「一番欲しいもの? 時を巻き戻す超能力かな」

 トレーシーは言った。

「もし子供の頃に戻ったら、テストの答えも、次の日の天気も全部わかるし。色々なことを試してみたいわ」
「とても俗なことだけど、株で儲けることなんか、なんでもなくなるし」
「でも一番やってみたいことは、やっぱり百万回の実験ね」
「同じ人に、同じ条件の下、とにかく色々なことを言ってみて、反応を見てみるの」
「1回反応を見るたびに時を巻き戻して」
「とても残酷で面白いと思うわ」
「例えば、小さな女の子に『お母さんが亡くなったわよ』と伝えた場合と、『おじさんは実は、女なんだ』と伝えた場合の反応の違いとか、見てみたくない?」
「でもたぶんダメね」
「私の予想だと、永劫回帰みたいに、同じことを繰り返すだけな気がするの」
「そうだとすると最悪だわ」
「同じ人生を百万回も繰り返すなんて耐えられない。それが例え、喜びに満ちた人生であったとしても」
「たぶん荒木飛呂彦だって芥川龍之介だってジョージ秋山だってそう思っているに違いないわ」
「未来を知っていて変えられないのと同じぐらいに、つまらないことよ」
「無知であることは救いよね。私は莫迦のままでいいわ」

そういうと彼女は、深い眠りについた。


続く。