■開発■
----------------------------------------------------------
※第一話よりもずっと前、まだルイが初々しい頃のお話です。
----------------------------------------------------------
もう何度も来ているのに、上司のマンションの部屋、というものにはなかなか慣れない。座っていても、なんだか落ち着かないし緊張する。
それが上司の部屋だからなのか、それとも高そうなソファのせいなのか、あるいは隣に座って自分を抱きしめている上司自身のせいなのか、おそらく全部だろうとルイは思う。
情欲を含んだ黒い目がまっすぐに自分を覗き込んでいる。
大きな手がゆっくりと頬を撫でる。唇を指でなぞられ、ルイの身体は僅かに震えた。
指の動きは緩慢でいやらしく、だが決して強引にこじ開けようとはしない。ルイが自ら開くのを待っているのだ。
左から右へ、柔らかな動きに逆らわず、ルイは薄く唇を開いた。目線をあわせたまま、少しだけ舌を差し出す。
「いい子だ」
満足そうに目尻を下げながら、熱い吐息が近づいてきた。
「ん……っ」
唇が塞がれ、肉厚な舌が入り込んでくる。
絡んでくる舌に、必死で自分の舌を絡める。やっと主導権を取ったと思ったら、次の瞬間には深いところにまで押し戻されている。
息苦しさに、ルイはビバリの腕を強く握った。
その間にも、ビバリの手はルイのネクタイの結び目にかかった。そのまま器用に、するりと引き抜く。舌の侵略は変わらぬ熱さで続き、指はルイのシャツのボタンを外し始めている。
───どうしてこの人は、キスをしながらこんなことができるのだろう───
何となく悔しくて、ルイはビバリのベストのボタンに指をかけた。もちろん見えないから、手探りだ。一つ目のボタンを外した時には、既にルイのシャツははだけられていた。
ようやく唇が離れた。
「ルイ」
熱を帯びた声が囁く。しっとりとした手が、シャツの内側の素肌に触れる。ルイは身体の奥がぞくりと熱くなるのを感じた。
愛する人の情欲が自分に向けられている───その悦びがルイの情欲を煽る。
ビバリの手がルイの腕を掴み、そのまま強引にソファに押し倒した。上にのしかかり、首筋に顔を埋めるビバリを、ルイは押しとどめた。
「ビバリさん……待ってください」
「ルイ?」
驚いたような、少しだけ不安そうな瞳がルイを見つめる。
ルイはわざと目線を逸らした。顔が少し赤いのは自分で分かっているし、隠しようもない。それでも務めて冷静に、精一杯の言葉を口にする。
「ベッド……行きませんか」
身体を繋げるだけじゃなく、しっかりと抱き合いたいから───
一瞬の間の後、ビバリの嬉しそうな声が答えた。
「ああ、もちろんだ、ルイ」
上に乗っていたビバリが立ち上がる。同じように起き上がろうとしたルイの背中に、ビバリの腕が触れた。
「え?」
あっという間に抱きかかえられ、ルイは思わずビバリの首にしがみついた。
「ビバリさん! 自分で歩きますから!」
ビバリは何も言わず、ただ微笑んで、ルイの唇に口づけた。
***********************************
ベッドに降ろされると、すぐにビバリがのしかかってきた。
膝立ちでルイの腰を跨ぎ、ネクタイとベストを素早く脱ぎ捨てる。目線をあわせたまま、最後に脱いだシャツを見せつけるように、ゆっくりとベッド下へ落とす。
その厚みのある上半身を見上げながら、ルイは自分の喉が無意識に鳴るのを感じた。その反応に満足したように笑い、ビバリはルイの肩口に軽く歯を立てた。
「っ……あ……」
ルイの身体がひくりと震える。
首筋、胸、腕の内側のやわらかい部分、指。ビバリの熱い唇と手が順番に辿っていく。ルイの口からも熱い吐息が漏れる。
ビバリの手が、ルイのスラックスに触れた。
「あ……」
「熱いな」
からかうように囁かれ、ルイは喘ぎを抑えながらビバリを睨んだ。
「誰のせいだと……思ってるんですか……」
「俺だな」
くすりと笑い、ビバリがルイのベルトに手をかけた。スラックスが引き下ろされ、露わになった脚を強引に開かされる。
恥かしさに、ルイは顔を背けた。立ち上っているそれを大きな手が擦り上げる。ぬるぬると滑る感触が自分でも分かる。
「……んっ」
「ルイ……」
熱い吐息が耳元で囁く。目を開くと、欲情した瞳が目の前にあった。
「あ……ビバリさ……ん」
後ろの部分にぬるりとしたものが触れた。ゆっくりと入り込んでくる感触に、ルイは唇を噛みしめた。
「……っ……」
「痛くないか、ルイ」
潤滑油の助けを借りて、ビバリの指がルイの中で蠢く。
ルイの身体がビクリと跳ねる。感じる部分を探り当てられ、指の本数が増えていく。
「あっ……あ……」
ルイの先端から液体が流れ落ちる。
まだ慣れない感覚に怯えるルイをあやすように、ビバリが瞼や耳たぶに口づける。その感覚に、ルイの身体がまた震える。
「もう……や……」
頭がおかしくなりそうだった。これが快感なのか、それすらも良く分からない。ただもっと深く、熱を感じたい。今まで何度かビバリに抱かれ、未だに慣れないけれど、それでもあの熱が欲しい。
ルイは震える手を伸ばし、蠢くビバリの腕を抑えた。
「ルイ?」
目線をあわせ、ルイはかすれた声を絞り出した。
「早く……ビバリさんが……欲しい……」
「ルイ!」
指が引き抜かれる。その感覚に身震いする間もなく、熱い塊が押し当てられた。
「……く……っ」
「あ……」
貫かれる瞬間、ぞくぞくとした感覚がルイの身体を走った。間をおかず、熱が内壁を擦り上げる。引き抜かれ、また擦られる。
衝撃に耐えながら、ルイは自分を貫く男の顔を見上げた。
その顔には快楽の表情が浮かび、欲情した瞳が自分だけを見つめている。
───ああ、これだ───
突き上げられる内壁がひくりと震える。
自分に欲情して、自分だけを見つめる、男の顔。
───ビバリさんは僕だけのものだ───
ビバリの手が、ルイのものを捉えた。扱きあげられ、確かな快感がルイを襲う。
「あ……ビバリさん……っ」
「……ルイ……っ」
ルイのものが弾ける。一瞬遅れて、ビバリが低く呻いた。
荒い息のまま、二人はそれぞれの想いで視線を絡ませた。
ビバリは愛おしそうにルイを見つめている。その表情は無邪気にすら見える。
その表情をもっとひとりじめしたくて、ルイは薄く唇を開き、キスをねだった。
END
--------------------------------------
まだ気持ちに身体がついてこない、まさに開発中のルイです。
今では表向きクールで駆け引き上手なルイですが、やっぱり初々しくて可愛い時期もあったと思うのですよ。
ビバリさんが、いろんなことを仕込みながら、自分好みに育てていったのね。
で、完成形がツンデレ女王様って、ビバリさん……(笑)。
|