■無題■


「う…ん…んっ」
 厚い舌が、桜井の薄い唇の中を貪る。
 立ったまま、少し乱暴に腰を抱き寄せてやると、背中にまわされた指に力がこもった。
「ん…っ…ちょっと待って…」
 離れた唇から、唾液が糸をひく。
 ネクタイの結び目を解こうとしていた手を押さえられ、ランチは桜井の顔をのぞき込んだ。
「どうしたんだ?」
「……」
 何かとても言いにくそうに、桜井は口ごもりながら視線をさまよわせる。
 しばらくの間があったが、
「…ちゃんと、してみないかい…?」
「…あ?」
 意味をつかみそこねて聞き返すランチの胸に、桜井は真っ赤になった顔をうずめて隠す。
「…だからさ、いつもみたいに口とか手とかでお互いにするだけじゃなくってさ…」
 またしばらくの間の後、桜井は唖然としているランチの胸から顔をあげた。
 ランチの顔を見上げ、しかし視線は合わせずに
「…ちゃんと抱いてくれないかい?」
 言ったとたんに、更に真っ赤になる桜井の顔。
 それでもランチの方を見たまま、
「…嫌かい…? 嫌ならいい…」
 言い終わらないうちに、それまで呆然と固まっていたランチの腕が、桜井をきつく抱きしめた。
 首筋に顔を埋め、ワイシャツからのぞくうなじに、喉元に口付ける。
「あ…ランチ…」
 荒い呼吸の音が、桜井の耳元にやけに大きく響く。
 ランチの右手が桜井の腰を抱き、口で鎖骨を愛撫しながらネクタイを解こうとするが、うまくいかない。
 苛立つランチの手を押さえ、桜井は自分でネクタイを外した。



 桜井の手が、ランチのズボンのベルトをはずす。
「こんなに大きいの、僕のにはいるのかなあ」
「…あんたが言い出したんだろ」
 気の抜けるような言葉を無視して、ランチは桜井をベッドに押し倒した。
 ランチの舌が、手が、身体の上で動く度に、桜井はむずがるように身体を震わせ、もれそうになる声を必死で噛み殺す。
 桜井の身体にのしかかり、ランチは首から胸、腹へと徐々に唇をずらしていく。
「…っ…んっ…」
 ランチの手が桜井のものをとらえると、こらえきれない声が漏れた。
「ん…あ…っ…」
 ランチの舌が、桜井をねっとりと包み込む。
 先端の窪みを刺激すると、桜井の腰がひくひく震えた。
 しっかりと目をつぶり、シーツを握り締めて声を殺す桜井はひどく煽情的で、ランチの理性やとまどいを吹き飛ばしてしまいそうだ。
 立ち上がりかけているそれへの愛撫を中断し、ランチは桜井の後ろへと指をはわせてみる。
「あ…っ…」
 桜井の口からかすかな悲鳴があがった。
 そこはきゅっと口を閉じ、ふれることさえランチにはためらわれた。
 何かを受け入れることなどとうてい不可能そうに見えたのだ。
 ランチは身体をずりあげ、ぎゅっと目をつぶっている桜井のまぶたに唇で触れた。
「あ…ランチ…?」
「本当に大丈夫か…?」
「何がだい?」
「いやその、すごく狭そうだし、無理させたくないしな…」
 珍しく歯切れの悪いランチの頭に手を伸ばし、桜井は勢いよく引き寄せた。
 抱きしめたまま、視線をランチの私物のバッグに移して、
「そのためにあれを買ったんじゃないのかい?」
 とたんに、今度はランチの顔が真っ赤になる。
 初めて桜井と抱き合った時、ゴムと一緒に潤滑ゼリーを買っておいたことを、桜井は知っていたのだ。
「…意地が悪ぃな…」
「ごめんごめん」
 謝りながらもいつもの笑顔でくすくす笑う桜井に、ランチはむっとする。
 さっきまでやらしい顔をして、やらしい声を噛み殺していたくせに…
 桜井の手をほどき、バッグから桜井がお望みのものをとってくると、ランチはいきなり桜井の腰を抱え上げた。
「えっ…ランチ…?」
 足を開かせ、むき出しにした桜井のそこに、今度は躊躇することなくランチは舌を這わせた。
「ん…っ……あ…ラン…チ…」
 桜井のそこが少しでも緩むように、丹念に舌を使う。
「く…ん…」
 抗議するようにあげていた桜井の声が、次第に喘ぎに変わっていく。
 少しずつ柔らかくなっていくそこに舌を差し入れると、桜井の腰がひくっと震えた。
 ふと顔を上げると、桜井の顔は上気し、必死に何かに耐えるように眉を寄せている。
 どのくらい慣らせばいいのか、なにしろ初めてのことなので良く分からなかったが、
 ランチはゼリーをつけた指をゆっくりと差し込んでみた。
「ひ…っ…うん…っ」
 とたんに桜井のそこがランチの指をきゅっと締めつけてきた。
「あっ…ん…っ」
 軽く指を動かしてみると、桜井の足と腰がうねるように震え、とんでもない声が聞こえた。
 指の動きを止めず、ランチは桜井の顔の方に身体を伸ばす。
「…感じてるの…か…?」
「何言って…あっ…」
 あられもない声をなんとか噛み殺そうとして、目を潤ませながら、それでもランチを軽く睨み付けてくる。
 こんな桜井は初めてだ。
 ずきんっとランチの股間が痛んだ。
 自分の欲望も押さえがたくて、でもこんな桜井をもっと見ていたくて、ランチは指を入れたまま桜井のものに舌を這わせた。
 震えの止まらない桜井の腰を押さえながら、ゼリーをつけた指の本数を増やしていく。
 あんなにきつく口を閉じていた桜井のそこは、ゼリーと唾液で濡れ、ランチの指を飲み込んで収縮を繰り返している。
「く…んっ…やっ…ランチ…もう…」
 桜井が、苦しそうに訴える。
 ゆっくりと指を引き抜くと、そこはひくっと震えた。
 桜井の目からにじむ涙を舐め取り、耳元でささやく。
「…いいか?」
 潤んだ目でランチの方を見て、桜井は両手でランチを抱きしめた。
 ゆっくりと、ランチは自分のものを桜井の中に埋め込み始めた。
 途端に、桜井の顔が苦痛に歪む。
 桜井のそこが押し戻そうとしているように、ランチには思われた。
「きつかったら言えよ」
「…大丈夫…だから…」
 涙をにじませて、とてもつらそうな顔をしながら、それでも桜井はランチに笑いかける。
「…く…っ…んんっ」
 ランチが腰を進める度に、桜井の口から苦しそうな声が漏れる。
 それでも、「やめるか?」という問いに、桜井は首を横に振り続けた。
 ようやく全てが埋め込まれると、桜井は少し力を抜いて目を開けた。
「…はいったの?」
「ああ」
「はは、すごいね、なんか女の子になった気分だ…」
 かすかな笑いが振動となって、ランチを刺激する。
 少し腰を動かしてみると、熱をもった桜井の内壁がランチを締め付けてきた。
 突き上げると、歯を食いしばる桜井の口からはくぐもった悲鳴がもれ、苦痛と快感が混ざったような表情が浮かぶ。
 その度に桜井の中がきつく締まり、ランチにも快感を与える。
「…あ…んっ…ランチ…っ…」
 もはや噛み殺そうともしない声をあげ、桜井はランチの手の中で達した。
 その瞬間の強烈な締め付けに、ランチも桜井の中に熱い液を吐き出していた。



 ぐったりと横たわる桜井の頬に、ランチは唇をよせた。
 桜井がゆっくりと目を開ける。
 しばらく宙をさまよった視線がランチを捕らえると、潤んだ瞳で笑いかけた。
「大丈夫か?」
 心配そうなランチに、気怠い声で
「いやあ、女の子は大変なんだねえ」
「何言ってんだ」
 少し安心した顔で、ランチは桜井の額の汗を拭ってやる。
「あんた、すげえ感じてたぜ」
「何言ってるんだよ」
 同じ言葉を返して、拗ねたような顔をしてみせて、しかしその桜井の顔が急に不安そうになる。
 桜井は少し強く、自分の上のランチを抱きしめた。
「どうした?」
「……」
 ランチを抱きしめて顔を見せないまま、桜井はまた何か言いよどんでいる。
「…ランチは良かったのかい?」
「何がだよ」
「…だからさ、僕とやって感じた?」
 不安と恥ずかしさが混じって赤い顔は、ランチには見えない。
 ランチは腕の中の桜井を力いっぱい抱きしめると、耳元でささやいた。
「すげーよかったぜ」



END




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