日本テレビ・特命リサーチ200Xでのカラス特集について



 2001/2/25、日本テレビ系「特命リサーチ200X」にてカラスの特集がありました。「進化する都会のカラスの脳を探れ!」というようなタイトルだったと思います。色々と気になった点がありましたので取り上げてみます。

 まず、番組中、ハシブトガラスとハシボソガラスという言葉が一度も出てこなかったのは大きな問題です。両者は姿が良く似ていますが、行動はまったくと言っていいほど違い、こういう場合同じ「カラス」のくくりにして扱っていいものではありません。単純に都会のカラス、田舎のカラス、という言い方をするならば(個人的に都会、田舎というのはあまり好きな表現ではありませんが)、都会のカラスが都市部に多いハシブトで、田舎のカラスが田んぼなどに多いハシボソということになり、まったく違う生き物を同じ土俵で比べていることになってしまいます。大げさに言うとライオンとトラほど性質の違う生き物なんです(これは言い過ぎかな)。
 また、実験に使っていた都会のカラス・田舎のカラスはさすがに両者ともハシブトを使っていたようですが(田舎にもハシブトはいるので)、捕まえた季節や年齢が定かになっていません。ハシブトも年齢や季節によって移動をするようですから、若い時は田舎のカラス、成長してからは都会のカラスになりました、とか、夏は田舎のカラス、冬は都会のカラス、というような個体がいると思われます。こういうことを考えると、都会のカラス・田舎のカラスという定義自体が崩れてしまいます。実験自体はちゃんとした先生の元でやったようですが、無理矢理頼んで結論に押し切った雰囲気がありありでした。もし田舎のカラスが若いものだとしたら、行動や脳の差は年齢によるものとも考えられます。たった1回の実験であんな結論に達するなんて、普通では考えられないことです。

 次に、「進化」という言葉。生物の世界での「進化」は遺伝的にその生き物の特徴が変わっていくという意味で、それ以降も代々受け継がれていくものです。「都会のカラスの脳が進化している」と言った場合、都会と田舎のカラスに遺伝的な違いが起こり、代々違う系統として生き、将来的には別種になっていく、ということです。そのようなことが本当に起こっているのでしょうか?どうも、あの中で言われている内容は、「進化」でなく「発達」や「学習」と言わなくてはいけないことのように感じます。言葉尻をとらえる気はありませんが、派手な「進化」という言葉を使って視聴率稼ぎをするのは、大きな誤解を生む元です。実際あのタイトルを見てカラスに不気味な印象を受けた方は多いでしょう。今回一貫していたのは、カラスの行動を不気味に脚色し、恐怖感や危機感をあおり立てる(=これで視聴率を稼ぐ)、ということではないかと思います。
 なお、実験に協力されていた先生は1度も「進化」という言葉は使いませんでしたね。それをナレーションでは進化進化だと言う…。マスコミの恐ろしさです。

 さて、本当に都会のカラスは賢いのか?ということですが、またハシブト・ハシボソの話に戻りたいと思います。番組最初に神社の賽銭を使い自動販売機でハトの餌を出して食べるカラスが紹介されていました。あれを見て、それが本当であれば私はまずハシボソの仕業だろうと思いました。神社という環境的にも決して都会とは言い難いですし。宮城のクルミ割りガラスもハシボソ。この行動、東北地方で多く見られます。貝を空中から落として割ったり、いわゆる「賢い」と言われている行動は、ほとんどがハシボソガラスの行動なのです。これらを羅列して「都会のカラスは賢い」とは、何とあきれた作り方でしょうか。
 ハシブトも、確かに賢いです。実験でやっていたヒモをほどくくらいのことは楽にこなします。でも私は、都会ではなくあれを秋田で見たことがあります。主婦の食料品を狙った連係プレーだって、自然界でもアオサギなどの卵を狙う時によくやっています。以前住んでいた秋田のハシブトと比べて、東京のハシブトが特に賢いと思う点はいまだ1つも見付けていません。

 栄養状態が良ければ脳の発達が促されやすいことには反論しません。しかし、いろんな地方のカラスたちを見るにつけ、最近「東京のカラスって貧弱なのが多い」と思うようになりました。一昔前はどうだったか知りませんが、ここ数年ではゴミ対策の浸透で餌が減り、かつ過密になりすぎたせいで東京では餌が十分でなくなってきているのでは、と考えています。田舎のカラスの方がよっぽど丸々としています。都会のカラスの栄養状態が特別に良いとは、私には思えません。比率としてタンパク質や脂質が多いのは確かでしょうが。

 後半に関しては…あきれ果ててものも言えなくなりましたが…。カラスの採餌には「ボス」「副ボス」「偵察役」「見張り役」がいるというもの。「偵察役」はただ腹が減って早起きしたものが真っ先に飛び降りてきただけ、「見張り役」はあまり空腹でない個体が周りをキョロキョロしていただけでしょう。結局映像にはボスと副ボスはまったく出てきませんでしたが。(^^; 確かに、そのような役割分担があればより効率的に、より安全に餌を食べることができるでしょうが、それはあまりに擬人化しすぎているのでは…?餌を見つけた個体が他を呼んだり、危険を知らせる行動は確かにあるようです。また、1対1においては順位付けもあります。しかし、順位が一番強い個体がボスで、群れとしての意志でお前がこれをやれとかいうのは、今のところカラスを見ていて、私には信じられません。

 実はこの取材、私も含め、知り合いのカラス関係者数名にコンタクトがありました。それらの人たちからそれぞれ適切なアドバイスを受けていたはずなのですが、なぜこんなことになってしまったのでしょう。私も何度も、様々な点についてそれは違うのでは、と指摘をしました。しかし、「いえ、でも、こういう方向で行くと決まりましたので」の一点張りで、じゃあ私に何を求めて来ているのか、という状態でした。その後、私が自分たちにとって都合のいいことを言ってくれる存在でないことが分かったらしく、連絡がなくなりました。ほかの人も大体同じ(もしくはあまりひどいので断った)だそうです。専門家たちの意見を無視して、都合の良いことを言ってくれる人・やってくれる人を探し、自分たちの意図だけで突き進んだ結果があれのようです。ちなみに彼らはカラスどころか生物についても詳しくはない様子でした。
 テレビの番組作りって、これでいいのでしょうかね?実は特命リサーチの、あの大げさなノリが好きで、よく見ていましたが、自分の分野が回ってきて実態が身に染みました。一般の人はテレビでやればたいがい信じ込んでしまうと思います。視聴率の高い番組であればなおさら、影響は大きいです。私はこういう場でカラスについて普及活動をしているわけですが、今回のような間違った知識がマスコミによって流され、一般の人たちに植え付けられてしまうのが一番恐ろしいことです。地道な活動が台無しになってしまいます。しかも今回、かなり意図的にそれをやっている部分が見られ、大きな問題だと思いました。
 かなり考えさせられた出来事でした。様々な情報番組やネット上の情報が増えてきた今、特に情報は鵜呑みにしてはいけない時代だということなのでしょうね。

−取材を受けたカラス関係者Kさんの話−

一番,問題だと思ったのは,「最近カラスが集団で人を襲う事例が増えてきている」という部分だと思います.

あのインタビュアーが,例のカラスに襲われてスーパーの袋を取られたという主婦の話題を持ち出したとき,私は,「本当ですか?,私はそういう事例は聞いていない.ポリ袋の積み上げてあるごみ集積所のそばを通りかかった女性が,そこに下りていたカラスの内自分のほうに飛んできたものがいて,驚いたということしか聞いていないが,同じ事例なのか?」という意味のことを聞きましたが、はっきりしませんでした.あの番組の中でも,いつ,どこで,誰が,出会った事例なのか,示す必要があったはずです.

今までに,カラスが「集団で人を襲った」ことは一度も聞いたことがありませんし,これが本当なら大変なことですよ!
しかし,うそだったらもっと罪作りだと思いませんか?