■獣欲■


 首筋に焼けつくような視線を感じる。
 振り返らなくても分かる。岩瀬が自分を見つめている。
 気づかないふりで石川はいつもどおり館内を走り、隊員たちに指示を飛ばした。


 数日前。
 休日前でもないのに求められて、翌日、少々身体がきつかった。
 暴走したのは岩瀬だけれど、本当は自分も欲しがっていて。無意識に煽った自覚もあって。
 拒みきれない自分も悪いのに、求めてきた岩瀬のせいにして、思わず「休日前以外は禁止!」と宣言してしまった。

 それ以来、夜になると岩瀬は大人しく自分のベッドで眠る。
 仕掛けてくるのは、軽いキスと優しい抱擁だけ。いつもなら、隙あらばいたずらを仕掛けてきて。それを十回に九回は撃退するのが日常だったのに。
 眠る前の、唇を重ねるだけのキス。もっと深くと思わず舌をのばしても、岩瀬の唇は離れてしまう。自分が望んだはずの平穏な夜が、たまらなく寂しい。

 なのにそんな態度とは逆に、岩瀬の自分を見る目は日に日に熱くなっていく。
 それはあからさまに情欲を含んでいて。気づかないふりをしていても、心の中には期待が湧き上がる。
 休日まであと少し。
 休日前以外禁止、ということは、裏を返せば「休日前になったらやる」という約束も同然で。
 無意識に日数を数えてしまう石川は、それを悟られないように、仕事に没頭した。


 そして休日前の夜。
 部屋に戻ると、いつもどおりに岩瀬が抱きしめてくる。
「おつかれさまでした」
「お前もおつかれさま」
 いつもなら、適度なところで離れる抱擁。
 交代で風呂に入って、流れでベッドになだれこむ。それがいつもの休日前のパターン。
 
 でも、今日の岩瀬は石川を抱きしめて離さない。
 岩瀬の舌が荒々しく石川の唇を割った。石川も負けずに、それに応える。
 我慢の限界だったのは石川も同じで。
 こんなにも自分が岩瀬を求めているなんて、知らなかった。
 熱くなった下肢がズボンごしに触れ合う。
 岩瀬は石川の口腔を蹂躙しながら、片手でベルトに手をかけた。ファスナーを下ろし、下着の中に手を差し入れて、石川に直接触れる。
「っ……ん……っ」
 指先で幹を辿っただけで、石川の先端から蜜が溢れ出る。
「悠さん……すごい……」
「……やっ……服につく……」
 制服を汚したくないという石川の訴えに、岩瀬はズボンを下着ごと引きおろした。
 石川の前にひざまづくと、先端に軽く口付ける。
「……まだ風呂……っ」
 なけなしの理性で石川は叫ぶ。
「かまいません、このままさせてください」
 情欲にまみれた瞳で見つめたまま、岩瀬は石川を咥えこんだ。
「ひっ……ぁ……」
 熱い舌がねっとりと這い回る。先端を辿り、裏側を刺激し、緩急をつけて吸い上げる。
「あ、や……っ」
 先端からとめどなく溢れる蜜が幹を伝い、柔らかな茂みを濡らし、太腿を流れ落ちる。
 岩瀬はそれを指で掬い取り、石川の後孔に擦り付けた。
 つぷり、と指が進入してくる感覚に、石川の身体が反射的に前へ逃げる。
 だが逃げた先には岩瀬の舌があり、それから逃れようとすれば指がより深い場所に食い込み──。
 膝が、がくがくと震える。立っていることができず、でもつかまる場所もなく。
 石川は唯一手の届く場所──岩瀬の頭にすがり付いた。
 ズボンを膝まで下げた以外は、制服を身に着けたままの、あまりに即物的な格好で。
 外気に晒されているのは下腹部と腿だけだ。
 岩瀬に至っては、制服を隙なく着たままで。
 仕事をしている時と変わらない格好で、獣じみた行為に喘ぐ羞恥が、余計に身体を熱くする。
 岩瀬の指が、石川の最も感じる部分に触れた。
「や……っ……もう……く……っ」
 岩瀬が強く吸い上げるのと同時に、石川の雄が弾けた。
 その刺激で、後孔が岩瀬の指を食いちぎらんばかりに締め付ける。
 岩瀬は熱い液体を全て口腔内に受け止めた。残滓を搾り出すように吸い上げ、飲み下す。
 崩れ落ちる石川の身体を、岩瀬が下から支えた。
「大丈夫ですか」
 岩瀬の瞳から、情欲の炎は消えていない。その熱が、石川を煽る。
 このまま抱かれたい。突き上げられて、満たされて、ぐちゃぐちゃにされたい。
 でも、それをどう伝えればいいのか──とても口に出しては言えなくて、でもただ、苦しいほどに心も身体も岩瀬を求めて──
 下肢を汚したまま、石川は震える手で岩瀬の腕を掴んだ。
 岩瀬が石川の身体を抱き上げた。ベッドに投げ出された身体に、岩瀬がのしかかってくる。
「このまま……いいですか?」
 こくこくと頷き、石川は岩瀬の首に腕をまわした。
 膝に絡まっていたズボンと下着を引き抜かれ、ようやく足が自由になる。
 石川は自ら足を広げ、腰を浮かせた。
 岩瀬がズボンの前を広げ、いきりたったものを後ろに押し当てる。
「……っ」
 さきほど指で刺激されたとはいえ、膨張した岩瀬のものを受け入れられるほどそこは緩んではいない。
 石川の口から、苦痛の声が漏れる。
 いつもなら、こんな性急な繋がり方はしない。時間をかけてとろかされて、できるだけ痛みを与えないように気遣ってくれる。
 だが、岩瀬は侵入をやめなかった。石川もまた、このまま貫かれることを望んだ。求められることがこんなにも嬉しいと、初めて知った。
「悠さん、すみません、止まらない……っ」
「いいから……そのままいれて……」
 耐え難い痛みと、愛しい男で満たされる悦びが交じり合う。
 ようやく全てが収まる。息を整える暇もなく、岩瀬が激しく突き上げた。
「あ、あっ……」
 恥ずかしいという感情などとうに消え失せ、本能のままに声をあげる。
 内壁全体で男の熱を感じ、もっとと締め付ける。
「……っ……悠さん……っ」
 胎内で弾けた熱に一瞬遅れて、石川の雄も白い蜜を撒き散らした。
 しばらくの間、二人は言葉を発することができなかった。
 ただ抱き合い、息が整うのを待つ。
 やがて、岩瀬が身体を起こした。ずるりと抜け落ちる感覚に、石川のそこがひくりと震える。
 気がつけば、二人ともジャケットすら脱いでいない。最低限の場所だけさらけ出して、微塵の余裕もなく体を繋げて。
 岩瀬の手が優しく、石川の頬を撫でた。
「すみません、また無理させましたね……」
「謝るな」
 石川は岩瀬を引き寄せて抱きしめた。
「俺がしたかったんだ。だから、お前が謝るな」
「悠さん……」
 岩瀬も石川を抱きしめる。
 石川の手が、岩瀬のジャケットを肩から落とした。お互いに身につけているものを、今更のようにむしり取る。
 動いた刺激で、石川の足の間から液体が溢れ出た。
「……っ」
 内壁を流れ落ちる感覚に、石川がうめきともあえぎともつかない声をあげる。
 岩瀬はその部分にそっと触れた。
「風呂に行きましょう。中、洗わせてください」
「……うん」
 洗うだけで済まないことは二人とも分かっていて。熱を含んだ視線を絡ませながら、岩瀬は石川を抱き上げた。石川がしっかりとしがみつき、軽く唇を重ねる。
 キスの甘さを感じながら、二人は風呂場へと向かった。
 
 
END



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3巻と4巻の間の二人です。
3巻の終わりのホテルって、まだ2回目だよね?
なのに、4巻の冒頭の岩瀬のデレっぷりと悠さんのラブラブオーラがすごかったので、この間にいろいろあったんだろうな〜vって想像してたら、こんな話になりました。
あ、この後、「休日前以外禁止命令」は撤回されてます(笑)





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