希望のカタチ - 後編 -



「我が眠りを妨げる、強く、純粋な想い―――我はそなたに呼ばれた。だから我もそなたを呼んだ」
サクロを操り、自分をここまで導いたのは目の前にいる聖霊なのだとここではっきり分かった。 おそらく彼を通じて自分を観察し、試していたのだろう。
だが。
「……貴方をこんな風にしたのは、人、なんですね……」
鎖に繋がれた聖霊を目にして瞬時に理解する。
おそらく、この都市を作った人間達が聖霊の力欲しさに、誓約だけでなく、別の鎖でここに縛り付けて しまったのだろう。
人の醜い欲、ただそれだけのために。
それはあの哀しい島の住人達とどこか重なり、ウィルの深緑色の瞳が濃くなる。
「……異世界から召喚された者は、その呼び出した術者にのみ送還出来る……だから貴方を元の 世界へ還す事は僕には、出来、ない……」
シンテツは自分を扉守だと冗談めかして話していた。
察するに、この哀しい聖霊の姿を目にしてはいないのだろう。知っているのは恐らく一部の上の者と、 自分のように扉を開かれた者だけ。
「この深き海の底に縛られ、我が炎が憎しみのそれへと変わる前に、我は眠りについた…… いつか霊界への帰還を果たすその時がくるまで。だが、この眠りももう、もたぬ…… 闇が我を完全に支配するその前に、我が炎をそなたに託そう……だが」
「……?」
「我が力を託すに値するか、そなたの力、見せてもらう……」
「な…っ!?」
突如、ウィルの周囲を円を描くように炎が襲い掛かる。
「…炎を打ち消す癒しの水を……ヒーリングコール!」
ポケットからサモナイト石を取り出し、召喚術を発動させる。
水の球はウィルを包み込み、全方向へ噴水状に広がると瞬時に炎を鎮めた。
「セイレーヌか……だが、それだけで我が炎は防げぬ……!」
剣の形を成した炎がウィルに向かって振り下ろされる。
「くっ!」
寸での所で刃をかわすと、ウィルは姿勢を正し、同時に別のサモナイト石を手にする。
強大な魔力がそこから滲み出るのがわかったが、パリスタパリスはさして驚きもせず、不敵に微笑んだ。
「獣界の王よ、その牙をもって眼前の敵をなぎ払え―――月下咆哮!!」
牙王アイギスの雄叫びが空気を振動させる。 パリスタパリスの足元から蒼い光が天に向かって伸び、その身体を包み込む。
だが、蒼い光が消えても彼の身体に全く変化は見られなかった。
「我は剣の聖霊の一つ、炎の聖霊……召喚術では我が身を傷つける事は出来ぬ」
「剣の聖霊には剣で、ということか……予想はしていたけど…」
ウィルは腰に下げていた一振りの剣を鞘から抜く。
鉛色の刃は輝く事も出来ず、ただ金属音を鳴らすだけ。
「……その出来損ないで我に挑むというのか?」
「炎が貴方の化身だというなら、僕も僕自身で戦わなくては失礼でしょう? それに…この剣でなければ 貴方に届かないような気がする……僕の想いが」
「……面白い……我に認めさせてみよ!」
炎の剣がキルスレスを打つ。金属同士でないため、ぶつかる音は重い。
パリスタパリスが手加減しているのだろう、キルスレスは壊れさえこそしなかったが、攻撃を抑えるのがやっとで、 次第にウィルの息があがっていく。
(駄目だ……これじゃあ何も変わらない……傷つく事を恐れて前に進めなかったあの頃の僕と、 何も変わらないじゃないか…!!)


――何のために強くなりたいの?

そう。答えはもう、決まっている。


ウィルは一旦後退し、パリスタパリスと距離をとった。
防御中心の構えを解き、そして攻めの姿勢へと剣を持ち直す。
「そのナマクラで本気で敵うと思うのか?」
「この剣は己の分身……僕の想いの強さで最強の剣にもなる…だから僕は負けない。守りたいものが ある限り……何度でも貴方に挑む!!」
防戦一方だったものが、激しい剣と剣の打ち合いへと変わる。
剣の発する炎にも臆する事無く、ウィルは何度も剣を交えた。
先程まで気にかけていた剣の脆さももはや頭にない。
(良い目だ……我をこの地に呼んだ者の輝きと同じ……)
「うおおおぉぉーっ!!」
炎の剣とのぶつかり合いにもキルスレスは折れないばかりか、ウィルの想いに呼応するかのように次第に光を帯び、 眩く、輝き出した。
それはかつての輝きとは違う、新たな光。
まるで彼女が持つ剣の輝きのように。
「な……っ、これ、は…」
剣が変化していく。
握り締めた柄から熱い何かが流れ込むように、ウィルの中を侵食する。
「そなたの想い、確かに受け取った」
剣の脈動が治まると、手にあったキルスレスは過去の形を失い、新たな輝きを放つ剣へと生まれ変わっていた。
「我が力は不滅の炎。失われし言葉で"フォイアルディア"」
「不滅の炎、フォイアルディア……」

「諦めを知らぬ、希望に満ちたそなたの精神(こころ)に相応しい。剣に宿した我が力、信じる道に使うがいい」
「……ありがとう……」
「礼には及ばぬ……が、一つだけ頼まれてくれぬか」
「ええ。勿論ですよ」
「……次に目覚める時、我は我でなくなっているだろう…… 人の子に伝えて欲しい。ここには近付くなと。この扉を開けてはならぬと」
「パリスタパリス……、貴方は…」
「いつか我を解き放つ光が育つまで、しばし眠るだけの事。 我はただここに在り、そして去るだけ―――」
「だけど、っ、僕にもっと力があったら…!」
「そなたにはそなたにしか出来ぬ役割がある……気に病む必要はない。だが礼を言わせてもらおう。 我の心があるうちにそなたのような人間に出逢え、手合わせ出来たことを…楽しかったぞ」
「僕の方こそ……感謝しきれない…」
「……そなたの想い、届く事を祈っている……」
そう言って眠りについた炎の聖霊は、何だか微笑んでいるように見えた。
おそらくこの眠りから覚めた時、パリスタパリスは自身が言うように闇に心を囚われ、彼自身ではなくなって いるだろう。
心あるうちにウィルに託したかった想い。それは剣を交えたウィルにしか分からない。
だが彼は絶望ではなく、希望を抱いて眠りについた。
それだけがウィルにとっても唯一の希望の光。

「いつか、貴方が還る日が来るまで……」

呟くようにそう言うと、ウィルは重い扉を閉ざし、二人を連れ、地上へと戻った。








第6話です。

長かった…!やっと何とか形になりました。
(希望のカタチ、にかけている訳ではありません。笑)
もうサクロとか出して収拾つかなくなって、どうしようかと!
当初の案とはかなり違った展開になってしまいました。
大人ウィルの口調とかイマイチつかめなくて、何だか別人の ような感じがしてたまりませんが、私がそう思っているなら 読んで下さってる皆さんは強くそう感じているのでは…(汗)
つ、次からはもう少し恋愛色が入ってきます。
てか、やっと恋愛色(笑)。
アティさん、もうすぐ出番ですよー。

そうそう。
この話を書くにあたって、アイギス召喚がわからなくて メッセで唐突に話しかけ、Mさんにわざわざサモ3プレイしてもらいました。
(HALのは貸し出し中なのです…)
でも助かりました……私、アイギスの口から炎か何かが発動するんだと思って、 最初そうやって書いてたんですよ。はずかしー!(ぎゃっ)
皆さんのイメージはどうでしたか?(笑)

04.4.23 HAL