■いつもどおりの日(3)■


 衣服を全て脱ぎ去り、島田は仰向けに押し倒された。同じように服を脱いだ桐山が、その上にのしかかる。
 全身を食い入るように見つめられ、島田は恥ずかしさのあまり目線を逸らした。
 そっと下の方を見ると、桐山のそれは既に半ば立ち上っている。
 前回も同じことを思ったが、根本的に、どうして桐山が自分に欲情できるのか、本当に島田には分からなかった。
「島田さん……」
 熱を含んだ吐息に呼ばれ、島田の息が僅かにあがる。
 素肌を触れ合わせて抱きしめあう、その体温は心地よい。
 桐山の唇が、首筋から胸へと辿っていく。手が下腹に触れ、島田の身体がびくりと震える。そこを握られ、ゆるゆると擦られる。
「……くっ」
 島田は漏れそうになる声を堪えた。だんだんと、擦られる感触が滑らかになっていく。それが自分の漏らした先走りのせいだと気づき、島田は赤くなった。しかもその部分と顔の両方が、桐山の視線に晒されている。
「な、桐山、お前のもしてやるから……」
 起こそうとした身体を桐山が留めた。
「これ、使いますね」
 桐山がボトルを差し出した。それが何であるか、島田は理解するまでに五秒ほどかかった。
「……ローション……?」
 お前、そんなもの買ったのか!?
 思わず大声で言いそうになった言葉を、島田はようやく飲み込んだ。桐山の表情が思いのほか真剣だったからだ。
 まあ確かに、桐山が入れたいというのなら、使った方がいいのだろう。今の自分の身体で、桐山が満足できるとは島田には思えなかった。あまり変なものを使われるのは勘弁だが、ローションくらいなら、使った方が桐山も少しは気持ちよくなれるのかもしれない。
 桐山がそれを自分の手に垂らした。
「……っ」
 ぬめった指が後ろに触れ、島田の身体が無意識に竦む。
 そこを解すように撫でられ、ぞわぞわとした感覚が腰のあたりを走り抜ける。
 後ろの部分に指がぬるりと侵入する。
「……っ」
「痛くないですか」
「いや……痛くはない……けど……」
 内壁を擦られる、慣れない感覚が少し気持ち悪い。桐山が心配そうに、こちらを見ているのが分かる。大丈夫だ、と微笑みかけてやりたいが、さすがにそんな余裕はなかった。
 ゆっくりと、二本目の指が差し込まれ、ローションが増やされる。指が出入りするたびに、粘り気のある水音が島田の耳に届く。三本目が侵入し、さすがに島田は限界だった。桐山が自分を気遣って丁寧に塗りこめているのは分かるが、内臓を直に触れられるような感触の気持ち悪さは増すばかりだ。
 島田は精一杯、笑顔を作った。
「桐山、悪いけどもう……限界……」
「島田さん?」
「多分もう、入るよな? 入れたいなら、入れちゃってくれ」
「はい……」
 申し訳なさそうに、桐山が指をゆっくりと引き抜こうとした。
 その瞬間、唐突に、島田の腰が跳ね上がった。
「ひあっ……」
 反射的に、島田が自分の口を抑える。何が起こったのか分からず、二人は顔を見合わせた。
「島田さん、もしかして……」
 桐山が恐る恐る、先ほど一瞬だけ触れた場所を指でなぞる。
「ん……っ……!!」
 再び腰が跳ねる。半勃ちだった島田のものが熱を持ち、液体が流れ落ちる。
 桐山の指が動くたびに、腰に熱が集まっていく。気落ち悪さが無くなったわけではないのに、それとは正反対の感覚が背筋を駆け抜ける。
 島田はただただ、必死に声を殺した。苦しさと未知の快感に、涙が滲む。
「島田さん……」
 低い声に呼ばれ、島田は目を開けた。涙で滲んだ視界の向こうに、見たことも無い顔の桐山がいた。
 島田は口から手を離した。震える腕で、桐山の肩に縋る。
「桐山……もう……頼むから……」
 指がゆっくりと引き抜かれた。その感触に、島田の身体が震える。入口がひくついているのが、自分で分かる。桐山がそっと、島田に口づけた。
 足を抱え上げられ、熱いものが押し当てられる。貫かれる瞬間、島田の喉から堪えきれない悲鳴が漏れた。
 熱くて硬いものがその部分を擦り上げる。そのたびに、ぞくぞくとした感覚が身体を貫く。桐山の荒い息が、島田の耳を犯す。
 前が張りつめて苦しい。耐え切れず、島田は自分のものに手を伸ばした。その手を桐山が捉えた。
「あ……」
 桐山が島田のものに触れる。
「あぁ……んっ……っ」
 最後を促すように擦られ、島田のものが弾けた。同時に、島田の内壁が締まる。
「く……っ……島田さん……っ」
 促されるように、桐山もまた島田の中に、自分を解き放った。



「島田さん……大丈夫ですか」
「ああ、うん……大丈夫だ……多分……」
 布団の上にかろうじて起き上がり、島田は桐山から蒸しタオルを受け取った。
「あの……無理させてすみませんでした」
「あー、いや、別にお前のせいじゃないしな、うん」
 応えながら、緩慢に身体を拭く。
 頭が少しクラクラする。まだショックから立ち直れないのだ。
 島田はちらりと桐山を見た。桐山は神妙な顔で、布団の隣に正座している。
 本当に全く、桐山のせいではない。どちらかと言えば、島田自身の認識の甘さが原因であり、つまりは自業自得だ。
 島田はそっと、ため息をついた。
 本当に、桐山がそれなりに気持ちよくさえなってくれればそれで良かったのだ。決して、自分がこの年でこんな新境地を開きたかったわけではないのだ。それなのに──
「あの……」
 桐山がおずおずと、言葉を発した。
「ん?」
「島田さんが大変だったのは分かってます。でも……僕は嬉しかったです。最初の時は自分のことで手いっぱいだったから……その、好きな人には気持ちよくなって欲しいし……」
 島田はじっと、桐山を見つめた。
「あの、島田さん?」
「……そうだよな。好きな人には、気持ちよくなって欲しいよな……」
 島田はもう一度、その言葉を噛みしめた。
──桐山、お前は気持ちよかったか?──
 そんなことを聞けるはずもなく、島田はただ穏やかに、微笑んだ。



END





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