恋愛のススメ。





※微妙にえっちというか下品です。
その手の話が苦手な方は引き返して下さい。







あたしだって何も知らない訳じゃない。
そりゃ、旅の初めの頃はそういう事に疎くってみんなに驚かれもしたけど。
けど!
今はす、好きな人だっているわけだし……まぁ皆に言わせればあたしと同じくらい男女の機微に疎い、 鈍くて、加えて朴念仁なんだそうだけど。
……いいのよ、あたしにとっては丁度いいんだし。
そりゃ、たまーにだけど、もっといちゃいちゃしたいなーとか思うけど、 あのネスだもん。何かそういうのって想像出来ない。
て、そんな事言ってたら皆、ありがた迷惑ってくらい色々と教えてくれたんだけど…
ホントに、そんな事してるの?! みんな?
そんな事考えてたら、ネスとまともに目を合わせられなくなった。



恋愛のススメ。





眉一つ動かさず、涼しげな表情で読書するネスティをまじまじと観察する。
意識しないようにしても、つい目線が下に降りてしまう。
ついでにその服の下まで想像してしまい、恥かしさに心臓が跳ね上がった。 思考を振り払うように左右に激しく首を振るが、簡単には治まりそうもない。
おかしな妄想と邪念に振り回されトリスの頭の中はショート寸前だった。
「……一体何だと言うんだ、さっきから」
「えっ?」
「赤くなったり青くなったり…忙しいな、君は」
溜息まじりに呟く。
トリスの様子が気になり集中出来なかったのか、ネスティは諦めて本を閉じた。
その前から彼女の様子がいつもと違う事に気付いてはいた。
目が合えばあからさまに避け、いつもなら頼まれなくても煩い位(一方的に)喋りかけてくるトリスが 今日に限ってだんまりを決め込んでいる。
具合が悪い様でもなく、でも自分を嫌って近寄らない訳でもない。その逆だ。 まるで意地でもなっているかのように、隣にへばりついて離れようとしなかった。
一体、何なんだ。
本日何度目ともわからない疑問が頭を過ぎる。
大方、ミモザあたりにでも余計な事を吹き込まれたのだろうと予測していたが、隣で百面相を しながら悩む彼女をみかね、ネスティは自分から問いただす事にした。
無論、彼がそうするということはトリスに『回避』する方法など無いに等しい。 全てはネスティの優秀な尋問によって洗い浚い吐かされてしまうのだから。
「べ、別に何ってことはないわよ。なに、突然」
ゴクリと息を呑む。
誤魔化してもネスティの視線に全てを見透かされてしまいそうになり、つい目を逸らす。 長年に渡る経験が『逃げられない』と警告音を鳴らしていても、誤魔化せる可能性も考えてしまう。 つくづく学習能力に欠けるポジティブなトリスであった。
「それとも、用事がなかったらネスの傍にいちゃいけないの?」
「いや、そういう訳ではないが……」
殺し文句で対応する。ミモザが辺りにでも教わったのだろう。
しかし、誤魔化せたと思ったのもつかの間だった。
「……君はさっきからどこを見ている」
「へ…?」
話をしている間、どうも目線はずっと一点に注がれていたらしく、流石にネスティもトリスの そんな熱い視線がどこへ向いているのか気付いたらしい。 見上げれば、顔を赤く染め、怒りともつかない複雑な表情のネスティと目があった。
「あ、あの…えっと……」
「………」
必死に言い訳を考えるトリスだが、何をどう取り繕ってもそこを凝視していた言い訳にはならない。
ネスティはかけてあったマントを引っ張ると無言で下半身を覆い隠した。
「あああ〜〜〜〜〜」
思わず声に出す。
「…あのな。女性がじっと見るものじゃないだろう、全く……」
君は馬鹿か、と十八番の口癖もでないほど動揺していたが、兄弟子の沽券に関わると自分に言い聞かせ、 何とか平静を装ってそう答えるネスティ。だが。
「君は一体何を気にして……」
言いかけてやめる。
思い出したのだ。苦い過去を。
養父と一緒に風呂に入ったトリスが、その後執拗にネスティと風呂に入ろうとした事を。
恐らく大人と子供の違いを知ったのだろうが、まさか兄弟子にまでその興味を示してくるとは思わなかった。 風呂だけの事と油断していたネスティは、ある日勉強を教えている最中にトリスにそこを手探りで確認されてしまう。 10歳といえど、妹弟子に握られてしまった心の衝撃は想像に難くない。
その後ラウルがどう説明したのか、トリスはその件に関して一切口にしなくなった。 納得したのか満足したのかは不明ではあったが、とはいえ、彼にとっては思い出したくない悪夢のような出来事。 いくらネスティが子供で、ラウルがいい年齢の大人だとしても。
(ネスは小さいね、は無いだろう…)
子供心に、男として傷ついたネスティだった。
「ネス?」
心配そうなトリスの声にはっと我に返り、過去の忌まわしき思い出を封印する。
「あ、いや。何でもない」
まさかこの歳になって同じ事を言い出すとは思えないが、流石に問いただすのには勇気が要った。
殆ど離れる事無く共に過ごしてきた中で、トリスが他の男性と男女の仲になった事実は無いと知っている。 比較対象は無い。だが、この大所帯での旅だ、アクシデントもつきものだろう。 何かの拍子に仲間の裸を見てしまったとも限らない。
ネスティもその生い立ちから他者に肌を見せる機会は無く、他と比較した事は無い。
が、またあの時と同じ言葉を言われて立ち直る事は不可能だ。
しかも想いを寄せる相手に。
「あのね、ネス……皆が言ってたんだけど…ホントにこんな事、するのかな…」
「なにが……ッ?!」
意味が分からず、頭の中で復唱する。
はじき出された答えを理解し、言葉として反応させるのがいつもより遅れ、 結果、そのわずかな隙をつくように、トリスは身体を動かしていた。
「よいしょ、っと」
ぱたり、とネスティの太腿の上に倒れるように頭を乗せる。
寝心地が悪いのか、眉間に皺を寄せながらフィットする位置を探ろうと小刻みに動く。 ネスティから血の気が引いた。
「と、トリスッ! なにをやっているんだ、君は…っ!」
兄弟子の怒りも聞こえないほど集中しているのだろう。うー、と唸りながら、それでもまだ頭の位置を決めかね、 もぞもぞと動く。次第に腿から中心部へとずれていくのに左程時間はかからなかった。
「えへへ。男の人に膝枕してもらう、っていうのもいいわね〜」
やっと定位置が決まり、真上を向いたトリスは嬉しそうに言った。
思っていた行動とは違うもののネスティにとっては地獄の責め苦である事に変わりない。
他意は無い。他意は無いんだ、と呪文を詠唱するように、鋼の理性と言われたそれで自分に言い聞かせるネスティ。 他の男子が聞いたらあっぱれ、と褒め称えるであろうが、ここには最強を誇る鈍さを持つトリスしかいない。 ネスティの限界が先か、トリスが気付くのが先かの一騎打ちだった。(無論ネスティの分が悪い。)
「皆がね、男の人にしてもらう膝枕もいいよ、って言うからさー。ネスの膝枕ってどうなのかと思って」
そこは既に膝でも太腿でもないのだが、トリスは構わず続ける。
「意外だったわ。こんなに気持ちいいなら、もっと早くしてもらうんだった」
はにかんだ笑顔。潤んだ瞳。本人が意図している訳でないため、余計に凶悪だ。
「……トリス、10数えるうちにそのまま静かに起き上がれ。いいな」
「へ? 何で??」
「……9…8……」
しかし。
頼むからこれ以上身動き一つとらないでくれ、というネスティの祈りにも似た願いはあっさりと打ち砕かれた。
「いいじゃない、もう少しくらい。ネスのケチ!」
「……4……3―――っば、馬鹿っ!」
トリスは勢いよく起き上がり、被せていたマントの中に入り込む。
その間10数秒。
なにを見たのかはこの際語る必要も無いだろう。
無言のままもそもそとマントの下から這い出たトリスの逃げようとする腕を掴み、行く手を塞ぐ。 恐る恐る見上げれば、見たこともないような涼しげで爽やかな笑顔のネスティと目が合い、背筋が凍った。
「…………えっと。…あのぅ…ネス?」
「……君が悪いんだぞ…? 言っているだろう、自分の行動に責任を持て、と」
「つ、次からは気をつけますっ! 気をつけるから、許して! ていうか、耳元で囁かないでー!」
見つめる視線に身体が痺れて動かない。目を逸らす事も出来ない。
魅了や麻痺効果のある召喚術を使われるよりトリスにとっては性質が悪かった。
防ぎようがないからだ。
「もう遅い」
こうして。
最後のチャンスをふいにし、兎は自ら狼の懐に飛び込んだ。


翌日。
眠そうな自分を心配して声をかけてきた仲間に、トリスは言う。
「枕が悪かったわ……」
どの枕かは女性陣にのみ伝わったという話だ。


END.■■■■





あ と が き

時間がかかった割りに、ギャグオチなのかなんなのかよく分からない内容に。 いっそ裏にでももっていくべきだったのか…
それはそうと、サモコレでトリス、兄弟子の膝枕で寝てるんですが、あれはまぁED後ってことで。3の番外編後とか。

05.06.14