愛の重さ。



年齢差。
身長差。
力の差。

色々ある中で最も大きな差は「愛情」の差だと思っていた。

今日、この時まで。




長期休暇を島で過ごすのが当たり前になっていた頃。
いつものように戻ったウィルを出迎えたのは、風邪引きのアティだった。
「何をやっているんですか、全く……貴方って人は」
すぐに連れ帰り、なにやら言いたそうな彼女を無視してベッドに寝かせ。 咥えさせた体温計がアラームを発し、手に取ったウィルはその数字に怒りと呆れの両方を覚える。
問題の数値は38.8と表示されていた。
「先生……」
「…ごめんなさい……」
言葉を失うウィルに、先制攻撃か、アティは素直に謝罪する。
(全く、頑固かんだか素直なんだかこの人はわからないな)
テコとの魔法で作った氷を桶に入れ、冷水を作り、タオルを浸す。 そうして固く絞ったタオルを額に乗せると、彼女は目を細めた。
「気持ちいい……有難うございます、ウィル」
上気した頬と潤んだ瞳。
自分がいない間、こんな姿を他の人間にも見せることがあるのかと思うと、無性に腹ただしかった。
「クノンから薬を貰ってきました。何か口にしてからの方がいいでしょう…スープ、食べられますか?」
子供染みた嫉妬を頭から振り払うように、ウィルはいたって平静を装う。
「あ、は……いっ!」
「先生?」
起き上がろうとした瞬間、鈍器で殴られたような痛みを感じる。正確には頭の中から、だが。
ウィルは額を押さえるアティをゆっくり横にさせると、スプーンを自分の口元へ近付け『ふーっ』と息を吐き、 それからおもむろに彼女の口元へと運んだ。
「はい、どうぞ」
「……………え?」
突然そんな風にされ、当たり前のように口を開けるなんて出来ない。アティの中ではまだ自分は彼より“大人”だったから。
「食べなきゃ薬、飲めないじゃないですか。それとも」
ウィルはちょっぴり意地の悪い笑みを浮かべる。
「“あ〜ん”って言った方がいいですか?」
「★■●▲?!!」
「あはは、冗談ですよ、冗談。ほら、早く食べましょう?」
熱のせいだけではない涙を浮かべつつも、先程のとは違う、いつもの優しい笑顔を向けられ、今度は素直に口を開く。 それでも恥ずかしさはあり、味もなにもよく分からなかったが。
「ウィルってば…ちょっと意地悪になりましたよね……」
薬を飲むための水が入った容器を持ちながら、アティは溜め息交じりに呟いた。
「何子供みたいな事言ってるんですか。いくら薬が苦いからって……」
「そんなんじゃありません! もう……いいです」
ふて腐れたようにそっぽを向き、布団を上まで引き上げてしまうアティを見てウィルは苦笑する。 高熱のせいだろうか、いつもより感情が豊かというか、子供っぽい感じがした。
「恥ずかしかったですか? さっきの」
「…………」
「でも“おあいこ”ですよ? 先生だって昔さんざん僕にああやって食べさせたんですから」
「う、で、でもそれは!」
「仕方ないですよね、病気なんですから。ねぇ、先生?」
慌てて振り向いたその先にはウィルの笑顔。
「僕だって恥ずかしかったんですよ。分かりました?」
「はい…」
小さく頷いたアティに再び笑顔を向けると、ウィルは鼻先を掠めるようなキスを落とす。
「!」
更に紅潮する顔に、アティは頭の中まで沸騰寸前だった。
彼女にとってキスは初めてのものではなかった。といっても相手は全て目の前にいるこの少年だが。
特別に好き、という感情を自覚して『恋人』という関係になった今も、まだ意識してしまう。 相手の一挙一動に。年齢だけはいくつも上であったが、事恋愛に関してはどうも主導権を 握られているような気がして、アティはいつも自分の気持ちを抑えて接していた。
そうでなければ。
「絶対勝てない気がします……」
「……? さ、先生はゆっくり休んでいて下さい。学校の方は僕が代わりに出ておきますから」
声が小さすぎて聞こえなかったのだろうか。 アティの独り言には触れず、ウィルは彼女の代役を務めようと、学校へ向かうべく席を立とうとした。が。
「え…?」
「だ、だめっ! ……うっ…!」
立ち上がる彼の腕をとろうと慌てたアティだが、またしても激しい頭痛に襲われる。
「何やってるんですか、ほら、早く横になって……………先、生?」
しっかりと握られた袖。
どうやらアティに離すつもりはないらしい。
病気の時は心細くなったりしてその人の本心が出るとはいうが、これほどまでとは、と、ウィルは苦笑した。
「……傍にいますよ」
上まで布団をひっかぶってしまったアティの頭を、ぽんぽん、とあやす様に撫でる。
布団の中から呻くような声が聞こえ、ウィルは声を抑えられずにクックッと笑った。
「〜〜〜ずるいです、ウィルは……」
「何がです?」
「だって…私の好きの方が絶対大きい……ウィル、全然取り乱したりしないんですもん」
恨めしそうなアティだが、この発言には流石にウィルもカチンときたようだ。
動じてないのはそっちじゃないか、と言わんばかりに。
「心外ですね。僕だって先生といる時はあがりますよ……それに自分を抑えるのに必死です」
「おさえる? 何を?」
不思議に思ったアティは、彼の表情を見ようと布団から顔をチラリと覗かせる。
しかし。
照れているのかと想像したアティの予想を大幅に裏切り、彼女が目にしたのは不敵に微笑むウィルの姿だった。
「わかりました…じゃあ教えてあげますよ。僕がどの位先生を好きか」
「え…? あ、あの…」
「先生が言い出したんだから反論は聞きませんよ?」
「……!」

唇といわず、頬に、額に落ちる口付け。
結果、アティの完治が遅れた事はいうまでもない。


end.






何でED後なんか書いてるんですか、HALさん…
しかもなんだか甘すぎて二人じゃありません。 本編中で書くとシリアスになりそうだったので、 ED後仕様にしたんですが…し、失敗?(汗)
単にアティさんもウィルにめろめろんなトコが書きたかった だけかも……

※ウィルア22お題「差」に書いてたものを再収録。