もしも―――
いつもそんな疑問が脳裏を過ぎって、素直になれないでいた。
それがこんなに彼を傷つけ、追い詰める事になるなど微塵にも思わず。
信じて。
他人に求めていたのに、自分はどうだったのだろう。
信じていたのに。失う怖さに囚われてしまっていた。
あのまっすぐな瞳を信じ切れなかった臆病な自分が全て招いた事。
そのために彼は今、命の危険を顧みず抜剣者になろうとしている。
心のどこかで危惧していた事が、こうして現実のものになろうとしているなどと。
確かに予感はあった。
イスラがいなければ選ばれていたのはウィルであったかもしれないという事を。
二人は、よく似ていたから。
だから。
彼は道を見失わないように、傍にいたい。
自分がそうだったように、支えになりたい。力になりたい。
それがアティの出した答え――――彼の告白への答えだった。数年越しの。



もしも



「……結局、私は昔からウィルの事が好きだったんですね……」
他人ごとのように呟くアティに、ソノラは呆れる。
「なに今更言ってんの? センセ、鈍すぎだよ、自分の事に」
心と同じように凪ぐ海を見つめながら、アティは「うう…」と言葉を詰まらせた。
今、甲板に立っているのはアティとソノラの二人だけ。他のメンバーはそれぞれに与えられた仕事をこなして いるのだろう、その姿を見ることはない。
アティはカイル達一家に自分をワイスタァンへ連れていって欲しいと懇願した。
無論、彼らは快く引き受けてくれ、こうして船の上にいる訳なのだが。
「周りのあたし達がわかってるのに、肝心の当人達はこれだもんねー。先生の気持ちが分かってるから、みんな 先生を諦めて手出ししなかったんじゃない」
「え?! そ、そうだったんですか?」
「コレだ。先生がこんなじゃあ、ウィルも苦労するわけだよね……」
ソノラはしみじみ同情する。
この先のウィルの苦労を考えると、ちょっと…いや、かなり骨を折るであろう事が予想される。
まあ、しかし。
想いは叶うのだ。
二人をずっと見守り続けていたソノラにとって、これほど嬉しい結果はない。
あの島で一人抜剣者として生き、皆を見守り続ける事は、やはりどこか孤独を感じるから。
護人達は確かに彼女と同じ時間を共有できるかもしれないが、その作用もアティが受ける恩恵と比較すれば、 それは緩やかな程度であろう。
共に生きること。生き続ける事。
自分達がいなくなっても、傍で彼女を支えてあげられる人物がいる。
それが自分達の好きな、大切な仲間だったとしたら。
「ところで先生、もしかして…初恋?」
「……っ! し、知りません!!」
途端に真っ赤になって顔を背ける仕草は、とても年上だなどと思えない。実際見た目はもう自分の方が 追い越してしまったのだが。
からかわれるのだろうと予測したアティは身を固くするが、ソノラが次に口にしたのは小さな、呟きのような言葉。 その声は少し、どこか自分と似ている色を思わせる。
「初恋は実らないって言うケド、やっぱアレ、迷信だったんだね」
アタシも頑張ろう、そう言って背伸びをするソノラを見つめるアティの瞳の色は優しい色。 深い海のようで、でも穏やかな青だった。



「そういえばさー、センセ、もしもウィルに『帰れ』って言われたらどうするの?」
「その時はその時です♪」
「……先生らしい答えだね」








第3話です。
短いのは最初に考えた時点で決まってたので仕方ないのです… これでもちょっと長くしたつもりなんですもん。(最初の走り書きには 『ウィルまでが自分の前から消えてしまったら、という不安に襲われ、 アティは彼の後を追うことを決意。海賊船でLet's go!』とか 書かれてる位ですから…。(ほんとにコレだけ)
その話によって長いところと短いところの差が激しいかも。
連載ものは前の経験からいって、早めにUPして終わらせないと 数年越しになっちゃうから…完結まで(汗)

04.2.18 HAL