ国第一紀・二紀) |
ホビットの冒険 | ドラゴンに奪われた宝を取り戻す(第三紀) |
指輪物語 | 指輪を消滅させる旅(第三紀末) |
さあ、あなたは、家系までさかのぼる長い人物描写と、なかなか先に進まない一行の旅と、数ページにも渡る詩を何十種類となく読まされるこの物語を、くじけずに最後まで読み進んでいくことができるのだろうか? (私しゃ、一度くじけたよ)