HELLO TAXUS Book Mark

 Nerium Oleander 花言葉は「危険・近づくな」
不吉な異名ばかり持つ花
彼岸花、死人花、地獄花、曼珠沙崋、縁起が悪い・・・
昔は飢饉などのときの救荒食であったという
もちろん毒抜きをしての話だ

「麻衣子ちゃん。おばさんのこと覚えてる?」
「はい、時々来てましたよね」
そう答えたものの、実はあまり覚えていない。
顔は確かに見覚えがあるが、どこの誰だかというと説明できるような 気がしなかった。
「ここのところ、こんな集まりでしか会わないわねぇ」
「そうですね」
「さみしくなるけども・・・気落ちしないでがんばるのよ」
「はい」
少なく言葉を交わして、おばさんは祭壇へ向かった。
ちらりとその方向を見ると、すでに何人もの人が並んで線香を並べている。
築30年以上の家なので部屋数だけはまあまああり、 8畳の和室のふすまを取りさって3部屋を使って祭壇を作っている。 それを考えるとけして狭くはないのだが、祭壇の周りはいくつもの花籠が並べられ、 しまいには置ききれなくなっていくつかは斎場のほうへ持っていってしまっている。
どうやら少しばかり、花と人が多いようである。
そこへ次々と親戚やら知人が現れては、決まりきった言葉を並べて皆一様に手を合わせている。
麻衣子は人が途切れたすきを狙い、タバコケースを持って外へ出た。
和室はもちろん、居間も台所も人ばかりだった。 そんなところでタバコなどふかしていれば、すぐに誰かが体に悪いとこごとを言う。 そうでなくても家の人間なのだからやることがあるはず・・・と。
だが実際はやる事などほとんどないのだ。いや、やれる事は・・・だ。
葬儀の事は葬儀屋がやるし、忙しいだろうからと親戚のおばさんたちが あちこちから手を出してくる。今も台所には10人以上が出入りしていて 麻衣子が立つ場所もない。口と手の達者なおばさんたちの間に入って 何ができるというものでもないのだから・・・。
麻衣子は仕方なく庭に出て、とめてあった車の蔭に居場所を見つけた。
なれた仕草でタバコを取り出す。

「よう」
ようやく1本吸いを終えるかなというところで、聞きなれた声がした。
振り向いて確かめるでまでもない。従兄弟(兄)である。
「あぁ」
抑揚のない返事をしておいて、もう1本タバコを取り出す。
「中にいなくていいのか?」
「ん、これといってやることもないし・・・」
「まあ、あれだけ人がいりゃな」
従兄弟(兄)もポケットからタバコを取り出していた。
年も近くわりかし付き合いやすいタイプで、昔はよく一緒に遊んだ。
「仕事の方はどうよ?」
「まあまあだね」
「忙しい時期だったんじゃないのか?」
「忙しいって言えば忙しいよ。何でこんな時にって・・・思ったしね」
それきり黙ったまま煙を眺めていた。
「そういえば・・・あれ(従兄弟-弟)は?」
「仕事終わってから来るんじゃないか?よく分かんないんだよな。最近会わないし」
「あれ?一緒に住んでないの?」
「住んでんだけどさ。会わないんだよ。仕事出る時間も帰ってくる時間も違うから」
「そっか」

何もしなくても時間だけは勝手に過ぎるもので、日が落ちる頃には尋ねてくる人も 一段落つき、ひとまず夕食をとることとなった。
今家にいるのは家族5人と父親の姉夫婦とその娘、妹夫婦とその息子2人。 母親の姉夫婦に、亡き祖父の妹とその息子。亡き祖父の弟とその息子(弟)。 それから、亡き祖父の姉の息子の奥さんに、亡き祖父の弟の息子の奥さんとその娘。 計21人。それにしても大人数である。
「麻衣子ちゃん。東京はどう?もう帰ってきたくないだろう?」と、父親の妹の旦那
「何言ってるの。帰ってこなくちゃね」と、父親の妹
「帰ってきても仕事ないですし・・・」
「向こうにいい人でもいるんでしょ」と、父親の姉
「その話は、そのうちに・・・」
「でも和哉君は帰ってくるよね」と、父親の妹
「俺ももうちょっとは」
「長男だし、帰ってこないとなぁ。でないとお父さんも大変だ」と、父親の妹の旦那
「そうですね・・・」
「何、後2〜3年もしたら、東京にも飽きるでしょ」と、亡き祖父の息子の奥さん
「さ、どうだか。ほっといたら、就職も何も一人で勝手にやって行ったんだもの・・・」 と、父親
「近くにいればいいのに・・・」と、母親
「はらね、早く帰っておいでね」と、父親の姉
実に居心地が悪い。

あれこれと言いながらも夕食は終わり、後には家族と父親の妹夫婦とその息子2人。 亡き祖父の妹が残り、葬儀がすべて終わるまでは線香とろうそくを絶やさないように・・・ ということで、夜遅くに亡き祖父の弟の奥さんとその息子(兄)がやってきた。
「片付けは私がやっとくから、自分の事やって。洗濯とかお風呂もまだでしょ」
と気を利かせてくれる。
そうしてやっと家の中が静かになったのは12時を過ぎた頃だった。
「そういえば、真司は?」と従兄弟(弟)
「奥でゲームでもしてるんじゃない?」
こんな時でもいつもの調子なのはこの末弟だけである。
「かわんないなー」
言いながらグラスにビールを注いでいる。
「飲む?」
「飲むよ」
「今日は泊まっていってもいいし」
「帰ろうと思えば運転手はいるし」
「おい。運転手って誰の事だよ」と、従兄弟(兄)
「お前」
「俺かよ、ま、いいけど」
そんな感じで夜はふけていった。

気が付くと、起きているのは麻衣子と従兄弟(弟)だけだった。
「そういや、線香は?」
「見て来る」
空のビール瓶をよけて立ち上がる。周りには7本以上並んでいて、 これらは2人で空けた分だ。
「つけてきたぞー」
「おー」
疲れているのに、いくつも空瓶を並べているのに、眠くはならなかった。
「あ、そうだ。叔父さんが言ってたぞー。最近家に帰ってないんだって?」
「俺?帰ってるよ。着替えしに」
「着替えしに?なにそれ。彼女の家にでも泊まってるの?」
「そう」
「彼女一人暮らし?」
「いや、母親と妹と3人」
「へー、親公認かぁ」
「ほら、俺一応公務員だし。向こうの親もそれで安心してる」
「ふうん」
「彼女の親を仕事に送ってったりしてて、俺すげぇ使われてるよ」
「はははははは、いいじゃん」
「まあね」
「でも家には帰った方がいいんじゃない?あるんだし」
「・・・出ようかと思ってる。小さくていいから、アパートでも借りて。 親は近くに家建てて・・・とか言ってるけどさ。兄貴がいるわけだし、 兄貴が家継ぐわけだし・・・そのうち兄貴の嫁さんとか来たりしたら、 俺がいてもさ・・・」
「まあそういうこともあるわな」
「そっちはどうよ。彼氏ぐらいいるんだろ?」
「まあ、適当に・・・」
「・・・帰ってくる気ないだろ」
「ないね。帰んないほうがいいでしょ」
「家は和哉が継ぐんだろうな」
「多分ね」
「真司って事はないだろ?」
「ない」
「和哉、帰って来たくないんだろうな」
「うん、けどもね。真司に任せる気もないみたいよ」
「へー。それにしても・・・ずいぶん花並んだな」
「ん、向こうに持っていった分もあわせたら40ぐらいあるかな」
「すげえ数。そういえば、あの叔父さん(亡き祖父の弟) 家の誰だかの時はいくつだとかって言ってたっけ」
「それ、和哉に聞かせないでよ」
「ん?」
「あいつ、あの叔父さんのこと嫌いなのよ。 花の数、数えたってどうにもなりゃしないのにね」
「あぁ、寺と花屋だけ儲かるなぁ」
「あと葬儀屋もね」
「今月この町内、続けて逝ったんだよ」

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Last Up Date 2001.11.04 By Fey