■灯篭遊戯■
ぎらぎらと照りつけていた太陽がようやく沈み、涼しい風が吹き始めた。日暮の声も途絶え、今は鈴虫が鳴いている。
葛西亮(かさい りょう)は独り、懐中電灯を片手に広大な墓地の中を歩いていた。盂蘭盆の時期とはいえ、夜になると辺りに人影はない。
墓地の中でも一際大きい墓石の前で、亮は足を止めた。マッチを擦り、灯篭に火を灯す。炎がゆらゆらと揺れ、立派な花と供物が照らしだされる。
亮は墓に線香を供えると手をあわせた。
ふと、足音が聞こえた。振り返ると、そこには見慣れた幼馴染の男がいた。
「なんだ、孝司か」
岩崎孝司(いわさき こうじ)は両手をポケットに突っ込んだまま、ふてぶてしい態度で亮を見下ろしていた。
視線だけで人を殺せそうな鋭い眼光に、バランスの良い筋肉質の身体。加えて、派手なシャツの胸元にはゴールドのチェーン。一般人なら、街中で出合ったら思わず避けてしまうような、独特の迫力が滲み出ている。どう見ても、堅気ではない。
しかし亮は臆する風もなく、淡々と話しかけた。
「襲名式の日取りが決まったんだってな」
「ああ、秋には正式に俺が組を継ぐ」
「そうか。オヤジさんも、安心しているだろうな」
亮は安堵した表情で、墓石を眺めた。
この下には、孝司の父であり、岩崎組組長であった岩崎孝一郎が眠っている。
幼い頃に父を亡くした亮は、岩崎組の屋敷の裏手にある葛西医院で、医師である母親に育てられた。葛西医院が代々主治医を務めていたこともあり、孝一郎は亮のことをとても可愛がってくれた。亮もまた、孝一郎のことを「オヤジさん」と呼び、父のように慕っていた。亮が葛西医院を継いでからは、亮が孝一郎の主治医を務めていた。
そんな孝一郎が倒れたのは、今年の春のことだった。亮の願いも虚しく、わずか三日後、孝一郎は帰らぬ人となった。
亮は、懐かしむような目で墓石を見つめた。さっぱりとした男前の顔立ちに、灯篭の炎が憂いを含んだ影を落とす。
孝司は、そんな亮の表情を面白くなさそうな目で見つめた。
「なんでこんな時間に、親父の墓参りなんかしてるんだ。昼間、一緒に来りゃあ良かったじゃねえか」
「昼間は新盆で法事だっただろう。親族が大勢いる中に、俺なんかがのこのこ行けるか。俺は……オヤジさんを助けられなかったんだぞ」
「親父が死んだのはお前のせいじゃねえ。分かってんだろ?」
孝一郎の死因は急性の病であり、どんな医者でもその兆候を見つけることは困難だ。それは亮にも分かっている。岩崎組の者たちも、誰も亮を責めはしなかった。
だが、縁戚や配下の組の人間は、亮を責めた。葬式の席で、亮を『ヤブ医者』と罵った者もいた。
「……俺が主治医で、オヤジさんの病気を見抜けなったのは事実だ。こういうのは理屈じゃない」
亮は墓石の方を向いたまま、目を伏せた。
普段の亮は、相手が誰であれ、堂々と真っ直ぐに人の顔を見る。組員がどんな大怪我をして担ぎ込まれても顔色一つ変えず、みっともなく泣き喚く組員を怒鳴りつけながら、さっさと治療をする。そのくらい肝が据わっていなければ、ヤクザの主治医など務まらないのだ。男前な顔立ちや、患者を抑えつける意外な腕っ節の強さもあって、岩崎組の若い者からは密かに慕われていた。
その亮が、今は自嘲気味な笑みを浮かべている。
「それに、俺はオヤジさんに受けた恩を何一つ返せなかった。あんなに良くしてもらったってのに……」
「まあな。親父は俺よりお前を可愛がってたくらいだしな」
孝司は眉間に皺を寄せ、乱暴に亮の首筋を掴むと、無理やり自分の方を向かせた。
「孝司!?」
「親父、親父ってうるせえんだよ! お前、もしかして親父に惚れてたんじゃねえのか!?」
亮の目が、驚愕に見開かれる。次の瞬間、亮は孝司の頬を殴りつけていた。
「そんなわけあるか! オヤジさんは俺の父親も同然だ!」
「だったら俺の前で、いつまでも親父の話なんかしてんじゃねえよ!」
孝司は力任せに亮を抱き寄せた。片手で顎を掴み上げ、深く口付ける。
「う……ん……っ」
突然の行動に亮は一瞬、動きを止めた。だが、遠慮なく進入してくる孝司の舌に口腔を犯され、甘い声が漏れる。
暫しの躊躇の後、亮の身体から力が抜けた。自ら舌を差し出し、孝司の舌に絡める。唾液が零れ落ちるのもかまわず、孝司と争うように舌を蠢かせる。
「……ふ……」
触れ合う下肢に熱が湧き上がる。その熱がなおさら二人を煽り立てる。
孝司は片手で、亮のジーンズの上から下肢を揉みしだいた。
「ちょ、ちょっと待て」
亮は強引に唇を離した。孝司は手を休めず、唇を亮の耳に移動させた。
「こんなところで始めるな! いい年をして、家まで待てないのか!」
「待てねえよ。俺、若いから」
孝司は手を休めず、亮を攻め立てる。
「……っ……若いって、もう二十八だろうが……っ」
「亮より四つも若いじゃねえか」
「……とにかく、ここじゃ駄目だ……っ」
「うるせえ」
孝司は亮の耳に舌を這わせた。亮の身体に震えが走る。
「や、やめろ……! ここじゃ嫌だ……っ」
亮の抗議に、孝司は耳元で囁いた。
「駄目だ。お前はここで、俺に抱かれるんだ」
「孝司!?」
「お前が誰の物か、親父に見せつけてやれよ」
「……っ!? 何、馬鹿なこと言って……っ」
亮の言葉は最後まで続かなかった。
孝司の手が亮のジーンズのファスナーを下ろし、下着の中に直接潜り込んできたのだ。
「あっ……や……っ」
「お前だって帰れねえだろ。もう、こんなに濡れている」
先走りでぬめった雄を、孝司の大きな手が擦りあげる。
「……ふざけるな……っ」
口では強がりながらも、亮の膝からは力が抜けていた。孝司は崩れ落ちる亮の身体を支えながら、ふと目の前をみてにやりと笑った。
「馬鹿野郎……っ……お前、バチがあたるぞ……っ」
亮の抗議を無視し、孝司は亮の背中を墓石に押し付けた。そのまま、亮のジーンズと下着をひき下ろす。自力で立つこともままならない亮は、されるがままだ。
孝司は跪くと、躊躇なく亮の雄を口腔に含んだ。
「ひゃ……っ……」
強すぎる刺激に、亮の口から悲鳴が漏れた。
孝司は根元の部分から丹念に舌を這わせた。そのまま括れの裏側を舐めあげ、舌先で先端のくぼみを抉るように刺激する。
挑発するように目線をあげると、亮と目が合った。慌てて亮が目を逸らす。
「ちゃんとこっちを見ていろ」
孝司の声に、亮がおそるおそる視線を戻す。
「お前が誰に咥えられて感じているか、自分の目でちゃんと見ておけ」
「馬鹿……野郎……」
亮は途切れ途切れの息で、精一杯悪態をつく。
孝司は目線を動かさず、再び雄を口に含む。同時に、もう片方の手を後ろに這わせた。
「や……っ……やめ……」
強引に尻の肉を揉みしだく。そのまま、滴り落ちる液を指で掬い、後孔の入り口に塗りつける。
「……っん……っ」
亮はもう、抵抗しなかった。片手で孝司の髪を掴み、片方の手で溢れる声を必死に抑えている。視線は孝司とあわせたままだ。
前を口に、後ろを指に、そして心の中を視線に犯されている。そう思うだけで、亮の身体の奥は甘い疼きを感じ始めた。後孔が自然に、孝司の指を受け入れる。
「ひ……っ」
ずるっと指が入り込み、擦りあげる。慣れた身体が自然に指を締め付ける。
「ん……あぁ……っ!」
奥の敏感な部分に指が届いた瞬間、亮の雄は弾けていた。
孝司の喉が動き、亮のものを飲み込む。そのまま、残滓を絞り尽くすように先端を吸い上げた。
達したばかりの亮の雄が、びくびくと震える。
ようやく孝司が唇を離す。亮は墓石の台座に手をつき、かろうじて身体を支えていた。
灯篭の炎が揺らめき、濡れた下肢の茂みを赤く照らす。
「いい眺めだぜ、亮」
孝司は手で口を拭い、笑いながら言った。
亮は潤んだ目で孝司をにらみつけた。呼吸が整わず、上手く話せない。
こんな場所で抱かれるのは嫌だと怒鳴りつけたい。なのに、自分の奥の部分は、まだ足りないと訴えている。
「後ろを向け」
孝司の言葉に、心よりも身体が反応した。台座に手をつくと、後ろから孝司が抱きしめてきた。片手はシャツの中に入り込み、胸の突起に触れる。同時にもう片方の手が、後孔に潜り込んできた。
「ん……っ」
反射的に、亮の奥の部分が指を締め付ける。
「お前、いつもより感じてんじゃねえの?」
孝司が耳元で笑う。
「外でヤルのが好きだったか? それとも……親父に見られてるから興奮しているのか?」
「そんなわけ……あるか……っ」
言葉とは裏腹に、孝一郎の事を言われた瞬間、亮の身体はより強く孝司の指を咥え込んでいた。
孝司の指が奥の部分をかき回す。時折、最も感じる部分に触れ、また離れていく。その繰り返しが、亮の頭を狂わせていく。
太腿に、孝司の下肢が当たった。熱く硬いその感触に、亮の身体がぶるりと震える。
「……どうして欲しい?」
孝司は熱い息で、亮に囁く。孝司の下肢もとっくに限界を迎え、きつく張り詰めている。
熱に浮かされた頭で、亮はぼんやりと思った。
──いつもならこんなに焦らされたりはしない。孝司も相当つらいはずなのに、何故……?
その答えに気づいた時、考えるより早く、亮はその言葉を口にしていた。
「挿れて……くれ……孝司のが欲しい……」
「……俺でいいのか……?」
いつものとは違う、少しだけ自信のなさそうな声に、亮の胸に愛おしさが広がる。
「俺が……欲しいのは……孝司だけ……だ……」
その言葉が終わると同時に、指が引き抜かれた。ファスナーを下ろす音がして、熱い塊が押し当てられる。
「ひ……ああっ……」
十分に馴らされたそこは、一気に孝司を受け入れた。
感じる部分を思う存分、擦り上げられる。
「ひゃっ……あぁ……っ」
亮の嬌声と孝司の荒い息、そしてぐちゅぐちゅというぬめった音が響く。
「亮……亮……」
孝司が呻くように名前を呼ぶ。
「あ……孝司……っ……もう……っ」
最も深い部分を貫かれた瞬間、亮の雄は白い液体を迸らせていた。
「く……っ」
強い締め付けに、孝司もまた、熱い液体を亮の中に放っていた。
最奥に愛しい男の迸りを感じながら、亮の身体はその場に崩れていった。
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亮はどうにか身なりを整えると、少し離れた石畳に座り込んだ。
墓石の前では、孝司が柄杓を片手に、台座を洗っている。
「あ、くそっ、結構落ちねえな」
「お前が考えなしに行動するからだ」
亮の冷たい言葉に、孝司は笑いながら答える。
「違うだろ。亮のが濃いから落ちねえんだよ」
「……っ……馬鹿野郎!」
亮は顔を真っ赤にして怒鳴る。
ごしごしと台座を擦りながら、孝司がぽつりと言った。
「……悪かったな」
「何がだ?」
「いや、その、みっともねえところ見せたって言うか……」
ぼそぼそと、孝司が言う。
「法事でも周りの連中がさ、何かっていうと親父を引き合いに出しては『親父のように立派になれ』って言うもんだから、ちっと頭にきててな……」
「自信がないのか?」
亮の問いに、孝司は気負いもなくあっさりと答えた。
「いや、俺は親父を超えるぜ。いや、既に超えてるな」
「じゃあ、いいじゃないか。言いたい奴には言わせておけよ」
「他の連中の言うことなんか、気にしねえよ。ただ亮まで親父の事を言うから、つい、その……親父の方が良かったのかと思って……」
亮はこっそりと、頭を抱えた。
岩崎組の岩崎孝司と言えば、その世界では超有名だ。ありがちなボンクラ二代目ではなく、頭は切れるし腕っ節も強い。肝も据わっていて、懐も大きい。
だからこそ、若干二十八歳で、跡を継ぐことになったのだ。
亮は詳しくは知らないが、上層部の大きな組の幹部からも、その侠気を買われているという。
その男が、自分の父親に嫉妬して、挙句に墓場でセックスって、どういうことだよ──。
──案外、年相応に可愛いところがあるじゃないか──。
「いいんじゃないか?」
亮は笑いながら言った。
「組の事とかは分からないが、俺でいいなら、いくらでもみっともないところ見せろよ」
「亮?」
「組長だろうが何だろうが、俺はお前の主治医でガキの頃からの馴染みだ。それでいいだろ。……まあ、主治医の方は、お前が嫌だって言うなら降ろしてかまわないけどな」
孝司は一瞬で亮の言葉の意味を理解し、不敵に笑った。
「誰が降ろすか。それこそ、言いたい奴には言わせておけ。お前に治して貰ったって、恩義を感じてる奴が、組に山ほどいるんだ。オヤジのことを気にする必要はねえが、もし気になるんなら、その分、うちの組のやつらを治してやれ」
「……そうだな。あんな荒っぽい連中は、俺じゃないと治せないな」
孝司と亮は顔を見合わせて笑った。
「さて、そろそろ帰るか」
「ああ」
灯篭の火を消し、懐中電灯をつけると、二人は屋敷の方に向かって歩き出した。
「で、どうする?」
「何がだ?」
「帰って、さっきの続きするか?」
「誰がするか。お前と違って、俺は年寄りなんだよ」
「四歳しか違わねえじゃねえか」
「うるさい」
「可愛くねえなあ」
笑いながら、孝司は亮の耳に唇を近づけた。
「窓の鍵、開けとけよ。夜這いに行く」
「馬鹿か、お前は」
憮然として言いながら、亮は思っていた。きっと自分は今夜、窓の鍵を開けて、孝司を待つのだろう、と。
END
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お盆突発SSです。
ちょっと設定が「萩乃町の狂犬」の西村医師とカブってますが、突発なので勘弁してください(^ ^;)
テーマは「お盆」。コンセプトは「AV」。
AVみたいに、最低限のストーリーで萌えシチュエーションを作って、あとはひたすらH!、というのを狙ってみました。
簡単な設定はこんな感じ。
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【攻】岩崎孝司(いわさき こうじ)
28歳。
岩崎組組長の息子。
父親の急死により、秋に組長を襲名する予定。
カリスマ性と腕っ節の強さで、若年ながらも、幹部の中では組員に最も信頼がある。
【受】葛西亮(かさい りょう)
32歳。
岩崎組の屋敷の裏にある葛西医院の医師。
孝司とは幼馴染。
早くに父親を亡くし、孝司の父を自分の父のように慕っていた。
医師である母親は、現在は亮に医院を譲って、楽隠居中。
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あ、医者がゴムなしでヤっていいのか!?っていうツッコミは無しでお願いします。
だって、AVだもん(笑)
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