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オンナノコの本音。




「・・・で、トリス。どうなの?ホントのところ」

「どう、って・・・・」

ネスティが二年の歳月を経てトリスの元へ戻って来てから早数ヶ月。
彼の体調もほぼ元通りになった頃、旅路の前の挨拶を兼ね、二人はファナンを訪れていた。
小難しい話は苦手、とばかりに、面倒をネスティに押し付け(病み上がりの人間だということはこの際忘れることにしたトリスである)、トリスはミニスの部屋でたまたま?ファナンを訪れていた他の仲間達とお喋りに花を咲かせていた。
部屋にいるのはミニスにケイナ、ルゥにモーリン、そしてアメルにミモザ。
・・・これだけの面子が揃って、タダで終わるワケも無く。
「融機人の部分って、もう残ってないの?」
ケイナの問いを補足するかのように、ミニスが疑問を付け加えた。
実際、トリス以外はネスティの肌などまともに見たことがないのだ。目覚めた後 "人間になりました" などと言われても、それが真実かどうか確かめようも無い。トリス以外で唯一、人になってからのネスティの肌を見たといえばアメルくらいであろう。
しかし。
「あたしもじっくり見たわけではありませんし・・・どうなんでしょう?トリスさん」
にっこり、スッキリ、爽やかに。
アメルにこう言われてトリスに返す言葉もなく。
何に対してなのか興味深々に目を輝かせる女性陣に囲まれ、トリスはうっ、と喉を詰まらせた。
「まぁまぁまぁ。そう苛めるもんじゃないわよ、皆。ねぇ、トリス」
無言のプレッシャーに呻くトリスをフォローしたのは、いつもは率先してからかう人物のミモザであった。
しかし普段の行いが行いだけに、皆(トリス以外の全員)、裏があると信じて疑わないのだが。
「ミモザせんぱ〜い・・・」
甘えてくるトリスをよしよし、と撫でていたミモザだが、不意に思い出したかのように言葉をつく。
「でもあの子・・・考えたらずっと肌を隠してきた訳よね・・・ちょっとそれは不健康すぎない?」
「は?」
ミモザの言葉の真意が分からず、首を傾げるトリス。
そんなトリスの肩をがっちり掴み、ミモザはにっこり微笑んだ。
その笑みが、天使のものか悪魔のものか。
どちらにしても、たいそう楽しげであった事は否めない事実である。
「海に行きましょ、トリス。題して "ネスティ不健康生活大改善大会!" よ!!」
どんな大会だ!・・・と、そこにいる誰もが(勿論トリス以外)そうツッコミを入れたが、それらは全て各々の心に深くしまわれた。
「な、何ですか、それは」
「だって、ネスティって日陰でジメジメしたシダ植物みたいなイメージあるじゃない?だ・か・ら!健康的に海で日焼けをして男らしさをアップさせる、ってわけ。どお?」
「シダ植物って・・・・さりげなく酷いこと言ってません?先輩」
「まぁまぁ。でもさ、トリス。ネスティも少しばかり身体を鍛えた方がいいんじゃないか?リューグまでとはいかないにしても・・」
「そうよねぇ。あのバカでさえ男の人として頼れるところは頼れるワケだし」
無意識なのか何なのか。リューグの名前を出すモーリンに、ケイナはケイナで対抗意識の表れか、フォルテを出してくる始末。
一方、ミニスとルゥはといえば、アメルにやんわりと制され、喉まで出かかる名前を飲み込みその口を閉ざした。

「筋肉馬鹿じゃないけど、大人の男性像としてはいいとこいってるんじゃないかしら」
「・・・ちょいとお待ちよ、それってリューグが子供だって言いたいってのかい?」

なんだか雲行きが怪しくなりかけ、険悪なムードがプンプン臭いはじめた、その時。
「・・・ネス、そんな貧弱な身体、してないんだけどな・・・・」
ぽつりと呟いたトリスの一言に、皆の視線が一気に彼女へと向かう。
「え〜、だってネスティ召喚師でしょ?キムランおじさまみたいならともかく・・・・」
ミニスにはサイジェントに三人の叔父がいるのだが、そのキムランという男は、召喚師でありながら己の肉体美にこだわりを持つ、マッチョなナルシストであった。
「ネスってさ、ああ見えて結構体力あるんだよ?防衛の為の棒術とか成績トップだったし・・・基礎体力作りには煩かったんだよね。だからフォルテとかとは比べられないけど、それなりに筋肉はついてるんだってば」
へぇぇ〜、と皆から感心の声が上がる。
確かに完全主義を提唱するネスティらしい、と皆、それで納得していたのだが。
「そうですね。ロッカ達とは違って、細すぎず、うっすらと綺麗に筋肉がついていましたね」
あんた、さっきよく見てないって言わなかったか・・・?
皆の頭に浮かんだ台詞は、有無を言わさぬ聖女の微笑みの前では無力であった。
しかし。
「細すぎず綺麗な筋肉」
こうなると皆の心は一つである。
彼女達も何だかんだ言って年頃の乙女だ。
美形で、しかも滅多に見られないネスティの身体を見たいという好奇心が湧き上がっても、それは仕方が無い事で。

「そうよ、トリス!折角海に・・・いいえ、ファナンに来たんだから海水浴していきましょうよ!」
「うん!ルゥも海に行ってみたいな!」
「折角来たんだし、どうだい?トリス」
「ほらほらほらぁ〜。皆もこう言ってる事だし。ね、アメルちゃんも海で泳いでみたいでしょ?」
「はい、ミモザさん」

言葉の要らない一致団結の姿に、
(そんなにネスティの身体が見たいんだ・・・)
と、ミニスは一人、まだ見ぬ大人の世界に黄昏れていた・・・・・









翌日。
ミモザの協力もあって、何とかネスティを説き伏せ、海水浴となった御一行。
総勢10数名の若い男女が海水浴。
確かに健康的ではあったが、彼女達の目的は不健康そのものだ。
ネスティの服装はというと、普通より少し長い、黒の海水浴用のズボンをはいており、上には半袖の薄い白の上着。
期待する肉体美?はまだ拝む事が出来ず、彼女達はトリスに全てを任せ、各々散らばり出す。
他の海水浴客で賑うファナンの海辺は、何故か彼女らの周りだけ気温が高く感じられた・・・。

「え?ネス、泳がないの?!」
どうやってネスティを誘い出そうかと悩むトリスを他所に、ネスティはといえば、ビーチパラソルの下でおもむろに腰を下ろし本を取り出す。
「・・・僕はあまり水が得意じゃないんだ。あの頃は人前で泳ぐなんて考えられなかったし」
「あ―――!ごめん」
「謝らなくていい。それに・・・もう、気にする必要はないしな。ほら、君は皆と泳いで来い。僕も後で行くから」
「・・・うん!」
ネスティに頭をポン、と撫でられ、トリスはニッコリ笑う。
パラソルの下に愛しい人を残し、トリスは皆の元へと走り寄った。
「・・・こんなとこまで来て、当てられるとはねぇ・・・ったく、もう少し遠慮ってもの知らないの、このコは!」
ミモザにグリグリとゲンコツで可愛がられ、トリスは痛い痛い、と言いながらも幸せな笑顔を浮かべる。
ちなみにここにはケイナはいない。
ナンパに精を出すフォルテを追いかけているのだ。
・・・彼女なりの夏の満喫と云うべきか。
(ちなみにミニスはロッカに水泳の個人レッスン中である。二人の恋路を邪魔すると後々怖いので一向は放っとくことにした。)
「でも、ネスティがビキニ穿いてなくて、ルゥはホッとしたよ・・・」
「はい・・・ネスティさんが常識人で良かったです・・・」
普段男性と接する機会が少ないルゥとアメルの二人。
次々とナンパしてくる男達がビキニで迫って来る度、パラ・ダリオを遠慮なくぶちかます。一見大人しそう&開放的に見える彼女等が一番の危険人物であった。
そうこうしながらも、泳ぎながら話に花を咲かせ盛り上がっていく女達。
しかし、ネスティが普段どんなパンツを穿いているかに話題が移った時、モーリンが素っ頓狂な声を張り上げた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!」
「ど、どしたの、モーリン?」
「どうもこうも・・・あれ見なよ!!」
物凄い形相で指差すモーリン。その視線の先に映ったのは。
「!!」
・・・・・・若い乙女達に囲まれ困惑する、ネスティとリューグの二人の姿であった。
俗に言う、"逆ナン" というヤツである。
「なにデレデレしてんだい、男のクセに情け無いったらないね、全く!」
完全に嫉妬であるのだが、本人が気付いてない以上、言わない方が身の為とばかりに、皆、貝になる。モーリンの怒りの矛先が自分に向かないよう、天に祈るだけだ。
一方、リューグと違い、ネスティはというとその手の誘いには派閥で随分慣れている。
ゆえに、断り方も手馴れたもので、そつなく相手を不愉快にしているようだった。
「あのコも相変わらずねぇ〜。あの一刀両断な態度。ど?嬉しいでしょ、トリス」
一触即発なモーリンとは対照的に、トリスはほわわん、とだらしなく笑った。
だがしかし。
海辺の女性は基本的に派閥の生徒と育ちが違う。
ましてや夏。そして海。
さらには水着で肌を晒し、女の武器を最大限にアピールしているのだ。
それらは女性をどんどん開放的にさせるアイテムだった。
「・・・!トリス、ネスティ抱きつかれてるよ!!」
幸せ気分を一気に覆されるルゥの一言に、トリスの顔は赤を通り越して青冷める。
悲しい事に、己の身体はとても勝負出来る様な代物ではない。
彼の腕に絡みつく女性の胸は、しっかりネスティの腕に密着していて、トリスの思考は一気に瞬間沸騰湯沸かし器だ。
「あ、あの女〜〜〜〜っっ!!!」
人の彼になにするのよ!
と、意気込んで行こうとするトリスだが、突如足に激痛が走り、その勇みを止める。
余りの痛みに思わず身を屈めたトリスだが、そこはまだ海水の中。しっかり水に沈んでしまう。

「ネスティさーん!」
おろおろしながらも、アメルはネスティを呼ぶためその場で叫んだ。
「・・・アメル・・・・?」
ネスティは只事でない雰囲気を察知し、まとわり付く女の手を振り解いて駆け出した。
「アメル?トリスがどうかしたのかっ!?」
「トリスが・・・・っ!早く!!こっちです!」
着ていた上着をさっと脱ぎ、ネスティは海中へと入っていく。
「何をやってるんだ、君は!」
水の中で攣った足をさするトリスを見つけ、ネスティはトリスを引き上げた。
「っは!・・・・う゛〜、痛いよぉ・・・・」
「・・・足が攣ったのか?」
コクリ、と頷きネスティの首に手を回して抱きつくトリス。
彼はホッと安堵の息を漏らすと、
「すまないが向こうで休ませる」
と言い残し、ビーチパラソルの下へとトリスをお姫様抱っこのまま軽々と運んで行った。周囲の視線に全く動じる事無く。

「へ〜え、やっぱりアメルちゃんの言う通り、ネスティ結構いい体つきしてたわね」
「そうですねぇ」
「・・・ところで、アメルちゃん?」
「はい?」
「・・・貴方、以前ネスティにおんぶされた事あったじゃない?・・・本当は知ってたんでしょ」
「・・・皆さんが仰るように、彼が貧弱だったらあたしを運べないとは思いましたけど?」
「ンフフ」
「うふふ」

やはり聖女にはまだまだ謎が沢山かくされているような気がする・・・・騒ぎで近くに寄ってきたミニスがそう思ったのは言うまでも無い。
ちなみその頃、リューグは(嫉妬に怒り狂った)モーリンに "性根を叩き直す" と、怒涛の攻撃を受け、砂にその身を沈めていた・・・。



「・・・トリス」
「っひゃあ!」
ネスティの膝枕に、いつの間にかウトウト夢の入り口に入りかけたトリスは、突如耳に感じた甘い囁きに飛び起きる。
「い、息っ、息が・・・」
「ああ、すまない。ところで足はもういいんだろう?泳がなくていいのか?」
勿論故意にやった事なので、悪いだなどと微塵も思っていないのだが。
ふてぶてしいというか、腹黒タヌキというか。
悪の参謀にほんっと、向いてるんじゃないかと真剣に思うトリスであったが、その後に続いた台詞に表情を曇らせた。
「ネス・・・あたし、邪魔・・・?」
「いや。どうして?」
「だって・・・皆のトコ行けっていうから・・・」
「何を馬鹿な・・・大体、海に行きたいと駄々をこねたのは君だろう?――――それとも、他に何か理由でも?」
「!!」
見破られている、これは。完全に。

(笑顔が・・・ネスのこの笑顔が一番怖いのよぉ・・・だから嫌だったのに・・・・!)

今更嘆いた所で後の祭。
その後、じっくりたっぷり尋問されたトリスは人の口車にはもう簡単に乗らない、と固く決心したそうな。





でもって翌日。

「お?ネスティ、今日は行かないのか、海。昨日はお前さん達、あんまり楽しめなかったって聞いたぞ?」
あの状況でフォルテが楽しめたのかどうかは彼にしか分からないので、この際置いておくことにする。
「・・・ああ、行くに行けない事情があってな」
「ん?何だよ、ネスティ。お安くないねぇ、その含んだ言い方。どれどれちょいとお兄さんに相談してみないか?」
ネスティは無言で胸元のボタンを外し、指をさす。
「・・・あ、な〜るほどね・・・そりゃ海は無理だな」
「・・・だろう?」
ネスティはニヤリと意味深に微笑み、フォルテはそんなネスティに苦笑する。
ネスティが見せたのは鎖骨の下のキスマーク。
ヤキモチを妬いたトリスがしっかりつけた所有の印である。


「トリスも案外情熱家なんだな」
「僕も知らなかったよ」


男の子だって、色々と男同士の報告会があったりするのであった。

02.8.11 HAL





後書きというか言い訳。


20000hitキリ番ニアピンで雫さんからのリクエスト、ネストリで海or水着の話、でした。

う・・・・すみません、なんだか甘いんだかギャグなんだか分からない代物で・・・・
しかもリク受けてからかなりの時間がかかってしまいました(汗)
(その間、へんなのばっかり書いてるからこうなるんだ・・・・)

こんな駄文ですが、雫さんに捧げたいと思います。

でわまた管理人は脱兎の如く逃げますです。