ぬくもり〜キミのてのひら〜   〜 for Summon Night2 〜





「はぁ・・・」

ひと際大きく溜息をつきながら、紅茶をすする。
ここは聖王都ゼラムにあるギブソン・ミモザ邸。
大悪魔との戦いも佳境に入ってきているにも関わらず、呑気にティータイムなどとっているメンバー達。
そんな中、いつもなら皆とワイワイ騒いでいるはずの人物の溜息に、その場が静まり返った。


「・・・ど、どうかしたの?トリス」
「・・ん?・・なんでもない・・・」
「何でもない、って、さっきからそればっかりじゃない!」


どうやらトリスの溜息は今に始まったものではなく、先程から何度と無く(この質疑応答と共に)繰返されているらしい。
業を煮やしたケイナがトリスの手を取って熱弁を?振るう。

「あたし達仲間じゃない!水臭いわよ!!」

そうですよ、女同士、何でも話して下さい!と、アメルも負けじとトリスの手を取り、熱っぽい眼差しを向けた。
トリスは二人に取られた手を見つめ、ゆっくりと顔を上げる。



「・・・あのね?」





かくして、一部、男性が見守る中、トリスはその思いを皆に語り始めるのだった・・・・・・









「・・て?―――て、って・・・この"手"?」
「うん」
「じゃあトリスはネスティさんと手を繋ぎたいな、って・・?」


コクリと恥ずかしそうに頷くトリス。
ポッ、っと少し赤らめたその頬。
・・・その仕草も言動も、とても18歳とは思えない。

「最近、スキンシップが足りないかな〜、なんて・・・」

えへへ、と、照れて頬を押さえるトリスの仕草に、一部の男性の"オトコゴコロ"は直撃をくらって瀕死だった。どこぞの騎士様など、鼻まで押さえている。
男性でこうなのだから、女性陣とてトリスを撫でくり回したい気持ちで一杯だ。
ケイナには
"可愛いっ!!"と抱きしめられ、
アメルには
"いじらしいです、トリスっっ!!"
と撫で撫でされていた。


「ケイナ、お前もコレくらい可愛かったらなぁ〜?」
「・・・ぶつわよ?」


ニヤニヤと近づいてきたフォルテだが、早速ケイナの裏拳がクリーンヒットし、その場に沈む。
フン、と、己の手をパンパンと払う姉の姿を見て、カイナは人知れず涙を流した・・らしい。
だが、そんな夫婦漫才は日常茶飯事なコトなので、特に皆、気に留めてもいなかった。










「う〜ん、やっぱりここは・・・」
アレしかないですよね!」
「うんうん!私もそう思う!!」



ケイナ、アメル、ミニスの三人が目を合わせて力強く頷く。
どうやら。
思うところは、皆、同じなのか、アイ・コンタクトで意見がまとまったらしい。
嫌な予感とは大抵当たるもので。
危機を感じ、その場を去ろうとしたリューグを待っていたものは、彼女達の晴れやかな笑顔だった。


「どこへ行くの?リューグ」
「な、何だよ、アメル・・」
「あたし達、ちょっと協力してもらいたい事があるのよね〜?」
「そうなんだよね〜。格好いいリューグにしかお願い出来ないコトなの〜」


右手に聖女アメル。
左手に裏拳?のケイナ。
前には召喚師のミニス。

・・・そして後方には腕組みをして立つミモザ。

四方をがっちりと囲まれ、逃げ場を失ったリューグはとりあえず諦めた振りをし、勧められた席に着く。
いつでも逃げられるよう、他の退路を探しつつ。
なかなか抜け目のないリューグだった。







「・・・で、一体何なんだ?(聞きたくねーが)一応聞いてやる」

「うん。皆で話し合ったんだけどね」

「(話し合ってねーだろ・・)ああ」

「ネスティさんが"どうしたらもっとトリスに積極的になってくれるか"、って方法なの」

「(奴がアレ以上積極的になったら犯罪だと思うがな)それで?」

「・・・リューグ、会話の最中に何か変な間を感じるけど・・・?」

「気のせいだ(心の声だしな)」

「そお?」



アメルは少し納得いかないようだったが、気を取り直し、話を続けた。
しかし、その内容を聞き、流石のリューグもうろたえる。


「ふざけんな!!何で、俺が・・・っ、こいつと・・!!」

怒りと興奮の余りどもってしまうリューグを、兄であるロッカがまぁ落ち着け、とたしなめた。
三人娘の提案とは、よくある「ヤキモチ大作戦(仮)」だった。
トリスと他の男性が接近している所を見せ、嫉妬したネスティがトリスに・・・という、別名"雨降って地固まるラブラブ大作戦"(ミニス命名)を展開しようというのだ。
ネスティにヤキモチを焼かせるのが目的なので、トリスに本気になりそうな人間では困るし、またフォルテなどではいかにも「やらせ」的なので役不足である。

そんな、様々な消去法にて残ったのが・・・


「冗談じゃねぇ。別に俺でなくたって・・・兄貴だっていいだろーが。同じ顔なんだし」
「だめよ、ロッカじゃ。・・・ネスティさんの睨みに耐え切れないもの。作戦をばらしちゃうわ。それにリューグなら頑丈だし。何かあっても大丈夫そうだもの」


「――――」



何気に酷いことを平気で言ってるアメルだが、どうやら他の人間もその意見に賛同しているようで。
見渡せども、己の味方になってくれそうな人間はいなかった。





(お前ら、知らないからそんな事が言えるんだ・・・)



リューグは以前、トリスと二人きりで買い物に行ったために、その後、戦闘時"鼻先数センチ"のところで召喚術を感じる、という、思い出すだけでも寒気の走る思いをした事があった。

(アレは警告だ・・・)

あんな思いはコレっきりにしたいと心に誓ったリューグ。
この次は召喚術の直撃を免れない自身の苦しい立場と、今、この女性陣に囲まれる自分。



「・・・わかった。やってやるよ」


リューグの出した結論は、「死ぬ目にあってもアメルが治してくれるだろう」というものだった。
ネスティより、この女性陣を敵に回した方がはるかに恐ろしい事に気付いたのだ。
それに、
後で真相を話せば半殺しくらいで済むかもしれない―――――


そんなはかない奇跡を信じるような、淡い期待をするリューグ。
だが、その時。



「・・・一体何の騒ぎだ・・?」

「「「?!!」」」


悪巧みをしていた時、というのは、皆、挙動不審となるもので。
この時も、皆、突如現れたネスティに、しなくてもいい動揺を顕著に表現しきっていた。
元々そういう事には鋭いネスティだが、皆が必死に隠そうとしている事を、あえて根掘り葉掘りほじくり出すような人間ではない。
不審に思いながらも広間に足を踏み入れたネスティだが、彼のその姿を見て、トリスは目を見開く。


「ああぁぁ〜〜〜っっ!!」


素っ頓狂な声をあげるトリスに驚くネスティだが、その下に、もっと驚く小さな少女の姿があった。
トリスの護衛獣である、ハサハ。
だが、トリスが驚いたのはハサハがいた事ではなく・・・


「何だというんだ、騒がしい・・・」
「ね、ネスっ、て、手・・・」
「・・手、がどうかしたのか?」



広間に現れたネスティとハサハ。
二人の手はしっかりと繋がれていた。男性には特に人見知りするハサハには珍しいともいえる。


「君がちゃんと見ていないから、僕の部屋へ来てたぞ・・全く・・駄目じゃないか、一人にしていたら・・・」
「ネスが・・?」
「ああ・・とりあえず本を読んでやって・・・眠い、というんで寝かしつけてるうちに、僕も寝入ってしまったんだが・・・」
「〜〜〜〜!!」


トリスこそ半泣きの状態であったが、他のメンバーは、ハサハに絵本を読み寝かしつけるネスティの姿を想像し、笑いを堪えるのに精一杯だった。
うりゅ〜、と、トリスの瞳にたまっていく涙に、流石に驚くネスティ。
どうしたものかと近づくと、その手が赤いマントを掴む。



「・・トリ、ス・・?」

俯いた顔を覗き込むように見たネスティの表情が一瞬固まる。
だが、ふう、と小さく息を吐くと、その表情をゆっくり、ふわりと笑顔に変えた。
小刻みに震える小さなトリスの肩と、頭に手を乗せ、ぽんぽん、と優しく叩くネスティ。


「・・・どうした?辛いか・・?」

コクリ、と頷くトリス。

「おんぶがいいか?それとも・・」


「〜〜っ、抱っこ!!」

「「「!!??!」」」



言うや否や、ガバリ、とネスティに抱きつくトリス。
えぐえぐと子供のように泣いているトリスの頭を、いつものように撫でるネスティ。

皆が急速冷凍される中、ネスティは悠然とトリスを抱きかかえ、二階の彼女の部屋へと向かう。


「アメル、すまないが今日はハサハと一緒にいてやってくれないか?この馬鹿は今日はハサハどころじゃないからな」
「は、はい!・・・

頑張って下さいね。ファイト!


アメルの最後の台詞はどうやら届かなかったようだが、己の首にぎゅっとしがみついているトリスを連れ、ネスティはその場を去った。







「・・・えへへ」
「・・・なんだ?」
「ネスの手、あったかいね?」
「・・・違う。君が温かいんだ」
「そう、なの〜?」


繋がれた二つの手を見比べ、不思議そうな表情のトリスに、思わず微笑むネスティ。




(・・・そうだよ、トリス。君は僕の凍った心を溶かしたくらいなんだから)











残されたのは二人のラブップリに、己の姿を重ね、妄想する女子らと、フリーズした男達。

そして・・・




「――― 一体何だったんだ・・・」


何だか納得いかないような、ホッとしたようなリューグであった・・・・・。












翌日。


「えぇ〜〜〜?!覚えてないの!?」
「うん。・・・あたし、なんかしたの?」


昨日のことを全く覚えてないトリスに面食らう仲間達。
助けを求めるように視線を向けたアメルに、ネスティは苦笑する。


「ハハハ。トリスはいつも熱を出すとああなんだ」
「熱って・・・」
「・・・子供みたいだったろう?泣いたり、寂しがったり」
「!それで・・・」


成る程、と、納得するアメルに、横でもりもりと食事をするトリスが言った。



「そっか〜、それで今日ネスと一緒に寝てたんだ〜」
「っ、な、君は・・!」
「よく寝れたもんな〜。・・・やっぱり時々一緒に寝ないと駄目みたいだね。最近寝不足で調子悪かったから体調崩したんだし。ね?ネス」
「〜〜〜〜 っ」



ニッコリと、笑顔で爆弾発言をするトリスに、赤面し、固まるネスティ。



「慣れた体温、っていうか、温もりっていうかね〜。ハサハとは違うんだね、やっぱ」



そう言うと、また、変わらずモリモリ食べ始めるトリス。
仲間の視線を痛いほど浴びたネスティは、その後、戒め?として添い寝を禁止した。
何でぇ〜、と、何度も抗議するトリスだったが、暫くの間取り合って貰えず、結局、また体調を崩し、恥ずかしい姿を皆の前にさらす事となった。





口は災いの元。


どうやらトリスには良い教訓となったようだ。


end.

02.01.31 HAL