HELLO TAXUS Book Mark

 LUCKY STRIKE  薄れゆく記憶
「杉山さ〜ん。夕飯一緒に食べていかない?」
先輩の田上が声をかけてきた。 いつもいいかげんな事ばかり言っている先輩で、 私がこの会社に入ったばかりの頃から色面倒を見てくれた人。
「おごりならごいっしょします」
「杉山さんがおごってくれるの?わ〜い。」
「いいえ。先輩が私におごってくれるんです」
「なにぃ〜。俺には家族がいるんだ。一人身とは違うんだぞ。 きっと杉山さんのほうが俺より小遣い多いでしょ」
「そうは言っても私は一人暮しですからね、いろいろとかかるんですよ」
「しょうがないなあ・・・」
そんなやり取りをしながら、私達はいつものファミレスへ向かっている。
こんな風なやり取りをするようになったのはいつ頃だっただろう。
始めのうちは、「なんていい加減な人だろう」 と思っていたけれど、一緒に仕事をしているうちになんとなく分かってきた。

口はいい加減だけど、やる事はちゃんとこなしていく人だ。

「ご注文はお決まりですか?」
ウェイトレスは毎日同じ言葉を繰り返す。
もう何度も来ているので、メニューは大体覚えてしまっている。
「・・・あと、イチゴパフェ。」
「・・・パフェ?」
私が小声で聞くと、注文を繰り返すウェイトレスを横目に上機嫌でうんうんと頷く。
「仕事帰りにこの時間から・・・?」
「俺が甘いの好きなの知ってるでしょ」
「知ってますけど。家に帰ってから奥さんが作ったご飯も食べるんですよね?」
「もちろん。俺のこの巨体を維持するにはこれぐらい食わんとだめなの!」
「そうですか・・・」
確かにばかげて背の高い人ではあるけれど、細身なのでそれほど大きくは感じない。
「杉山さんもいっぱい食べて大きくなりなさい」
「身長の事はもうあきらめてます」
「じゃぁ、彼氏をよろ」
「そんなのはなくていいんです」
最後まで聞かなくても何を言おうとしたかぐらいわかる。
「そんなんじゃ、彼氏できないじゃん」
「いいんですよ。私は一人でいるほうが・・・楽で」
「ああ〜あ、心配だなぁ」
「なにわけわかんない心配してるんですか」
何てことない、他愛のない会話。
それがいつまでも続かない事ぐらいよくわかってる。
「こちらで全て揃いましたでしょうか?」
ウェイトレスは私のほうにパフェを置いて去っていった。
「やっぱなぁ。パフェは女の子だと思われるよな」
「ない、どうぞ」
先輩がパフェを嬉しそうに食べるのを見ていた。
「ね、つまんないの?」
あっという間に食べ終えて、その手はライターを握っている。
「そんなことないですよ」
「さっきから、氷つついてるからさ」
「あぁあ、これね、ついやっちゃうんですよ」
「俺といるときはいいけど、彼氏といるときはやめなよ」
「だから、そんなのは、・・・」
「できたときの話」
「ハイハイ、覚えておきます」
「ひとつ余計」
「はい」
「じゃ、一服したら出る?」
「はい」
私は今の会社に長くいるつもりはない。
先輩がいたから、続けてただけの事・・・
LUKY STRIKE の煙は他のより少し濃い。
「杉山さんともっと早く会ってたら・・・」
「それはないです」
過去の事にもしもなんて、考えたくなかった。
「そうだよね」
言いながら、短くなったタバコの先を灰皿に押しつぶしていた。
「帰ろうか」
「そうですね」

人影もまばらになった駅へ向かって並んで歩いた。
「じゃ、また明日」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ〜」

後姿を見送るなんて事はしなかった。
私に残るのは、 LUKY STRIKE のきつい香り。
TOP TAXUS  Book Mark  


Last Up Date 2001.11.04 By Fey