ONLY ONE   -オンリーワン-



幼かった頃は。
まるでその人だけが全てで。
その笑顔も、求めて、伸ばされる手も、自分だけのものであって欲しくて。
"特別"になりたかった。
誰かの、じゃなくその人だけの。

たったひとりの人に。



「…なんてことを思ったりしてたんだけどな」
テーブルで頬杖をつきながら遠い目でそう言うトリスの前に、湯気の立ったカップがコトリ、と静かに置かれる。
カップの中身はミルク色。
甘い香りがするところから、手が加えられていることがわかる。
カップを手に取り、息をかけて冷ましながら、トリスはまるで独り言のように質問をした。
「いつから恋に変わったのかな…?」
そう言って、ゴクリ、と飲み込む。
しかし。
ゆっくりとカップを置いた彼女に返ってきたのは、質問の返事でなく、背後から柔らかにその身を抱きしめる温もりだった。
「……それは奇遇だな。僕も同じように思っていた」
ややしばらくして、そんな声が耳元で囁かれる。
低くて甘い、胸をくすぐるような感覚さえ覚える、その声の主は。
「ネスが言うと何だか嘘っぽく聞こえる…」
「それは心外だな。僕が君に嘘をついたことがあるか?」
「……無い」
「そうだろう?」
トリスは反論出来なくなり、グっと詰まる。
確かに彼は自分に隠し事はしていても、嘘をつくことは無かったのだ。
「でも、まさかこういう関係になるとは夢にも思わなかった」
兄妹弟子から仲間へ。そして、互いの先祖の深い関わりを知り。
気付いた時には。
「最高の愛情表現だと思うが?」
むぅ、と唸るトリスを更に抱きしめながらネスティは言う。
「君を誰にも渡さない方法を取っただけだ……ご主人様」
「っ、だからぁ! その呼び方はやめてって何度も…!」
顔だけ後ろを向いて反論するトリスだが、それ以上は続けられなかった。
唇を彼の温もりが優しく包み込んだから。

「最高の独占欲だろう?」
「…そうだね。でもそれはあたしにとってもそうだって、ネスは知ってた?」


束縛する。
誓約という鎖で。

でも、それは二人にとって、互いだけを必要とする証。


唯一無二の独占欲。




あとがきというか言い逃れ。

短くてほんわかしたものを書きたかっただけです…
03.5.25 HAL