「ねぇ、もし明日でこの世界が終わっちゃうとしたら最後に何をしたい?」








突然のミニスの言葉に、あたしは何も返すことが出来なかった。









世界にひとつだけ。 〜May I be together with you?〜





「……どうした?」
ネスが本を読む手を止めてあたしに向き直る。
分厚い教本をパタンと閉じて、ベッドで枕を抱えるあたしの隣に腰を下ろした。
「百面相をして人の部屋に篭城する位の悩み事か?」
そういうネスの顔は、自分のベッドを乗っ取られたわりに少しも怒っていない。
優しい表情。
こんな顔は二人で居る時でもめったに拝めない。
いつでもこんな風に笑ってくれればいいのに。
でも、それはネスがあたしの気持ちを見透かしているからなんだよね…
ちょっと悔しくなって枕に顔を埋めたあたしに、ネスは溜め息を一つつく。
そうしたかと思うと、ゆっくりと髪に手が優しく触れる感覚が降りてくる。
優しく撫でてくるその手に、あたしはふにゃあ、と頬を摺り寄せた。
「…君は猫か…」
呆れたような声。
でも、全然怒ってないことは知ってるから。だから。
だからこの人には思いっ切り甘えられる。
「ねぇ。もし、もしもだよ? 明日世界が終わっちゃうとしたら…ネスはどうする?」
「なんだ、それは?」
「だから、もしもだってば。今日ミニスに訊かれたの」
「で。君はなんて答えたんだ?」
「…皆は好きなモノを食べたり、好きなことをするんだって、そう言ってた。でも、あたしは思い浮かばなかったの。最後の日に何をしてるかなんて」
そう答えたら呆れられた。だって、本当に浮かばないんだもの。
『好きな人(ネスティ)と一緒に過ごすとかないの?』って、皆には言われたけど。
ネスはあたしの答えに呆れるのかと思ったら、意外にも「それはそうだろう」と、ひとこと言った。
不思議な顔でネスを見るあたしの頭にポン、と手を乗せて。
「君は最後の最後まで諦めないだろう? 生きることを」
「…それって、なんか命根性汚いみたいじゃない、あたし」
「褒めてるつもりだが?」
「むぅ〜」
むくれるあたしの頭をまた、優しい手が滑る。
と、突然、撫でてくれていた手があたしを引き寄せ、そのまま抱きしめる。
「…ただその時を待つにしろ、共に運命に抗うにしろ。僕の居場所はここだ」
まるでプロポーズみたいな台詞をしれっと吐くネスに、あたしはといえば、もう、顔面紅潮沸騰状態だ。 その言葉の意味を尋ねようにも、上手く言葉が出てこない。
唇から漏れるのは呻くような音だけ。
まるで丘に上がった魚だ。
そんなあたしの様子に満足したのか、ネスは「ククク」と低く笑っておでこにキスをする。
子供をあやすみたいに。
「んもう! あたし、子供じゃないんだからっ、ね!」
でも。
そう言ってご立腹なところを見せるあたしに、ネスはそれはそれは綺麗な笑顔を向けてこう言った。
「それでは…大人の女性として扱っていいんだな?」
はやまった。ネスに誘導されるがままじゃない、これじゃあ!
今更思ったところで後の祭。いつもいつもネスにしてやられる。
いつからこんな策士になったんだろう。
思えばずっとネスに負けっぱなしな気がする。
そんな事が分かったところで、この状況の打開策は見つからないみたい。
あたしはせめてたっぷり甘えてやろう、と、ネスの胸にぎゅうと張り付いてやる。



世界が終わる最後の時に、貴方はあたしの傍で。
あたしは貴方の腕の中。


それは、世界にたったひとつだけの場所。

願うことは、ずっと、一緒。



03.4.11 HAL  □□□□□□