for SUMMON NIGHT2 (リンカールート) □□□





「ネスティ。あたしと誓約しよっか」

「…は?」


ある晴れた午後。うららかでのどかな、そんな日に。
本人にその自覚は薄いが、誓約者(リンカー)と呼ばれる少女、橋本夏美はそう言った。
まるで「じゃんけんしない?」とでもいうかのように。






最強。 〜無敵のヒロイン〜


先の悪魔との戦いから、はや1カ月。
街に残った戦いの傷跡も復興が進み、人々の記憶とともに徐々に薄れていた。
トリスはといえば、兄弟子の再教育の名の下に勉強に追われる毎日を送っており、充実した(本人にとっては大変ありがた迷惑といえるが)日々を過ごしている。
サイジェントを発つ前のネスティの爆弾発言に関しては、トリスは彼の人生最大の冗談ととることにし、無視を決め込んだ。
冗談でなければ何か悪いものでも食べたのだろう。
そう思わずにはいられない「ご主人さま」発言。
皆が言うような「独占宣言」にしてはムードも何もへったくれもない、そんな二人の関係に、トリスは頭を悩ませ、ついついナツミへの手紙に書いてしまった。
ほんの愚痴のつもりだった。
他の人間に言えば「のろけ」だの何だのと言われてしまうから。
だから。
まさか聖王都にまでやってくるとは思わなかったのだ。

ゲルニカに乗って。


「レヴァティーンなら目立つかと思ってさぁ」
レヴァティーンじゃなくとも、あんな巨大な召喚獣に乗ってやってくればどんな人間でも目立つであろう事は、彼女の思考には無い。
ネスティはこめかみを押さえつつ、突然の訪問者を家の中へ招きいれる。
久し振りの面会とあって、年頃の少女二人の話ははずむ。ネスティは早々に勉強させることを諦め、その日一日を自由時間としてくれた。

「それにしても突然だね〜。何かあったの?」
ひとしきりサイジェントの様子やモナティ達の事を聞き終えると、トリスはふと疑問に思う。
何故こんな急に、連絡もせずに一人でやって来たのか。
本来なら一番初めに訊くべきことなのだが、嬉しさの余りすっかり忘れていたようだ。
それを聞いたナツミは、のほほんとしたトリスの頬を両手でぎゅっとひっぱる。
「なにも無いから来たの! ホントにキミ達はどうなってんの?!」
「い、いひゃいってば〜」
「護衛獣になるって言わせておいて、まだ未誓約じゃないのさ」
「ひょ、ひょれは…らって、あたひネスをほえいじゅうになんてれきらい…」
「…なに言ってるかわかんない」
「らったら、早くはらしてひょ〜!」
ごめんごめん、と、ナツミが手を離すと、トリスは引っ張られて赤くなった頬を撫でさする。
ナツミはそんなトリスの様子に、ふぅ、と一つ溜め息を洩らす。
「だって、例えお養父さんって人と誓約しても…ほら、モナティの例もあるしさ。二重誓約(ギャミング)を防ぐためなんでしょ? いいの? 他の人のとこに行っても」
「よくない! よくない、けど……」
「けど?」
「誓約って鎖で、ネスを縛りたくない…あたしなんかの護衛獣になって欲しくない…」
トリスはそう言うと俯いてしまう。
自分と出会う前の二人に何があったのかまではナツミは知らないし、聞き出そうとも思わない。
人にはそれぞれ理由があるし、知る必要のない事まで根掘り葉掘りの悪趣味も無い。
ただ。
二人には幸せになって欲しいだけ。

「……分かった…トリスがそう言うなら、もう言わない」
「ナツミ…?」
「あたしにまっかせなさい!」
人はそれを「お節介」と呼ぶかも知れないが。


「…と言うワケで、あたしと誓約すればギャミングの心配もなく、この世界にいれると思うの」
買い物から戻ったネスティに早速ナツミは提案した。玄関先にも関わらず。
「こうみえて、あたしもリンカーだから。そこいらの召喚師よりは魔力も強いし」
そこいらの召喚師と比較するレベルではないだろう。
何しろ、四大世界のエルゴと誓約を交わすリンカー様だ。最強ともいえよう。
「…それは彼女の意思なのか?」
「ううん。単にあたしのお節介。トリスは誓約しない、っていうけど、キミが居なくなるのは嫌だっていうし。あたしと誓約しても今のままで構わないから、いい条件でしょ?」
ネスティはナツミの言葉にすぐに返事を返さない。
口元に手をあて、何かを考え込んでいる。
確かにこの条件は良いのだ。
二重誓約の心配も無い上、トリスの元にいられる。主従関係も不要という。
だが、しかし。
「ま、まって!」
ネスティが異を唱える前に飛び出してきたのはトリスだった。
「どしたの? トリス」
「え、えっと……」
トリスがもじもじ理由を考える中、晴れ渡っていた空が急に陰り始める。
風が吹き荒れ、バサバサという音とともに。
「…凄い風だな………バサバサ…? ……って、何だ?!」
頭上を振り仰ぐと、そこには巨大な竜の姿があり、こちらをジロリと見下ろしていた。
「…レ、レヴァティーン、か…?」
『…着いたぞ』
「すまない、助かった」
紫の竜の背には懐かしい人の姿があり、ネスティがその名を呼ぼうとした瞬間。
「ソ、ソル!!」
ナツミは明らかに彼の姿を目にして動揺していた。
あわあわと所在なさげにその身を彷徨わせている。
竜の背からひょい、と飛び降りたソルはトリスやネスティに目もくれず、一直線にナツミの元へと歩き出す。
「な、何しに来たのよ」
「お前を迎えに来たに決まってるだろ。ほら、帰るぞ」
ナツミの手を強引に引くと、ソルは竜の元へと向かう。がっちりと手を掴まれたナツミは、振り払うことも出来ず、わめき散らした。
「まだ帰らないんだってば! あたしにはやることが…」
「……ネスティと誓約するっていうことがか?」
ぴたりとその歩みを止め、そう言った彼の顔は恐ろしいほどの笑みを浮かべていて。
「そ、そ、そう…だよ」
「…へぇ」
直視出来なかった。
流石のリンカーも、この護界召喚師の迫力には敵わない。
いや、護界召喚師というよりも。
「……馬鹿なことは考えないよう、じっくり話し合った方がいいみたいだな」
いつもそばにいるナツミでさえ見たことの無い笑顔のソル。
ナツミの背にいやな汗が流れたが、しかしそれはもうしょうがない事。
普段、己を抑えた人間の嫉妬は恐ろしいもので、もはや周囲も見えていないのかどうでもいいのか、ナツミの唇を奪うと、そのまま彼女が脱力するまで口付けを落とす。
「…邪魔して悪かったな。今度はきちんと連絡してからにする」
ぐったりしたナツミを抱きかかえて竜の背に乗ると、ソルはいつもの表情と口調でネスティに声をかけた。
「あ、ああ…元気でな」
ネスティはそうとしか答えることが出来なかった。トリスにいたっては硬直したままである。
意外なところを見てしまった衝撃は流石の二人をもそんな状態に追いやったようだ。
散々待たされてしかも足代わりに使われたようなレヴァティーンであったが、特に怒っている様子も無く(呆れているのかもしれないが)、二人を乗せるとその羽をゆっくりと羽ばたかせた。
竜が飛び立つ瞬間、ソルは硬直したトリスに向け叫ぶ。
「…トリス!」
「えー? なに〜?!」
羽音で起こる風に、良く聞き取れず叫ぶように交わされる会話。
「ナツミがまた馬鹿な事を考えないうちに、早いとこ誓約でも何でもするんだな!」
「!!」
片手はナツミをしっかり抱いたまま、もう一方の手を高く振り上げ別れの挨拶に代えると、二人を乗せた 霊獣は高く飛び立った。
呆気にとられてみつめるトリスとネスティは、その姿が見えなくなってからようやく口を開く。
「…いっちゃったね」
「……そうだな」
「…話し合いで済むのかなぁ…」
「済まないだろう、あの場合」
互いに顔を見合わせ、ぷっと吹出す。
「さて。キミはどうするんだ? こちらも話し合いの必要があるとみえるが?」
意味ありげに微笑むネスティに、トリスも負けじと応戦する。
「そうだね。じっくり話し合うのもいいかも」
「ほぉ?」
「負けないんだからね!」
「それはそれは。望む所だ」
ネスティの腕に手を絡ませ、寄り添いながら屋敷の中へとトリスは歩き出した。


さて。
この不毛な争いの勝者は誰か。


それは聞くだけ野暮というものだろう。



03.3.26 HAL




あとがき

勢いで書いてしまったリンカールート。
ネストリを書くつもりだったんですが、何故かソルナツテイスト。おや〜?