「ふたりとも、可愛いですよ♪」
頭の上にぴょこんと乗ったふわふわの耳。
スカートの裾から元気よくのぞいている長いシッポ。
アティはまるでメイトルパの住人であるかのようなナツミとトリスの姿に、両手をパンと叩く。

「「……先生、それ、フォローになってない……」」
「……やっぱり? あは、あははは……」

二人と同じように頭と耳に生えた猫もどきの物体をしゅんと垂れさせ、アティは肩を落とした。






パートナーとその重要性2  - もしも彼女が…だったら −






そもそも事の始まりは単に召喚術の練習だった。
召喚術には通常召喚の他、ユニット召喚・パニック召喚・憑依召喚・協力召喚等がある。
トリスとアティはその違いを知識と実践で学んでいたが、ナツミは突然召喚されてこの世界にやってきたため、 知識で獲得するより先に実践で学んでしまったが故に、その理論というものを理解しないまま術を行使していた。
それは一歩間違えば暴走の危険性をはらんでおり、特にナツミのような強い力を持った者の魔力が暴走した場合の 被害は尋常ではないだろう。 今まで事無きを得てきたのは、ひとえにパートナーであるソルのフォローの賜物、といっていいかもしれない。
ソルの講義に不満はこれっぽっちも無かったが、アティが『先生』だという事を知ったナツミは、 "折角だから教えるプロに習ってみよう"と、パートナーに内緒で講義を依頼した。
と、そこまでは問題無かった。
トリスが『あたしもアシスタントとして参加したい!』などと興味を示さなければ、おそらくこの複雑怪奇な三重奏 現象を起こす事はなかっただろう。

「二重誓約(ギャミング)とかとはまた違うんだろうけど…」
トリスは肩を落とす。
この失敗があの兄弟子に知れたらと考えると、気が気でない。 君は馬鹿か、と十八番の台詞で怒鳴られるだけならまだしも、その後の事を思うと背筋に冷たいものが走る。
しかも、よりによってエールキティの"頑張るニャー"だ。
『僕の妹弟子は人間だったような気がするが、実はメイトルパの亜人だったのか』
などと、辛辣な台詞が続けざまに降ってくるのが目に浮かぶ。
「ソルは召喚術の研究してたから暴走についても詳しいと思うんだけど、メイトルパは苦手分野って言ってたからなぁ。 ネスティはどう? そういうの、得意そうじゃない」
トリスはナツミの言葉に更に肩を落とした。
「……ネスも専門はロレイラルだから……それに、あたしこのカッコでネスの前になんて出らんないよ…」
そう言って耳とシッポをへな、と垂れ下がらせる彼女の姿はそれはそれは可愛らしかった。更にぷるぷるビクビク小動物の ように脅える仕草など、同性の目から見ても可愛いのだ、普通の男性であれば即ノックアウトだろうとナツミは思う。
「そっかなー。そのカッコでちょっと上目使いに『ネス、お願い…』っておねだりしたら何でもやってくれそうじゃない?」
ねぇ、先生? と同意を求めるナツミにアティは笑って誤魔化す他なかった。
「そんなコト出来るワケないでしょ! 大体、あのカタブツメガネがそんな事で誤魔化されるなんて無いわよ」
真っ赤になって否定し、そしてすぐ己の台詞に青くなるトリス。
「だいじょーぶだって! 男の人って猫耳とかメイドとかに弱いんだから。ほら、頑張れ、トリス!」
どこでそんな知識を得たのか、ナツミは人事のようにトリスを煽る。
「そんな一般男性論、ネスに当てはまらないわよー!」
「んー、じゃあ先生は?」
「え?」
どうやって元に戻るかを話し合っていたはずなのに、今や話題は完全にズレていた。
「ウィルさんだったらどんな反応しそう?」
「え、えっ?! えと、ウィルですか……ウィルは……」


「僕は見慣れてるので特には」

「「「!!!!?」」」


「ウィル、見慣れてるって…私、そんなに失敗してました?」
「え? ああ、違いますよ。先生、抜剣の時に髪がウサギみたいになるじゃないですか」
「ウィルも一般男性とは違う、という事ですね」
「うーん、でも先生のこの姿は可愛いと思いますけど」
「え! ……も、もうっ、ウィルったらまたからかって!!」
「あははは」
この三人の中では一番付き合いが長いはずなのに、微笑ましいというか初々しいカップル。そんな天然いちゃつきっぷりを 目の当たりにしたナツミとトリスだが、背後に迫る不穏な空気を感じ、内心それどころではなかった。
「……さて。そろそろ観念したらどうだ? トリス」
「 ぴ 」
聞き覚えのありすぎる不機嫌な声にトリスは身体を硬直させる。
「何だ、それじゃあまるで鳥みたいじゃないか。違うだろう? 猫は"ニャア"だ」
秀麗な微笑みでそう言われ、トリスはもう諦めたのか呻くように『にゃあ』と呟く。
「よく出来たな。……さて。ご褒美をやるからついてこい」
「に゛ゃーーっ!?(ご褒美ー?!)」
「ははは、そんなに嬉しいか。ほら、行くぞ」
乾いた笑い。そして笑っていない目。トリスは全身の毛を逆立てた。(もちろんシッポも)
「にゃあぁあーーーっ!(ナツミ、助けてー!)」
ネスティに抱えられていくトリスの姿は、まさに"貰われていく猫"のようで。
「暴れるな、落ちるぞ」
懸命にシッポをぱたぱたと振って助けを求めるトリスだが、ネスティに連れられどんどん姿が遠くなっていく。
その光景を呆然と見ていたナツミが独り言のようにポツリと洩らす。

「……トリス、なんで猫語なの……」

身も心も猫になってしまったトリス。
それは兄弟子に対する条件反射なのかどうかは不明だが、
「…………っ」
「……ソル、気を使ってくれなくていいから」
肩を震わせ笑いを堪えるパートナーの姿が正常の反応で良かった、と心から思うナツミであった。




イイワケ。

「にゃもんないと」です(笑)
書いてみたかったネコ耳シッポの憑依召喚失敗談。
3人の男性陣の反応は予想通りでしたでしょうか?(笑)

04.5.1 HAL