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最 終 章  回想(または思い出) Reminiscences



 無事?定期演奏会も終わりましたね。 「先月 最後の話をしたばかりなのに」と仰るあなた、チッ、チッ、甘いな。 しつこいのは私の信条なのよ。 と言うことで、最終章として「指輪物語」の演奏が終わるまでのことを振り返ってみたいと思います(年を取ると過去の方ばかり向いてしまうのよ)。


一枚のCD
 5〜6年前だったかな、ある人がCDを貸してくれました。 滅多にCDなんぞ貸さない人なんだけど、この時はなぜか「すごくいいから聞いてみて」と自分から言ってCDを持ってきた。 家に帰って聞いてみたけど、これがとても素晴らしい曲だった。 力強さがあって、優雅さがあって、奇妙な音階があって、静けさと爆発するエネルギーがあって、そして気持ちを和らげる暖かい旋律があって・・・・
 でも、ほとんどの楽器にソロがあり、しかも使う音域が広く、さらに打楽器の多さは当たり前として管楽器の種類も多く、ピアノまで使う。 「こんな大曲できっこないよなぁ。 でもいつかやってみたいなー」 と思っていたの。


選曲会議
 すでに一部の曲は決まっていた。 創立30周年で第30回の記念すべき定期演奏会だよね。 二部の曲は私に任されることになったんだけど、あるクラシックの交響曲と「指輪物語」の二曲の間で心が揺れていたんだ。 「指輪物語」は記念演奏会にふさわしい曲なんだけど、これを演奏することになれば近年経験したことのない2時間にも及ぶ演奏会になってしまう。 しかも全パートが難しい。 私は悩み抜いた末、結局この曲の魅力には勝てずに「指輪物語」という大曲を選ぶことになったんだ。


ファンタジー小説
 楽譜は注文された。 でも国内に在庫はないので、海外への発注だった。 私は楽譜が届く前に原作を読んでみようという気になった。 昔は挫折してしまったけれど、演奏に役立つものだから読み切れるだろうという自信はあったんだよね。

 しかし、その自信は崩れ去った。 最初は確かに読みづらかった。 ついていけるか心配になった。 でも崩れたのは「読み切ってやる」という気持ちであって、読み進んでいくうちに止めることが出来なくなってしまったの。 私は全巻読破し終わるとすぐ、「ホビットの冒険」と「指輪物語」追補編を注文した。 見事にトールキンの世界へ はまり込んでしまったんだなぁ。

 そして分厚い楽譜が到着した。 スコアを見ると、やはり難しかった。 一瞬やれるのだろうかという不安がよぎったけれど、まぁ大丈夫だろうという、めずらしく楽観的な気持ちになっていたんだ。

 作曲者は原作を読んで感銘し、その印象を元に交響曲を書き上げたよね。 私も原作に はまった クチだから、譜読みを始めても、ここは この場面だというのがすぐ理解でき、端々に出てくる、ちょっとした音の意味も理解できた、と思っていた。 この曲の全てが分かった気になっていた。 そして落とし穴に陥るハメになる・・・・


強化合奏
 やはり この曲は難しかった。 演奏会の一ヶ月前にある程度の完成を得ていたのに、一部の曲を一週間ほど練習した後に再びやってみると、とんでもない状態になっていた。 この日は客員指揮者の菅原先生が振る日だったのに、その一部を割いて この曲を練習させてもらったよね。 そして曲は始まったけれど、奏者はどこで入ればいいのか分からない。 入ったとしてもリズムが分からない。
「入れないのは奏者の責任、親切な指示は奏者を甘やかす」と言われ、基本に立ち返って練習させられたよね。 さらに、「テンポが揺らぐのは指揮者の責任」とも言われてしまった。 曲を分かった気になって、基本的なことを怠っていたんだ。 この日から野球の選手みたいに素振りの毎日が続くことになるのであった・・・


リハーサル
 もちろん その後の練習で少しずつ良くなってはいた。 でも、この状態で本番を迎えるのはつらかったのよ。 そして無情にも本番前のリハーサルがやってきた。 しかし、なぜか知らないけど いい演奏だった。

 私は「指輪物語」のCDを聞く度に目頭が熱くなってくるんです。 特に第五楽章の「ホビット賛歌」の部分が来ると。 で、リハーサルの演奏を録音して、家に帰って聞いてみたの。 すると、CDを聞いていたときと同じような感覚に浸ってしまった。 出来具合を心配せずに済み、純粋に曲を楽しめたからなんだよね。


そして本番
 しかし、本番では泣けなかった。 今まではホビット(主人公のフロド)の苦しみを思い、せめて読者の自分が讃えてあげようという気持ちだった。 そして、行進しているフロドを道ばたの私たちが拍手を持って出迎えているという光景が目に浮かび、目頭が熱くなっていた。 でも本番の演奏では違っていた。 堂々と、力強く行進しているホビットそのものが大きく、本当にステージいっぱいに大きく目の前に映ってきた。 自分なんか見えやしなかった。 讃えるという次元ではなく、その人物の大きさに圧倒されてしまったんだ。


最後に、
 これは皆の気持ちが一つになって演奏してくれたからからこそ見えてきたものだと思っています。 聞きに来てくれた人も「良かったよ」だけではなく、「感激しちゃった」とか言ってくれました。 たとえリズムがずれても、変な音を出しても、落ちてしまっても、バランスが悪くても、聞いている人に感動を与えることは出来ると思うのだ。 そしてKSBってこれが出来るバンドなんだよなーと、改めて感じました。 (決して拙(つたな)い演奏でもかまわないと言っているわけではないからね、念のため) 皆さん、私にビッグなプレゼントをありがとう。 ちょっと誉めすぎたか?  ま、たまにはいいっかぁ。


時間の都合上、演奏終了後に全てのソリストを紹介することが出来ませんでした。 ご免なさい。

しっかし、こりゃ、本当に、おとっ子 に出した原稿そのまんまだ。 いつもはホーム・ページ用に少しはアレンジするんだが・・・・・



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